エンディングノートはどう選ぶ?書きやすさで選ぶ視点

買ったまま引き出しに入っているエンディングノートを開くと、最初のページは自分史の年表か家系図です。
項目が100を超えるものほど、そこで止まります。
一方、家族が亡くなった直後に必要になるのは、死亡届を7日以内に出すための情報(戸籍法86条)と、厚生年金なら10日以内の受給停止に使う年金の記録で、祖父母の名前ではありません。
通帳と保険証券がどこにしまってあるかが1行書いてあれば、残された人の手続きは動き始めます。
選ぶときに見るのは、収録項目の数ではなく、書かない欄をそのまま飛ばせる作りかどうかです。本記事では、1ページ目で止まる理由・最初に埋める3項目・紙とデジタルの使い分け・遺言書との効力の線引きを解説します。
エンディングノートが1ページ目で止まるのは、冒頭が家系図と生い立ちだから
市販のノートの多くは、自分のプロフィールから始まり、生い立ち、家族構成、思い出、そのあとに財産や医療の希望が続く構成です。
読み物としては自然な並びですが、書く側からすると、いちばん手間がかかって、いちばん急がない欄が先頭に来ています。
止まる原因はノートの出来ではなく、順番と、書き手が自分に課している前提のほうにあります。
止まり方は大きく3タイプに分かれるので、自分がどれなのかを先に見分けてください。
書く材料が手元にないまま書き始めている
口座番号も保険の証券番号も、ノートを開いた机の上にはありません。
取りに行くのが面倒になって閉じる、という止まり方がこのタイプです。
この場合は、書く内容を思い出そうとするのをやめて、通帳や証券をいったん1か所に集める作業に切り替えたほうが進みます。
番号そのものを書き写さなくても、「仏壇の引き出しの茶封筒」と場所だけ書けば用は足ります。
誰に見せるノートなのかが決まっていない
家族に読まれる前提なら書けないことがあり、自分の覚書きなら書ける、という差が出ます。
とくに預貯金の額、子どもごとの援助の差、再婚や交際の事情は、読む相手が決まらないと1文字も進みません。
先に「渡す相手はひとりだけにする」「置き場所だけ伝えて中身は見せない」といった扱い方を決めると、書ける欄が一気に増えます。
全部埋めてから渡すものだと思っている
完成品を作る作業だと考えていると、空欄が残っている状態が失敗に見えます。
ただ、エンディングノートは途中まででも役に立つ書類です。
連絡先と書類の置き場所だけが埋まったノートは、真っ白なノートよりはるかに家族を助けます。
書ける欄から埋めて、余った欄は空けたままにしておいてください。
書く順番でつまずいている場合は、途中で止まらない書き方の順番で解説しています。
最初に埋めるのは、家族が7日以内に必要になる情報
何から書くかで迷ったら、期限が短い手続きから逆算するのが手っ取り早い方法です。死亡後の手続きには法律で日数が決まっているものがあり、最初の2週間に集中しています。
| 手続き | 期限 | 起算日 |
|---|---|---|
| 死亡届 | 7日以内 | 死亡の事実を知った日 |
| 年金の受給停止 | 厚生年金は10日以内/国民年金は14日以内 | 死亡日 |
| 世帯主変更届(15歳以上が2人以上残る場合) | 14日以内 | 死亡日 |
| 相続放棄・限定承認 | 3か月以内 | 自分が相続人だと知った時 |
| 準確定申告 | 4か月以内 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続税の申告・納付 | 10か月以内 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続登記 | 3年以内 | 不動産を取得したことを知った日 |
この表のうち、書き手にしか分からない情報が必要なのは、年金の記録と、3か月・10か月の判断に使う財産の全体像です。逆に言えば、その2つが書いてあるノートは実用品になります。
家族が最初に探すのは、書類そのものではなく置き場所
相続の手続きが止まるのは、書類が見つからないときです。次のものは、処分してしまうと手続きが進まなくなります。
- 通帳・キャッシュカード
- 保険証券
- 年金手帳
- 不動産の権利証と登記識別情報
- 遺言書
- 印鑑と印鑑登録証
- 貸金庫の鍵と契約書
- 有価証券・借用書
エンディングノートに書くのは、この一覧の中身ではなく、しまってある場所です。
金額や残高は変わりますが、置き場所はそう変わりません。
借入やローンがあるなら、そこも隠さず1行書いてください。
相続放棄をするかどうかは、自分が相続人だと知った時から3か月で判断する必要があり、借金の存在を知るのが遅れるほど選べる余地が狭まります。
書く項目の全体像は、エンディングノートに書くべき項目の一覧で解説しています。
