遺産分割調停の弁護士費用|相場と払えないときの法テラス

兄弟のうち1人が話し合いに応じないまま、相続税の申告期限である10か月だけが近づいています。家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるとき、裁判所に納めるお金は被相続人1人につき収入印紙1,200円分と、連絡用の郵便切手だけです(裁判所「遺産分割調停」/2026年9月時点)。
金額が読めないのは弁護士に払うほうです。
弁護士報酬の基準は2004年に廃止され、いまは事務所ごとに料金を決めています。
そのため「調停なら総額いくら」という公的な統計そのものがなく、見積書の妥当性は金額の大小ではなく内訳の形で判断するしかありません。
本記事では、見積書を着手金・報酬金・実費の3つに割って読む方法、日当や出張旅費のように後から足されやすい費目、法テラスの立替制度を解説します。
遺産分割調停の弁護士費用は、着手金・報酬金・実費の3つに割って読む
弁護士費用を調べても、比べられる相場表は出てきません。
日本弁護士連合会の旧報酬基準が2004年に廃止され、各事務所が自由に料金を決める形に変わったためです。
相続の内容も相続人の数も一件ごとに違うので、平均額を出したところで自分の見積書の判断には使えません。
比べる先がないときは、金額ではなく費目の並びを見ます。料金表の書き方は事務所ごとに違っても、費目そのものは次の3つのどこかに収まります。
| 費目 | 何に対するお金か | 払うタイミング |
|---|---|---|
| 着手金 | 依頼を受けて手続きを進めること自体への対価 | 契約時 |
| 報酬金 | 調停や審判で得られた結果への対価 | 手続きの終了時 |
| 実費・日当 | 印紙や切手、戸籍などの取得費、交通費、期日出頭の時間拘束 | その都度、または終了時に精算 |
見積書がこの3つに分かれていない、あるいは「一式」でまとめられているなら、その場で分けて書いてもらってください。総額が同じでも、どこに何が入っているかで後の請求額が変わります。
着手金は結果によらず先に払う
着手金は、弁護士が動き始めることに対して払うお金です。
調停が不成立に終わっても、希望より低い金額で合意することになっても、返金されません。
ここで確認したいのは金額よりも委任の範囲のほうで、「調停の申立てから成立まで」なのか「不成立後の審判まで含む」のかによって、あとから追加の着手金が要るかどうかが変わります。
契約書の委任事項の欄に、どこまでが範囲なのかが書かれています。
報酬金は「得られた経済的利益」で母数が変わる
報酬金は、多くの場合「経済的利益の◯%」という形で決まります。
同じパーセンテージでも、母数の取り方が事務所によって違うため、実際の請求額は大きく動きます。
取得した遺産の総額を母数にするのか、争いのあった部分だけを母数にするのか、法定相続分を超えて取得できた分だけを母数にするのか。
このうちどれを採るのかを、契約前に書面で確認してください。
不動産のように現金が入ってこない財産を取得した場合、報酬金をどう計算して何で払うのかも同時に聞いておくと、終了時の負担が読めます。
裁判所に納める実費と、弁護士に渡す実費は別のもの
実費には性質の違うものが混ざっています。
裁判所に納めるのは収入印紙と連絡用の郵便切手で、これは弁護士を頼まなくてもかかります。
弁護士に渡すほうの実費は、戸籍や住民票、登記事項証明書などの取得費用、交通費、コピー代といった立替分です。
契約時に預り金としてまとめて預け、終了時に精算する形をとる事務所もあります。
預り金の扱いと、余った分が返るかどうかは契約書に書かれています。
遺産分割調停の弁護士費用を動かすのは、相続人の数と遺産の中身
見積書の金額差は、事務所の高い安いよりも事案の重さから生まれます。
同じ弁護士でも、相続人2人で預金だけの事案と、相続人6人で実家と非上場株が入る事案では、作業量が何倍も違うためです。
自分の事案がどちらに近いかは、次の3点で見当がつきます。
相続人が増えると、戸籍も同意も増える
遺産分割調停の申立てには、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍、相続人全員の戸籍謄本、相続人全員の住民票または戸籍附票、遺産に関する証明書、事情説明書、進行に関する照会回答書が必要です(裁判所「遺産分割調停」)。
相続人が1人増えれば、その人の戸籍と住民票が増えるだけでなく、途中で亡くなった相続人がいれば、その人の相続人全員も当事者に加わります。
連絡先が分からない相続人がいる場合は、戸籍の附票をたどって住所を調べるところから始まります。
この調査の手間が、着手金の見積りに乗ってきます。
不動産と非上場株が入ると、評価そのものが争点になる
預金は残高で金額が確定するので、分け方の議論だけで済みます。
もめるのは実家です。
固定資産税評価額、路線価、不動産業者の査定額のどれを基準にするかで、取り分の計算が変わります。
当事者の間で折り合わなければ不動産鑑定士による鑑定に進むこともあり、その鑑定費用は弁護士費用とは別にかかります。
