遺言書の文例集|そのまま使える書き出しと結びの言い回し

遺言書の文例を検索すると、「遺言者○○○○は、次のとおり遺言する」で始まる全文のひな形が並びます。ところが実際に紙とペンを用意して手が止まるのは、その書き出しではなく、不動産や預金をどこまで細かく書くかという部分です。
本文は今も全文を自分の手で書きます。
パソコンや通帳のコピーが使えるのは添付する財産目録だけで、2019年1月13日からの方式緩和はそこまでです。
目録には各ページに署名押印も要ります。
本記事では、書き出しの一文に必ず入れる要素・不動産と預金の特定の書き方・遺言執行者を指定する結びの条項・公証人手数料から見た公正証書への切り替え目安を解説します。
遺言書の文例は「書き出し・財産の指定・結び」の3つに分かれる
長いひな形を眺めていると複雑に見えますが、自筆証書遺言の紙面は5つの要素でできています。どの文例も、この要素を埋めた結果として長く見えているだけです。
| 紙面の要素 | 書く内容 |
|---|---|
| 表題 | 「遺言書」の3文字 |
| 書き出し | 遺言者の氏名と、これから遺言するという宣言の一文 |
| 本文(第1条〜) | どの財産を誰に渡すか。財産ごとに条を分ける |
| 遺言執行者の指定 | 手続きを任せる人の住所・氏名・生年月日 |
| 作成日・署名・押印 | 作成した年月日を日まで、氏名を自書し、押印する |
ここに法的な効力のない伝言を添えるなら、付言事項として最後に置きます。文例を丸ごと写すより、この5つの枠に自分の家の中身を入れていくほうが早く終わります。
文例を探す前に財産の一覧を作る
条文の数は財産の数で決まるので、手元に何があるか分からないうちは書き出せません。先に用意するのは次の書類です。
- 不動産の登記事項証明書(法務局で取得できます)
- 預貯金の通帳、またはキャッシュカードと金融機関からの通知
- 証券会社の取引残高報告書
- 自動車検査証、生命保険の証券
登記事項証明書は法務局の窓口でもオンラインでも請求できます。
名義が親の親のままになっていないかは、甲区(所有権に関する事項)を見れば分かります。
ここが祖父名義のままなら、遺言書を書く前に登記の整理が必要な状態です。
条は財産1つにつき1本立てる
1つの条にあれもこれも詰め込むと、後から一部だけ書き直したいときに全文を清書し直すことになります。
土地と建物は同じ相手に渡すなら1条にまとめてよいものの、預金と不動産は分けたほうが扱いやすいです。
渡す相手ごとに条を分ける書き方もあります。
どちらでも効力は変わりません。
書き出しに入れるのは、表題と宣言の一文と作成日
用紙の1行目には「遺言書」と書きます。
「遺言状」でも意味は同じですが、表題で迷う時間は要りません。
続けて書くのが、誰の遺言かを示す一文です。
「遺言者○○○○は、本遺言書により次のとおり遺言する。」という形が定型で、○○には戸籍どおりの氏名を入れます。
この一文が無くても第1条から始めることはできますが、誰の意思表示なのかを冒頭で示しておくほうが、あとで読む家族にも分かりやすくなります。
作成日は年月日まで書く
日付は「令和○年○月○日」のように、日まで特定できる形で書いてください。
「○年○月吉日」のような書き方は、何日に作成されたのかが決まらないため、日付の要件を満たさないと判断される可能性があります。
複数の遺言書が出てきたときは日付の新しいものが優先されるので、日付は内容と同じくらい重い情報です。
署名と押印が抜けると形式を満たさない
末尾には住所と氏名を自分で書き、押印します。
氏名は通称ではなく戸籍の氏名で書きます。
押印を忘れたまま封をしてしまう例があるため、清書したらその場で押してください。
用紙が複数枚になるときは、ホチキスで留めて契印を押しておくと、抜き取りや差し替えを疑われにくくなります。
自筆証書が形式で無効になるパターンは遺言書の書き方と無効になるミスで解説しています。
財産の特定は登記事項証明書と通帳から書き写す
文例で「○○銀行の預金」と書かれている部分を、そのまま「○○銀行の預金」と写す人がいます。
同じ銀行に複数の口座があると、どの口座を指すのか決まりません。
財産の特定は、他の財産と見間違えようがない書き方にします。
書き写す元の書類は財産の種類ごとに違います。
| 財産 | 書き写す元 | 遺言書に入れる項目 |
|---|---|---|
| 土地 | 登記事項証明書 | 所在・地番・地目・地積 |
| 建物 | 登記事項証明書 | 所在・家屋番号・種類・構造・床面積 |
| 預貯金 | 通帳 | 金融機関名・支店名・預金の種別・口座番号 |
| 上場株式・投資信託 | 取引残高報告書 | 証券会社名・支店名・銘柄・株数または口数 |
| 自動車 | 自動車検査証 | 登録番号・車台番号 |
住所ではなく地番で書くのは、住居表示と登記の表記が一致しない土地があるためです。
「東京都○区○町1-2-3」は郵便の宛先であって、登記上の土地の名前ではありません。
証明書の表記をそのまま写せば取り違えは起きません。
渡す相手は生年月日と続柄で特定する
相手の書き方は「遺言者の長男 ○○○○(昭和○年○月○日生)」の形です。
氏名だけだと同姓の親族と紛れる場面があり、続柄と生年月日を添えれば一人に定まります。
