相続放棄を親戚に伝える手紙の文例|角が立たない書き方

相続放棄を親戚に知らせる手紙は、家庭裁判所が申述(しんじゅつ)を受理したあとに出します。決めかねている段階で先に伝えると、確定していない話を持ち込むことになり、結果が出てから訂正の連絡を入れ直すことになります。
手紙の役目は事実を届けることだけです。
誰の相続で、どの家庭裁判所がいつ受理したのか、それによって相手に相続権が移ったことが書かれていれば、相手は自分の3か月を数え始められます。
相続放棄の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月で、亡くなった日からではありません。
本記事では、手紙を出すまでの流れ・書く項目と例文・角が立つ一文の言い換え・親戚の住所が分からないときの動きを解説します。
相続放棄を親戚に伝える流れ|手紙は受理の通知が届いてから出す
申述の提出先は、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
自分の住所地の裁判所ではないため、実家が遠ければ郵送でやり取りすることになります。
申述するのは相続人本人で、未成年者や成年被後見人が申述するときに限り法定代理人が代理します。
親戚への手紙は、この申述が終わったあとの工程です。
全体では次の5段階になります。
| 順序 | やること | 期限・起点 |
|---|---|---|
| 1 | 申述書と戸籍類を家庭裁判所へ提出する | 自分が相続人だと知った時から3か月以内 |
| 2 | 裁判所からの照会に書面で答える | 照会が届いたら |
| 3 | 受理の通知を受け取る | 裁判所の処理が済んだ後 |
| 4 | 次の順位になる親戚へ手紙を出す | 受理の通知が届いた後 |
| 5 | 相手の問い合わせに資料で答える | 手紙の到着後 |
順番がいちばん狂いやすいのは、4を1より先に出してしまう形です。
「放棄するつもりです」という連絡を受け取った相手は、自分が相続人になる前提で銀行や役所に問い合わせを始めます。
そのあとで方針が変わったり申述が受理されなかったりすると、相手に振り出しまで戻ってもらう連絡が必要になります。
受理の通知が届いてから出せば、手紙に書ける事実が増えます。
裁判所の名称と受理された年月日を書き添えるだけで、相手が家庭裁判所へ問い合わせるときの手がかりになるからです。
電話で「放棄したから」と言われるより、相手にとっては確かめやすい形でしょう。
申述書の書き方と集める戸籍については相続放棄の手続きの流れと必要書類で解説しています。
なお、手紙を後回しにしても自分の3か月には影響しません。
ただし相手が動き出す時期はその分だけ遅れます。
四十九日のあとに調べ始めると、戸籍の取り寄せと手紙の準備が同じ月に重なりやすいので、戸籍を申請した段階で手紙の下書きに入っておくと楽になります。
手紙に入れる項目は、事実の5行と資料の案内で足りる
長く書くほど誤解が増えます。相手が知りたいのは、自分が何をしなければならない立場になったのかという一点です。
誰の相続で、どの家庭裁判所がいつ受理したか
冒頭に置くのは、亡くなった人の氏名と死亡年月日、そして自分との続柄です。
親戚づきあいが薄い相手には、「◯◯の長男の△△です」と続柄から書いたほうが通じます。
続けて、申述した家庭裁判所の名称と受理された年月日を、受理の通知に書かれているとおりに写します。
通知に事件の番号が記載されていれば、それも併記してください。
相手が裁判所に確認するとき、この3点が揃っていれば話が早く済みます。
相手に相続権が移ったことと、3か月の起算日
相続の順位は、配偶者が常に相続人で、第1順位が子、子がいなければ第2順位の直系尊属、それもいなければ第3順位の兄弟姉妹です。
同じ順位の相続人が全員放棄すると、次の順位の人へ相続権が移ります。
手紙では「◯◯さんが相続人になります」と事実を書き、そのうえで期限の数え方を添えます。
相手の3か月は、亡くなった日ではなく、相手自身が相続人になったことを知った時から始まります。
この一文があるかないかで、相手が慌てて結論を出すか、調べる時間を確保できるかが変わってきます。
分かっている財産と負債は、出所を添えて書く
金額だけを書くと、相手はそれを確定した数字として受け取ります。どこから得た情報なのかを一緒に書いてください。
- 預金は、銀行名と残高証明の日付と金額
- 不動産は、所在地と、登記事項証明書を取ったかどうか
- 借入は、督促状の差出人と届いている通数
- 調べていない範囲は「確認できていません」とそのまま書く