実家を売るか誰かが住み続けるかで意見が割れているなら、片付けから売却までにいくらかかるのかを先に調べておくと、評価の議論が具体的になります。
実家じまいの費用の内訳で解説しています。
調停が不成立になると、自動的に審判へ移る
調停で合意ができなかった場合、手続きはそこで終わりません。
自動的に審判手続が開始され、裁判官が遺産の種類や性質その他一切の事情を考慮して審判します(裁判所「遺産分割調停」)。
当事者にとっては手続きが続くということですから、弁護士費用の面では「審判まで含めていくらか」を最初の契約で押さえておく意味があります。
審判移行時に追加着手金が発生する料金体系なら、その金額と発生条件を契約書で確認してください。
なお、調停を申し立てる前に協議でまとまる見込みがあるなら、そちらのほうが費用も時間もかかりません。
分割の話し合いを何年も先送りにすると主張できる範囲が狭まる場合があるため、進め方の判断には時期の見通しも関わります。
遺産分割協議の期限と10年の区切りで解説しています。
見積書で抜けやすい日当と、削ると後で困る費目
契約時に提示された総額と、終わってみたときの支払額がずれる原因は、だいたい決まった費目に集中します。安く見せるために隠しているというより、事案が動いてから発生するので最初の見積りに載せにくい、という性質のものです。
日当と出張旅費は総額に含まれていないことがある
日当は、弁護士が期日に出頭するなど事務所を離れて拘束される時間に対して発生します。
遺産分割調停は1回の期日で終わることは少なく、回数を重ねるほど日当も積み上がります。
とくに、被相続人の最後の住所地や相手方の住所地が遠方で、申立先の家庭裁判所が離れた場所になる場合は、旅費と日当の両方が乗ります。
見積書を受け取ったら、日当が1回いくらか、半日と1日で分かれているか、電話会議やウェブ会議で参加した場合はどう扱うかを聞いてください。
相続手続きの残りは別料金になる
調停で合意ができても、そこで相続が終わるわけではありません。
不動産の名義を移す相続登記、預貯金の解約と払い戻し、相続税の申告は、それぞれ別の手続きです。
弁護士費用の見積りが「遺産分割調停の代理」だけを対象にしている場合、登記は司法書士、申告は税理士への報酬が別に発生します。
事務所によっては提携先を紹介して一括で受けることもありますが、その場合も費目は分かれます。
合意後に何をいくらで頼むことになるのかを、契約の段階で一度洗い出しておくと、総額の見通しが立ちます。
遺産分割協議書の書き方と記載漏れで解説しています。
自分でできるのは書類集め、任せるべきは遺産の調査
費用を抑える余地があるのは、実費のうち書類の取り寄せです。
被相続人の出生から死亡までの戸籍は本籍地の市区町村、登記事項証明書は法務局と窓口が分かれていますが、手間さえかければ相続人自身で集められます。
取得費用は同じでも、弁護士の作業時間ぶんは減ります。
逆に削らないほうがいいのが、遺産の範囲を確定させる調査です。
預金の取引履歴を取り寄せて生前の出金を追う作業や、不動産の評価資料を揃える作業を省くと、実際より少ない遺産を前提に合意してしまうことになります。
調停調書は合意の内容を確定させる書面ですから、あとから遺産が出てきても、いったん成立した内容を簡単にやり直せるわけではありません。
ここを節約した結果として失う額は、弁護士費用より大きくなり得ます。
弁護士費用は誰が払うのか、払えないときの法テラス
遺産分割調停の費用は、裁判所に納めるものと弁護士に払うものとで、負担する人の考え方が違います。
裁判所に納める1,200円は申立人が用意する
申立てに必要なのは、被相続人1人につき収入印紙1,200円分と、連絡用の郵便切手です(裁判所「遺産分割調停」/2026年9月時点)。
切手の額と組み合わせは裁判所ごとに決められているので、申立先の家庭裁判所に確認してから用意します。
申立てができるのは共同相続人、包括受遺者、相続分譲受人で、申立先は相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意で定めた家庭裁判所です。
相手方として呼び出された側は、この印紙代を負担しません。
弁護士費用は依頼した人が自分で払う
弁護士費用は、依頼した相続人が自分で負担します。
相手方に請求できるものではなく、遺産から自動的に差し引かれるものでもありません。
分割が終わるまでの遺産は相続人全員のものですから、自分の判断で預金を引き出して弁護士費用に充てるのは避けてください。
相続放棄を検討している段階なら、相続財産を使った時点で単純承認したとみなされ、放棄ができなくなります。
相続放棄の申述は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です。
兄弟のうち何人かが同じ主張をしている場合、まとめて1人の弁護士に依頼して費用を分担する方法もあります。
ただし、同じ側に見えても取り分の配分で利害がぶつかると受任できません。
まとめて頼めるかどうかは、事情を説明したうえで弁護士の判断を聞くことになります。