相続人ではない人へ渡すときは、氏名のほかに住所も入れておきます。
財産を渡す動詞は相手によって使い分けます。
子や配偶者のように相続人にあたる人には「相続させる」、相続人ではない孫や知人、法人に渡すときは「遺贈(いぞう)する」と書きます。
不動産の名義変更で必要な書類や手続きの進め方が変わるため、この2語は置き換えずに使ってください。
書き漏れを受け止める条を1本入れる
財産を1つずつ数え上げても、細かい預金や後から増えた財産は漏れます。
漏れた分の行き先が決まっていないと、そこだけ遺産分割の話し合いが必要になります。
「第○条 遺言者は、前各条に記載のない一切の財産を、遺言者の妻 ○○○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。」のように、残りをまとめて指定する条を最後に置いておけば、書き漏れも受け止められます。
割合で書くか、財産を指定して渡すか
「長男に3分の2、長女に3分の1を相続させる」という割合の書き方もできます。
ただし割合だけを決めた遺言では、どの財産を誰が取るかの話し合いが残ります。
実家をどちらが引き継ぐかで意見が割れそうなら、不動産は物件を指定して渡す書き方のほうが、決め残しが少なくなります。
遺言書の結びで落としやすいのは遺言執行者の指定
財産の条を書き終えたあと、最後の条に置くのが遺言執行者の指定です。
「第○条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として次の者を指定する。」と書き、住所・職業・氏名・生年月日を続けます。
預貯金の解約や不動産の名義変更を、この人が単独で進められるようにするための条項です。
執行者を指定しなくても遺言書自体は有効です。
その場合は手続きのたびに相続人がそれぞれ書類をそろえる形になり、遠方に住む相続人がいると郵送のやり取りが増えます。
金融機関ごとに求められる書類は異なるので、窓口での必要書類は各社に確認してください。
執行者には相続人の1人を指定することもできますし、司法書士や弁護士など専門家を指定することもできます。
付言事項に書けること、書けないこと
付言事項は法的な効力を持たない文章です。
財産の分け方に差をつけた理由や、介護を担った子への感謝、葬儀やお墓の希望を書く欄として使われます。
効力が無いからこそ、「なぜこの分け方にしたのか」を本人の言葉で残せる場所になります。
一方で、付言に「遺留分は請求しないでほしい」と書いても、請求する権利そのものは消えません。
遺留分侵害額請求は、相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年で時効になります(民法1048条)。
特定の相続人の取り分をゼロに近づける内容にするなら、請求されたときにどの財産から払うのかまで考えておくと、受け取る側の負担が軽くなります。
末尾の締め方
「以上」と書いて閉じる文例もありますが、これは必須ではありません。
結びとして要るのは作成日と住所・氏名の自書、それに押印です。
付言事項を入れるときは、条文をすべて書き終えたあと、日付と署名の前に置きます。
自筆の遺言書でつまずくのは訂正と財産目録、そして検認
形式の要件を満たしていても、途中の扱いを間違えると効力が争われます。実際に手が止まるのは書き間違えたときです。
書き間違えたら清書し直す
自筆証書の訂正には民法で決められた方式があり、訂正した場所を指示して、訂正した旨を付記して署名し、その場所に押印するところまでが要求されます。
二重線を引いて上に書き直しただけでは、その訂正部分が効かないと判断される可能性があります。
数行なら、紙を替えて最初から書いたほうが確実に終わります。
何度も直したくなる内容なら、清書は最後に回してください。
財産目録はコピーでよいが署名押印が要る
2019年1月13日から、添付する財産目録はパソコンで作成したものや、通帳・登記事項証明書のコピーでよいことになりました(民法968条2項)。
不動産が何筆もある家では、ここでかなり手間が減ります。
ただし目録の各ページに署名と押印が必要で、本文は全文自筆のままです。
目録だけ緩和されたという理解で足ります。
保管場所で、遺された家族の手間が変わる
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、家庭裁判所の検認を受けてから手続きに使います(民法1004条)。
封をしたものは開けずに持ち込みます。
相続人が勝手に開封すると、内容を疑われるだけでなく過料の対象にもなります。
検認を避けたい場合の選択肢が、2020年7月10日に始まった自筆証書遺言書保管制度です。
法務局が原本を保管し、この制度を使ったものは検認が不要になります。
保管申請の手数料は1件3,900円です(法務省 遺言書保管所/2026年9月時点)。
公正証書遺言も検認は要りません。
遺言の3タイプの違いは自筆・公正証書・秘密証書の選び方で解説しています。
なお、書いたあとに気が変わったときは、新しい日付で書き直せば前の内容は撤回されます。遺言書の書き直しと撤回のやり方で解説しています。
手書きの遺言書か公正証書か、公証人手数料で分かれる
自分で書けば費用は紙とペンと印鑑代で済み、保管制度を使っても3,900円です。
