身元保証人がいないとどうなる?入院・入居の備えを解説

入院の申込書にも、高齢者施設の入居契約書にも、身元保証人の署名欄があります。頼める親族がいないと、その一枠で手続きが止まります。
ただ、そこで求められているのは一つの役目ではありません。
急変したときの連絡、利用料の支払い、退院や退所のときの手続き、亡くなった後の遺体と荷物の引き取りと、中身は分かれています。
どれを誰に任せるかで、用意する契約も変わります。
まとめて引き受ける民間サービスもありますが、国民生活センターは預託金(よたくきん)の返金をめぐる相談事例を公表しています(2019年5月時点)。本記事では、身元保証人に求められる役目の内訳・代わりに使える契約・預託金で確認すること・亡くなった後の手続きの期限まで解説します。
身元保証人がいないと、入院と施設入居のどこで止まるのか
手続きが止まるのは、書類の記入の場面です。
入院の申込書、介護施設の入居契約書、サービス付き高齢者向け住宅の賃貸借契約書には、本人以外の署名欄があります。
名称は施設ごとに違っていて、身元引受人と書かれていることもあれば、連帯保証人や緊急連絡先という言葉が使われることもあります。
呼び方が違っても、その欄に書かれた人へ連絡が入り、費用の請求先になり、退院のときに来てもらう相手として扱われる点は変わりません。
親族がいない、遠方にいる、疎遠で頼めないという理由で空欄になると、窓口で「どなたか立てられませんか」と確認されます。
ここで諦めてしまう人がいますが、対応は施設によってかなり違います。
成年後見人が選任されていればその人を記入してもらう例、緊急連絡先の登録だけで受け入れる例、民間の保証サービスと契約した証明書の写しを求める例があります。
最初にやることは、入院先や入居を検討している施設に「保証人を立てられない場合はどう扱っていますか」と直接聞くことです。
相談の段階で聞けば、必要なものが後見人なのか、支払いを保証する仕組みなのか、亡くなった後の引き取りを約束できる相手なのかが分かります。
断られた場合も、何が足りないのかを聞いておけば、次に用意するものが決まります。
身元保証人・連帯保証人・成年後見人は、引き受ける中身が違う
同じ書類の中に似た言葉が並ぶため、署名する側もされる側も混乱します。それぞれ責任の重さが違うので、ここで分けておきます。
身元保証人
入院や入居の場面で使われる身元保証人という言葉には、法律で決まった中身がありません。
何をどこまで引き受けるのかは、その施設の契約書に書かれた条項で決まります。
連絡を受けるだけの立場として書かれていることもあれば、利用料の連帯保証と退去時の残置物の処分まで含めて書かれていることもあります。
頼まれて署名する側は、条項を読まないまま名前を書かないでください。
連帯保証人
本人が払えなくなったとき、本人と同じ立場で支払いを求められる役目です。
請求が来たら「まず本人に請求してください」とは言えません。
施設の利用料は毎月発生し続けるため、契約書に保証の上限額が書かれているかどうかで負担がまったく変わります。
上限の記載と、契約が終わるのはいつかを確認してから署名してください。
緊急連絡先
容体が変わったときに連絡を受ける相手として登録するもので、支払いの義務までは負わない扱いが一般的です。
とはいえ、契約書の中で身元保証人と同じ欄にまとめられていると、実際には支払いも想定されていることがあります。
別の欄になっているか、条項でどう書き分けられているかを見てください。
成年後見人
判断能力が落ちた後に、家庭裁判所が選ぶ人です。
預金の管理や契約の代理はできますが、手術や延命治療といった医療行為への同意を本人に代わってする立場ではないという扱いが一般的です。
また、後見の仕事は本人が亡くなった時点で終わります。
葬儀や納骨、部屋の片付けまで当然に任せられるわけではありません。
生きている間のお金の管理と、亡くなった後の事務は、別に用意する必要があります。
身元保証人に求められる役目は5つに分かれる
