相続税は誰にかかる?基礎控除3,600万円が分かれ目になる

相続税がかかるかどうかの分かれ目は、相続人が1人なら3,600万円、3人なら4,800万円です。
遺産の総額がこの基礎控除以下であれば、税額が出ないどころか申告そのものが要りません(相続税法15条/2026年9月時点)。
通帳の残高を足した時点で超えそうに見えても、実家の評価額と借入金を入れ直すと結論が変わることがあります。
超えていた場合に動ける時間は、それほど長くありません。
申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月です。
その手前に相続放棄の3か月と、故人の所得税をまとめる準確定申告の4か月が来ます。
本記事では、基礎控除の計算と法定相続人の数え方、税率の速算表の使い方、10か月の期限から逆算する順番を解説します。
相続税がかかるのは、遺産が基礎控除3,600万円を超えたときだけ
基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
相続人が1人なら3,600万円、配偶者と子2人の合計3人なら4,800万円です。
遺産の総額がこの金額を下回れば相続税は発生せず、税務署へ出す書類もありません。
まず自分の家がどちら側にいるのかを確かめるところから始まります。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
3,600万円という数字がよく出てくるのは、相続人が1人のときの最低ラインだからです。配偶者がすでに亡くなっていて子が1人だけ、という家がこれにあたります。
控除額は人数ひとつで600万円動く
相続人が2人だと思って計算していたら、実は先に亡くなった兄に子がいて3人だった、というように人数が動くと、控除額は600万円単位で変わります。
遺産総額が4,500万円なら、相続人2人(4,200万円)では課税、3人(4,800万円)では非課税と、結論が反対になります。
人数の確定は税額計算の前提であって、あとから直せる細部ではありません。
もうひとつ注意したいのは、遺産総額を通帳の合計だけで判断しないことです。
実家の土地と建物、上場株式、貸付金、故人名義の車まで含めた合計と、基礎控除を比べます。
どこからが課税ラインなのかを金額の側から確かめるなら、相続税はいくらからかかるかの計算方法で解説しています。
相続税の申告と、遺産分割・相続登記はそれぞれ別の手続き
役所と銀行を回っていると、いくつもの手続きが「相続の手続き」としてひとまとめに案内されます。
ただ、窓口も期限も別々です。
相続税がかからない家でも、遺産分割と相続登記は残ります。
| 手続き | どこへ | 期限 |
|---|---|---|
| 相続税の申告と納付 | 税務署 | 相続の開始を知った日の翌日から10か月 |
| 準確定申告(故人の所得税) | 税務署 | 相続の開始を知った日の翌日から4か月 |
| 相続放棄・限定承認 | 家庭裁判所 | 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月 |
| 遺産分割協議 | 相続人どうしの話し合い | 法律上の期限はなし |
| 相続登記 | 法務局 | 不動産を取得したことを知った日から3年 |
準確定申告は、故人に事業所得や一定の年金収入があった場合に必要になる手続きで、相続税とは税目が違います。相続税が非課税でも、準確定申告は別に判断します。
遺産分割協議は、誰が何を取るかを相続人全員で決める話し合いです。
相続人が1人しかいない場合や、遺言で取り分がすべて指定されている場合は協議そのものが不要になります。
どういうときに協議書を作るのかは、遺産分割協議書が必要なケースと不要なケースで解説しています。
相続登記は2024年4月1日から義務になりました。
それより前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年3月31日です。
相続税の話に気を取られて登記を後回しにすると、こちらで過料の対象になります。
基礎控除は法定相続人の数で決まる|相続放棄をした人も頭数に入る
法定相続人は、故人との関係で順位が決まっています。配偶者は常に相続人になり、そこへ順位の高い血族が加わる形です。
- 第1順位は子。子がすでに亡くなっていれば、その子(孫)が代わりに相続人になります
- 子も孫もいなければ第2順位の直系尊属、つまり父母や祖父母
- 直系尊属もいなければ第3順位の兄弟姉妹
