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相続時精算課税のデメリット|暦年課税に戻せない点に注意

相続時精算課税のデメリット|暦年課税に戻せない点に注意

相続時精算課税選択届出書を一度提出すると、その親からの贈与は以後すべてこの制度で計算します。翌年から暦年課税に戻すことはできません。

親が亡くなって相続税の申告書を作る段では、何年も前に受け取った住宅資金や、名義を移した実家の土地を、贈与した当時の価額で相続財産に足し戻します。基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数(相続税法15条/2026年9月時点)なので、足し戻した合計がここを超えれば申告が必要になります。

本記事では、撤回できない範囲・贈与した年の価額で足し戻す仕組み・小規模宅地等の特例が外れる場面・兄弟に説明するときに出す記録を解説します。

相続時精算課税のデメリットは、選び直せない点と足し戻しの計算に集まる

この制度が不利に働くのは、贈与を受けた時点ではなく、そのあとで前提が変わったときです。

親の預金が施設の費用で目減りしても、贈与された土地の価額が下がっても、提出した届出は取り下げられません。

原因は撤回できないという一点だけではなく、相続税を計算するときの足し戻しのルールにもあります。

戻せないのは「その親からの贈与」だけ

選択は贈与者ごとに行います。

父について届出を出したなら、父からの贈与は翌年以降もこの制度で計算し、暦年課税には戻せません。

届出を出したのが父の分だけであれば、母からの贈与は暦年課税のまま続けられます。

祖父母からの贈与も同じく、贈与者ごとに分けて考えます。

どこまでが戻せない範囲なのかを取り違えたまま次の贈与を受けると、申告のしかたも変わってしまいます。

制度の骨組みは相続時精算課税の仕組みで解説しています。

足し戻すのは相続時の価額ではなく、贈与した年の価額

相続税を計算するときは、この制度で受け取った財産を相続財産に加えます。

使う価額は、亡くなった日の時価ではなく贈与した時点の価額です。

値上がりする前に移した財産なら加算額は低いままですが、そのあと値下がりした株や土地は、下がる前の高い価額で課税対象に入ります。

手元にある財産の価値と、税金の計算に使う数字がずれるわけです。

ここは選んだ時期の相場次第で、あとから修正できません。

届出前・届出後・相続開始後で、打てる手が変わる

同じ「相続時精算課税で困っている」でも、段階によってできることは違います。自分がどこにいるかを先に確かめてください。

今の段階できること期限
まだ届出を出していない暦年課税と比べて選べる。不動産を含めるかどうかもここで決める贈与を受けた年の翌年の贈与税の申告期間内
届出を出し、贈与した親は健在その親からの贈与は戻せない。贈与のたびに記録を残し、他の贈与者の分と分けて管理する期限はないが、記録が残っていない年は後から再現できない
贈与した親が亡くなった過去の贈与をすべて洗い出して相続財産に加算し、申告が必要かを判断する相続の開始を知った日の翌日から10か月(相続税法27条)

まだ届出を出していない段階なら、提出の時期そのものが判断材料になります。

遅れたときにどうなるかは選択届出書の提出期限で解説しています。

すでに親が亡くなっている段階では、制度の有利不利を考える余地はありません。

残っているのは、過去の贈与を正確に並べる作業だけです。

親が亡くなったあとに集めるのは、届出書の控えと贈与の記録

兄弟や税理士に話を持っていく前に、自分の側で数字を固めます。

過去の贈与は記憶では通らず、書類で裏づけることになります。

集めるのは次の4点です。

  • 相続時精算課税選択届出書の控え(税務署の受付印があるもの)
  • 贈与を受けた年ごとの贈与税の申告書の控え
  • 贈与契約書と、入金が分かる通帳の記録
  • 不動産があれば、法務局で取る登記事項証明書(甲区で名義と受付年月日を確認します)

控えが手元にないこともあります。

過去に提出した申告書の内容を確認する手続きは税務署にあるため、管轄の税務署に問い合わせてください。

不動産の名義がいつ動いたかは、登記事項証明書を見れば贈与の年と原因が分かります。

届出書の提出先と添付書類は相続時精算課税の届出に必要な書類で解説しています。

集めた記録は、次の項目を横に並べた1枚の年表にしてください。

  • 贈与を受けた年
  • 贈与者(父か母か、祖父母か)
  • 財産の内容
  • 贈与した時点の価額
  • 贈与税の申告をしたか

この年表が相続税の計算の土台になり、そのまま兄弟への説明資料にもなります。口頭で「たしか十年くらい前に」と話し始めると、相手は金額を疑うところから入ることになります。

