家族信託の費用はいくら?初期費用と毎年かかる費用の内訳

家族信託の見積書は「コンサルティング報酬」の一行が総額の大半を占めていて、その下に公証役場の手数料や不動産の信託登記の費用が別枠で並びます。同じ財産額でも事務所によって総額が違うのは、この一行にどこまでの作業が含まれているかが決まっていないためです。
金額の幅を作っているのは、信託する財産に不動産が入るかどうかと、契約後に監督役を置くかどうかの2点です。ここを押さえておくと、複数の事務所の見積もりを同じ土俵で比べられます。
本記事では、初期費用と毎年の費用の内訳・見積書に載りにくい信託口口座と信託登記の費用・費用を親と子のどちらが払うのかを解説します。
家族信託の費用は、契約を作るときと契約が続くあいだの2段階
家族信託は、親(委託者)が持っている財産の名義を子(受託者)に移し、その財産から利益を受ける人(受益者)を決めておく契約です。
契約を作る作業と、契約が何年も続くあいだの管理は別の作業なので、費用も別に発生します。
まず全体像を1つの表にします。
| タイミング | 費目 | 支払先 | 何で決まるか |
|---|---|---|---|
| 初期 | 信託の設計・契約書の作成報酬 | 依頼した司法書士・弁護士など | 信託財産の額、設計の複雑さ、金融機関との調整や登記まで頼むか |
| 初期 | 公正証書にするときの手数料 | 公証役場 | 公証人手数料の規定にもとづく目的の価額、証書の枚数、出張が必要かどうか |
| 初期 | 信託登記の登録免許税 | 国(法務局で納付) | 信託する不動産の固定資産税評価額と、土地か建物か |
| 初期 | 信託登記の代理報酬 | 司法書士 | 不動産の個数、管轄する法務局の数 |
| 初期 | 信託口口座の開設にかかる費用 | 金融機関 | 金融機関ごとの規定。契約書の事前確認を有料で行うところもある |
| 毎年 | 信託監督人・受益者代理人の報酬 | 就任した専門家など | 置くかどうか、月額か年額かの取り決め |
| 毎年 | 帳簿づけと税務書類の作成 | 税理士など | 受託者が自分でやるか外注するか、信託財産から不動産収入があるか |
契約書ができるまでに出ていく費用
初期費用の中心は、専門家に払う設計と契約書作成の報酬です。
ここが事務所ごとに大きく違うのは、報酬に含まれる作業の範囲が統一されていないからです。
契約書の文案を作るところまでで終わる見積もりと、金融機関への持ち込みや信託登記の申請まで面倒を見る見積もりが、同じ「コンサルティング報酬」という名前で並びます。
総額だけを比べても意味がないのは、この範囲がそろっていないためです。
公正証書にするかどうかも初期費用を左右します。
公証役場の手数料は公証人手数料令にもとづいて目的の価額の段階で決まり、証書の枚数によって加算されます。
親が施設や病院にいて公証役場まで出向けない場合は、公証人に出張してもらう扱いになり、日当と交通費が別に必要です。
契約が続くあいだ、毎年出ていく費用
毎年かかるものは、置く役目を決めた場合だけ発生します。
受託者の管理を見張る信託監督人や、受益者の代わりに意思表示をする受益者代理人を専門家に頼むと、その報酬が契約が続くあいだずっと続きます。
親族だけで完結させる設計なら、この費目はゼロです。
混同しやすいのが、信託した不動産の固定資産税や修繕費です。
これは信託財産の中から払う支出であって、家族信託を使うために増えた費用ではありません。
信託しなくても親が払っていたお金です。
見積書を読むときは、信託のために新しく発生する費用と、もともとかかっていた維持費を分けて数えてください。
家族信託の費用は不動産が入るかどうかで大きく変わる
同じ「実家の親の財産を管理したい」という相談でも、金額の桁が変わる分かれ目があります。いちばん大きいのは、信託財産に不動産を入れるかどうかです。
自宅を信託財産に入れると登記が要る
不動産を信託すると、その不動産について信託の登記をします。
登記をしないと、その不動産が信託財産であることを第三者に主張できません。
ここで登録免許税という税金と、申請を代理する司法書士の報酬が発生します。
登録免許税は不動産の固定資産税評価額をもとに計算されるので、実家の評価額が高い地域では、それだけで見積もりの構成が変わります。
逆に、預金だけを信託する設計なら登記は出てきません。
「まずは生活費と医療費の支払いが止まらないようにしたい」という目的なら、不動産を後回しにして費用を抑える選択もあります。
ただし実家を売る可能性があるなら、売却の意思表示ができる状態にしておくために不動産を入れる意味が出てきます。
目的が売却なのか、生活費の管理なのかで、必要な範囲は変わります。
報酬が割合制か定額かで、同じ内容でも総額が変わる
専門家の報酬は、信託財産の評価額に一定の割合をかけて決める事務所と、財産の中身に関係なく定額を提示する事務所があります。
実家と預金を合わせて数千万円という規模だと、この決め方の違いだけで金額が動きます。
見積もりを取るときは、報酬の算定根拠が財産額なのか作業量なのかを聞いてください。