順位が上の人が1人でもいれば、下の順位には回りません。子が3人いる家で、故人の兄弟が相続人に加わることはないわけです。
相続放棄をしても、基礎控除の人数は減らない
相続税法15条2項では、基礎控除の計算に使う「法定相続人の数」に、相続放棄をした人も含めると定められています。
子3人のうち1人が家庭裁判所で放棄をしても、基礎控除は4,800万円のままです。
放棄によって残った人の控除額が目減りすることはありません。
その相続放棄ですが、家庭裁判所への申述が必要な手続きで、期限は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月です。
起算日は亡くなった日ではありません。
疎遠だった親の死を後から知った場合は、知った時点から数えます。
期間内であれば、家庭裁判所に伸長を申し立てることもできます。
遺産分割の話し合いで「自分は何もいらない」と譲ることと、相続放棄はまったく別のものです。
協議で取り分をゼロにしただけでは、故人の借金は法定相続分に応じて残ります。
借入金や連帯保証が出てきそうな家では、3か月という数字を先にカレンダーへ書き込んでください。
遺産総額から差し引ける債務と、実家の評価額の出し方
基礎控除と比べる「遺産総額」は、財産をすべて足した数字ではありません。
プラスの財産から、故人が残した借入金などのマイナスを差し引いた残りで判断します。
住宅ローンの残債、未払いの医療費、未納の税金は差し引く側に入ります。
難しいのは、財産の種類ごとに評価のしかたが決まっていることです。
預金は残高そのままで済みますが、不動産や非上場株式は「いくらとして数えるか」を計算する作業が入ります。
固定資産税の納税通知書に載っている評価額と、相続税の計算で使う評価額は同じものではありません。
売買の相場とも一致しません。
そのため、総額が基礎控除の前後にある家ほど、評価の手順を踏まないと課税か非課税かが判定できません。この計算部分は、相続税の計算方法と課税価格の出し方で3ステップに分けて解説しています。
相続税の税率は10%から55%|速算表は法定相続分に当てて使う
税率は取得した金額が大きいほど上がります。国税庁が公表している速算表は次のとおりです(国税庁 タックスアンサーNo.4155/令和8年4月1日現在の法令等・2026年9月時点)。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | なし |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超〜2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超〜3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超〜6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
自分がもらった額に直接この表を当てない
表の左端が「法定相続分に応ずる取得金額」となっている点に注意してください。
実際にいくら受け取ったかに関係なく、いったん全員が法定相続分どおりに取得したものとして各人の税額を出し、それを合計して相続税の総額を求めます。
そのうえで、実際の取得割合に応じて各相続人へ振り分けます。
この二段階を踏むため、「自分は2,000万円もらったから15%」という単純な計算にはなりません。
実家を1人が丸ごと引き継ぎ、他の兄弟が現金を受け取るような分け方でも、まず総額を出してから割り振る順番は変わりません。
分け方を変えれば各人の負担額は動きますが、家全体で納める合計は分け方では変わらない、という構造になっています。
相続税が0円でも、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は申告して初めて使える
遺産が基礎控除を超えていても、特例を使うと税額がゼロになる家があります。
ここで落とし穴になるのが、どちらの特例も申告を適用の条件にしている点です。
「計算したらゼロだったから何も出さなかった」という対応をすると、特例そのものが適用されません。
配偶者の税額軽減
配偶者が取得した遺産のうち、法定相続分か1億6,000万円のいずれか多い額までは相続税がかかりません(相続税法19条の2)。母が健在で、遺産の大半を母が引き継ぐ形にすれば、この軽減だけで納税額が出ないケースがあります。
ただし、その母が亡くなったときの相続(二次相続)では相続人が1人減ります。