法テラスの立替は、あとから分割で返す
着手金をすぐに用意できない場合に使えるのが、日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助です。
弁護士費用と実費を法テラスが立て替え、利用者は原則として分割で返していく仕組みになっています。
利用するには収入と資産の基準を満たす必要があり、審査があります。
基準額や対象になる手続きの範囲は法テラスが定めているので、申込み前に法テラスの窓口か、相談する弁護士事務所で確認してください。
立替の申込みには相続関係を示す資料や収入の資料が要るため、戸籍を集める作業は結局早めに始めることになります。
調停まで行かずに話がまとまった場合は、遺産分割協議書ジェネレーターで自分たちで書面を作れます。
調停中でも相続税の申告期限は延びない
相続税の申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。
調停が続いていることを理由に延びる仕組みではありません。
配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も、適用を受けるには申告が必要です。
そもそも申告そのものが要るかどうかは、基礎控除である3,000万円+600万円×法定相続人の数を遺産が超えるかで決まります。
相続税の基礎控除と申告が要るかの判断で解説しています。
調停と並行して、税理士に申告の段取りを相談する時期になります。
よくある質問
遺産分割調停は弁護士に頼まず自分で申し立てられますか
申立ては本人でもできます。
必要なのは申立書と、被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍謄本と住民票または戸籍附票、遺産に関する証明書、事情説明書、進行に関する照会回答書です。
書類を自分で揃えれば、裁判所に納めるのは収入印紙1,200円分と郵便切手だけになります。
一方で、期日ごとに平日の日中に出頭する時間が要ります。
相手方に弁護士が付いている、遺産の範囲そのものに争いがある、といった事情があるなら、弁護士に依頼するかどうかを検討する段階です。
着手金は調停が不成立になっても返ってきませんか
着手金は結果に関わらず返らないのが基本的な扱いです。
ただし、不成立から審判へ移ったときに追加の着手金が発生するかどうかは事務所によって違います。
契約書の委任の範囲と、追加着手金の有無と金額を、署名する前に確認してください。
弁護士費用を遺産から払うことはできますか
分割が終わるまでの遺産は相続人全員の共有です。
自分の判断で引き出して充てることはできません。
相続人全員が合意すれば、最終的な清算のなかで調整する形をとることもありますが、その合意が無いまま使うと、後の話し合いで返還を求められます。
相続放棄を考えているなら、預金には手をつけないでください。
相手方が弁護士を立てました。こちらも立てないと不利になりますか
調停委員は双方から事情を聞いて進める立場で、代理人の有無だけで結論が決まる仕組みではありません。
とはいえ、相手方の主張が特別受益や寄与分のように法律の解釈を含む内容になると、こちらも資料と根拠を揃えて反論する必要が出ます。
まずは法律相談で、争点がいくつあるのか、自分で対応できる範囲かを聞いてみるのが現実的な進め方です。
弁護士費用が払えないときはどうすればいいですか
法テラスの民事法律扶助で、弁護士費用と実費を立て替えてもらえる場合があります。
収入と資産の基準を満たすことと、審査を通ることが条件です。
基準や手続きの詳細は法テラスの窓口で確認してください。
あわせて、事務所によっては着手金の分割払いに応じることもあるので、相談の段階で支払い方法を聞いておくと選択肢が増えます。
調停はどのくらいの期間がかかりますか
期日は1回で終わらず、当事者と裁判所の予定を合わせて日程が決まります。
相続人の数、遺産の種類、争点の数によって回数が変わるため、一律の目安はありません。
費用の見通しを立てるには、期日1回あたりの日当がいくらかを先に確認しておくと、回数が増えたときの負担を計算できます。
まとめ
遺産分割調停の弁護士費用に公的な相場はありません。
旧報酬基準が2004年に廃止されているため、見積書の妥当性は他社との金額比較ではなく、着手金・報酬金・実費の3つに分けて、それぞれの発生条件を確かめる形で判断することになります。
とくに、報酬金の母数になる「経済的利益」の数え方と、審判へ移ったときの追加着手金の有無は、総額を大きく動かす部分です。
裁判所に納めるのは収入印紙1,200円分と郵便切手で、弁護士費用は依頼した人が自分で負担します。
手元の現金が足りない場合は法テラスの立替制度があり、収入と資産の基準を満たせば分割で返していく形になります。
調停が続いていても相続税の申告期限である10か月は延びないので、分割の話し合いと申告の準備は並行して進める必要があります。
ぜひ本記事の3費目の内訳表を手元に置いて、受け取った見積書がどの費目を含み、どこから追加になるのかを、契約前に弁護士へ確認してください。


