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不動産で相続対策するデメリット|節税だけで選ばない

不動産で相続対策するデメリット|節税だけで選ばない

相続税の申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月です。親が現金をアパートや駐車場用地に換えて相続対策をしていた場合、相続税の計算に使う評価額は下がっていても、10か月で納める現金が手元にあるとは限りません。

不動産は1つしかなく、兄弟3人で等分もできません。

売って分けようとしても、買い手が現れる時期は自分では決められません。

節税額だけを見て決めた対策が、相続した側で行き詰まるのはこの部分です。

本記事では、不動産に換えた相続対策が相続後にもめる理由・話し合いの前にそろえる3つの数字・相続登記3年と遺留分1年の期限を解説します。

不動産に換えた相続対策でもめるのは、分けられないことと納税資金の2つ

相続税の負担を下げる目的で現金を不動産に換えると、下がるのは評価額だけではありません。

財産としての使い勝手も同時に落ちます。

相続した人が直面するのは、たいてい次の3つのどれかです。

現金なら等分できても、不動産は分けられない

預金3,000万円を子3人で分けるなら1,000万円ずつで終わります。

同じ3,000万円が実家とアパートに変わっていると、誰がどちらを取るかという話になります。

分けられないので、選択肢は共有名義にするか、1人が取得して他の相続人に代償金(取得しなかった人へ支払う精算金)を渡すか、売って現金に戻すかのいずれかです。

共有にすれば、その場は全員が同じ持分になって公平に見えます。

ただし売却には共有者全員の同意が要るため、1人が反対すると動かせません。

代償金の方法は、取得する人にまとまった現金が必要です。

親が現金を不動産に換えていたということは、家族全体で現金が減っているということでもあります。

相続税の納付は10か月以内、不動産はその期限に合わせて売れない

相続税の申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条)。四十九日と納骨、戸籍の取り寄せ、金融機関の残高照会を済ませていくと、財産の全体像が見えるころには数か月が過ぎています。

そこから不動産を売って納税資金をつくる場合、査定、媒介契約、買主探し、契約、決済と進みます。

この各段階にかかる期間は、物件の立地と価格の設定、そして買主が住宅ローンを使うかどうかで変わります。

自分の努力では縮められない待ち時間がある、という前提で逆算してください。

期限そのものの並びは相続手続きの全体像と3か月・4か月・10か月の期限で解説しています。

評価を下げる特例は、申告しないと使えない

被相続人が住んでいた宅地は、小規模宅地等の特例によって330平方メートルまで評価額を80%減額できます(租税特別措置法69条の4)。配偶者が取得した遺産についても、法定相続分か1億6,000万円のいずれか多い額までは相続税がかかりません(相続税法19条の2)。

どちらも、適用を受けるには相続税の申告が必要です。

特例を使った結果として税額が0円になる場合でも、申告しなければ適用されません。

「税金はかからないと聞いていたから何もしなかった」が、いちばん避けたい結末です。

基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、そもそも申告が要るのかどうかの判定は相続税がかかる人と基礎控除の考え方で解説しています。

自分の家がどのタイプかで、先に見る期限が変わる

相続した不動産の状態先に確かめること
アパートローンなどの借入が残っている3か月以内に相続放棄をするかどうかの判断
遺産の総額が基礎控除を超えそう10か月以内の申告と、納税に回せる現金の額
誰も住まない実家が残った持ち続ける場合の年間費用と、売る場合の期限
名義が祖父母のままだった相続人が何人になるかの確定と、登記の申請

話し合いの前に、実家とアパートの数字を3つそろえる

兄弟の意見が割れるのは、誰も正確な数字を持たないまま話しているからです。

「あの家は1,500万円くらいだろう」と思っている人と「あんな古い家は売れない」と思っている人が同じ机に着くと、金額の話が態度の話にすり替わります。

話を始める前に、次の3つを紙にして持っていってください。

  • 登記事項証明書に書かれた名義と持分
  • 固定資産税の納税通知書に載っている年額と評価額
  • 不動産会社の査定額(できれば2社以上)

