遺言書の種類は3つ|自筆・公正証書・秘密証書の選び方

仏壇の引き出しや金庫から封筒が出てきても、その場で開けないでください。
自筆証書遺言と秘密証書遺言は家庭裁判所の検認が必要で、封をしたまま持ち込みます(民法1004条)。
公正証書遺言と、法務局の保管制度を使った自筆証書遺言なら、検認は要りません。
遺言書は民法が定める3種類しかなく、どれに当たるかで開け方も費用も、相続人が家庭裁判所に呼び出されるかどうかも変わります。
公証役場で作る場合の手数料は財産の額で決まり、法務局に原本を預ける場合は1件3,900円です。
本記事では、3種類の見分け方・検認が要る遺言書の扱い方・公正証書の手数料の計算方法・遺言書が無いときに待っている手続きまで解説します。
遺言書は自筆証書・公正証書・秘密証書の3種類
民法が定める遺言書は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つです。
名前が違うだけではありません。
作るときの手間と費用が違い、亡くなったあとに家庭裁判所へ持ち込む必要があるかどうかも変わります。
親の遺品から出てきた1通がどれに当たるのかを先に確かめると、次にどこへ行けばいいかが決まります。
| 種類 | 作り方 | 原本の置き場所 | 検認 | 費用 |
|---|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 本人が本文を全文自筆で書き、日付と署名押印をする | 自宅や貸金庫など本人が決めた場所、または法務局 | 必要(法務局に預けていた場合は不要) | 自分で保管するなら無料。法務局の保管制度は1件3,900円 |
| 公正証書遺言 | 公証人が本人から内容を聞き取って作成する | 公証役場 | 不要 | 財産の額に応じた公証人手数料 |
| 秘密証書遺言 | 本人が用意した遺言書を封じ、公証役場で手続きをする | 本人が保管する | 必要 | 公証役場での手続き費用 |
この表で最初に見てほしいのは検認の列です。
検認が不要なのは公正証書遺言と、法務局に預けられていた自筆証書遺言だけになります。
それ以外の1通は、封を切らずに家庭裁判所へ持ち込むところから始まります。
手元の1通がどれなのかを確かめる
公証人が作ったものは、書面に公証役場と公証人が関わったことが記載されています。
正本や謄本という形で本人に交付されるため、家に残っているのは写しで、原本は公証役場にあります。
原本が手元にあると思い込んで探し回る必要はありません。
手書きの便箋がそのまま封筒に入っているようなら自筆証書遺言、法務局の保管証が一緒に出てきたなら保管制度を使ったものです。
エンディングノートには遺言書の効力がない
市販のノートに財産の一覧や希望が書いてあっても、それは遺言書ではありません。
誰に何を渡すかを法的に決められるのは遺言書だけで、ノートは家族への申し送りにとどまります。
ただし、預金口座の一覧や保険証券の場所が書いてあれば、相続人が財産を探す手間は大きく減ります。
役割の違いはエンディングノートの書くべき項目と役割で解説しています。
封のある遺言書を開けない|検認が要るのは自筆証書と秘密証書
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、家庭裁判所の検認を受けなければなりません(民法1004条)。
封がしてある場合は、相続人が立ち会う場で家庭裁判所が開封します。
見つけた人が先に開けてしまうと、あとから「中身を差し替えたのではないか」と疑われる余地を残すことになります。
兄弟の関係がこじれる原因として、これはかなり避けやすい部類です。
検認は「有効かどうか」を決める手続きではない
検認でやるのは、その時点の遺言書の形と内容を家庭裁判所が確認して記録に残すことです。
書式に不備があるかどうか、内容が有効かどうかを裁判所が判定するわけではありません。
検認が済んだあとで無効が争われることもあります。
それでも検認を飛ばせないのは、不動産の名義変更や預金の払い戻しの窓口で、検認済みであることを示す書面を求められるためです。
申立てに要るのは戸籍の束
検認の申立ては、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
添えるのは、亡くなった人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本と、相続人全員の戸籍謄本です。
本籍が結婚や転籍で移っていると、その数だけ別の市区町村に請求することになります。
郵送で取り寄せると、そろうまでに数週間かかることも見込んでおいてください。
申立てのあと、家庭裁判所から相続人全員に検認期日の通知が届きます。