医療と葬儀の希望は、決まっている範囲だけでいい
延命治療や告知の希望は、家族が医師から意思確認を求められたときに効きます。
決めきれない項目があっても、「この人に判断を任せる」と書いてあれば足ります。
葬儀については、家族葬にするか直葬にするかという規模の方針と、相談したことのある葬儀社があればその名前を書いておくと、病院で紹介された葬儀社をその場で断る判断がしやすくなります。
お墓の希望を書くなら、永代供養を選んだ施設の名前まで書いておいてください。
永代供養は永久の個別安置ではなく、三十三回忌や十七回忌までを個別に置き、その後は他の遺骨と一緒に合祀(ごうし)する運用が多いためです。
エンディングノートは項目数ではなく、余白と差し替えやすさで選ぶ
書店の棚に並ぶノートは、表紙だけ見ても違いが分かりません。
開いて確かめるのは、質問の数ではなく、書かない欄を飛ばしたときに見た目が破綻しないかどうかです。
空欄が並ぶと未完成に見えて手が止まるため、1項目1ページで余白が大きい作りのほうが、質問がびっしり詰まったものより最後まで残ります。
| タイプ | 向いている人 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 市販の冊子型 | 何を書けばいいか分からず、質問に答える形で進めたい人 | 項目が多いほど空欄が目立つ。書き直しのたびに線で消すことになる |
| 自治体や葬儀社の配布版 | まず1冊を無料で試したい人 | 配布の有無と内容は市区町村や事業者で違うので、窓口で確認する |
| ルーズリーフ・バインダー型 | 口座や保険が多く、情報が入れ替わる人 | ページを抜き差しできる分、紛失しやすい |
| 表計算ソフトやアプリ | 資産の一覧を頻繁に更新する人 | 端末のロックを家族が解除できないと、書いた意味がなくなる |
更新の頻度が高い人ほど、紙の冊子は向かない
口座の解約、保険の切り替え、引っ越しがあるたびに、冊子型は二重線での訂正が増えます。
訂正が5か所を超えたあたりから、家族はどれが最新なのか判断できなくなります。
年に何度も動く情報があるなら、差し替えられるバインダーか、印刷して挟むデジタルとの併用が現実的です。
逆に、変わるのが数年に一度なら、冊子1冊で足ります。
デジタルで管理するなら、開ける人を先に決める
スマートフォンやクラウドに書いた内容は、本人しか開けない状態だと、いちばん必要な場面で読めません。
パスワードをノートに直接書くのは避けたいところですが、「金庫の中の封筒に書いてある」といった二段構えにしておけば、紙とデジタルの両方を生かせます。
若い世代がデジタル中心で書き始める場合の進め方は、30代からのエンディングノートの書き方で解説しています。
財産の分け方をノートに書いても、遺言書の代わりにはならない
エンディングノートには、法律で決められた形式も、遺産分割を拘束する効力もありません。
「この家は長男に」と書いてあっても、相続人全員の話し合いがまとまらなければそのとおりには進みません。
分け方を決めたいなら、書く先は遺言書です。
自筆証書遺言は本文を全文自筆で書く必要がありますが、添付する財産目録は2019年1月13日からパソコン作成や通帳のコピーでよくなりました。
ただし、目録の各ページに署名押印が要ります。
作った遺言書を自宅で保管すると、死後に家庭裁判所の検認を受けることになり、封を開けずに持ち込む決まりです。
法務局の自筆証書遺言書保管制度(2020年7月10日開始)を使えば検認が不要になり、保管申請の手数料は1件3,900円です。
公正証書遺言も検認は要りません。
ノートに書くほうが早いこと
効力がないという性質は、裏を返せば、いつでも書き換えられて、形式を問われないという意味でもあります。次のような内容は、遺言書よりノート向きです。
- 預金・保険・借入の置き場所と連絡先
- 延命治療や告知についての希望
- 葬儀の規模と、生前に相談した葬儀社
- デジタル機器やサブスクリプションの解約に要る情報
- ペットの引き取り先の希望
お墓や仏壇を誰が引き継ぐかという希望も、ノートに書いておく意味があります。
祭祀(さいし)財産は相続財産とは別に1人が引き継ぐ扱いで、指定がなければ慣習により、それでも決まらなければ家庭裁判所が定めます。
本人の希望が1行残っていれば、その1人を決める話し合いが短くなります。
ノートそのものの役割をもう一度確かめたいときは、エンディングノートとは何かと、書くべき項目で解説しています。
エンディングノートの買い替えでは進まない|家族に見せる段と専門家に渡す段
1冊目が埋まらないと、書きやすそうな2冊目を買いたくなります。
ただ、止まっている原因が材料不足や相手の不在なら、新しいノートを買っても同じページで止まります。