名義が親のままかどうかは、登記事項証明書の甲区で分かる

登記事項証明書は法務局で取得できます。

所有者が書いてあるのは甲区(所有権に関する事項)で、ここが親の名前になっていれば、相続の対象はその不動産です。

祖父母の名前のままになっていることもあります。

その場合は祖父母の相続が未処理のまま重なっている状態で、相続人の人数が一気に増えます。

判明した時点で、自分で進める範囲を超えたと考えてください。

固定資産税の年額と査定額は、別の数字です

納税通知書に載っている評価額は税額を計算するためのもので、売れる値段ではありません。

兄弟に出すべきなのは両方です。

査定額は「取ったら入るお金」、固定資産税の年額は「持ち続けたら毎年出ていくお金」を示します。

この2つが並んで初めて、残すか売るかが金額の比較になります。

借入が残っているなら、残高証明を先に取る

アパートを建てて相続税対策としていた場合、借入が残っていることがあります。

金融機関から残高証明を取り、団体信用生命保険が付いているかどうかも確認してください。

保険で完済されるのか、債務がそのまま相続されるのかで、3か月以内の判断が変わります。

兄弟に出すのは査定額、税理士に出すのは期限の残り月数

同じ資料を全員に配ればいいわけではありません。相手によって、判断に使う数字が違うためです。

兄弟には、感情の前に3つの数字を置く

「売りたい」「残したい」から入ると対立になります。

先に査定額、固定資産税の年額、借入残高を机に出し、「持ち続けると年間これだけ出ていく」「売るとこれだけ入る」という形にしてください。

そのうえで、誰が住むのか、誰も住まないのかを確認します。

住む人がいないのに残す判断をするなら、管理費用を誰が負担するかまで決めておかないと、数年後に同じ話をやり直すことになります。

税理士には、申告期限までの残り月数を最初に伝える

相談の初回に伝えるべきは、亡くなった日、相続人の人数、不動産の所在と用途、借入の有無です。

残り月数が3か月を切っていると、受けられる事務所が限られます。

小規模宅地等の特例を使えるかどうかは、同居の有無や持ち家の状況で判断が分かれる論点です。

同居していない親族が使う場合には要件があり、個別の可否はその場で税理士に確認してください。

専門家ごとの費用感は相続手続きにかかる費用と専門家別の報酬相場で解説しています。

不動産会社には、売る前提でなくても査定を頼んでよい

査定を取ることと売りに出すことは別です。

ただし一括査定サイトを使うと、複数社から同時に営業の連絡が来ます。

相続の手続きと並行して電話対応に追われると、他の期限が押します。

連絡手段を限定できるか、どこまで情報が渡るかを確認してから使ってください。

使い方の注意点は不動産一括査定のデメリットと営業電話を避ける使い方で解説しています。

不動産の名義変更は3年、遺留分の請求は1年という期限があります

権利と義務の線引きを知らないまま話し合うと、譲る必要のないところで譲ったり、期限を過ぎて権利そのものを失ったりします。不動産に関係する主な期限は次のとおりです。

手続き期限と起算日過ぎるとどうなるか
相続放棄・限定承認自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月借入を含めて相続したものとして扱われる
相続税の申告・納付相続の開始を知った日の翌日から10か月特例の適用を受けられず、加算税や延滞税の対象になる
相続登記不動産を取得したことを知った日から3年正当な理由なく怠ると10万円以下の過料
遺留分侵害額請求相続の開始と侵害を知った時から1年(相続開始から10年)時効により請求できなくなる

相続登記は2024年4月から義務になり、過去の相続も対象です

不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請する義務があります(不動産登記法76条の2、2024年4月1日施行)。