兄弟に出すのは贈与の年表、税務署に出すのは届出書の控え

相手が変われば、相手が気にしている点も変わります。同じ資料を全員に配るより、相手の関心に合う数字を出すほうが話が進みます。

他の相続人が気にするのは、自分の相続税が増えるかどうか

相続税は、相続人が別々に計算するのではありません。

課税価格の合計から全体の税額を出し、取得した割合に応じて分けます。

この制度で移した財産は合計に加わるので、贈与を受けていない兄弟の負担額も動きます。

「もらったのは自分だけなのに、なぜ兄の税金が増えるのか」という問いに答えられないままだと、話は金額から感情へ移ります。

年表と、加算後の合計が基礎控除を超えるかどうかを先に見せてください。

基礎控除の考え方は相続税がかかる人の範囲で解説しています。

親が健在なら、他の子への贈与も同じ表に載せる

贈与した親が生きているうちにできるのは、記録をそろえることです。

自分の分だけ年表があって他の子の分が残っていないと、あとから確かめる方法がありません。

親に財産の一覧と、これまでに誰へ何を渡したかを書いてもらう形にすると、相続が始まってからの調査が短くなります。

書いておく項目はエンディングノートに書く項目で解説しています。

税理士に渡すのは年表と控え、税務署に聞くのは手続きの確認

税理士に相談するときは、年表と控えの束をまとめて持ち込みます。

贈与時の価額が不明な年があれば、その旨も伝えてください。

税務署の窓口は、制度の説明や申告書の書き方には答えますが、どちらの課税方法が得かという個別の判定はしません。

有利不利の判断まで求めるなら税理士の仕事になります。

頼む場合の費用感は相続時精算課税の手続き費用で解説しています。

相続時精算課税を選ぶと外れる特例と、別にかかる税金

足し戻しのほかに、相続で受け取っていれば使えたはずの扱いが外れます。金額の大きい実家がある家では、ここが相続税額を左右します。

小規模宅地等の特例は、相続で取得した宅地が対象

被相続人が住んでいた宅地は、330平方メートルまで評価額を80%減額できます(租税特別措置法69条の4)。

対象になるのは相続や遺贈で取得した宅地です。

生前の贈与で名義を移していれば、その土地はこの特例から外れます。

実家の土地の評価が高い家では、減額を受けられるかどうかで課税価格が大きく変わるため、名義を動かす前に比べる論点です。

同居していない親族が使うには「家なき子」の要件もあり、適用の可否は住まい方で変わります。

判断は税理士に確認する段階です。

名義を移すときの登録免許税と不動産取得税

不動産を贈与で移すと、法務局に納める登録免許税がかかり、都道府県の不動産取得税もかかります。

相続で取得した場合、不動産取得税はかかりません。

登録免許税の税率も、贈与と相続では同じではありません。

税額は物件の評価額で決まるので、自分の物件の課税明細書を見ながら計算してください。

相続税だけを見て決めると、この2つの負担が抜け落ちます。

税の計算と、遺産分割での扱いは別に進む

相続税の計算で贈与分を足し戻すことと、遺産分割の話し合いでその贈与をどう扱うかは、別の制度の話です。

分割協議では特別受益として考慮の対象になりますが、どこまで持ち戻すかは事案によって変わります。

遺留分を侵害されたという主張には期限があり、相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年で時効になります(民法1048条)。

金額の争いになった段階で弁護士に相談してください。

2024年からは、年ごとの基礎控除が加わった

2024年(令和6年)分の贈与から、相続時精算課税にも年ごとの基礎控除が設けられました。

その範囲内の贈与であれば贈与税の申告が不要で、相続財産への加算もしません。

以前は金額の大小に関わらず申告が必要だったため、古い解説とは扱いが違います。

控除額や適用の始まる年分は改正の対象になりやすい部分なので、国税庁の案内で現行の内容を確認してください。

「翌年から暦年課税に切り替える」では相続時精算課税の計算は変わらない

調べていると出てくる対処のうち、実際には結果が動かないものがあります。

  • 翌年から暦年課税に戻す。その贈与者からの贈与では選べません
  • 贈与を受けたことを申告しないで済ませる。届出書は税務署に残っており、相続時に加算する対象は変わりません
  • 名義を親に戻す。いったん成立した贈与が無かったことにはならず、戻した行為が別の贈与とみなされることがあります
  • 遺産分割で自分の取り分を減らして調整する。割り方を変えても、相続財産に加算する価額は変わりません

