エンディングノートとは?書くべき項目と役割を解説

エンディングノートを買ってきて、1ページ目で手が止まります。財産も医療も葬儀も連絡先も並んでいて、どこから埋めるかが決まりません。
先に知っておくと迷いが減るのは、このノートに書いた内容には法的な効力がないという点です。
遺産の分け方を決めるのは遺言書の役目で、ノートのほうは「どこに何があるか」を家族に渡すための紙です。
死亡届は7日以内、厚生年金の受給停止は10日以内と、家族は亡くなった直後から期限に追われます。
そのときに探す手間を減らせるかどうかで、書いた価値が決まります。
本記事では、遺言書との線引き・最初に埋める3項目・墓と実家の書き方・入手先の選び方まで解説します。
エンディングノートに法的な効力はない。財産の分け方は遺言書に書く
エンディングノートは、書式も中身も決まりのない申し送りのノートです。
法律で定められた書類ではないため、「自宅は長男に」と書いても、そのとおりに分ける義務は相続人に生じません。
分け方そのものを決めたいなら、遺言書を作る話になります。
それでもノートが要るのは、遺言書に書いても効力を持たない事柄のほうが、家族が最初に必要とする情報だからです。たとえば次のような内容です。
- どの金融機関に口座があり、引き落としは何が通っているか
- 保険はどの会社の、どの証券番号の契約か
- 墓と仏壇を誰に継いでほしいか
- 延命治療をどこまで望むか
- 亡くなったことを知らせてほしい人は誰か
分け方の希望をノートに書くのは自由です。
ただし遺言書とノートの両方があって内容が食い違えば、効力があるのは遺言書のほうになります。
希望に沿って確実に渡したい財産があるなら、その1点だけでも遺言書にする判断が出てきます。
自筆証書遺言は本文を全文自筆で書く決まりですが、添付する財産目録は2019年1月13日から、パソコン作成や通帳のコピーでよくなりました(各ページに署名押印が必要です)。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を使えば原本を預けられ、手数料は1件3,900円です(法務省 遺言書保管所/2026年9月時点)。
どこまで自分で書き、どこから専門家に渡すかで迷ったときは、終活の相談窓口ごとの違いで解説しています。
遺言書・遺書・終活ノートと、エンディングノートはどこが違うのか
同じ棚に「エンディングノート」と「終活ノート」が並んでいますが、この2つは呼び名の違いで、中身の性質は同じものです。
区別が必要なのは遺言書と遺書のほうです。
遺書は気持ちを伝える手紙で、方式も効力も問われません。
遺言書だけが、民法の方式に従って作った場合に財産の行き先を決められます。
| 項目 | エンディングノート | 遺言書 |
|---|---|---|
| 法的な効力 | ない | 方式を満たせばある |
| 書き方の決まり | なし。様式も分量も自由 | 民法の方式に従う。自筆証書は本文を全文自筆 |
| 書き直し | いつでも自由に直せる | 方式に従って作り直す |
| 家庭裁判所の検認(けんにん) | 不要 | 自筆証書・秘密証書は必要。公正証書と法務局保管のものは不要 |
| 主に書く内容 | 財産や契約の置き場所、医療や供養の希望、連絡先 | 遺産の分け方 |
検認の扱いは、遺言書の種類で分かれます。
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、封を開けずに家庭裁判所へ持ち込みます。
公正証書遺言と、法務局の保管制度を使った自筆証書遺言には検認が要りません。
「遺言書は開けてはいけない」とひとくちに覚えると、公正証書の写しを前に手が止まります。
ノートには、遺言書をどの方式で作ってどこに置いたかを1行書いておくだけで、家族はこの分岐を迷わずに進めます。
最初に埋めるのは3項目|お金の置き場所、医療の希望、連絡してほしい人
市販のノートは項目が多く、全部を順番どおりに埋めようとすると途中で止まります。先に3項目だけ書けば、残りは思い出したときに足していけます。
お金と契約の置き場所
ここでの目的は、金額を記録することではありません。
家族が探し当てられるようにすることです。
相続の手続きで必要になり、処分してしまうと手続きが止まるものは次のとおりです。