ここで見落とされやすいのが、施行日より前に相続した不動産も対象になる点です。

その場合の期限は2027年3月31日までとされています。

「親が亡くなったのは10年前だから関係ない」とはなりません。

名義が親や祖父母のままの不動産に心当たりがあるなら、登記事項証明書で状態を確かめてください。

遺留分は請求されて初めて問題になり、期限は1年です

親が特定の子に不動産を集中させる遺言を残していた場合、他の相続人には遺留分があります。

請求は、相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年で時効です(民法1048条)。

不動産を受け取った側から見ると、現金を持っていないのに精算を求められる可能性がある、ということになります。

節税を目的にした不動産の集中が、この場面でそのまま資金繰りの問題に変わります。

借入が残る不動産だけを放棄することはできません

相続放棄は、プラスの財産とマイナスの財産をまとめて放棄する手続きです。

「アパートのローンだけ放棄して、預金は受け取る」という選び方はできません。

期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月です(民法915条)。

財産の全体像がつかめないときは、期間内に家庭裁判所へ伸長の申立てができます。

放棄を検討している間、相続財産である預金を使うと、単純承認したものとみなされて放棄できなくなります。

口座の入出金は止めておきます。

各期限の並びは相続手続きの期限一覧と過ぎると損をする手続きで解説しています。

「とりあえず共有」で止まる不動産と、専門家に渡す境目

話がまとまらないときによく選ばれる対処のうち、実際にはほとんど進まないものがあります。

とりあえず共有名義にしても、問題は先送りされるだけです

持分を等分にすれば、その場は全員が納得したように見えます。

ただし売却にも建て替えにも共有者全員の同意が要るため、1人が連絡を取れなくなった時点で動かせません。

さらに共有者の1人が亡くなると、その持分をその人の相続人が引き継ぎ、関係者が増えます。

10年後に売ろうとして、面識のない親族数人から実印をもらう作業が発生する構図です。

共有は結論ではなく、決めないという選択だと考えてください。

空き家のまま持ち続ける判断には、費用と期限が付いてきます

総務省の住宅・土地統計調査では、全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%で過去最高です(2023年時点)。

放置しても固定資産税が自動的に上がるわけではありません。

倒壊のおそれや衛生上の問題があると市区町村が判断すれば「特定空家」、そうなるおそれがあると「管理不全空家」に指定され、勧告を受けた段階で住宅用地の特例が外れます。

指定、勧告という手順を踏むため、通知が来た時点で対応すれば間に合う場面もあります。

売る方向で考えるなら、相続した空き家を売ったときの譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります(租税特別措置法35条3項)。

1981年5月31日以前に建築された家屋であることなどの要件があり、対象は2027年12月31日までの譲渡です。

相続人が3人以上の場合、2024年1月1日以降の譲渡では1人あたり2,000万円に下がります。

適用の可否は建物の状態や手続きの順序で変わるため、売却の前に税理士か税務署へ確認してください。

専門家に渡すのは、この状態になったときです

  • 遺産の総額が基礎控除を超えそうで、申告期限まで半年を切っている(税理士)
  • 名義が祖父母のままで、相続人が誰なのか自分で数えられない(司法書士)
  • 相続人の1人と連絡が取れない、または話し合いの席に着かない(弁護士)
  • 遺留分を請求された、または請求したい(弁護士)
  • 何から手をつけるかの整理だけしたい(市区町村や法テラスの無料相談)

登記の申請そのものは自分でもできますが、相続人が複数いて持分を決める段階から迷うなら、司法書士に渡したほうが早く終わります。判断を誰かに預けるのではなく、手続きの実行を渡すという切り分けにしてください。

よくある質問

親がアパートを建てて相続対策をしていました。その不動産だけ相続しないことはできますか

できません。

相続放棄はプラスの財産とマイナスの財産をまとめて放棄する手続きで、財産ごとに選ぶことはできません。

借入が残っていて、家賃収入と返済のバランスが合わないと感じるなら、3か月の期間内に収支と残債を確認してください。

判断がつかない場合は、期間内に家庭裁判所へ伸長を申し立てる方法があります。

相続税がかからないなら、不動産の名義変更はしなくてもよいですか

相続税と相続登記は別の制度です。

相続登記は不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が義務で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。

2024年4月1日より前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年3月31日です。

兄弟3人で実家を共有名義にするのは避けたほうがよいですか

売却や建て替えに全員の同意が必要になる点と、共有者が亡くなるたびに関係者が増える点を承知したうえで選ぶなら、選択肢のひとつです。

ただし「誰も住まない家を、いつか誰かが決めるために共有にする」場合は、決定を先送りしているだけになります。

管理費用の負担者と、いつまでに結論を出すかを書面にしておいてください。

小規模宅地等の特例で税額が0円になるなら、申告しなくてよいですか

申告が必要です。

小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も、適用を受けるには相続税の申告書の提出が条件になっています。

基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下で申告そのものが不要なケースとは別なので、どちらに当たるかを確認してください。

査定を頼むと、売らなければいけなくなりますか

査定は価格を出してもらうだけで、売却の義務は発生しません。

媒介契約を結んで初めて販売活動が始まります。

ただし、査定後に営業の連絡が続くことはあります。

連絡方法や希望する時期を最初に伝えておくと、他の手続きの時間を削られずに済みます。

まとめ

不動産に換える相続対策は、相続税の評価額を下げる一方で、分けにくさと現金の不足を相続人に引き継がせます。

相続税の納付は10か月、相続登記は3年、相続放棄は3か月と、期限はそれぞれ別に進みます。

まず手を動かすのは、登記事項証明書と固定資産税の納税通知書、そして借入の残高証明を集めるところからです。

兄弟との話し合いは、数字を机に出してからでないと前に進みません。ぜひ本記事の期限の表と、話し合いの前にそろえる3つの数字を参考に、今週のうちに1つ目の書類を取りに行ってください。

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