施設が求めているものを分解すると、次の5つになります。自分に足りないのがどれかが分かると、用意する契約が絞れます。
| 求められる役目 | 実際に起きること | 親族以外で代わりになるもの |
|---|---|---|
| 緊急時の連絡と来訪 | 夜間でも電話が入り、病院へ来るよう求められます | 緊急連絡先の登録、駆けつけを含む身元保証サービス |
| 入院費・利用料の支払い | 未払いが出たときの請求先になります | 連帯保証を引き受ける事業者、預託金や保証委託の仕組み |
| 治療やケアの方針の相談 | 医師の説明を本人と一緒に聞く相手として扱われます | 任意後見の受任者や委任先を説明の場に同席させる取り決め |
| 退院・退所の手続きと私物の引き取り | 退院先の手配や荷物の持ち帰りを求められます | 生活支援や死後事務を含む委任契約 |
| 亡くなった後の遺体と遺品の引き取り | 遺体の引き取り、精算、室内の片付けを求められます | 死後事務委任契約 |
このうち施設がいちばん気にしているのは、2番目と5番目です。
利用料が回収できないことと、亡くなった後に部屋が空かないことは、どちらも施設の運営に直結します。
裏を返せば、この2つに答えが用意できていれば、保証人がいないという一点だけで話が終わることは少なくなります。
相談のときは「支払いはこうします」「亡くなった後はここが引き取ります」と示せる形にしておいてください。
親族に頼めないときは、役目ごとに契約を分けて用意する
民間サービスにまとめて任せる方法だけが答えではありません。生きている間と亡くなった後で、使う契約が分かれます。
判断能力が落ちた後に備える任意後見契約
元気なうちに、誰に何を任せるかを決めて結んでおく契約です。
契約したその日から効力が出るわけではなく、判断能力が落ちてから家庭裁判所が監督する人を選んで、そこで初めて動き出します。
お金の管理と各種の契約が中心なので、入院の付き添いや買い物といった生活面の支援を含めたいなら、別に取り決めておいてください。
亡くなった後を任せる死後事務委任契約
死亡届の提出、火葬や納骨の手配、施設利用料や入院費の精算、行政への届け出、賃貸住宅の明け渡しと遺品の処分などを、生前のうちに委任しておく契約です。
財産を誰に渡すかは遺言で決めるものなので、この2つは目的が違います。
遺言に「葬儀は家族葬で」と書いても、それを実行する人を決めたことにはなりません。
手続きを動かす人を決めるのが死後事務委任、財産の行き先を決めるのが遺言です。
まとめて引き受ける身元保証サービス
民間の事業者が、緊急連絡先から支払いの保証、入退院の手続き、死後の事務までを一つの契約で引き受ける形です。
頼れる人がまったくいない場合には現実的な選択肢になりますが、後述する預託金の扱いで争いが起きています。
契約前に確認する点は、この記事の後半で挙げます。
どこから手をつけるか決まらないときは、お住まいの市区町村の高齢者福祉の窓口や地域包括支援センターで相談できます。身寄りがない場合に備える全体の順番は、おひとりさまの終活で先に決める3つで解説しています。
身元保証人の代わりを頼む費用は、預託金の扱いで決まる
民間サービスの料金は、一律の相場を示せる公的な統計がありません。
事業者ごとに含まれる範囲が違うため、総額だけを比べても意味がないからです。
金額を左右するのは、主に次の3点です。
- 契約の範囲に、身元保証だけを入れるのか、日常の生活支援や死後の事務まで入れるのか
- 亡くなった後の費用にあてるお金を、あらかじめ預ける預託金として払うのか、そのつど実費で払うのか
- 駆けつけや立ち会いに1回いくらの料金がかかるのか、月会費に含まれるのか
このうち金額が大きくなるのは預託金です。
葬儀や納骨、部屋の片付けにかかるお金を前払いで預ける性質のもので、まとまった額になります。
国民生活センターが公表した相談事例には、「一刻も早く預託金100万円を」と契約を急がされたものが含まれています(国民生活センター公表資料/2019年5月時点)。
これは相場を示す金額ではなく、急がせる勧誘があったという事例です。