- 通帳とキャッシュカード
- 保険証券
- 年金手帳
- 不動産の権利証と登記識別情報
- 遺言書
- 印鑑と印鑑登録証
- 貸金庫の鍵と契約書
- 有価証券
- 借用書
この一覧のうち、自分に当てはまるものを「どこに置いてあるか」とセットで書きます。
残高やパスワードそのものを書き込むと、ノートを紛失したときの被害が大きくなります。
金融機関名と支店名、保険会社名と証券番号までにとどめ、暗証番号は別に管理してください。
借入とローンも同じ欄に書きます。
負債の有無は、相続人が受け継ぐか放棄するかを判断する材料になります。
財産の総額に見当がつけば、申告が必要な水準かどうかも見えます。
相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、相続税がかかる人の線引きで解説しています。
医療と介護の希望
延命治療をどこまで望むか、痛みの緩和を優先したいか、介護が必要になったら自宅か施設かという希望を書きます。
病状の判断は医師の領域なので、ノートに書くのは希望の方向だけで足ります。
具体的な治療の選択が気になる場合は、主治医や医療機関に相談してください。
あわせて、自分で意思を伝えられなくなったときに誰に判断を委ねたいかも書いておきます。
家族のあいだで意見が割れたとき、この1行が手掛かりになります。
連絡してほしい人と、その連絡先
親族以外は、家族の側からは名簿が作れません。
勤め先や取引先、古い友人、菩提寺(ぼだいじ)や霊園の管理事務所は、本人しか連絡先を知らない場合があります。
知らせたい人と、知らせなくてよい人を分けて書いておくと、家族は判断を迫られません。
エンディングノートが実際に開かれるのは、亡くなった直後の2週間
ノートが役に立つ場面は、落ち着いてから読み返す追想の時間ではありません。
役所と年金事務所を回る最初の2週間です。
期限のある手続きを並べると、次のようになります。
| 手続き | 期限 | 起算日 |
|---|---|---|
| 死亡届 | 7日以内 | 死亡の事実を知った日 |
| 厚生年金の受給停止 | 10日以内 | 死亡日 |
| 国民年金の受給停止 | 14日以内 | 死亡日 |
| 世帯主変更届 | 14日以内 | 死亡日 |
| 相続放棄・限定承認 | 3か月以内 | 自分が相続人になったと知った時 |
| 準確定申告 | 4か月以内 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続税の申告・納付 | 10か月以内 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続登記 | 3年以内 | 不動産を取得したと知った日 |
世帯主変更届が必要になるのは、残った世帯に15歳以上の人が2人以上いる場合です。
準確定申告は、故人に事業所得や一定の年金収入があったときに出てきます。
相続税は基礎控除以下なら申告そのものが要りませんが、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って税額を0円にする場合は申告が必要です。
この表のどれも、ノートがあるから期限が伸びるわけではありません。
変わるのは、書類を探す時間です。
年金証書と保険証の場所、公共料金の引き落とし口座、契約している携帯やサブスクリプションの一覧が書いてあれば、家族は初日から窓口へ動けます。
手続き全体の順番を先に見たい場合は、終活を何から始めるかの順番で解説しています。
墓と仏壇は「誰が継ぐか」まで書いておく
墓・仏壇・位牌は祭祀(さいし)財産と呼ばれ、預金や不動産のように相続人で分ける財産とは扱いが別です。
引き継ぐのは1人で、指定がなければ慣習によって決まり、それでも決まらなければ家庭裁判所が定めます。
相続を放棄した人でも祭祀承継者になれます。
誰に継いでほしいかは遺言書でも指定できますが、ノートに書いておくだけでも、家族が話し合うときの出発点になります。
墓じまいや改葬を望むなら、順番を書き添える
遺骨を別の場所へ移すには、現在の墓地がある市区町村が発行する改葬(かいそう)許可証が必要です。
申請には受け入れ先の受入証明書と、現在の墓地管理者の埋葬(まいそう)証明書が要るため、受け入れ先が決まらないうちは申請できません。
