若い人向けのエンディングノート|30代からの書き方

書店で手に取ったエンディングノートは、たいてい葬儀の希望と財産の一覧から始まります。30代や40代でそのページを埋めようとしても、書けることがほとんどありません。
先に埋める価値があるのは、スマホのロックを解除する手がかりと、毎月引き落とされている契約の一覧です。
どちらも本人しか知らず、本人が入院した日から家族の手が止まります。
財産の分け方まで指定したいならノートでは足りず、自筆証書遺言を法務局に預ける制度(手数料1件3,900円)を使う話になります。
本記事では、法的な効力の線引き・最初に埋める3項目・書き換えるタイミング・パスワードの書き方を解説します。
エンディングノートに財産の分け方を書いても、そのとおりには分けられない
エンディングノートには決まった様式がなく、書いた内容に法的な拘束力はありません。
「預金は妹に渡してほしい」と書き残しても、相続人全員の話し合いを縛る力はないのです。
財産の分け方を指定できるのは遺言書だけで、自筆証書遺言なら全文を自分で書き、日付と署名押印をそろえる必要があります(民法968条)。
市販のノートは印刷された設問に答えていく形式なので、この方式を満たしません。
拘束力がないことは、若い世代にとってはむしろ使いやすさになります。
書き間違えても無効になりませんし、何度でも消して書き直せます。
第三者に見せる前提の書類ではないので、文章の体裁も気にしなくてよいでしょう。
30代・40代でも家族が把握していない財産はある
「うちは財産なんてないから」と言われることがありますが、問題になるのは額の大小ではなく、存在を家族が知っているかどうかです。
勤め先の団体保険、住宅ローンに付いている団体信用生命保険、企業型確定拠出年金、ネット証券の口座は、どれも郵便物がほとんど届きません。
本人以外には気づきようがないまま、手続きの機会だけが過ぎていきます。
相続税の心配が要るかどうかも、財産の総額が分からなければ判断できません。
基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、相続人が3人なら4,800万円です(相続税法15条)。
持ち家があると評価額次第でこの線に近づく家庭もあります。
課税されるかどうかの考え方は相続税は誰にかかるのかで解説しています。
遺言書が要るのはどんなときか|検認と3,900円の保管制度
ノートで足りるか遺言書まで要るかは、渡したい相手が法定相続人かどうかで分かれます。
配偶者は常に相続人で、第1順位が子、子がいなければ第2順位の直系尊属、それもいなければ第3順位の兄弟姉妹が相続人になります(民法887条〜890条)。
この並びに入っていない相手に財産を渡したいなら、ノートに書いても実現しません。
遺言書に回したほうがよい場面
入籍していないパートナーがいる場合、その人は法定相続人ではありません。
子のいない夫婦で配偶者に全部残したい場合も、配偶者と兄弟姉妹が相続人になるため、話し合いが要ります。
自営業で事業用の資産と自宅が混ざっている場合も同じです。
こうした事情があるなら、ノートとは別に遺言書を用意する段階にあります。
自筆証書遺言は保管場所で扱いが変わる
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、家庭裁判所の検認を受けなければなりません。
封をしたまま持ち込む決まりで、勝手に開けてはいけない書類です(民法1004条)。
一方、公正証書遺言と、法務局の自筆証書遺言書保管制度を使ったものは検認が不要になります。
保管制度は2020年7月10日に始まり、申請の手数料は1件3,900円です。
書き方の負担も以前より軽くなりました。
2019年1月13日からは、添付する財産目録をパソコンで作ったり通帳のコピーを使ったりできます。
ただし各ページに署名押印が要りますし、本文そのものは全文自筆のままです。
なお、渡し方に不満が残ると遺留分侵害額請求を受けることがあり、その期限は相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年となっています。
30代のエンディングノートは、この3項目から埋める
市販のノートは50ページ前後あり、全部埋めようとすると最初の数ページで止まります。先に埋めるのは次の3項目です。
スマホとパソコンを開ける手がかり
家族が最初に詰まるのは、スマートフォンのロックです。
ロックが解けないと、どこと契約しているのか、誰に連絡すべきなのかが分かりません。
書くのは暗証番号そのものではなく、端末の機種、契約している通信会社、ロック解除の手がかりにとどめます。
パソコンやタブレットが別にあるなら、それも並べておきます。
お金の出入りがある口座と契約の一覧
給与が入る口座、家賃やカードが落ちる口座、証券口座、保険、借入の順に、金融機関名と支店名だけ書けば十分です。
残高は変わるので書かなくてかまいません。
奨学金の返済やカードローンがあるなら、必ず入れておきます。
プラスの財産だけを書いたノートは、受け取る側の判断を誤らせるためです。
すぐ連絡してほしい人