財産額を基準にしている事務所には、信託する財産を絞ったときの金額も併せて出してもらうと比較しやすくなります。
親が何歳かで、毎年の費用が積み上がる年数が変わる
家族信託は、親が元気なうちに契約し、亡くなるまで(あるいは契約で定めた終了時期まで)続きます。
毎年の費用がある設計なら、契約が10年続くのか25年続くのかで支払総額が違ってきます。
初期費用が安くても毎年の報酬が積み上がる設計と、初期費用は重いが毎年の負担がない設計では、10年後の合計が逆転することもあります。
見積もりは総額ではなく、初期費用と毎年の費用に分けて、想定年数をかけたうえで並べてください。
見積書に書かれていない費用|信託口口座・信託登記・契約後の変更
相談の入口で提示される見積もりは、契約書を作るところまでが範囲になっていることが多いです。実際にお金が動くのはその先にもあります。
信託口口座を作れる金融機関は限られる
受託者になった子が親の預金を管理するには、自分の生活口座とは分けた口座が要ります。
信託契約にもとづく専用口座(信託口口座)を扱う金融機関は限られていて、開設前に契約書の内容を確認する手続きを求められます。
この確認を有料で行う金融機関もあり、事務所の見積書には載りません。
どの金融機関に持ち込むかを先に決めて、開設の条件と費用をその金融機関に直接確かめてください。
ここを省いて受託者名義の普通預金で管理すると、受託者自身の財産と区別がつかなくなります。
受託者が先に亡くなったり、受託者に差押えが入ったりしたときに、親のお金だと説明できません。
口座を分けるのは費用を削る対象ではなく、契約が機能するための前提です。
親の口座が凍結されてからの手続きの重さは相続の銀行手続きは何から?必要書類と窓口での流れで解説しています。
契約したあとに財産を追加・変更するときの費用
契約後に別の預金や不動産を信託財産に加えたい、受託者を長男から長女に変えたい、といった変更には、そのたびに書類の作成が必要です。
追加する財産が不動産なら、また登記が発生します。
最初の見積もりに「契約後の変更は別途」と書かれているかを確認し、書かれていなければ変更時の費用の考え方を聞いておいてください。
信託が終わったあとの名義変更
親が亡くなって信託が終わると、信託財産は契約で決めた人に引き継がれます。
不動産があれば、信託の登記を抹消して受け取る人の名義にする登記が要り、ここでも登録免許税と司法書士報酬がかかります。
家族信託を使った場合でも不動産の名義を動かす手続きは残るという点は、最初に見込んでおくべきところです。
相続で不動産を取得したときの登記には、取得を知った日から3年以内という期限と、正当な理由なく怠った場合の10万円以下の過料が定められています(不動産登記法76条の2)。
期限の数え方は相続登記の期限は3年|過料10万円を避けるための対応で解説しています。
家族信託の費用を払うのは親か、手続きを進める子か
家族信託は親の財産を管理するための契約なので、費用は親の財産から払うのが筋の通った形です。
実務では親の口座から振り込むか、契約後に信託財産の中から支出します。
ところが窓口を走り回るのは子なので、支払いのタイミングが合わずに子が立て替える場面が出てきます。
立て替えるなら、領収書と精算の記録を残す
子が自分の財布から払って、そのまま精算しないでおくと、あとから兄弟に「勝手に親のお金を使ったのではないか」と疑われる余地を残します。
反対に親のお金で払ったことを説明できない場合も同じです。
立て替えた分は、領収書と振込の記録を残し、いつ誰の財産から精算したかを書き留めてください。
子が負担したままにするか親の財産から精算するかで税務上の扱いが変わる場面もあるため、金額が大きいときは税理士に確認する段階になります。
兄弟の前に出すのは、見積書の内訳と財産目録と年間見込み
家族信託の費用は親の財産から出ていくので、将来相続する財産が減ります。
つまり自分ひとりの問題ではなく、兄弟全員に関係する支出です。
話し合いが感情のやり取りになるのは、誰も金額を把握していないまま「勝手に進めている」と感じるところから始まります。
先に机の上に出すのは次の3点です。
- 事務所から受け取った見積書(作業範囲の記載があるもの)
- 信託しようとしている財産の目録(預金の残高と不動産の評価額)
- 毎年かかる費用の見込みと、想定している契約年数
この3点があると、話は「賛成か反対か」から「この範囲でこの金額なら妥当か」に変わります。
親自身の希望をどう残すかについてはエンディングノートとは?書くべき項目と役割を解説で解説しています。
安く抑えられるところと、削ると使えない契約になるところ
費用を下げる方法はありますが、削ってはいけない費目もはっきりしています。両方を並べて見ておいてください。
信託する財産を絞れば、初期費用は下がる
全財産を信託に入れる必要はありません。
認知症で口座が動かなくなると困るお金と、将来売る可能性がある不動産に絞れば、対象が減って報酬も登記も軽くなります。