許可証なしに遺骨を動かすのは違法です。
希望を書くときは、移したい先の候補まで書いておくと、家族はこの順番でつまずきません。
永代供養を希望するなら、年数と合祀後の扱いを確認する
「永代」は永久という意味ではありません。
多くの施設では三十三回忌や十七回忌までを個別に安置し、その後は他の遺骨と一緒に合祀(ごうし)されます。
合祀のあとは遺骨を取り出せなくなるので、個別安置の年数と合祀後の扱いは、生前に規約で確かめておく内容です。
費用の見当も書き添えておくと家族の予算が立ちます。
お墓の平均購入価格は、樹木葬が71.7万円、納骨堂が81.5万円、一般墓が152.0万円でした(鎌倉新書 第17回お墓の消費者全国実態調査/2026年1月時点)。
実家について、エンディングノートに書けることと決められないこと
実家をどうするかは、ノートでは決められません。
誰が取得するかを決めるのは遺言書か、相続人全員の遺産分割協議です。
一方で、家族が調べようとしても時間がかかる情報は、ノートにしか残せません。
- 登記の名義が誰になっているか(祖父の名義のままなら、先に整理が必要です)
- 建築された年月日と、増改築の履歴
- 住宅ローンや抵当権が残っているか
- 隣地との境界の取り決めや、私道の持ち分
- 鍵の本数と、預けてある先
建築年月日を書いておく意味は、売るときの税金に関わるからです。
相続した空き家を売ったときの譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例には、1981年5月31日以前に建築された家屋であることなどの要件があり、2027年12月31日までの譲渡が対象です。
相続人が3人以上の場合、2024年1月1日以降の譲渡では1人あたり2,000万円に下がります。
全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%で過去最高でした(総務省 住宅・土地統計調査/2023年時点)。
空き家のまま置くと、市区町村から「管理不全空家」や「特定空家」に指定されて勧告を受けた段階で、固定資産税の住宅用地特例が外れます。
放置すれば自動で税額が上がる仕組みではなく、指定と勧告の段階を踏みます。
売るのも貸すのも難しい立地なら、自治体の制度を使う道もあります。
空き家バンクの登録条件と使い方で解説しています。
無料配布と市販品のどちらでもいい。選ぶ基準は書く量と差し替えやすさ
エンディングノートは、市区町村や社会福祉協議会、葬儀社、金融機関などが無料で配っていることがあります。
配布の有無と内容は地域で違うので、お住まいの市区町村の窓口で確認してください。
中身の違いは価格ではなく、記入欄の設計に出ます。
項目が多いものと、自由記述が多いもの
質問に答える形で欄が細かく分かれているものは、何を書くか迷わずに進みます。
そのぶん、自分に関係のない欄が空白のまま残り、完成していない感じが続きます。
逆に自由記述が広いノートは、書き慣れた人には早く、白紙が苦手な人には止まる原因になります。
空欄を気にしやすいなら、項目が細かいものを選び、空欄のままでよいと割り切る使い方になります。
差し替えできるかどうか
口座も保険も、5年経てば内容が変わります。
糸で綴じた冊子は書き直しに向かず、訂正だらけになると家族はどれが最新か判断できません。
ページを入れ替えられるバインダー式か、印刷して差し替えられる形式のほうが、更新を続けやすい作りです。
どの形式でも、各ページに記入した日付を書いてください。
入手先の一覧はエンディングノートの配布先と入手方法、書きやすさの見方は書きやすさで選ぶ視点で解説しています。
ここに挙げた項目は、エンディングノート(Web版)にそのまま並べてあります。入力したものはブラウザの中だけに残り、こちらでは受け取りません。
書かないまま置くと、家族は財産探しから相続手続きを始めることになる
相続放棄の期限は3か月で、起算日は亡くなった日ではなく、自分が相続人になったと知った時です。
借入がどこにいくらあるか分からないと、この3か月は「調べる期間」に消えます。
期間内であれば家庭裁判所に伸長を申し立てられますが、そのためにも負債の手掛かりが要ります。
不動産の登記も先送りできません。