職場の直属の上司、親しい友人、離れて暮らす親族の連絡先です。スマホが開かなければ電話帳も見られないので、紙に残す意味があります。
この3つが埋まっていれば、残りの項目は後から足せます。
死亡届は7日以内、年金の受給停止は厚生年金で10日以内・国民年金で14日以内と期限が決まっていますが、こうした役所の手続きは窓口で案内を受けられます。
誰も代わりに教えてくれないのが、契約の棚卸しのほうです。
ノート全体にどんな項目があるのかはエンディングノートに書くべき項目と役割で解説しています。
スマホが開かないと、サブスクもネット銀行も止められない
月額課金は、引き落とし先の口座やカードが生きているかぎり請求され続けます。
動画配信、音楽、クラウドストレージ、ゲームの課金、有料アプリと、1件あたりの額が小さいものほど家族は存在に気づきません。
解約にはアカウントのIDが要り、サービスによっては本人確認の書類を求められます。
ネット銀行とネット証券はさらに見つかりにくい口座です。
通帳もキャッシュカードも郵便物もないため、家族が家中を探しても手がかりが出てきません。
相続の手続きでは、口座の存在が分からなければ残高証明も取れず、放棄するかどうかの判断材料もそろわないままになります。
SNSも決め事が要ります。
アカウントを削除してほしいのか、追悼アカウントとして残してほしいのか、写真だけ家族に渡したいのか。
希望を1行書いておくだけで、残された側は迷わずに済みます。
写真がクラウドにしかない家庭も増えているので、どのサービスを使っているかは書いておきたいところです。
書くのはサービス名とID、そして引き落とし先までにします。
パスワードを並べたノートは、紛失したときに別の問題を招きます。
スマホやアカウントの引き継ぎ方はデジタル終活のやり方で解説しています。
若い人向けのエンディングノートは、書式より書き換えやすさで選ぶ
30代・40代で書く内容は、転職や引っ越しのたびに変わります。選ぶときに見るのは項目の網羅性ではなく、書き換えたときに見苦しくならないかどうかです。
紙のノートを選ぶなら
市販品は葬儀や介護、お墓の希望まで含めた構成が多く、若い世代が書くと空欄のほうが目立ちます。
それ自体は問題ありませんが、空欄が続くと途中で閉じてしまいがちです。
項目が少なめのもの、あるいはページを差し替えられるバインダー式のものだと、更新しながら使えます。
市区町村や社会福祉協議会が無料で配っているものもあり、内容はその地域の手続き案内に寄っています。
配布の有無は住んでいる市区町村の窓口で確認してください。
市販品と無料配布の違いは終活ノートの選び方で解説しています。
デジタルで書くなら
アプリやクラウド上の文書は、更新が数分で終わるという利点があります。
ただし、家族がそこにたどり着けなければ書いていないのと同じ結果になります。
デジタルで管理するなら、「パソコンのこのフォルダに一覧がある」という一文だけは紙に残しておきます。
紙とデジタルを併用し、変わりにくい情報を紙、変わりやすい情報をデジタルに置く分け方も取れるでしょう。
価格は判型とページ数、装丁で変わります。書きやすさを軸にした選び分けはエンディングノートはどう選ぶかで解説しています。
書き換えるのは、転職や引っ越しで手続きが増えた日
エンディングノートに提出期限はありません。
そのぶん、書いたまま放置されて内容が古くなります。
解約済みの口座、変わったあとのパスワード、疎遠になった連絡先が並んだノートは、家族を遠回りさせるだけです。
書き換えるきっかけになるのは次のような場面です。
- 転職(団体保険と企業型確定拠出年金が変わります)
- 結婚・離婚(相続人の顔ぶれが変わります)
- 子どもの誕生
- 引っ越し(賃貸契約と緊急連絡先が変わります)
- 住宅ローンを組んだとき
- 口座やカードを解約したとき
こうした出来事がない年もあるので、見直す日を1日決めておくと続きます。
誕生日でも、確定申告の時期でも、保険の更新月でもかまいません。
年に1回ノートを開いて、契約の一覧を上からたどるだけで十分です。
世代ごとに優先する項目が違う点は終活をいつから始めるかで解説しています。
ひとり暮らしなら、エンディングノートの連絡先欄を先に埋める
同じノートでも、どの欄が重要になるかは暮らし方で変わります。
ひとり暮らし・独身の場合
入院や事故のときに動くのは家族ではなく、職場の人や大家、管理会社になることがあります。
緊急時に連絡してほしい人、賃貸の管理会社、加入している保険、ペットを預ける先を書いておくと、その人たちが判断できます。
親も兄弟もいない場合は、死後の事務を誰に頼むかという話になり、備え方はおひとりさまの終活で解説しています。
子のいない夫婦の場合
配偶者だけが相続人になるとはかぎりません。
親が健在ならその親が、親が亡くなっていれば兄弟姉妹が、配偶者とともに相続人になります。
相手方の親族と遺産分割の話し合いをすることになるので、ノートに希望を書くだけでは足りず、遺言書を検討する段階です。
親に書いてほしい場合
親世代に切り出すときは、自分が書いたノートを先に見せると話が進みやすくなります。
「死んだあとの話」ではなく「入院したときに困らないための連絡先メモ」として渡すと、受け取り方が変わるためです。
