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遺言書の書き方|自筆証書が無効になるミスと注意点

遺言書の書き方|自筆証書が無効になるミスと注意点

ペンと便箋を用意しても、一行目から手が止まります。財産の額も相続人の顔ぶれも頭に入っているのに文章にできないのは、書き始める前に決めておくことが残っているからです。

自筆証書遺言は、本文を最初から最後まで自分の手で書かないと形式が欠けます。

パソコンで作ってよいのは、2019年1月13日から認められた財産目録だけで、そこにも各ページへの署名押印が要ります。

日付を「三月吉日」と書いた、押印を忘れた、書き損じを二重線で消しただけという形式の欠けは、内容がどれだけ明確でも遺言としての効力に響きます。

本記事では、自筆証書遺言の4つの要件・財産目録の作り方・法務局に原本を預ける保管制度・公正証書にしたときの公証人手数料まで解説します。

遺言書の書き方は、自筆か公正証書かを決めてから始まる

方式を決めずに本文から書き始めると、書き上げてから作り直しになります。

自筆証書遺言なら全文を手書きしますが、公正証書遺言なら公証人が文章を作るので、手元で用意するのは財産と相続人の情報だけです。

書く作業そのものが変わるため、先に決めておく順番になります。

順番やることかかる時間の目安
1推定相続人を戸籍で確認する本籍地が遠いと郵送で数週間
2財産を一覧にする(不動産・預貯金・有価証券・借入金)金融機関の数しだい
3誰に何を渡すかを決めるいちばん時間がかかる工程
4自筆証書か公正証書かを決める1日
5本文を書く、または公証役場で作成する公正証書は打ち合わせを含め数週間
6保管先を決める法務局への保管申請は予約制

1から3を飛ばして書き始めると、あとから口座や不動産が出てきて書き足すことになります。

とくに相続人の確認は軽く見られがちです。

前妻との間に子がいる、兄弟姉妹が相続人になる、といった事情は戸籍を追わないと分かりません。

相続人が誰なのかを取り違えたまま配分を決めると、遺言書があっても遺産分割協議をやり直す話になります。

方式ごとの向き不向きは遺言書の種類は3つ|自筆・公正証書・秘密証書の選び方で解説しています。ここから先は、いちばん自分で書く場面が多い自筆証書遺言を軸に進めます。

自筆証書遺言書の要件は4つ|全文自筆・日付・氏名・押印

自筆証書遺言で欠けやすいのは、財産の分け方ではなく形式のほうです。4つの要件はどれも数分で済むものですが、1つでも抜けると遺言として扱われない可能性が出てきます。

本文は最初から最後まで手書きする

パソコンで下書きを作って印刷し、署名だけ手書きする、という作り方は使えません。

代筆も同じです。

手が震えて字が乱れること自体は問題になりませんが、途中まで書いて誰かに続きを書いてもらう形は避けてください。

長文になるほど手書きの負担は増えるため、本文は分け方の指示だけに絞り、財産の明細は別紙の目録に回すと短く収まります。

日付は年月日まで書く

「令和七年三月吉日」のように日が定まらない書き方は、日付として認められない扱いになることがあります。

遺言書が複数見つかったときは日付の新しいほうが優先されるので、日付は前後関係を決める情報でもあります。

書いた日を年月日で入れてください。

氏名を自署し、押印する

氏名は戸籍どおりに書きます。

押印を忘れる人がいちばん多いのは、書き終えた達成感でそのまま封筒に入れてしまうためです。

書き上げたら、日付・氏名・印の3点を口に出して確認するくらいでちょうどよいです。

書き損じたら新しい紙に書き直す

自筆証書遺言の加除訂正には決められたやり方があり、二重線を引いて訂正印を押すだけでは足りない扱いになることがあります。

契約書の直し方とは別物です。

1行間違えただけでも、新しい用紙に書き直したほうが手間も少なく、あとで争点になる余地も残りません。

どの財産を誰に、という一文の組み立てに迷ったら、遺言書の文例集|そのまま使える書き出しと結びの言い回しで解説しています。

財産目録はパソコンで作れる|添付する前にそろえる資料

民法968条2項の改正により、2019年1月13日から、自筆証書遺言に添付する財産目録はパソコンで作っても、通帳のコピーや登記事項証明書のコピーを使ってもよくなりました。

