相続税の計算方法を3ステップで|課税価格の出し方も解説

銀行で残高証明を取り、法務局で登記事項証明書を受け取っても、相続税がいくらになるのかはその書類だけでは分かりません。金額が見えてくるのは、財産の合計から3,000万円+600万円×法定相続人の数を引いたあとです。
計算は3ステップで進みます。
課税価格の合計額を出し、基礎控除を引き、残った金額を法定相続分で分けて税率をかけます。
基礎控除以下なら申告そのものが不要ですが、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って0円にする場合は申告が要ります。
申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月です。
本記事では、課税価格の出し方・基礎控除で申告が不要になる線・特例を使うときの申告の要否を解説します。
相続税の計算方法は3ステップ|10か月の期限から逆算する
相続税は、財産を1つずつ課税していく仕組みではありません。
まず全部を足して1つの金額にまとめ、そこから引き算をして、最後に人数で割り戻します。
この順番を入れ替えると答えが変わってしまうため、ステップの並びをそのまま守ってください。
なお本記事で扱う制度と数値は、2026年9月時点の法令にもとづくものです。
| ステップ | やること | 使う数字 |
|---|---|---|
| 1 | 課税価格の合計額を出す | 財産の評価額から債務と葬式費用を引く |
| 2 | 課税遺産総額を出す | 基礎控除3,000万円+600万円×法定相続人の数(相続税法15条) |
| 3 | 相続税の総額を出して各人に割り振る | 法定相続分と、国税庁の相続税の速算表の税率 |
ステップ2で答えがマイナスになれば、そこで終わりです。
申告書を書く必要もありません。
逆に少しでもプラスが残るなら、ステップ3まで進んで納税額を出し、10か月以内に申告と納付を済ませます。
10か月より先に来る期限がある
相続税だけを見ていると、手前にある期限を踏み外します。
とくに相続放棄は、亡くなった日ではなく「自分のために相続の開始があったことを知った時」から3か月です(民法915条)。
財産よりも借金が多いと分かった段階で、この3か月が残っているかどうかを最初に確認してください。
| 手続き | 期限 | 起算日 |
|---|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 3か月 | 自己のために相続の開始があったことを知った時 |
| 準確定申告 | 4か月 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続税の申告・納付 | 10か月 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続登記 | 3年 | 不動産を取得したことを知った日 |
相続登記は2024年4月1日から義務になり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です。
2024年4月より前に相続した不動産も対象で、その分の期限は2027年3月31日までとなっています。
期限の数え方と、いつ申請するのが動きやすいかは相続登記の期限は3年|過料10万円を避けるための対応で解説しています。
ステップ1|課税価格の合計額は財産から債務と葬式費用を引いて出す
最初にやるのは、亡くなった日時点で何がいくらあったかを1枚の紙にまとめる作業です。ここが埋まらないと、あとの2ステップはどれだけ制度を調べても進みません。
足すもの、引くもの
足すのは、預貯金・不動産・上場株式や投資信託・自動車・貸付金・家財など、金銭に見積もれるものです。
引けるのは、借入金や未払いの医療費、未払いの固定資産税といった債務と、葬式にかかった費用です。
ただし葬式費用はどこまで含められるかの範囲が決まっているので、領収書を捨てずに全部残しておき、線引きは申告の段階で確認するのが安全でしょう。
預貯金は、通帳の最終残高ではなく死亡日時点の残高で計算します。
銀行に「残高証明書」を請求すると、その日付の金額を証明した書類が出ます。
口座の凍結後にどの順番で何を出すかは相続の銀行手続きは何から?必要書類と窓口での流れで解説しています。
捨てる前に探すもの
実家の片づけを先に始めてしまうと、財産の一覧を作る材料が消えます。次のものは、見つけた時点で1か所にまとめてください。
- 通帳・キャッシュカード
- 保険証券
- 年金手帳
- 不動産の権利証と登記識別情報
- 遺言書(自筆証書は封を開けない)
- 印鑑と印鑑登録証
- 貸金庫の鍵と契約書
- 有価証券・借用書
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、家庭裁判所の検認を受けてから開けます(民法1004条)。
公正証書遺言と、法務局の保管制度を使った自筆証書遺言は検認が不要なので、まず種類を見分けてください。
車庫に残った車も財産の1つで、名義をそのままにしておくと売却も廃車もできません。
手続きの流れは車の名義変更をしないとどうなる?相続の手続きを解説で解説しています。
評価額に自己流の時価を当てはめない
