遺留分の請求方法|内容証明の送り方と1年の時効に注意

遺留分侵害額請求でまずやるのは、遺産がいくらあるかを調べることではありません。
内容証明郵便で「遺留分を請求します」と相手に伝えることです。
金額が1円も固まっていない段階でも出せます。
期限は、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年です(民法1048条)。
相続開始から10年が過ぎたときも請求できなくなります。
起算日は遺言の中身を知った日なので、葬儀と役所回りで数か月を使うと、財産を調べる時間はそのぶん短くなります。
本記事では、内容証明郵便に書く項目・戸籍や不動産の資料をどこで取るか・相手が応じないときの家庭裁判所の調停まで解説します。
遺留分侵害額請求は5ステップ|1年以内に必要なのは意思表示だけ
遺留分侵害額請求は、家庭裁判所に申し立てるところから始まる手続きではありません。
侵害している相手に直接「請求します」と伝えるのが出発点で、裁判所が出てくるのは話し合いが決裂したときです。
現在は、侵害された分を金銭で支払うよう求める形になっています。
古い解説では遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)という名前で書かれていることがあります。
| 順番 | やること | 1年の期限との関係 |
|---|---|---|
| 1 | 遺言や生前贈与の内容を確認し、誰に請求するかを決める | 期限内に済ませる |
| 2 | 内容証明郵便で遺留分侵害額を請求すると伝える | ここまでを1年以内に行う |
| 3 | 遺産と贈与を調べ、支払ってもらう額を計算する | 1年を過ぎても続けられる |
| 4 | 相手と金額を交渉し、まとまれば合意書を交わす | 1年を過ぎても続けられる |
| 5 | まとまらなければ家庭裁判所に調停を申し立てる | 1年を過ぎても申し立てられる |
金額の計算は1年の中に押し込まなくてよい
1年の期限がかかっているのは、表の2番目までです。
遺留分の額を出すには、不動産の評価、生前贈与の洗い出し、債務の把握が要ります。
相手が資料を出さなければ調査だけで数か月かかります。
それを1年以内に終わらせようとすると、間に合わないまま権利が消えます。
順番を逆にしてください。
先に意思表示を済ませ、金額はあとから詰めます。
内容証明郵便を1年以内に相手へ届けておけば、そのあとの交渉が長引いても、請求する権利そのものは残ります。
時効の数え方と、過ぎてしまった場合の扱いは遺留分侵害額請求の時効は1年で解説しています。
請求相手は遺言や贈与で多く受け取った人
送る先は「他の相続人全員」ではありません。
遺言で財産を受け取った人、生前に贈与を受けた人など、自分の遺留分を実際に侵害している人が相手になります。
相続人ではない第三者や法人が遺贈を受けている場合、その相手にも請求します。
相手が複数いるときは、全員に出してください。
一部にだけ送って1年が過ぎると、送らなかった相手への請求ができなくなります。
そもそも自分に遺留分があるかどうか、兄弟姉妹の立場ではどうなるかは遺留分とは?請求できる人と最低限もらえる割合で解説しています。
内容証明郵便に書く項目と、金額を空欄のまま出す書き方
内容証明郵便は、書いた内容と差し出した日付を郵便局が証明してくれる制度です。
特別な様式は決まっていません。
ただし、あとで「そんな手紙は受け取っていない」「請求されたのは1年を過ぎてからだ」と言われないために、入れておく要素があります。
- 誰の相続についての請求か(亡くなった人の氏名と死亡した日)
- 自分が遺留分を持つ相続人であること(続柄)
- 何によって侵害されたか(遺言書の日付と内容、贈与の時期など)
- 遺留分侵害額を請求するという意思表示
- 差し出した日付、自分の住所氏名、相手の住所氏名
侵害額が分からないときは「侵害額に相当する金銭」と書く
金額を書く欄がないと出せない、ということはありません。
調査が終わっていない段階では、具体的な数字を入れずに「遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求します」という趣旨で書きます。
あとから計算した結果、想定より多かった場合に、先に書いた金額に縛られる事態を避けられます。
逆に、預金の残高証明も取っていない段階で切りのいい数字を書いてしまうと、交渉の出発点がその額になります。金額は、資料がそろってから改めて提示すれば足ります。
字数のルールと、同じ文書を3通用意すること
内容証明は、1行あたりの字数と1枚あたりの行数に決まりがあり、これを外すと窓口で受け付けてもらえません。
縦書きと横書きでも扱いが変わります。
書き始める前に日本郵便の規定を確認してください。
用意するのは同じ文面を3通です。
1通を相手に送り、1通を自分が保管し、残る1通を郵便局が保管します。
2枚以上になるときは、ページのつづり目に契印を押すよう求められます。
配達証明を付けないと、届いた日が残らない
内容証明そのものが証明してくれるのは、その内容の文書を、その日に差し出したという事実です。
相手にいつ届いたかまでは記録されません。
1年の期限が迫っている場面では、到達日が争点になります。
差し出すときに配達証明を追加して、配達された日のはがきを受け取ってください。
この2つはセットで使うものだと考えて構いません。