金額の目安として受け取らないでください。
費目ごとの内訳と、預けたお金が何に使われるのかの確認のしかたは、身元保証サービスの費用と預託金の内訳で解説しています。
身元保証サービスのトラブルは、解約と返金で起きている
国民生活センターが公表した相談事例(2019年5月30日公表)には、預託金の返金をめぐる次のような訴えが並んでいます。
- 十分なサービスが提供されず解約したが、返金額の説明がないまま精算された
- 解約時には一切返金しないと言われた
- 返金すると言われたまま、実際には返金されない
共通しているのは、契約するときではなく、やめるときに問題が起きている点です。
預けたお金がどの費目に使われ、解約したときにいくら戻るのかが契約書ではっきりしていないと、精算の場で説明を求めても根拠が出てきません。
判断能力が落ちてから気づいても、本人が争うのは難しくなります。
同センターと消費者庁が挙げている確認事項は次のとおりです。
- 預託金の用途と、解約したときの返金条件をあらかじめ確認する
- 契約の内容を、本人以外の周囲の人にも理解してもらっておく
- トラブルになったら、最寄りの消費生活センターに相談する
2つ目は見落とされがちですが、契約したことを誰も知らない状態がいちばん危険です。
親が単独で契約していたと後から分かる例もあるので、家族の側は契約書の控えがどこにあるかまで聞いておいてください。
事業者を比べる段階の見方は預託金の管理方法から見る身元保証会社の選び方で、実際に起きた倒産のケースは預託金が戻らなかったトラブルの経緯で解説しています。
亡くなった後の手続きには期限がある|死亡届は7日、相続放棄は3か月
死後事務を誰かに任せておく必要があるのは、手続きに法律で切られた期限が並んでいるからです。引き受け手が決まらないまま日が過ぎると、間に合わないものが出てきます。
| 手続き | 期限 | 提出先 |
|---|---|---|
| 死亡届 | 死亡の事実を知った日から7日以内 | 死亡地・本籍地・届出人の所在地の市区町村 |
| 年金の受給停止 | 厚生年金は10日以内、国民年金は14日以内 | 年金事務所または市区町村 |
| 世帯主変更届 | 14日以内(15歳以上が2人以上残る場合) | 市区町村 |
| 相続放棄・限定承認 | 相続の開始を知った時から3か月以内 | 家庭裁判所 |
| 準確定申告 | 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内 | 税務署 |
| 相続税の申告・納付 | 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内 | 税務署 |
| 相続登記 | 不動産の取得を知った日から3年以内 | 法務局 |
火葬は、死亡から24時間を経過した後でなければできません。
逆に言えば、亡くなった翌日から遺体の安置費用が積み上がるので、引き取りと火葬の判断をする人が決まっていないと、費用も時間も膨らみます。
健康保険の被保険者が亡くなったときの埋葬料は一律5万円で、国民健康保険や後期高齢者医療の葬祭費は市区町村ごとに額が違います。
申請しないと出ないお金なので、誰が請求するかも決めておいてください。
相続税は基礎控除の3,000万円+600万円×法定相続人の数を超えなければ申告そのものが要りません。
判断の分かれ目は相続税がかかる人とかからない人の境目で解説しています。
契約先や口座、緊急連絡先を一覧にしておく方法は、エンディングノートに書いておく項目で解説しています。
身元保証人を決めないまま入院・入居した後に起きること
いちばん困るのは、本人が意思を伝えられなくなってからです。
急変して手術の説明が必要になったとき、連絡できる相手がいないと、病院は説明の場を作れません。
判断能力が落ちてから成年後見の申立てをしても、家庭裁判所が後見人を選ぶまでには時間がかかります。
任意後見や死後事務委任の契約は本人が結ぶものなので、判断能力が落ちた後は選べなくなります。