全員がそろわなくても検認は行われますが、通知の段階で他の相続人に遺言書の存在が伝わります。
誰にも知らせずに手続きを進めることはできない作りになっています。
自筆証書遺言は本文が全文自筆、財産目録だけパソコンで作れる
紙とペンがあればその日のうちに書けるのが自筆証書遺言です。
費用もかかりません。
その手軽さと引き換えに、形式の要件を1つでも外すと無効になるという弱点を抱えています。
本文は全文を自分の手で書き、日付と署名押印を入れます。
代筆はできませんし、本文をパソコンで打った時点で条件から外れます。
2019年から財産目録だけ手書きでなくてよくなった
2019年1月13日以降に作るものは、添付する財産目録をパソコンで作成したり、通帳や登記事項証明書のコピーを添えたりできます(民法968条2項)。
不動産や口座がいくつもある人にとっては、写し間違いの危険が減る改正です。
ただし目録の各ページに署名押印が要ります。
両面に記載があるなら両面ともです。
ここを落とすと、せっかくの目録が無効になります。
どこを間違えると無効になるのかは、書き方の段階でつまずく人が多い論点です。
日付の書き方や財産の特定の仕方は自筆証書遺言が無効になるミスと注意点で解説しています。
文面そのものに迷うなら遺言書の書き出しと結びの言い回しも参考になります。
法務局に預ければ検認が要らなくなる(1件3,900円)
2020年7月10日に始まった自筆証書遺言書保管制度を使うと、法務局が原本を保管します。
保管申請の手数料は1件3,900円です(法務省 遺言書保管所/2026年9月時点)。
この制度を使った遺言書は検認が不要になるため、残された家族は家庭裁判所への申立てをせずに手続きへ進めます。
自宅保管には、紛失する、誰にも見つけてもらえない、都合の悪い相続人に捨てられるという3つの危険がついて回ります。
法務局に預ければそのいずれも避けられます。
手書きの負担を残したままでいいなら、費用対効果はかなり高い選択肢でしょう。
公正証書遺言の手数料は、財産の総額ではなく受け取る人ごとに計算する
公証人が作成するため形式の不備で無効になりにくく、原本が公証役場に残るので紛失もしません。
検認も要りません。
その代わり手数料がかかります。
金額は公証人手数料令の別表で決まっていて、公証役場ごとに違うわけではありません。
| 目的の価額 | 手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円超〜100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超〜500万円以下 | 13,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 20,000円 |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 26,000円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 33,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 49,000円 |
| 1億円超〜3億円以下 | 49,000円に、超過額5,000万円までごとに15,000円を加算 |
| 3億円超〜10億円以下 | 109,000円に、超過額5,000万円までごとに13,000円を加算 |
| 10億円超 | 291,000円に、超過額5,000万円までごとに9,000円を加算 |
日本公証人連合会が公表している手数料表によるものです(公証人手数料令別表/2026年9月時点)。
財産を分けて渡すほど手数料は増える
この表でつまずきやすいのが計算の単位です。
財産の総額で1回だけ当てはめるのではなく、相続人や受遺者(じゅいしゃ)ごとに、その人が受け取る財産の価額で計算して合算します。
同じ6,000万円でも、1人に全部渡すなら5,000万円超〜1億円以下の欄で1回の計算になり、3人に2,000万円ずつ渡すなら1,000万円超〜3,000万円以下の欄を3回ぶん足すことになります。
これに加えて、1通の遺言公正証書の目的価額の合計が1億円以下のときは遺言加算という加算があります。
加算額は改定されることがあるため、日本公証人連合会の現行の手数料表で確認してください。
正本と謄本の交付は1枚300円です。
財産額ごとの目安は公正証書遺言の費用と財産額別の手数料早見表で解説しています。
入院中でも作れるが、手数料は1.5倍になる
本人が公証役場へ行けない場合、公証人に病室や自宅へ来てもらえます。