土地や建物、非上場株式の評価額は、売れそうな金額を自分で決めて入れる欄ではありません。
財産の種類ごとに国税庁が評価の方法を定めていて、そこを外すと合計額が丸ごとずれます。
生命保険金や死亡退職金も、通常の財産とは扱いが違います。
自分で埋められるのは預貯金と上場株式あたりまでで、土地と保険が絡むなら税理士に渡す部分だと考えてください。
ステップ2|基礎控除3,000万円+600万円×法定相続人の数を引く
課税価格の合計額から引くのが基礎控除です。式は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、人数が1人増えるごとに600万円ずつ枠が広がります(相続税法15条)。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
2015年1月1日より前は5,000万円+1,000万円×人数でした。古い本やページの数字をそのまま使うと、かかるはずの相続税を「かからない」と読み違えます。
法定相続人の数え方で枠が変わる
配偶者は常に相続人になります。
子がいれば子が第1順位で、子がいなければ父母などの直系尊属が第2順位、それもいなければ兄弟姉妹が第3順位です(民法887条〜890条)。
子が先に亡くなっていて孫がいる場合や、前の婚姻の子がいる場合は人数が変わるため、戸籍で確定させないと基礎控除の額も確定しません。
相続放棄をした人がいても、基礎控除の計算では人数に含めます(相続税法15条2項)。
放棄によって相続する人は減りますが、控除の枠は減りません。
ここは実務でよく取り違えられるところです。
基礎控除以下なら申告は不要、ただし例外がある
課税価格の合計額が基礎控除以下なら、相続税の申告は要りません。
税務署へ「かかりませんでした」と伝える届出もありません。
一方で、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って税額を0円にする場合は、申告書を出さないと適用されません。
「0円だから何もしなくていい」と考えて期限を過ぎると、使えたはずの特例が消えます。
自分の家が申告の必要な側かどうかの見分け方は相続税は誰にかかる?基礎控除3,600万円が分かれ目になるで解説しています。
ステップ3|相続税の総額を出して、実際の取り分で割り振る
基礎控除を引いて残った金額が課税遺産総額です。ここから先の計算には、少し変わった手順が入ります。
いったん法定相続分で分けてから税率をかける
課税遺産総額を、まず法定相続分どおりに分けたものと仮定します。
その仮の金額ごとに税率をかけて税額を出し、全員分を足し合わせたものが相続税の総額になります。
実際の分け方がどうであれ、家全体で納める合計額は変わらない仕組みです。
分け方を工夫して総額を減らすことはできない、と言い換えてもよいでしょう。
法定相続分の割合は、相続人の組み合わせで変わります。
配偶者と子の場合、子だけの場合、兄弟姉妹が入る場合で、それぞれ別の割合です。
税率は取得金額の区分ごとに率と控除額が定められていて、この区分表が「相続税の速算表」と呼ばれるものです。
区分の刻みと率は改正されることがあるので、計算に使う前に国税庁が公表している現行の速算表を確認してください。
総額を出したあと、取り分の割合で按分する
相続税の総額が出たら、それを各人が実際に取得した課税価格の割合で按分(あんぶん)します。
多くもらった人が多く負担する形です。
最後に、按分した金額から各人に使える税額控除を差し引いて、1人ずつの納税額が確定します。
配偶者の税額軽減はこの段階で差し引くものなので、遺産分割が決まっていなければ金額も決まりません。
10か月の期限が分割協議の期限のように感じられるのは、この順番のためです。
相続税を下げる配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は申告が条件
相続税の負担を大きく動かすのは、次の2つです。どちらも2026年9月時点で使えますが、共通して「申告書を出すこと」が適用の条件になっています。
配偶者の税額軽減
配偶者が取得した遺産のうち、法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い額までは相続税がかかりません(相続税法19条の2)。実家と預金を合わせて1億円台であれば、配偶者が全部相続する形にすると納税額が0円になる場合もあります。
ただし、配偶者に寄せれば寄せるほど得になるわけではありません。
その配偶者が亡くなったときの相続では、法定相続人が1人減っているため基礎控除も600万円分小さくなり、財産は子だけで受けることになります。
目先の税額と次の相続を合わせてどう配分するかは、家族構成と財産の中身で答えが変わる部分で、税理士に相談する段階です。
小規模宅地等の特例
被相続人が住んでいた宅地は、330平方メートルまで評価額を80%減額できます(租税特別措置法69条の4)。実家の土地が課税価格の大半を占めるケースでは、この特例が使えるかどうかで結論がひっくり返ります。
配偶者や同居していた親族が引き継ぐ場合は使いやすい一方、別居している子が使うには「家なき子」と呼ばれる要件を満たす必要があります。
持ち家の有無や過去の居住歴まで見る条件なので、該当しそうなら早めに書類をそろえてください。