最後に、手元の資料のコピーを送れることを一行添えます。相手が自分で一から調べ直す手間を省ければ、それだけで印象の悪化を避けられます。
相続放棄を知らせる手紙の例文|書き出しから結びまで
全文をまとめて写すより、部分ごとに自分の事情へ差し替えるほうが早く仕上がります。以下は言い回しの型です。
書き出しと事実の告知
- 「ご無沙汰しております。◯◯の長男の△△です。」
- 「◯◯は令和◯年◯月◯日に亡くなりました。ご連絡が遅くなり申し訳ありません。」
- 「私は◯◯の相続について◯◯家庭裁判所に相続放棄の申述をし、令和◯年◯月◯日に受理されました。」
相手の判断に触れる部分
- 「この結果、◯◯さんが相続人になります。」
- 「相続放棄をするかどうかは◯◯さんのご判断です。期限は、ご自身が相続人になったことを知った日から3か月と定められています。」
- 「私が把握している範囲では、◯◯銀行に預金が◯円、◯◯からの督促状が◯通届いています。必要でしたらコピーをお送りします。」
結びと連絡先
- 「突然のご連絡になり恐縮ですが、期限のある手続きのためお知らせいたしました。」
- 「ご不明な点は下記までご連絡ください。(電話番号・住所)」
- 「令和◯年◯月◯日 △△」
手書きでも印字でも、書面としての扱いは変わりません。
読みやすさを優先して印字し、署名だけ自筆にする形で構いません。
投函する前に、同じ内容の控えを1部残しておいてください。
相手から「そんな連絡は受けていない」と言われたとき、控えと発送の記録が残っていれば話が食い違いません。
手紙で角が立つのは、相手の判断に踏み込んだ一文
揉めるきっかけになるのは、事実を伝えた部分ではありません。相手の代わりに結論を出そうとした一文と、こちらの事情を説明しようとした一文です。
| 書きたくなる一文 | 相手の側で起きること | 書き換え |
|---|---|---|
| 「◯◯さんも放棄したほうがいいと思います」 | 判断を押しつけられたと受け取る。後日の不満の宛先になる | 「放棄するかどうかは◯◯さんのご判断です」 |
| 「借金はたいした額ではないと思います」 | 調べていない推測を根拠に判断され、あとで責任を問われる | 「督促状は◯通届いています。コピーをお送りできます」 |
| 「至急ご返答ください」 | こちらが勝手に期限を切ったように読める | 「期限は◯◯さんが相続人になったことを知った日から3か月です」 |
| 「兄とは長年連絡を取っておらず、私も苦労しました」 | 家庭の経緯の説明が本題を埋め、返事に困る | その段落を削る |
放棄した理由は、書くとしても一行で足ります。
「事情があり、相続には関わらないことにいたしました」で止めておけば、相手は理由の是非ではなく自分の手続きに目を向けられます。
金銭の話を先に持ち出すのも避けたほうが無難な場面です。
財産の内訳は、相手から問われてから資料で渡す順番のほうが穏やかに進みます。
相続放棄を伝えた後に止まる箇所|親戚の住所と返事の記録
住所が分からないときは戸籍からたどる
連絡を取ったことのない親戚には、住所そのものが分かりません。
手がかりになるのは戸籍です。
申述のために亡くなった人の戸籍を集めると、そこから親族関係をたどれます。
そこから先の住所調査でどこまで交付を受けられるかは、続柄と請求の理由によって変わるため、本籍地の市区町村の窓口で確認してください。
年賀状の束や香典帳、仏壇の引き出しに入っている手紙類も、住所を確かめる材料になります。
次順位が兄弟姉妹になると、相手の戸籍集めが重くなる
放棄の申述で必要な戸籍は、申述する人の立場で量が変わります。兄弟姉妹が申述する場合は、次のものが加わります。
- 亡くなった人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 亡くなった子の戸籍謄本
- 直系尊属の死亡の記載がある戸籍謄本
- 代襲(だいしゅう)者が申述するなら、被代襲者の死亡の記載がある戸籍謄本
自分が子として申述したなら、亡くなった人の戸籍はすでに手元にあります。
そのコピーを手紙に同封すると、相手が同じ戸籍を一から取り寄せる手間が減ります。
転籍を繰り返している家系ほど、この一手間の差が大きくなるはずです。
返事が来ない、電話だけで済ませてしまった
返事が来ないことは、手続き上の障害にはなりません。
相手の3か月は相手の事情で進み、こちらが催促する立場でもありません。
控えと発送の記録を残し、問い合わせが来たときに答えられる状態にしておけば足ります。
電話だけで伝えた場合は、同じ内容を書面にして改めて送っておくと、あとから内容の食い違いが起きません。
