遺言代用信託のデメリット|遺言書との違いと注意点

親の書類を探していると、信託銀行の契約書が一通出てくることがあります。
遺言代用信託といって、親が生きているうちは親が受け取り、亡くなったあとは指定された子や配偶者が金銭を受け取る契約です。
口座が凍結されても葬儀費用をすぐ動かせる点が窓口で説明されます。
ただし、この契約が決めているのは預けた金銭の行き先だけです。
実家の土地建物も、他行の預金も入っていません。
相続税の課税対象から外れるわけでもなく、遺留分侵害額請求(相続の開始と侵害を知った時から1年で時効)を止める仕組みでもありません。
本記事では、遺言代用信託が遺言書の代わりにならない場面・契約書で先に開くべき条項・兄弟や信託銀行への切り出し方を解説します。
遺言代用信託のデメリットは、契約に入らなかった財産に出る
遺言代用信託そのものが欠陥商品なのではありません。
決まるのは預けた金銭の行き先だけで、それ以外は何も決まっていない状態のまま残ります。
もめごとが起きるのは、この「残った部分」をめぐってです。
起きやすい順に3つの場面があります。
信託されているのは、契約した金銭だけ
実家の土地建物、別の銀行の預金、証券口座の投資信託、自動車、貸金庫の中身は、契約書に書かれていなければ信託財産ではありません。信託に入っていない財産は、遺言書が無いかぎり相続人全員の遺産分割協議で決めることになります。
親から「銀行で手続きしておいたから大丈夫だ」と聞いていた場合、この前提が外れます。
金額の大きさで言えば、実家の不動産のほうが信託した金銭より大きいことも十分にあります。
信託契約書が見つかったら、安心するより先に「では他の財産はどうなっているのか」を確かめてください。
解約や受取人の変更に条件が付くことがある
遺言書は、書いた本人が生きているかぎりいつでも撤回でき、前の遺言と矛盾する新しい遺言を書けば古いほうが効力を失います。
遺言代用信託は契約ですから、変更や解約ができるかどうかは契約条項で決まります。
一切変えられないわけでも、自由に変えられるわけでもありません。
親が存命のうちに家族構成や考えが変わっても、条項によっては手続きに手数料や制限が付きます。判断能力が低下してからは、変更そのものが難しくなります。
受け取った事実を、ほかの相続人は後から知る
給付は、受益者になっている人が金融機関へ請求して受け取ります。
遺産分割協議の手前で完結するため、ほかの兄弟は残高を突き合わせる段階になって初めて気づくことになります。
受け取った側に隠す意図がなくても、後出しに見えてしまいます。
金額そのものより、知らされなかったことのほうが尾を引きます。
遺言代用信託の契約書は、解約条項と受益者欄から開く
相手に何かを言う前に、自分の側で紙を揃えます。
契約書の写しが手元にあるなら、次の項目を順に確認してください。
いずれも契約書か、交付された商品説明書に書かれています。
| 確認する項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 信託財産の範囲と金額 | 預けた元本がいくらか。追加や一部払い戻しの履歴があるか |
| 死亡後の受益者 | 誰が、何人で、どの割合で受け取るか。予備の受益者の定めがあるか |
| 変更・解約の条項 | 契約者が生きている間に受益者を変えられるか。解約時の手数料と手続き |
| 給付の方法 | 一時金か、毎月の分割か。請求に必要な書類と、支払いまでの日数 |
| 手数料の定め | 信託報酬の有無と計算方法。商品ごとに違うため、金額は契約書で確認する |
もうひとつ作るのは、信託に入っていない財産の一覧です。
預金は各行の残高証明、不動産は固定資産税の納税通知書と査定額、保険は証券、証券口座は取引残高報告書で数字が出ます。
実家の価格は、相続人の誰も知らないまま話し合いに入ると必ず割れます。
売る予定がなくても目安の金額は取れますが、査定サイトの使い方には注意が要ります。
不動産一括査定のデメリットと営業電話を避ける使い方で解説しています。
この2枚が揃うと、話の対象が「気持ち」から「金額」に変わります。兄弟に説明するときも、専門家に相談するときも、最初に求められるのは同じ資料です。
兄弟に出すのは契約書の写し、銀行に出すのは死亡の事実と請求書類