申告期限までに分け方が決まらないと適用の判断もできないため、遺産分割の話し合いは相続税の計算と並行して進めるものになります。
相続税の計算が止まる3か所と、税理士に渡す境目
手を動かし始めてから止まるのは、だいたい同じ場所です。先に知っておけば、10か月の使い方が変わります。
戸籍がそろわないと相続人が確定しない
法定相続人の数は、亡くなった人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本と除籍謄本、改製原戸籍で確認します。
取り寄せ先は本籍地の市区町村で、転籍を繰り返している場合は複数の役所へ請求することになります。
郵送だと往復で日数がかかるため、遠方の本籍地が絡むと数週間単位で伸びます。
手数料と必要書類は市区町村で違うので、請求前に窓口で確認してください。
土地の評価と分け方が決まらない
課税価格の中で最も金額が大きく、最も自分で計算しにくいのが土地です。
形が整っていない土地や、私道に接している土地では減額の要素が出ることもあり、ここを自己判断で入れると申告額が実態と合いません。
分け方についても、住み続けたい人と売りたい人で意見が割れると、そのまま期限に近づいていきます。
話し合いの前に、残高証明・土地の査定額・固定資産税の年額を机の上に出しておくと、金額の話が感情の話に置き換わりにくくなります。
この3ステップを自分の金額でなぞるなら、相続税シミュレーターに入れると各相続人の取得金額と税額が表で出ます。
自分でできる範囲と、渡したほうが早い範囲
預貯金だけで、相続人も配偶者と子だけという構成なら、財産の一覧づくりと基礎控除の判定までは自分で進められます。逆に次のどれかに当てはまるなら、早い段階で税理士に見積もりを取るほうが、期限までの時間を有効に使えます。
- 不動産が複数ある、または非上場株式がある
- 小規模宅地等の特例の要件に当てはまるか判断がつかない
- 相続人が4人以上、または面識のない相続人がいる
- 生前贈与や生命保険が絡んでいる
依頼するかどうかを決めるためにも、財産の一覧と戸籍の収集は自分で進めておく価値があります。資料がそろっているほど、見積もりも早く出ます。
よくある質問
相続税の申告期限10か月は、いつから数えますか
相続の開始を知った日の翌日から10か月です(相続税法27条)。
多くの場合は亡くなった日の翌日が起算日になります。
納付の期限も同じ日で、申告だけ先に出して納税を後回しにはできません。
準確定申告が必要な場合は、それより早い4か月の期限が先に来ます。
基礎控除以下なら、何もしなくてよいのですか
課税価格の合計額が基礎控除以下であれば、相続税の申告は不要です。
ただし、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使った結果として基礎控除以下になる場合は、申告書の提出が適用の条件になります。
特例を当てにして0円と判断したなら、申告は必要だと考えてください。
相続放棄をした人がいると、基礎控除は減りますか
減りません。
基礎控除の計算に使う法定相続人の数には、相続放棄をした人も含めます(相続税法15条2項)。
なお相続放棄は家庭裁判所への申述が必要な手続きで、遺産分割の話し合いで取り分をゼロにすることとは別です。
協議で何も受け取らないと決めただけでは、借金は引き継いだままになります。
配偶者が全部相続すれば、相続税はかからないのですか
法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い額までは配偶者に相続税がかからないため、財産の規模によっては納税額が0円になります。
ただし適用には申告が必要で、遺産分割が決まっていることも前提です。
その配偶者が亡くなったときの相続では相続人が1人減り、基礎控除も小さくなる点を含めて配分を考える必要があります。
相続した実家を売る場合、相続税とは別に税金がかかりますか
売却したときの利益には譲渡所得税がかかり、相続税とは別の計算になります。
相続した空き家を売る場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります(租税特別措置法35条3項)。
1981年5月31日以前に建築された家屋であることなどの要件があり、対象は2027年12月31日までの譲渡です。
相続人が3人以上のときは、2024年1月1日以降の譲渡では1人あたり2,000万円に下がります。
売らずに活用する道を探すなら空き家バンクとは?登録の条件と使い方をやさしく解説で登録の条件を解説しています。
まとめ
相続税の計算は、財産から債務と葬式費用を引いて課税価格の合計額を出し、3,000万円+600万円×法定相続人の数の基礎控除を引き、残りを法定相続分で分けて税率をかける流れで進みます。ステップ2でマイナスになれば申告は不要ですが、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例で0円にするなら申告書を出さなければ適用されません。
止まりやすいのは戸籍の収集と土地の評価で、どちらも時間がかかります。
相続の開始を知った日の翌日から10か月という期限は、遺産分割の話し合いも含んだ持ち時間だと考えてください。
ぜひ本記事の3ステップの表と期限の表を手元に置いて、今日の時点で残っている日数から逆算して動き出してください。