この場合は遺言加算を除いた手数料額が1.5倍になり、日当が1日2万円(4時間までなら1万円)、それに旅費の実費が加わります。
親の体調が落ちてから慌てて動くと、費用も段取りも重くなるということです。
秘密証書遺言は内容を隠せる代わりに、検認も無効のリスクも残る
秘密証書遺言は、本人が用意した遺言書を封じたうえで公証役場に持ち込み、確かに本人のものであることを手続きとして残す方式です。
中身は公証人にも見せません。
誰に何を渡すかを生前に一切知られたくない場合に選ばれる形です。
ただし、中身を見せないということは、公証人が内容や形式をチェックしないということでもあります。
書式の不備で無効になる危険は自筆証書遺言と変わりません。
保管も本人がするため、紛失や未発見の心配も残ります。
そのうえ亡くなったあとには家庭裁判所の検認が必要です。
公証役場まで足を運ぶのなら、公正証書遺言にしたほうが、無効のリスクと検認の手間の両方を減らせます。
内容を隠すことにどれだけの価値を置くかで判断が分かれるところでしょう。
遺言書があっても遺留分の請求までは止められない
「全財産を長男に相続させる」と書かれた遺言書があっても、それで話が終わるとはかぎりません。
一定の相続人には遺留分(いりゅうぶん)が認められていて、侵害された分を金銭で請求できます。
請求されれば、多く受け取った側が支払う立場になります。
請求できる期間は1年で切れる
遺留分侵害額請求には期限があります。
相続の開始と、遺留分が侵害されていることを知った時から1年、知らないままでも相続開始から10年で時効です(民法1048条)。
親の四十九日を終えて遺言書の内容を知り、納得できないまま何となく時間が過ぎると、1年はあっという間に来ます。
誰にどれだけの遺留分が認められるかは、相続人の構成で変わります。
金額の計算には生前贈与の扱いも絡むため、請求する側も請求される側も、自分で結論を出す前に弁護士に相談する段階です。
遺言書を書く側から見れば、遺留分を無視した内容にすると、残された家族に金銭の請求というかたちで争いを残すことになります。
遺言書が無いと、手続きは相続人全員の署名待ちになる
遺言書が見つからなければ、誰が何を相続するかは相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めます。
協議書には相続人全員の署名と実印、それに印鑑証明書が要ります。
1人でも欠けると、不動産の名義変更も預金の解約も進みません。
連絡が取れない兄弟や、会ったことのない前妻の子がいる場合、ここで手続きが何か月も止まります。
誰が相続人かは戸籍で確定させる
配偶者は常に相続人になり、第1順位は子です。
子がいなければ第2順位の直系尊属、それもいなければ第3順位の兄弟姉妹へ移ります(民法887条〜890条)。
誰が相続人かは家族の認識ではなく、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍で確定します。
取り寄せた戸籍から、家族が知らなかった子が判明することもあります。
順位と取り分は法定相続人の相続順位と取り分の一覧で解説しています。
先に机の上へ出すのは資料
兄弟で意見が割れるのは、たいてい誰も数字を持っていないからです。感情の話になる前に、次の3点を全員が見られる状態にしてください。
- 預金の残高証明書(金融機関で取得する)
- 実家の査定額(複数の不動産会社から取る)
- 固定資産税の年額(納税通知書に記載がある)
住み続けたい人は実家を安く、売りたい人は高く見積もります。
同じ数字を見ながら話すだけで、論点が「気持ち」から「配分」に戻ります。
遺言書があれば、この話し合いそのものを省けるというのが、書く側にとっての最大の利点です。
遺言書に有効期限はないが、相続の手続きには期限がある
20年前に書いた遺言書でも、形式が整っていれば効力は失われません。
遺言書そのものに有効期限は無いためです。
一方で、書いたあとに財産を売っていたり、受け取る予定だった人が先に亡くなっていたりすると、そのままでは使えない部分が出ます。
書き直しと撤回のやり方は遺言書の書き直しと撤回の手順で解説しています。
相続が始まったあとに動く期限
遺言書を探している間にも、法律で切られた期限は進みます。起算日が「亡くなった日」ではないものがある点に注意してください。
| 手続き | 期限 | 起算日 |
|---|---|---|
| 死亡届 | 7日以内 | 死亡の事実を知った日 |
| 相続放棄・限定承認 | 3か月以内 | 自己のために相続の開始があったことを知った時 |