もう一点、放棄が受理されたあとの行動にも注意が必要です。
故人の預金を使ったり、家財を売却したりすると、相続を承認したものとみなされて放棄が認められなくなることがあります。
形見分けや遺品整理を相手から頼まれたときも、勝手に処分せず、相続人になった側の了解を得てから動いてください。
放棄と借金の関係は相続放棄で借金を引き継がない条件で解説しています。
相続放棄の手紙まで自分で出すか、専門家に任せるか
申述にかかる実費は、申述する相続人1人につき収入印紙800円です。
ほかに連絡用の郵便切手が必要で、郵便料は裁判所ごとに異なるため申述先の家庭裁判所に確認してください(裁判所「相続の放棄の申述」/2026年9月時点)。
戸籍の取得手数料と手紙の郵送代を足しても、自分で進めれば数千円の範囲で収まります。
費用の内訳は相続放棄の費用が数千円で済む理由で解説しています。
司法書士や弁護士に依頼した場合の報酬には公的な相場調査がないので、この記事では金額を書きません。
見積もりを取るときは、戸籍の取り寄せが含まれるのか、次順位の相続人への通知文の作成まで含まれるのかを確認してください。
手紙の作成だけを外注できるかどうかも、事務所によって対応が分かれます。
専門家に渡したほうが進みやすいのは、次のような場面です。
- すでに債権者から請求書や督促状が届いており、対応の窓口が必要
- 相続人が多く、第2順位・第3順位まで順に移っていく見通し
- 期限が迫っていて、戸籍を集める時間が取れない
- 財産と負債のどちらが多いか分からず、限定承認を検討している
相手方との交渉や争いになる可能性がある場合は弁護士の領域です。
逆に、戸籍が揃っていて相手の住所も分かっているなら、申述書と手紙を自分で作って郵送するだけで完了します。
どちらにするかは、集める戸籍の通数と自分が使える時間で決めてください。
よくある質問
相続放棄したことを親戚に知らせないとどうなりますか
相手は自分が相続人になったことを知らないまま過ごし、債権者からの請求で初めて事情を知ることになります。
期限は相手が「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月と定められているため、知らせが遅れたからといって相手の3か月が削られるわけではありません。
ただし相手は資料が何もない状態からの調査を、その3か月で進めることになります。
手紙ではなくメールや電話で伝えてもいいですか
伝える手段に決まりはありません。
日常的にやり取りのある相手ならメールでも通じます。
ただし、裁判所名や受理年月日、財産の内訳といった数字を含む連絡は、書面のほうが正確に残ります。
電話で先に事情を話し、同じ内容を書面で送る二段構えにすると、聞き違いを防げるでしょう。
受理の通知が届く前に伝えてしまいました
受理された時点で、裁判所名と受理年月日を書いた短い書面を改めて送ってください。
相手が確認に使える情報がそろい、口頭で伝えた内容の裏づけにもなります。
申述が受理されなかった場合も、その事実だけは連絡してください。
相手が相続人になる前提で動いたままになるのを避けられます。
相続放棄をすると相続税の基礎控除の人数から外れますか
外れません。
基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算し、この人数には放棄した人も含めます。
放棄によって控除額が減ることはありません。
課税されるかどうかの分かれ目は相続税の基礎控除の考え方で解説しています。
3か月に間に合いそうにないときはどうすればいいですか
期間内であれば、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられます。
財産の調査が終わらない、相続人の所在が分からないといった事情を申立書に書いて提出します。
期限を過ぎてからでは選べない手段なので、残り1か月を切った段階で申述先の家庭裁判所に相談してください。
期間伸長の申立ての進め方で解説しています。
まとめ
手紙は、受理の通知が届いてから出します。
書くのは、誰の相続なのか、どの家庭裁判所がいつ受理したのか、それで相手に相続権が移ったこと、相手の3か月の起算日、そして手元にある資料の案内です。
相手の判断に踏み込む一文と、こちらの家庭の経緯を説明する段落を削るだけで、角の立ち方はかなり変わります。
自分で進めれば実費は収入印紙800円と切手代の範囲で収まり、手紙も1通で済みます。ぜひ本記事の5段階の流れと例文の型を下敷きにして、受理の通知が届いたその週に投函できる形まで下書きを進めてください。