親の場合は不動産の名義、お墓と仏壇を誰が引き継ぐかという祭祀(さいし)承継の問題も加わります。
墓や仏壇は相続財産とは別枠で1人が引き継ぐ決まりで、指定がなければ慣習により、それでも決まらなければ家庭裁判所が定めます(民法897条)。
保管場所を誰にも言っていないエンディングノートは、無いのと同じ
書き終えたノートで最後に決めるのが置き場所です。見つからなければ、書いた時間がそのまま無駄になります。
まず、貸金庫には入れないでください。
名義人が亡くなったあとの貸金庫は、相続人の立会いや同意を求められることがあり、すぐには開けられません。
急いで使いたい情報を、いちばん開けにくい場所に置くことになります。
職場のデスクも、家族が取りに行きにくい場所です。
現実的なのは自宅で、通帳や保険証券をまとめている場所の近くに置き、その場所を信頼できる人ひとりに伝えておく形です。
伝える相手は配偶者でも、兄弟でも、親でもかまいません。
ノートの中身まで見せる必要はなく、「あの引き出しにある」とだけ共有すれば足ります。
パスワードは書かずに、たどり着く道筋だけ書く
ノートは金庫ではありません。
暗証番号やパスワードをそのまま並べると、紛失や盗難のときに被害が直接お金に及びます。
書くのは金融機関名とサービス名、IDまでとし、認証情報はパスワード管理アプリに集約したうえで「管理アプリを使っている」という事実だけをノートに残す方法もあります。
紙のノートを買う前に項目を試すなら、エンディングノート(Web版)が使えます。
書かないまま放置すると、家族が家中を開けることになる
一覧がない状態で相続の手続きを始めると、残された人は通帳、キャッシュカード、保険証券、年金手帳、不動産の権利証、印鑑、借用書を家中から探すところから始めます。
これらを誤って処分すると手続きが止まります。
さらに、借入の有無が分からないまま時間が過ぎるのも困りものです。
相続放棄と限定承認は、自分のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述する決まりで(民法915条)、財産の全体像が見えないと判断ができません。
相続税の申告が必要な場合の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月です。
よくある質問
エンディングノートは何歳から書いてよいものですか
年齢の決まりはありません。
書く内容が変わるだけです。
30代なら契約とアカウントの一覧が中心になり、介護や葬儀の希望は後から足していけば足ります。
結婚や転職、住宅の購入といった節目に合わせて始めると、書くことが具体的にそろっています。
エンディングノートに法的な効力はありますか
ありません。
財産の分け方や子の認知など、法律上の効果を生じさせたい内容は遺言書に書く必要があります。
ノートは、家族が手続きを進めるための情報源と、希望を伝えるための覚書として使うものです。
パソコンやスマホのアプリで書いてもよいですか
かまいません。
更新が楽なのはデジタルの利点です。
ただし家族がその場所を知らなければ役に立たないので、保存先を紙に1行だけ残しておいてください。
クラウド上のファイルは、端末のロックが解けないと開けない点にも注意が要ります。
無料のエンディングノートはどこで手に入りますか
市区町村の窓口や社会福祉協議会、葬儀社が配布していることがあります。
配布の有無も内容も地域で違うため、住んでいる市区町村に問い合わせて確認してください。
金融機関やインターネット上で配られている書式もあります。
エンディングノートがあれば遺言書は要りませんか
渡したい相手が法定相続人以外である場合や、相続人どうしで取り分に差をつけたい場合は、遺言書が要ります。自筆証書遺言は家庭裁判所の検認が必要ですが、法務局の保管制度(手数料1件3,900円)を使えば検認が不要になります。
書いたノートは家族に見せるべきでしょうか
中身まで見せるかどうかは本人の判断でよく、置き場所だけ伝われば目的は果たせます。ただし、葬儀や医療についての希望を書いたのであれば、その部分は生きているうちに口頭でも伝えておいたほうが実現しやすくなります。
親に書いてもらうには、どう切り出せばよいですか
自分の分を先に書いて見せる方法があります。
入院したときに連絡してほしい人と、契約している保険を聞く形なら、死を前提にした話になりません。
不動産の名義やお墓の引き継ぎは、そのあとで別の機会に確認していけば十分です。
まとめ
エンディングノートに法的な効力はなく、財産の分け方を決めたいなら遺言書の出番になります。
その代わり、何度でも書き直せる気軽さがあり、若い世代ほど恩恵を受けます。
最初に埋めるのは、スマホを開ける手がかり、お金の出入りがある口座と契約の一覧、すぐ連絡してほしい人の3つで足ります。
残りの項目は、転職や引っ越しのたびに足していけばかまいません。
書き終えたら、置き場所をひとりに伝えるところまでを1セットにしてください。
ぜひ本記事の3項目と書き換えのきっかけ一覧を参考に、手元のノートの1ページ目を今日のうちに埋めてみてください。