動かせるのは、記録の精度と期限の管理です。

贈与時の価額を裏づける資料があるかどうかで、申告書に書ける数字が決まります。

申告期限が近いのに資料が足りない場合は、そろえた分だけ持って早めに税理士へ相談してください。

暦年課税に戻せないことの重さは、税額を並べると分かります。贈与税シミュレーターで同じ金額を暦年課税で渡したときの税額が出ます。

税理士・弁護士・司法書士のどこで渡すか

今の状態渡す先関係する期限
足し戻した合計が基礎控除を超えそう、または超えるか分からない税理士(相続税の申告)相続の開始を知った日の翌日から10か月
兄弟が金額に納得せず、分割協議が止まった弁護士遺留分侵害額請求は知った時から1年
贈与で移した不動産や、他の不動産の名義変更が残っている司法書士相続登記は取得を知った日から3年以内。2024年3月31日までに相続した分は2027年3月31日まで
親が健在で、これから届出を出すか迷っている税理士贈与を受けた年の翌年の贈与税の申告期間内

自治体や税理士会の無料相談は、論点を絞る場としては使えます。ただし時間が限られるので、年表と控えを持って「加算後に基礎控除を超えるかどうか」を聞く形にすると、次にやることが決まります。

よくある質問

相続時精算課税を選んだあとで暦年課税に戻せますか

届出を出した贈与者からの贈与については戻せません。

父の分で選んでいても、母からの贈与は別に判断できます。

贈与者ごとの選択なので、まず誰の分で届出を出したのかを控えで確かめてください。

親が相続時精算課税を使っていたか分からないときはどうしますか

自宅で届出書と贈与税の申告書の控えを探すところから始めます。

見つからない場合、過去の申告内容を確認する手続きは税務署にあるので、管轄の税務署に問い合わせてください。

不動産の名義がいつ、どの原因で動いたかは、法務局で取る登記事項証明書の甲区に記載されています。

相続を放棄すれば、贈与された分の相続税もなくなりますか

なくなりません。

この制度で受け取った財産は相続税の計算に入り、受け取った人に申告と納税の義務が生じます。

放棄の申述は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ行いますが(民法915条)、贈与分の精算は放棄とは切り離して残ります。

借金を引き継ぎたくないという理由で放棄を考えている場合は、税理士と弁護士の両方に条件を確認してください。

足し戻した合計が基礎控除以下なら、申告は不要ですか

加算後の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、相続税の申告そのものが不要です。

ただし配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って税額をゼロにする場合は、申告しないと適用を受けられません。

この制度で納めた贈与税があり、相続税から引き切れない分の還付を受けるときも申告が必要です。

どちらに当たるかは税理士に確認してください。

贈与で名義を移した実家でも、空き家の3,000万円特別控除は使えますか

使えません。

この控除の対象は、相続または遺贈で取得した家屋と敷地です(租税特別措置法35条3項)。

ほかに1981年5月31日以前に建築された家屋であることや、2027年12月31日までの譲渡であることなどの要件もあります。

相続人が3人以上いる場合、2024年1月1日以降の譲渡では1人あたりの控除額が下がります。

売却を視野に入れているなら、名義を動かす前に税理士へ相談してください。

まとめ

相続時精算課税のデメリットは、届出を出した贈与者からの贈与を暦年課税に戻せないことと、贈与した年の価額で相続財産に足し戻すことの2つです。

ここから、小規模宅地等の特例が外れる、贈与を受けていない兄弟の税額も動く、といった影響が広がります。

名義を移すときの登録免許税と不動産取得税も、相続とは扱いが違います。

親が亡くなったあとの段階で動かせるのは、記録の精度と期限の管理だけです。

相続税の申告は相続の開始を知った日の翌日から10か月で、過去の贈与を洗い出す時間もその中に含まれます。

ぜひ本記事の書類の一覧と贈与の年表の項目を参考に、年表を1枚作ったうえで兄弟と税理士に話を持っていってください。

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