任意後見制度の費用|契約時と毎月かかる報酬の目安を解説

任意後見の費用を調べると、公証役場に払う契約時の手数料と、契約が効力を持ってから毎月続く報酬が、ひとまとめの「相場」として出てきます。
この2つは支払う時期も、金額を決める人も違います。
契約時の手数料は法令で決まっていますが、発効後に続く任意後見監督人(かんとくにん)の報酬を決めるのは家庭裁判所です。
そのため「総額でいくら」という聞き方をしても、提示された金額が妥当かどうかは判断できません。本記事では、契約時と発効後で分かれる費目の中身・金額を動かす財産額と契約の組み方・見積もりから抜けやすい監督人の報酬を解説します。
任意後見制度の費用は、契約時の一時金と発効後に続く報酬に分かれる
任意後見契約は、法律上、公正証書で結ぶことになっています。
そのため契約の段階で、公証役場と法務局に払う手数料が必ず発生します。
ここまでは一度きりの支出です。
一方、契約を結んだだけでは制度は動きません。
本人の判断能力が不十分になった時点で、家庭裁判所に任意後見監督人を選んでもらい、そこで初めて契約が効力を持ちます。
この「発効」から先は、任意後見人への報酬と、監督人への報酬が、本人が亡くなるか契約が終わるまで続きます。
契約時の金額だけを見て予算を立てると、この継続分がまるごと抜け落ちます。
費目ごとに、払い先と金額を決める人が違う
| 費目 | 発生する時期 | 払い先 | 金額を決めるのは |
|---|---|---|---|
| 公正証書の作成手数料 | 契約時 | 公証役場 | 法令 |
| 登記の嘱託手数料・収入印紙 | 契約時 | 法務局 | 法令 |
| 契約書の案を作る専門家への報酬 | 契約時 | 司法書士・弁護士など | 依頼先の料金表 | 戸籍・住民票などの実費 | 契約時 | 市区町村 | 各自治体 |
| 監督人の選任を求める申立ての費用 | 発効時 | 家庭裁判所 | 法令 |
| 診断書・鑑定の費用 | 発効時 | 医療機関 | 医療機関 |
| 任意後見人の報酬 | 発効後ずっと | 任意後見人 | 契約で定めた額 |
| 任意後見監督人の報酬 | 発効後ずっと | 監督人 | 家庭裁判所 |
金額を決めるのが誰なのかを見ると、交渉できる費目とできない費目が分かれます。
公証役場と法務局に払う分は法令で決まっているため、どこで契約しても変わりません。
専門家への報酬は依頼先ごとに料金表が違うので、ここは複数から見積もりを取る意味があります。
そして任意後見監督人の報酬は、依頼先とも本人とも関係なく、家庭裁判所が決めます。
事前に額を確定させることはできません。
公証役場の手数料は財産の額や契約の内容で変わるため、契約案がある程度固まった段階で、最寄りの公証役場に見積もりを聞くのがいちばん確実です。制度そのものの位置づけや、家族信託と迷っている段階であれば、任意後見制度と家族信託の違いで解説しています。
任意後見の費用を動かすのは、財産の額と契約の組み方の2つ
同じ任意後見でも、総額が人によって大きく変わります。理由は、契約時の手数料ではなく、発効後に何年ぶん・誰に・いくら払い続けるかが違うためです。
監督人の報酬は、管理する財産の額をみて家庭裁判所が決める
任意後見監督人は、任意後見人がきちんと財産を管理しているかを見張る立場です。
その報酬は本人の財産から支払われ、額は家庭裁判所が、本人の財産の状況や監督事務の内容をふまえて決めます。
管理する財産が大きいほど監督の手間も増えるため、財産額は判断材料のひとつになります。
ここで注意したいのは、報酬が一度決まったら固定されるわけではないという点です。
家庭裁判所は定期的な報告を受けて、そのつど報酬を定めます。
実家を売却して預金が増えた、施設入居で入出金が複雑になったといった事情があれば、額が動くこともあります。
任意後見人が家族か専門職かで、毎月の負担が変わる
任意後見人への報酬は、契約のときに本人と受任者が話し合って決めます。