効きにくい対処を先に外してください。
- 項目の少ないノートに買い替える(材料が手元にない状態は変わりません)
- 最初から通して埋めようとする(前半の自分史で時間を使い切ります)
- 親に何も言わずに郵送で送る(死を前提にした要求と受け取られ、開かれないまま終わります)
- 正月やお盆に家族全員で一気に決めようとする(人数が多いほど結論が出ません)
親に切り出すなら、ノートより先に置き場所の質問から
子の側が渡す場合、「書いてほしい」と頼むと、書く側の宿題が増えます。
先に聞くのは、通帳と保険証券と権利証がどこにあるか、それだけです。
入院の連帯保証や手術の同意を誰に頼むつもりかという話も、ノートを開かずにできます。
身元保証を頼める人がいるかどうかという論点は、身元保証人がいないときの入院・入居の備えで解説しています。
話が具体的になってから、記録する場所としてノートを出せば、押しつけになりません。
書きやすさは実際に埋めてみると分かります。エンディングノート(Web版)で項目の粒度を確かめられます。
専門家に渡す境目
ノートで扱える範囲を超えるのは、財産の分け方に決着をつけたいときと、期限のある手続きが実際に始まったときです。
分け方を確定させたいなら、公証役場や法務局の保管制度を使う遺言書の作成段階で、司法書士や弁護士が関わります。
相続税は基礎控除が3,000万円+600万円×法定相続人の数で、これを超えそうなら、申告期限の10か月を待たずに税理士へ相談する段階です。
不動産の名義変更は、取得を知った日から3年以内に申請する義務があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。
2024年4月1日より前に相続した不動産も対象で、その期限は2027年3月31日です。
手続きの量に対して手が足りない場合の頼み先は、相続手続き代行の費用と対応範囲で解説しています。
よくある質問
エンディングノートは何歳から書くものですか
年齢の決まりはありません。
書き始める理由になるのは年齢よりも出来事のほうで、入院、親の介護の開始、住まいの住み替え、退職といった節目に情報が動きます。
内容は何度でも書き換えられるので、早く書いたぶんが無駄になることはありません。
市販のノートと自治体の配布版は、どちらを選べばいいですか
どちらが優れていると決められるものではなく、書き換えの頻度で選ぶことになります。
口座や保険が少なく、年に一度見直す程度なら配布版の冊子で足ります。
情報が頻繁に入れ替わるなら、差し替えできるバインダー型か、印刷して挟めるデジタルのほうが手間が減ります。
配布しているかどうかは市区町村で違うので、窓口で確認してください。
書いたエンディングノートはどこに置けばいいですか
本人しか開けない場所に置くと、必要なときに見つかりません。
かといって誰でも読める場所では、書ける内容が限られます。
置き場所を家族のうち1人にだけ伝えておく形が現実的です。
貸金庫は、相続が始まると開けるのに手間がかかるため、ノートの保管先には向きません。
遺言書があれば、エンディングノートは要りませんか
役割が違うので、両方あると動きます。
遺言書が決めるのは主に財産の行き先で、延命治療の希望、連絡してほしい人、契約中のサービスの解約先までは書ききれません。
遺言書の内容と矛盾する希望をノートに書くと家族が迷うため、財産の分け方は遺言書に一本化してください。
親が書きたがりません。どう進めればいいですか
書く作業を頼むかわりに、聞き取って子の側が記録する方法があります。
財産の額を聞き出そうとすると警戒されやすいので、最初は書類の置き場所と、かかりつけの病院、加入している保険の会社名だけにとどめてください。
額の話は、その後で構いません。
パソコンやスマートフォンだけで管理しても大丈夫ですか
家族が端末を開けるかどうかで決まります。
ロック解除の手段が誰にも伝わっていないと、書いた内容は無いのと同じ扱いになります。
データで管理するなら、連絡先と書類の置き場所を書いた1枚だけは印刷して、紙で残しておく方法があります。
まとめ
エンディングノートが進まないのは意志の問題ではなく、書く材料が手元にないか、見せる相手が決まっていないか、全部埋めようとしているかのどれかです。
選ぶときは収録項目の多さではなく、空欄を飛ばしても気にならない余白と、情報が変わったときに差し替えられる作りを見てください。
最初に埋めるのは、連絡してほしい人、通帳や保険証券や権利証の置き場所、医療と葬儀の希望の3つで足ります。
財産の分け方に決着をつけたいときは、ノートではなく遺言書の出番になります。ぜひ本記事の期限の表とタイプ別の比較表を手元に置いて、まずは書類の置き場所を書く1行から始めてください。