基礎控除も600万円下がり、配偶者の税額軽減も使えません。
一次相続で配偶者に寄せるほど、次の相続で課税対象になる財産が増えるという関係にあります。
どちらの負担まで見て分け方を決めるかは、税理士と一緒に試算する場面です。
小規模宅地等の特例
故人が住んでいた宅地は、330平方メートルまで評価額を80%減額できます(租税特別措置法69条の4)。
実家の土地の評価額が3,000万円なら600万円として計算する、という効き方です。
遺産の大半が実家という家では、この特例の有無で課税か非課税かが入れ替わります。
同居していた相続人が引き継ぐ場合が基本形で、同居していない親族が使うには「家なき子」と呼ばれる要件を満たす必要があります。
持ち家に住んでいる長男が実家を相続するケースでは、そのまま使えるとは限りません。
要件の判定は個別事情で分かれるため、実家を含む相続では早い段階で確認しておく部分です。
相続税の申告期限10か月は、3か月と4か月から逆算して組む
期限は相続税だけではありません。先に来るものから並べると、次の順番になります。
| 期限 | 手続き | 起算点 |
|---|---|---|
| 7日 | 死亡届 | 死亡の事実を知った日 |
| 10日・14日 | 年金の受給停止(厚生年金10日/国民年金14日) | 死亡日 |
| 14日 | 世帯主変更届(15歳以上が2人以上残る場合) | 死亡日 |
| 3か月 | 相続放棄・限定承認 | 自己のために相続の開始があったことを知った時 |
| 4か月 | 準確定申告 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 10か月 | 相続税の申告と納付 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 1年 | 遺留分侵害額請求 | 相続の開始と侵害を知った時 |
| 3年 | 相続登記 | 不動産を取得したことを知った日 |
四十九日と納骨を終えると2か月ほどが過ぎています。
そこから戸籍を集めて相続人を確定し、金融機関に残高証明を請求し、不動産の評価を出すという流れになるため、10か月のうち実際に調査へ使えるのは7か月前後です。
相続人が遠方に散らばっていれば、書類の往復だけで数週間が過ぎます。
順番としては、まず3か月の相続放棄を判断できるだけの財産と債務の全体像をつかむことが先に来ます。
放棄をしない前提が固まれば、そのまま集めた資料が相続税の計算に使えます。
期限を過ぎた場合の扱いは、相続税の申告期限と、過ぎたときの加算税で解説しています。
自分でできる相続税の申告と、税理士に渡す境目
相続税の申告書は、相続人自身が作成して提出できます。
ただ、どの家でも自力で完結するわけではありません。
作業量と判断の難しさは、遺産の中身でほぼ決まります。
比較的シンプルなのは、遺産が預貯金と上場株式だけで、相続人が少なく、特例を使わずに税額が出るケースです。残高証明と戸籍を揃えれば、計算の流れそのものは追えます。
一方、次のような要素が入ると、評価と要件判定で専門的な作業が増えます。
- 不動産が複数ある、あるいは土地の形がいびつで評価が分かれる
- 小規模宅地等の特例を使う予定がある(要件の判定が必要)
- 非上場株式や事業用の資産がある
- 相続人の間で分け方がまとまっていない
税理士に依頼するかどうかは、報酬と、申告内容が税務調査で覆るリスクをどう見るかの比較になります。
報酬の相場と、相続を扱い慣れた税理士の見分け方は相続税に強い税理士の選び方で解説しています。
なお、遺産総額が基礎控除を明らかに下回っていて申告が不要な家では、そもそもこの検討は要りません。
自分の家がこの基礎控除を超えるかどうかは、相続税シミュレーターに遺産の総額と相続人の人数を入れると出ます。登録は要りません。
10か月を過ぎたときに起きること|加算税と、外れる特例
期限までに申告せず、あとから課税対象だったと分かった場合、本来の税額に加算税と延滞税が上乗せされます。金額は遅れた期間や、自分から申告したのか税務署の調査を受けたのかで変わります。
負担として大きいのは、特例を使えないまま計算されることのほうです。
配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も、申告をしていることが適用の前提になっています。
特例を使えば0円だった家が、申告をしなかったために税額を負担する、という逆転が起こり得ます。
実家をどうするかを先送りした場合も、別の期限が動いています。