相手によって、持っていくものも言い方も変わります。
兄弟・親族に切り出すとき
契約書の写しと、信託に入っていない財産の一覧を同時に出してください。
信託の話だけを先に伝えると、「自分だけ先に受け取るのか」という受け取られ方をします。
全体の中でどの部分が信託で、どこが未決なのかを一枚で見せたほうが話が進みます。
受け取った給付金を遺産分割の中でどう扱うかは、法的な評価が分かれる論点です。
その場で結論を出さず、「専門家に確認して次に持ってくる」と区切って構いません。
親がまだ元気なうちに話すとき
親が契約した判断を否定すると、そこで会話が終わります。
信託は信託として残したうえで、入っていない財産の行き先が空いている、という順番で伝えてください。
遺言書と併用する前提の商品だと説明されているケースもあります。
どの形式の遺言書を選ぶかで手間も費用も変わるため、自筆・公正証書・秘密証書という3種類の遺言書の選び方で解説しています。
信託銀行の窓口に連絡するとき
死亡の事実を伝えると、給付請求の書類一式が案内されます。
求められるのは、死亡の記載がある戸籍謄本、受益者の本人確認書類、印鑑証明書あたりです。
窓口の担当者は契約の履行を担当していて、遺産分割が公平かどうかの判断はしません。
兄弟との調整を銀行に相談しても答えは返ってこないので、聞くのは手続きと日数に絞ってください。
遺留分も相続税も、遺言代用信託では外れない
「信託にしておけば遺留分を請求されない」「信託なら相続税がかからない」という理解は、いずれも正確ではありません。
遺留分の請求を止める仕組みではない
配偶者と子には遺留分があり、侵害された相続人は金銭の支払いを請求できます。
期限は、相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年です(民法1048条)。
遺言代用信託を使ったからといって、この請求権そのものが消えるわけではありません。
信託財産を遺留分の計算にどう組み入れるかは判断が分かれる論点で、個別の事案は弁護士が扱う領域になります。
相続税の課税対象から外れるわけではない
死亡によって受益権を取得した人が受け取る給付は、相続税の計算では遺贈で取得したものと同じ扱いになります。
節税を目的にした商品ではありません。
申告が要るかどうかの分かれ目は基礎控除で、3,000万円+600万円×法定相続人の数です。
相続人が3人なら4,800万円になります。
申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月です。
相続税がかかる人と基礎控除の考え方で解説しています。
遺言書との違いを一覧で見る
| 項目 | 遺言代用信託 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
|---|---|---|---|
| 対象にできる財産 | 契約で信託した金銭など | 財産全般 | 財産全般 |
| 亡くなった直後の資金 | 契約に沿って給付を請求できる | 預金は名義変更の手続き後 | 預金は名義変更の手続き後 |
| 撤回・変更 | 契約の変更・解約条項による | いつでも撤回できる | いつでも撤回できる |
| 家庭裁判所の検認 | 不要 | 不要 | 必要(法務局の保管制度を使えば不要) |
| 主な費用 | 商品ごとの信託報酬など | 公証人手数料(財産額に応じる) | 作成自体は無料。保管制度は1件3,900円 |
公正証書遺言の手数料は、相続人や受遺者ごとに、その人が受け取る財産の価額で計算して合算します。
500万円超〜1,000万円以下なら20,000円、1,000万円超〜3,000万円以下なら26,000円が目安です(日本公証人連合会の手数料表/2026年9月時点)。
法務局の自筆証書遺言書保管制度の手数料は1件3,900円です(法務省/2026年9月時点)。
撤回の自由度という点では遺言書のほうが動かしやすく、遺言書の書き直しと撤回のやり方で解説しています。
「信託があるから遺言書は要らない」で止まると進まない
よく取られるのに、実際には話が動かない対処があります。
- エンディングノートに希望を書いておく。気持ちや連絡先の整理には役立ちますが、財産の行き先を決める法的な効力はありません(エンディングノートの役割と書くべき項目で解説しています)