2024年4月1日から相続登記は義務になり、取得を知った日から3年以内に申請しなければ、正当な理由なく怠った場合に10万円以下の過料の対象になります。
2024年4月1日より前に相続した不動産も対象で、その期限は2027年3月31日です。
親の代で名義が止まっている家は、この期限の話が先に来ます。
手掛かりがない状態で家の片づけが始まると、通帳や権利証が紛れたまま処分される事故も起きます。
片づけを業者に任せるなら、家庭から出た不用品を運ぶには市区町村の一般廃棄物収集運搬業の許可が、買い取るには都道府県公安委員会の古物商許可が必要です。
「無料回収」を名乗るトラックはこの許可を持たないことがあり、産業廃棄物収集運搬業の許可では家庭ごみを運べません。
業者が自宅を訪問して買い取る訪問購入なら、契約書面を受け取った日から8日間はクーリング・オフができ、その間は物品の引き渡しを拒めます。
書き始める時期に決まりはなく、内容はいつでも直せます。年齢の目安はエンディングノートを始める年齢の考え方で解説しています。
よくある質問
エンディングノートに書いた希望は、家族が守らなければいけませんか
法的な効力はないので、従う義務は生じません。
財産の行き先を確実に決めたい部分だけ遺言書にして、それ以外の希望をノートに書く組み合わせが現実的です。
ノートに「遺言書は公正証書で作り、写しは自宅の金庫にある」と書いておけば、両方が同時に生きます。
手書きでないといけませんか。パソコンで作ってもかまいませんか
エンディングノートには方式の決まりがないので、パソコンでも印刷物でもかまいません。
全文自筆が求められるのは自筆証書遺言の本文です。
こちらは添付する財産目録だけ、2019年1月13日からパソコン作成や通帳のコピーが認められています(各ページに署名押印が必要です)。
保管場所はどこがよいですか
家族が見つけられて、他人には見られない場所に置きます。
貸金庫に入れると、亡くなった後に開けるまで時間がかかり、最初の2週間の手続きには間に合いません。
置き場所は少なくとも1人に伝えておき、暗証番号やパスワードはノート本体とは別に管理してください。
遺言書を作ってあれば、エンディングノートは書かなくてよいですか
遺言書は遺産の分け方を決める書類で、口座の一覧や連絡先、医療の希望までは書きません。
書いても効力を持ちません。
窓口を回る家族が必要とする情報は、ノートの側に残ることになります。
葬儀の希望を書いておけば、そのとおりにしてもらえますか
拘束力はありませんが、家族が決めなければならない項目を減らせます。
家族葬にするか、誰を呼ぶか、菩提寺に頼むか、費用をどこから出すかを書いておくと判断が早まります。
なお火葬と埋葬ができるのは、死亡から24時間を経過した後です。
費用の備えとしては、健康保険の被保険者が亡くなった場合に埋葬料として一律5万円が支給されます(健康保険法100条/2026年9月時点)。
国民健康保険と後期高齢者医療の葬祭費は市区町村ごとに額が違うため、金額はお住まいの窓口で確認してください。
判断能力が落ちてからでも書けますか
ノート自体に方式の決まりはないので、書ける範囲で書いて問題ありません。
ただし遺言書のほうは方式と判断能力が問われ、有効かどうかは個別の事情で判断が分かれます。
財産の分け方まで決めたい段階なら、弁護士や公証役場に相談する場面です。
途中まで書いて止まっています。どう再開すればよいですか
空欄を埋める作業として考えると再開しにくくなります。
口座と保険の置き場所、医療の希望、連絡してほしい人の3項目だけを先に書き、記入日を入れて閉じてください。
残りの項目は、契約を変えたときや入院したときに足していけば足ります。
まとめ
エンディングノートは、財産の分け方を決める書類ではありません。
決められるのは遺言書のほうで、ノートの役目は、口座や保険や権利証の置き場所と、医療や供養の希望を家族に渡すことです。
家族が動くのは死亡届の7日や年金の10日といった期限の中なので、探す時間を削れるかどうかで価値が決まります。
全部の欄を埋める必要はありません。
お金の置き場所、医療の希望、連絡してほしい人の3項目を書けば、残りは思い出したときに足していけます。
ぜひ本記事の3項目と期限の表を参考に、いま手元にあるノートの最初の数ページから書き始めてください。