相続登記は2024年4月1日から義務化され、正当な理由なく3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象です。
施行前に相続した不動産の期限は2027年3月31日と決まっています。
空き家のまま置いた実家については、市区町村が「特定空家」または「管理不全空家」に指定して勧告を出すと、固定資産税の住宅用地特例(6分の1)が外れます。
放置しただけで自動的に税額が上がるわけではなく、指定と勧告という段階を踏む仕組みです。
売却を考えるなら、相続した空き家を売ったときに譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例に期限があります。
1981年5月31日以前に建築された家屋であることなどの要件があり、対象は2027年12月31日までの譲渡です。
相続人が3人以上の場合、2024年1月1日以降の譲渡では1人あたり2,000万円に下がります。
住む予定も売る予定も決まらないうちは、空き家バンクの登録条件と使い方のような選択肢も含めて、期限のあるものから順に手をつけることになります。
よくある質問
遺産が基礎控除以下でも、税務署に何か提出する必要はありますか
基礎控除以下であれば、相続税の申告は不要です。
届出のような書類もありません。
ただし、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使った結果として税額が0円になる場合は、申告をしないと特例が適用されません。
この2つは性質が違います。
相続放棄をした人がいると、基礎控除は減りますか
減りません。
基礎控除の計算に使う法定相続人の数には、相続放棄をした人も含めます(相続税法15条2項)。
子が3人いて1人が放棄した場合も、3,000万円+600万円×3人で4,800万円のままです。
相続放棄をすれば、相続税は払わなくてよいのですか
家庭裁判所で相続放棄が認められると財産を取得しないため、その人に相続税の納税義務は生じません。
放棄は「知った時から3か月以内」に家庭裁判所へ申述する手続きで、遺産分割の話し合いで取り分をゼロにすることとは別です。
協議で譲っただけでは、借金は法定相続分に応じて残ります。
遺産分割がまとまらないまま10か月が来たらどうなりますか
相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月と定められています。
話し合いの進み具合で自動的に延びるものではありません。
分割が終わっていない状態での申告方法や、後から分割が決まったときの扱いは事案ごとに判断が分かれるため、期限の2〜3か月前には税理士に相談する段階になります。
遺産が実家の土地建物だけでも、相続税はかかりますか
かかるかどうかは、相続税の計算で使う評価額と基礎控除の比較で決まります。
評価額は固定資産税の通知書に載っている額とも、売買の相場とも一致しません。
さらに、故人が住んでいた宅地であれば330平方メートルまで評価額を80%減額できる小規模宅地等の特例があり、これを使えるかどうかで結論が変わります。
親が元気なうちに準備できることはありますか
財産がどこに、どれだけあるかを一覧にしておくことです。
相続が始まってからの調査に数か月かかる原因の多くは、口座や保険の所在が分からないことにあります。
書き方の項目はエンディングノートに書くべき項目で解説しています。
あわせて、遺言書が自筆証書なら家庭裁判所の検認が必要になる点も押さえておくと、開始後の段取りが変わります。
まとめ
相続税がかかるかどうかは、遺産総額と「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の比較で決まり、相続人1人なら3,600万円が分かれ目になります。
超えていた場合の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月です。
その手前に相続放棄の3か月と準確定申告の4か月があるため、実際に財産の調査へ使える時間はもっと短くなります。
配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も、申告をして初めて使えます。
税額が0円になる見込みでも、申告が要るかどうかだけは早い段階で確かめておく部分です。
ぜひ本記事の基礎控除の早見表と期限の一覧を手元に置いて、今日が相続開始から何か月目なのかを数えるところから始めてください。