- 口頭で「信託があるから大丈夫」と兄弟に伝える。信託に入っていない財産の話が残ったままです
- 銀行の窓口で遺産分割の相談をする。金融機関は契約の履行を担当していて、分け方の判断はしません
- 手書きの紙を封筒に入れて仏壇に置く。自筆証書遺言は形式を外すと無効になり、法務局の保管制度を使っていなければ家庭裁判所の検認も必要です(自筆証書遺言が無効になるミスで解説しています)
専門家に渡す境目
相続放棄を考えるなら、自分が相続人だと知った時から3か月が期限です。
信託の給付を受け取る行為が単純承認とみなされるかは事案で扱いが変わるため、放棄の可能性があるうちは請求の前に弁護士へ確認してください。
遺留分の金額をめぐって話が止まったときも同じです。
相続税の申告が要るかどうかの見込みは、財産の一覧が揃った時点で税理士に見てもらえます。
10か月の期限から逆算すると、四十九日を過ぎたあたりが相談の入口になります。
実家の名義変更は司法書士の担当で、相続登記は不動産を取得したと知った日から3年以内が義務です。
2024年3月以前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年3月31日、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料があります。
費用を抑えたい段階なら、市区町村や司法書士会の無料相談から使ってください。
よくある質問
遺言代用信託を契約していれば、遺言書は書かなくてよいですか
信託した金銭以外の財産は、契約では動きません。
不動産や他行の預金、証券があるなら、その部分の行き先を決めるには遺言書が別に要ります。
金融機関側でも、遺言書との併用を前提に説明している商品があります。
遺言代用信託の受取人は、後から変更できますか
契約の条項によります。
変更できる商品でも、所定の書式と手続きが必要で、手数料の定めがあることもあります。
契約者本人の判断能力が低下してからは変更そのものが難しくなるため、契約書の変更条項を先に確認してください。
受け取った給付金に相続税はかかりますか
死亡によって取得した受益権にもとづく給付は、相続税の対象になります。課税されるかどうかは遺産全体と基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の比較で決まり、給付金だけを取り出して判断するものではありません。
相続放棄をしても、遺言代用信託のお金は受け取れますか
契約内容によって扱いが分かれる論点です。
受け取る行為が相続財産の処分にあたり単純承認とみなされると、放棄ができなくなります。
借金の有無が分からない段階なら、請求も口座の入出金も止めたまま、3か月の期限内に弁護士へ相談してください。
親が契約していたかどうか分からないときは、どう調べますか
信託銀行から届く運用報告書や契約締結時の書面、通帳の引き落とし履歴が手がかりになります。
取引のあった金融機関に、相続人であることを示す戸籍謄本を持って照会する方法もあります。
通帳やキャッシュカード、保険証券、権利証は、遺品整理で処分すると手続きが止まるので先に確保してください。
遺産分割協議では、信託の給付金も分ける対象になりますか
信託契約にもとづく給付は遺産分割の手続きとは別に行われますが、分割の話し合いでその金額をどう考慮するかは、相続人の間で必ず論点になります。法的な評価は事案によって変わるため、金額を伏せずにテーブルへ出したうえで、弁護士を交えて詰める形が現実的です。
まとめ
遺言代用信託は、亡くなった直後の資金を確保する目的には向いています。
弱点は、契約に入れた金銭しか動かないこと、変更のしやすさが契約条項に左右されること、そして受け取った事実がほかの相続人に後から伝わることの3点です。
遺留分の請求も相続税の課税も、信託を使ったからといって外れるわけではありません。
今日できるのは、契約書の写しと、信託に入っていない財産の一覧を揃えることです。
相続放棄は3か月、相続税の申告は10か月、相続登記は3年という期限が並行して進みます。
ぜひ本記事の契約書チェック項目と遺言書との比較表を参考に、残っている財産の行き先から先に手をつけてください。