子や配偶者が引き受ける場合、報酬を定めない契約にすることもできます。
専門職に依頼するなら、月額を契約書に書き込みます。
ただし、家族が無報酬で引き受けても、監督人の報酬まで消えるわけではありません。
任意後見は監督人が選ばれて初めて動く仕組みなので、監督人の付かない任意後見は存在しません。
「家族がやるから費用はかからない」という前提で計画を立てると、発効後に想定外の支出が始まります。
移行型にすると、発効前から月々の支払いが始まる
任意後見契約だけを結ぶと、判断能力が落ちるまでの間は何も起きません。
その空白を埋めるために、見守りの契約や、判断能力があるうちの財産管理を委任する契約を、任意後見契約と同時に結ぶ組み方があります。
いわゆる移行型です。
この形にすると、契約直後から訪問や電話連絡、通帳の管理といった業務が始まり、そのぶんの費用が毎月かかります。
契約から発効まで10年かかる人もいれば、2年で発効する人もいます。
月々の額が小さく見えても、期間の長さによって総額は何倍にも開きます。
契約の組み方を考える前に、公正証書の作成から発効までにどんな段取りがあるかを確かめておくと判断しやすくなります。
任意後見の手続きの流れで解説しています。
見積もりから抜けやすいのは、監督人の報酬と発効までの実費
専門家から示される見積書は、たいてい契約時の費用でまとまっています。
公正証書の作成にかかる分、契約書の案を作る報酬、戸籍などの取り寄せ実費です。
ここに入っていない支出が、後から3つ出てきます。
- 任意後見監督人の報酬(発効後、本人の財産から継続して支払う)
- 家庭裁判所へ監督人の選任を申し立てるときの費用と、医師の診断書代
- 本人の判断能力の判定に鑑定が必要になった場合の鑑定費用
2つ目と3つ目は、契約から何年も先に発生します。
見積書を作る側にとっては自分の売上ではないため、書かれていないこと自体は不誠実とは限りません。
それでも、払うのは本人の財産です。
見積もりを受け取ったら「この先ずっとかかる費用は、ほかに何がありますか」と口頭で確認し、回答をメモに残しておくと、家族に説明するときに使えます。
削ると後で困るのは、代理権目録の作り込み
費用を抑えたいとき、真っ先に削りたくなるのが専門家への報酬です。
定型の文例をそのまま使えば、契約書を作る報酬は下がります。
しかし任意後見人が何をできるかは、契約書に添付する代理権目録に書かれた範囲でしか認められません。
ここが薄いまま発効すると、銀行で「この目録では解約手続きはできません」と止められたり、施設の入所契約や実家の売却に手が出せなかったりします。
そして発効の時点では、本人の判断能力はすでに落ちています。
契約をやり直すことはできません。
結果として法定後見に切り替えることになり、申立ての費用と手間が二重にかかります。
削ってよいのは、使う予定のない付随サービスのほうです。
代理権の範囲と、将来起こりそうな手続き(預金の解約、不動産の処分、施設との契約、医療費の支払い)が対応しているかは、金額とは別に確かめてください。
制度そのものの使いにくさは任意後見のデメリットで解説しています。
任意後見の費用は本人の財産から払う|立て替えたら記録を残す
発効後の任意後見人と監督人の報酬は、本人の財産から支払われます。
子が自分の家計から出すものではありません。
問題になりやすいのは、それより前の段階です。
契約前の立て替えは、出金の記録が兄弟への説明資料になる
相談料や公正証書の作成費用がかかるのは、本人にまだ判断能力がある時期です。
本来は本人が払います。
ただ、親が窓口へ行けずに子が同行し、その場で子のカードで払うことは起こります。
立て替えた分を親の口座から精算するなら、領収書と、いつ・いくら・何の費用として出したかを残してください。
発効後は監督人と家庭裁判所のチェックが入るため記録が残りますが、契約前の出金には第三者の目がありません。
相続が始まったあとで通帳を見た兄弟から、使途の分からない出金として指摘される入口になります。