| 準確定申告 | 4か月以内 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続税の申告・納付 | 10か月以内 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続登記 | 3年以内 | 不動産を取得したことを知った日 |
借金のほうが多そうなら、動くのは3か月の枠の中です。
財産の調査が終わらないときは、期間内に家庭裁判所へ伸長を申し立てられます。
相続税は基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えなければ申告そのものが不要ですが、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って税額を0円にする場合は申告が要ります。
判定の考え方は相続税の基礎控除と課税の分かれ目で解説しています。
相続登記を放置すると10万円以下の過料
2024年4月1日から相続登記が義務になりました。
不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請せず、正当な理由も無い場合は10万円以下の過料の対象です。
2024年3月以前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年3月31日までとなっています。
名義を親のままにしてある実家がある人は、すでに期限の中にいます。
よくある質問
遺言書が2通出てきたときはどうしますか
どちらも捨てずに保管してください。
自筆証書遺言なら2通とも封を切らずに家庭裁判所へ持ち込み、検認を受けます。
作成時期と内容によってどちらが優先するかが変わるため、自己判断で片方を無効と決めないでください。
1通が公正証書遺言なら原本が公証役場にあるので、そちらは検認が不要です。
判断が分かれる場面なので、弁護士に相談する段階になります。
封がされていない遺言書も検認が必要ですか
必要です。
検認が要るかどうかは封の有無ではなく遺言書の種類で決まります。
封のない自筆証書遺言でも家庭裁判所の検認を受けます。
不要なのは、公正証書遺言と、法務局の保管制度に預けられていた自筆証書遺言の2つだけです。
遺言書でお墓を継ぐ人を指定できますか
できます。
墓や仏壇、位牌といった祭祀(さいし)財産は相続財産とは別の扱いで、1人が引き継ぎます(民法897条)。
遺言書での指定が無ければ慣習により、それでも決まらなければ家庭裁判所が定めます。
この役目を引き受けても遺産の取り分が増えるわけではなく、相続放棄をした人が祭祀を引き継ぐこともできます。
管理費や法要の負担が続くため、誰が継ぐかを書き残しておくと後の話し合いが軽くなります。
遺言書があると相続税は安くなりますか
遺言書の有無で税額が変わることはありません。
相続税は財産の額と法定相続人の数で決まり、基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数です。
ただし、遺産分割がまとまらないまま申告期限の10か月を迎えると、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例をその時点では使えません。
遺言書で配分が決まっていれば、この足止めを避けられます。
エンディングノートは遺言書の代わりになりますか
なりません。
誰に何を相続させるかを法的に決められるのは遺言書だけで、ノートに同じ内容を書いても効力はありません。
財産の一覧や口座の情報、連絡してほしい人の名簿を残す用途と割り切ってください。
両方を用意し、配分は遺言書に、その理由や家族への言葉はノートに書く形が現実的です。
遺言書はあとから書き直せますか
何度でも書き直せます。
公正証書遺言を作ったあとに自筆で書き直すこともできます。
財産を売ったとき、相続人が亡くなったとき、家族関係が変わったときが見直しの機会です。
書き直す場合は古いものをそのまま残さないほうが混乱を避けられます。
法務局に預けた自筆証書遺言を書き直すときは、撤回や再申請の手続きが要ります。
まとめ
遺言書は自筆証書・公正証書・秘密証書の3種類で、分かれ目になるのは検認が要るかどうかです。
自宅から出てきた封筒は開けずに家庭裁判所へ、公正証書なら原本が公証役場にあるのでそのまま名義変更へ進めます。
これから書く側なら、費用をかけずに紛失と検認の両方を避けられる法務局の保管制度(1件3,900円)か、無効のリスクが小さい公正証書遺言かの二択になるでしょう。
探すのも書くのも、相続放棄3か月・相続税10か月・相続登記3年という期限の中での作業です。ぜひ本記事の3種類の比較表と公証人手数料の一覧を手元に置いて、今日のうちに手元の1通がどれに当たるかを確かめてください。