退院の場面でも止まります。
治療が終わっても引き取り先と荷物の持ち帰りが決まらないと退院日が立たず、入院が長引いた分だけ費用が増えていきます。
施設への入居も、支払いと亡くなった後の引き取りに答えが用意できていないと、受け入れてくれる先が絞られます。
亡くなった後は、賃貸住宅の解約と室内の片付けが誰の手にも渡らないまま残ります。
家財を勝手に処分することは誰にもできないため、家賃だけが発生し続けることになります。
引き取り手がいない場合の遺体の取り扱いは自治体が定めていますが、本人が望んだ形の葬送になるとは限りません。
お墓や仏壇、位牌といった祭祀(さいし)財産は、相続財産とは別に1人が引き継ぐ決まりです。
指定が無ければ慣習により、それでも決まらなければ家庭裁判所が定めます。
誰も引き受けないまま放置されたお墓は、管理料の滞納が続くと無縁墓として整理されることがあります。
継ぐ人がいないなら、生きている間に永代供養や墓じまいの形を決めておくほうが、費用も手順も自分で選べます。
よくある質問
身元保証人がいないと入院はできないのでしょうか
扱いは病院ごとに違います。
成年後見人の選任で足りるとする例、緊急連絡先の登録だけで受け入れる例、民間サービスとの契約書の写しを求める例があります。
まずは受診している病院の相談窓口(医療ソーシャルワーカー)に、保証人を立てられない場合の取り扱いを確認してください。
何が足りないのかが分かれば、用意するものが決まります。
子どもがいても身元保証人を頼めない場合はどうすればいいですか
遠方に住んでいて駆けつけられない、疎遠で連絡が取りづらいという理由なら、役目を分けて考えてください。
連絡だけは子が受け、支払いと死後の事務は別に契約で用意する形も取れます。
施設に相談するときも「連絡先は子、支払いはこの方法」と分けて伝えたほうが話が進みます。
成年後見人がいれば身元保証人は不要になりますか
施設によっては後見人の記入で足りるとしていますが、後見人は医療行為に同意する立場ではないという扱いが一般的で、本人が亡くなれば仕事も終わります。
葬儀や納骨、部屋の明け渡しまでを想定するなら、死後事務委任を別に結んでおく必要があります。
後見だけで全部がまかなえるとは考えないでください。
身元保証サービスの費用はいくらぐらいですか
一律の相場を示せる公的な統計はありません。
契約に含まれる範囲、預託金を預けるかどうか、駆けつけ1回ごとの料金の有無で総額が変わります。
見積もりを取るときは総額ではなく、預託金がいくらでどの費目に使われるのか、解約したらいくら戻るのかを書面で確認してください。
契約した事業者が倒産したら、預けたお金はどうなりますか
預託金が事業者の運転資金と混ざっていると、戻らない可能性があります。
信託銀行に預ける、弁護士や司法書士が管理するなど、事業者の財産と分けて保全されているかどうかが分かれ目です。
契約前に保全の方法を書面で示してもらい、示せない場合は理由を聞いてください。
エンディングノートに書いておけば死後の手続きを任せられますか
エンディングノートには法的な効力がないため、書いただけでは誰も動けません。
連絡先や契約の一覧を残す道具としては有効ですが、財産の行き先は遺言、手続きの担い手は死後事務委任と、効力のある形を別に用意してください。
自筆証書遺言を法務局の保管制度に預ければ、家庭裁判所の検認が不要になり、手数料は1件3,900円です。
まとめ
身元保証人がいないという悩みは、一つの穴ではなく5つの役目に分かれています。
支払いをどうするか、亡くなった後に誰が引き取るかの2つに答えが用意できていれば、施設との話は前に進みます。
まとめて引き受ける民間サービスを使う場合は、預託金の用途と解約時の返金条件を書面で確かめ、契約したこと自体を周囲の誰かに伝えておいてください。
任意後見も死後事務委任も、判断能力があるうちにしか結べません。ぜひ本記事の役目の一覧表と手続きの期限表を参考に、自分に足りない役目がどれかを書き出すところから始めてください。