誰が負担するかを兄弟の間でどう決めておくかは、後見の費用は誰が払うかの決め方で解説しています。
自治体の助成と、相続時の扱い
市区町村によっては、後見の申立て費用や後見人の報酬について助成の仕組みを設けていることがあります。
対象になる人の条件も、申請の窓口も自治体ごとに違います。
本人の収入や資産が少ない場合は、お住まいの市区町村の高齢者福祉の窓口か地域包括支援センターで確認してください。
相続税との関係でいえば、後見にかかった費用は生前に本人の財産から出ていくものなので、その分だけ残る財産が減ります。
相続税がかかるかどうかの分かれ目は基礎控除で、3,000万円+600万円×法定相続人の数です(相続税法15条)。
相続人が3人なら4,800万円になります。
ここを超えなければ申告そのものが不要です。
判定の考え方は相続税の基礎控除と課税の分かれ目で解説しています。
よくある質問
任意後見契約を結んだだけで、毎月の費用はかかりますか
任意後見契約そのものは、家庭裁判所が監督人を選ぶまで効力を持ちません。
そのため、契約しただけの状態では任意後見人への報酬も監督人への報酬も発生しません。
ただし、見守りや財産管理をあわせて委任する移行型にした場合は、その契約に基づく費用が契約直後から始まります。
毎月の支払いが出るかどうかは、任意後見契約の有無ではなく、同時に何を契約したかで決まります。
子どもが任意後見人になれば、費用はかからずに済みますか
任意後見人の報酬は契約で定めるものなので、家族が引き受けて無報酬とすることはできます。
それでも、公正証書を作る契約時の手数料と、発効後の監督人の報酬は残ります。
監督人は家庭裁判所が選び、報酬額も家庭裁判所が決めるため、家族の意向で外すことはできません。
任意後見監督人への報酬は、いつまで払い続けるのですか
契約が終わるまで続きます。
任意後見は本人が亡くなったときに終了するほか、家庭裁判所の許可を得て解除する道もあります。
発効後は本人の判断能力が落ちているため、支払いを止めたいという理由だけで契約をやめることは想定されていません。
契約前の検討では、発効から先が10年以上続く前提で総額を見積もってください。
本人の財産が少なく、報酬が払えなくなったらどうなりますか
報酬は本人の財産から支払われるため、財産が乏しい場合は家庭裁判所がその状況もふまえて額を判断します。
あわせて、市区町村が設けている助成の対象になることもあります。
判断能力が落ちる前の段階であれば、専門職ではなく家族を受任者にする、移行型にせず任意後見契約だけにするといった組み方で、発効までの支出を抑える選択もあります。
どの形が合うかは、本人の財産の状況と、頼める家族がいるかどうかで変わります。
法定後見と任意後見では、かかる費用の中身が違いますか
法定後見は判断能力が落ちてから家庭裁判所に申し立てる制度で、公正証書を作る契約時の費用はかかりません。
その代わり、後見人を選ぶのは家庭裁判所で、専門職が選ばれれば報酬も家庭裁判所が決めます。
任意後見は契約時に費用がかかるかわりに、誰に頼むかと任意後見人への報酬を、本人が元気なうちに自分で決められます。
費用の総額だけでなく、決定権が誰にあるかが違う制度です。
まとめ
任意後見の費用は、公正証書を作る契約時の一時金と、発効後に続く任意後見人・監督人の報酬に分かれます。
前者は法令で決まっていて動かせず、後者は家庭裁判所が決めるため事前に確定できません。
見積書に書かれるのは前者だけのことが多く、総額の判断を誤る原因になります。
負担を抑えたいときに削ってよいのは使わない付随サービスで、代理権目録の中身は削らないでください。
発効の時点では契約のやり直しができず、銀行や施設で権限が足りないと分かっても手遅れになります。
ぜひ本記事の費目の表を手元に置いて、払い先と金額を決める人ごとに、公証役場と家庭裁判所、そして依頼を検討している専門家に確認してください。