条件は1つで、各ページに署名押印をすることです。

表と裏の両面に記載があるなら、両面それぞれに要ります。

ここを落とすと目録の部分だけが形式を欠きます。

不動産は登記事項証明書の表記を写す

「自宅の土地と建物」という書き方では、法務局での相続登記に使えないことがあります。

土地なら所在・地番・地目・地積、建物なら所在・家屋番号・種類・構造・床面積まで、登記事項証明書に書かれているとおりに転記してください。

登記事項証明書は法務局の窓口かオンラインで請求します。

手数料は請求方法で変わるため、法務局の現行料金を確認してください。

ここで名義が親のままになっている不動産が見つかることもあります。

相続登記は2024年4月1日から義務になり、不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象です。

2024年4月1日より前に相続した分も対象で、その場合の期限は2027年3月31日までとなっています。

預貯金は金融機関名・支店名・口座番号まで

銀行名だけでは、同じ銀行に複数の口座があったときにどれを指すのか決まりません。

通帳の表紙裏をコピーして目録に綴じ込めば、転記ミスもなくなります。

ネット銀行や証券口座は通帳がないので、ログイン先の名称と口座番号を書き出しておきます。

相続人を確認する戸籍

推定相続人を確かめるには、自分の出生から現在までの戸籍が要ります。

本籍を移していれば、その前の本籍地の市区町村から除籍謄本や改製原戸籍を取り寄せることになり、郵送だと1か所あたり1〜2週間みておくと安心です。

窓口は本籍地の市区町村で、住んでいる場所の役所では出せません。

書いた遺言書をどこに置くか|法務局の保管制度と公証役場

自宅の金庫や仏壇の引き出しにしまうと、見つからない、あるいは見つけた人が封を開けてしまうという問題が起きます。

自筆証書遺言と秘密証書遺言は家庭裁判所の検認が必要で、封をしたまま持ち込むのが原則です。

開けてしまってもそれだけで無効になるわけではありませんが、相続人の間で疑いが生まれます。

自筆証書遺言書保管制度(法務局)

2020年7月10日に始まった制度で、法務局が原本を保管します。

保管申請の手数料は1件3,900円です(法務省 遺言書保管所/2026年9月時点)。

この制度を使うと家庭裁判所の検認が不要になるので、相続人が遺言の内容を実行に移すまでの時間が短くなります。

申請は遺言者本人が法務局へ出向く必要があり、代理人には頼めません。

予約制のため、体調が不安定な時期に回さないほうがよいです。

公正証書遺言(公証役場)

公証人が本人から内容を聞き取って文章にし、原本を公証役場で保管します。

証人2人が立ち会いますが、推定相続人やその配偶者は証人になれないため、知人に頼むか公証役場に紹介を依頼します。

公正証書遺言も検認は不要です。

病院や施設から動けない場合は公証人に出張してもらえて、その場合は遺言加算を除いた手数料額が1.5倍になり、日当1日2万円(4時間までは1万円)と旅費の実費が加わります(日本公証人連合会の手数料表/2026年9月時点)。

書く時期と、書き直し

遺言書は判断能力があるうちにしか作れません。

何歳で書くべきという決まりはありませんが、入院や施設入所のあとでは、本人の意思で書いたのかという点が後々の争点になりやすくなります。

財産の中身が変わったり気持ちが変わったりすれば、何度でも書き直せます。

撤回や書き直しの具体的なやり方は遺言書に有効期限はある?書き直しと撤回の正しいやり方で解説しています。

遺言書が無効になるミスと、形式は有効でも揉める書き方

形式の要件を満たしていても、そのまま手続きに使えない遺言書はあります。止まる場所はだいたい決まっています。

  • 本文をパソコンで作った。財産目録以外は手書きでないと形式を欠きます
  • 財産目録の一部のページに署名押印がない。ページごとに要ります
  • 日付が「吉日」や年だけになっている
  • 押印がない
  • 財産の特定が足りず、金融機関や法務局の窓口で「この記載ではどれか分からない」と言われる
  • 遺言書に書いていない財産が出てきて、その分だけ遺産分割協議が必要になる

最後の抜け漏れは、書いた時点では持っていなかった保険金や、忘れていた地方の田畑で起きます。本文の最後に「その他一切の財産は誰に相続させる」という一文を入れておくと、書き漏らした分の行き先が決まります。

もう1つ、形式とは別に揉めるのが配分です。

一部の相続人の遺留分を侵害する内容にすると、侵害された相続人から遺留分侵害額請求を受けることがあります。

この請求は、相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年で時効になります。

遺言書があっても請求そのものを止められないため、渡す相手に偏りをつけるなら、なぜそうしたのかを付言事項として書き添えておくと、残された側の受け止め方が変わります。