公正証書にすると公証人が文面を作り、原本を公証役場が保管します。
かかる費用は財産額で決まります。
| 目的の価額 | 手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円超〜100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超〜500万円以下 | 13,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 20,000円 |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 26,000円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 33,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 49,000円 |
| 1億円超〜3億円以下 | 49,000円に、超過額5,000万円までごとに15,000円を加算 |
| 3億円超〜10億円以下 | 109,000円に、超過額5,000万円までごとに13,000円を加算 |
| 10億円超 | 291,000円に、超過額5,000万円までごとに9,000円を加算 |
この表は日本公証人連合会が公表する公証人手数料令別表によるものです(2026年9月時点)。
読み方で間違えやすいのが計算の単位で、財産全体の額で1回計算するのではありません。
相続人や受遺者ごとに、その人が受け取る財産の価額で計算し、合算します。
そのため、渡す相手を増やすと手数料も増えます。
このほかに遺言書1通ごとの加算があり、正本・謄本の交付は1枚300円です。
財産額別の総額の見方は公正証書遺言の費用と手数料早見表で解説しています。
入院中で公証役場へ行けない場合は、公証人に出張してもらえます。その場合は加算を除いた手数料額が1.5倍になり、日当が1日2万円(4時間までは1万円)、旅費が実費でかかります。
費用をかけてでも公正証書にする場面
文面を自分で作るか、公証人に作ってもらうかの判断は、次のような点で分かれます。
- 長い文章を自分の手で書き切れるかどうか(本文は全文自筆です)
- 相続人以外の人や法人へ遺贈する内容を含むかどうか
- 不動産が複数あり、特定の書き写しが長くなるかどうか
- 取り分に差をつけるため、後から異議が出そうかどうか
手書きで進めるなら、形式の要件は自分で確認することになります。
財産の総額が相続税の基礎控除を超えそうな家では、分け方によって納税額の見込みも変わります。
基礎控除の考え方は相続税は誰にかかるかで解説しています。
よくある質問
遺言書の本文をパソコンで作ってもいいですか
自筆証書遺言の本文は、全文を自分の手で書く必要があります。
パソコンで作成できるのは添付する財産目録だけで、この緩和は2019年1月13日からのものです。
目録には各ページに署名押印が要ります。
パソコンで作った文面を使いたい場合は、公正証書遺言を選ぶことになります。
「相続させる」と「遺贈する」は使い分けないといけませんか
渡す相手が相続人かどうかで言葉を変えます。
子や配偶者には「相続させる」、相続人ではない孫や知人、法人には「遺贈する」と書きます。
不動産の名義変更で必要になる手続きが変わるため、迷ったときは相手の続柄を確認してから書いてください。
財産を1つずつ書き切れないときはどうしますか
主な財産を条ごとに指定したうえで、「前各条に記載のない一切の財産を○○に相続させる」という条を最後に置く書き方があります。
書き漏れた預金や、遺言を書いたあとに増えた財産もこの条で受け止められます。
この条が無いと、漏れた財産についてだけ相続人全員での話し合いが必要になります。
書き上げた遺言書は封をしておくべきですか
封をするかどうかは自由で、封が無くても効力は変わりません。
封をした自筆証書遺言は、開けずに家庭裁判所へ持ち込んで検認を受けます。
相続人が先に開けてしまうと内容の信用性を巡って争いになりやすく、過料の対象にもなります。
検認そのものを避けたい場合は、法務局の保管制度か公正証書遺言を使う形になります。
遺言執行者は書かなくてもいいですか
指定が無くても遺言書は有効です。
ただし預貯金の解約や不動産の名義変更を、相続人がそれぞれ書類をそろえて進める形になります。
相続人が遠方に散っている家や、相続人以外への遺贈を含む内容では、執行者を決めておくと手続きの窓口が1人に集まります。
相続人の1人を指定することも、司法書士や弁護士を指定することもできます。
まとめ
遺言書の文例で本当に写す価値があるのは、書き出しの宣言と遺言執行者の指定、そして書き漏れを受け止める最後の条です。
財産の部分は文例から写すものではなく、登記事項証明書と通帳から自分で写します。
相手は氏名だけでなく生年月日と続柄まで添えると、一人に定まります。
全文自筆が負担なら公正証書という道があり、手数料は受け取る人ごとの価額で計算して合算します。
書き間違えたときは訂正の方式にこだわらず清書し直すほうが早く、保管場所を法務局にすれば検認が不要になります。
ぜひ本記事の財産別の書き写し項目の表と公証人手数料の表を参考に、まず手元の財産の一覧づくりから始めてください。