日常の年金振込口座は親の名義に残し、施設費用に充てる預金だけを信託するという形も取れます。
何のために家族信託を使うのかを一文で書き出してから、その目的に要らない財産を外していく順番で考えると、範囲が決まりやすくなります。
公正証書と信託登記と専用口座は削らない
逆に、次の3つを節約すると契約そのものが動かなくなる危険があります。
- 公正証書にする手数料。親の意思で契約したことを後から争われにくくなり、金融機関の確認も通りやすくなります
- 信託登記の費用。不動産を信託したのに登記をしないと、信託財産であることを第三者に主張できません
- 専用口座の開設にかかる費用。受託者の財産と混ざると、分けて管理していたことを説明できなくなります
雛形を拾って家族だけで契約書を作れば専門家の報酬は消えますが、金融機関が口座の開設を断ったり、登記が受け付けられなかったりして、作り直しになる場合があります。作り直しの費用は最初から頼むより高くつきます。
遺言や成年後見と、費用の性質が違う
財産の承継先を決めるだけなら遺言でも足ります。
自筆証書遺言を法務局の保管制度に預ける場合、保管申請の手数料は1件3,900円です(法務省 遺言書保管所/2026年9月時点)。
この制度を使った自筆証書遺言と公正証書遺言は、家庭裁判所の検認が不要になります。
ただし遺言が働くのは亡くなったあとで、認知症になってから亡くなるまでの財産管理は遺言では埋められません。
ここが家族信託にお金を払う理由です。
もう一点、費用対効果を考えるときに外してはいけないのは、家族信託は節税の仕組みではないという点です。
相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数と定められていて(相続税法15条)、信託を使っても変わりません。
基礎控除の考え方は相続税は誰にかかる?基礎控除3,600万円が分かれ目になるで解説しています。
信託の費用は、税金を減らすためではなく、親が判断できなくなった期間に財産を動かせるようにするための費用です。
よくある質問
家族信託の費用は信託財産から払えますか
契約でそう定めておけば、信託した財産の中から支払う形にできます。
ただし契約を作る前に発生する設計や契約書作成の報酬は、まだ信託財産がない時点の支出なので、親の口座から払うか誰かが立て替えることになります。
どのタイミングでどの財産から払うかを、契約書を作る段階で事務所に確認しておいてください。
家族信託の費用は税金の控除対象になりますか
信託の設計にかかった報酬をどう扱うかは、支出した人と財産の中身によって変わります。
信託財産に賃貸不動産があって収入が生じている場合と、自宅と生活資金だけの場合でも扱いが違います。
ここは個別の判定になるため、契約前に税理士に確認する段階です。
相続税の計算の流れ自体は相続税の計算方法を3ステップで|課税価格の出し方も解説で解説しています。
家族だけで契約書を作れば費用はかかりませんか
契約書を自分たちで作ることは禁じられていません。
ただし信託口口座の開設や信託登記の場面で、金融機関と法務局がその契約書を見ます。
条項が足りずに受け付けられなければ、作り直しになります。
公証役場の手数料や登録免許税は誰が作っても発生するので、ゼロにはなりません。
途中でやめたら払った費用は戻りますか
すでに終わった作業に対する報酬は戻らないのが一般的です。
信託を終了させる場合も、不動産があれば信託登記を抹消して名義を戻す手続きが必要になり、そこで新たに費用が出ます。
契約を作る前に、終了させたいときの手順と費用を聞いておいてください。
成年後見と比べてどちらが費用は安いですか
金額の高低ではなく、費用が発生する期間の形が違います。
成年後見は家庭裁判所が関与し、専門家が後見人になれば報酬が本人が亡くなるまで続きます。
家族信託は初期費用が大きく、毎年の費用は設計次第でゼロにもできます。
一方で、後見は親の判断能力が落ちてからでも使えますが、家族信託は親が契約の内容を理解できる状態でなければ結べません。
どちらが安いかより、いま契約できる状態かどうかが先に来ます。
認知症の診断を受けてからでも家族信託を結べますか
信託契約は親本人が結ぶものなので、契約の意味を理解できる状態が必要です。
診断名があるかどうかで機械的に決まるわけではありませんが、進行していれば契約できず、成年後見に切り替えることになります。
判断が難しい状況なら、公証人や専門家に早めに相談してください。
まとめ
家族信託の費用は、設計と契約書作成の報酬・公正証書の手数料・信託登記にかかる税金と報酬で初期の大半が決まり、毎年の負担は監督役を置くかどうかで分かれます。
事務所ごとに総額が違うのは、報酬に含まれる作業範囲がそろっていないからです。
総額ではなく、作業範囲と、初期と毎年の内訳で並べてください。
削ってよいのは信託する財産の範囲で、公正証書と信託登記と専用口座は削ると契約が機能しなくなります。ぜひ本記事の費目の表と「見積書に書かれていない費用」の3項目を手元に置いて、見積もりの範囲と毎年の費用の見込みを事務所に確かめてください。