金額の配分では書き切れない希望や、葬儀や連絡先の情報は、遺言書ではなく別の紙にまとめるほうが向いています。

法的な効力を持たせる部分と、伝えたいだけの部分を分ける考え方はエンディングノートとは?書くべき項目と役割を解説で解説しています。

自分で書くか公正証書にするか|費用と手間の分かれ目

自筆証書遺言は紙とペンがあれば作れて、法務局に預けても3,900円です。

公正証書遺言は公証人手数料がかかります。

手数料は財産全体の額で1回計算するのではなく、相続人や受遺者(いぞうを受ける人)ごとに、その人が受け取る財産の価額で計算して合算する仕組みです。

目的の価額手数料
100万円以下50万円以下は3,000円/50万円超は5,000円
100万円超〜200万円以下7,000円
200万円超〜500万円以下13,000円
500万円超〜1,000万円以下20,000円
1,000万円超〜3,000万円以下26,000円
3,000万円超〜5,000万円以下33,000円
5,000万円超〜1億円以下49,000円
1億円超〜3億円以下49,000円に、超過額5,000万円までごとに15,000円を加算
3億円超〜10億円以下109,000円に、超過額5,000万円までごとに13,000円を加算
10億円超291,000円に、超過額5,000万円までごとに9,000円を加算

上の表は日本公証人連合会が公表している手数料表によるものです(2026年9月時点)。

これとは別に、1通の遺言公正証書における目的価額の合計が1億円以下のときは遺言加算が付きます。

加算額は改定されることがあるため、金額は公証役場で確認してください。

正本と謄本の交付は1枚につき300円です。

費用だけを見れば自筆が安く済みます。

分かれ目になるのは、相続人の人数と財産の複雑さです。

相続人が配偶者と子ども1人で、渡すものが預金だけなら、自筆で書いて法務局に預ける形で足ります。

一方、不動産が複数ある、会社の株式がある、相続人以外に渡したい相手がいる、といった条件が重なるほど、文面の作り込みで差が出ます。

公証人が作れば形式の不備で無効になる心配はなくなり、検認も要りません。

財産額ごとの合計額の見積もり方は公正証書遺言の費用はいくら?財産額別の手数料早見表で解説しています。

文案づくりから相談したい場合は弁護士や司法書士に依頼する形になり、その報酬は公証人手数料とは別にかかります。

よくある質問

遺言書の本文をパソコンで作ってもいいですか

自筆証書遺言の本文は使えません。

パソコンで作れるのは添付する財産目録だけで、各ページに署名押印が要ります。

パソコンで作った文面をそのまま遺言にしたいなら、公正証書遺言にするか、その文面を下書きとして手書きで清書する形になります。

書いたあとに気が変わったら、遺言書は書き直せますか

何度でも書き直せます。

内容が食い違う遺言書が複数あるときは、日付の新しいものが優先される扱いです。

古いほうを破棄しておくと、相続人が両方を見つけて迷う事態を避けられます。

法務局に預けたものを撤回する場合は、保管の撤回手続きが別に必要です。

法務局に預けた遺言書も、家庭裁判所の検認が必要ですか

不要です。

検認が要るのは自筆証書遺言と秘密証書遺言で、自筆証書遺言書保管制度を使ったものと公正証書遺言は検認なしで手続きに進めます。

自宅に保管した自筆証書遺言は、封を開けずに家庭裁判所へ持ち込んでください。

遺言書があれば、相続税の申告はしなくてよくなりますか

遺言書の有無と相続税の申告は別の話です。

相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、これを超えれば申告が必要になります。

申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。

配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って税額が0円になる場合も、申告そのものは要ります。

判定の考え方は相続税は誰にかかる?基礎控除3,600万円が分かれ目になるで解説しています。

お墓や仏壇を誰が継ぐかも遺言書に書けますか

書けます。

墓や仏壇、位牌といった祭祀(さいし)財産は相続財産とは別に1人が引き継ぐもので、遺言で指定がなければ慣習により、それでも決まらなければ家庭裁判所が定めます。

指定しておくと、残された人が誰に頼むかで迷う場面が減ります。

なお、相続放棄をした人でも祭祀を引き継ぐことはできます。

まとめ

自筆証書遺言でつまずくのは配分の中身ではなく、全文自筆・日付・氏名・押印という形式のほうです。

財産目録だけはパソコンで作れますが、ページごとの署名押印を落とさないでください。

書き上げたら保管先まで決めて、法務局の保管制度を使えば検認が不要になり、相続人の負担も軽くなります。

財産が不動産をまたぐ場合や、相続人以外に渡したい相手がいる場合は、公正証書にしたほうが形式の不備は起きません。ぜひ本記事の4つの要件と公証人手数料の早見表を照らし合わせて、自分の財産の中身でどちらの方式にするかを決めてください。

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