遺留分の計算に要る書類は、戸籍と財産の資料に分かれる
内容証明を出したあとに始まるのが、額を出すための資料集めです。集める先が窓口ごとにばらばらなので、同時並行で動かしたほうが早く終わります。
戸籍は本籍地の市区町村で取る
自分が相続人であることを示すには、亡くなった人の出生から死亡までの連続した戸籍が要ります。現在の戸籍謄本だけでは足りず、結婚や転籍で前の戸籍が閉じられていれば除籍謄本を、様式が改められていれば改製原戸籍謄本(かいせいげんこせきとうほん)を取ります。
取り寄せ先は、そのときどきの本籍地がある市区町村です。
本籍が遠方でも郵送で請求できます。
定額小為替と返信用封筒、本人確認書類の写しを同封する方式が一般的ですが、必要なものと手数料は市区町村で違うため、請求先の窓口で確認してください。
郵送では往復で日数がかかり、前の本籍地が判明するたびに次の請求をかけることになります。
早めに着手してください。
遺言書は検認を経たものかどうかで扱いが変わる
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、家庭裁判所の検認を受けます。
封がしてあるものを勝手に開けてはいけません。
公正証書遺言と、法務局の自筆証書遺言書保管制度を使ったものは検認が不要です。
公正証書遺言があるかどうかは、公証役場で検索してもらえます。
遺言書の写しは、何によって遺留分が侵害されたかを特定する資料になります。内容証明に遺言の日付を書くためにも、先に中身を確認しておいてください。
不動産は法務局と市区町村の2か所
実家や土地が遺産に含まれているなら、法務局で登記事項証明書を取り、甲区(所有権に関する事項)で名義を確認します。評価のもとになる固定資産評価証明書は、その不動産がある市区町村の窓口です。
遺留分の計算では、この2つの数字をそのまま使うとは限りません。
不動産の評価は当事者の間で争いになりやすい部分で、実勢価格に近い評価を主張する側と、路線価や固定資産税評価額をもとに低く見る側で開きが出ます。
まずは公的な証明書を押さえ、金額の主張はそのあとの段階です。
預貯金と生前贈与は金融機関に照会する
預貯金は、相続人であれば単独で残高証明書を請求できます。
他の相続人の同意は要りません。
亡くなった日時点の残高証明に加えて、過去の取引明細を出してもらうと、生前の出金や贈与の動きをたどれます。
生前贈与は遺留分の計算に取り込まれることがあり、贈与税の申告書や、相続時精算課税を選んでいた場合の届出も手がかりになります。相続時精算課税選択届出書の提出期限で、この制度を使ったときの届出の流れを解説しています。
内容証明は取扱局とe内容証明の2通り|相続税の10か月とも重なる
書き上げた文書は、郵便局の窓口に持ち込むか、パソコンから差し出します。
窓口はすべての郵便局が対応しているわけではありません。
取扱いのない局に持ち込むと、その場で出せずに帰ることになります。
行く前に、その局で内容証明を扱っているかを確認してください。
窓口に持っていくもの
同じ文面の文書を3通、相手に送る分の封筒、それに差出人の印鑑を持参します。
郵便局では文字数と行数、記載内容の形式だけを確認し、請求が正しいかどうかは見ません。
中身の法的な当否は郵便局の仕事ではないと考えてください。
料金は内容証明の加算分と配達証明の加算分が通常の郵便料金に乗る形ですが、郵便料金は改定されるため、日本郵便の現行料金を確認してください。
パソコンから出すe内容証明
日本郵便には電子内容証明サービス(e内容証明)があり、作成した文書ファイルをアップロードして差し出せます。
窓口へ行く時間が取れない場合や、取扱局が近くにない場合の選択肢になります。
利用には事前の登録と、文書ファイルの様式を規定に合わせる作業が必要なので、日本郵便のサイトで手順を確認してください。
1年と10か月、期限が2つ動いている
遺留分の期限だけを見ていると、相続税の申告を落とします。
相続税の申告と納付は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条)。
遺留分の1年より先に来ます。
遺留分の話し合いがまとまっていなくても、申告期限は待ってくれません。
まず遺言の内容どおりに申告し、あとで遺留分の支払いが確定してから修正するという進め方が取られます。
自分に相続税がかかる規模かどうかは、基礎控除が分かれ目です。
相続税は誰にかかる?基礎控除3,600万円が分かれ目になるで解説しています。
この判断と申告書の作成は税理士の仕事なので、遺産の規模が大きいなら、遺留分の交渉と並行して相談先を決めてください。
遺留分の請求が止まるのは、相手の無視と財産の不開示
内容証明を出したあと、素直に金額の話が始まるとは限りません。止まる箇所は、だいたい決まっています。
相手が返事をしないとき
内容証明は、受け取りを拒まれても、あるいは返事が来なくても、1年以内に届けた事実が残っていれば意思表示としての役目を果たします。返事がないからといって、権利が消えるわけではありません。
そのうえで、交渉が進まないなら家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。
調停は相手の住所地を管轄する家庭裁判所か、当事者が合意で決めた家庭裁判所に申し立てるのが原則です。
調停でもまとまらなければ、金銭の支払いを求める訴訟に進みます。
ここから先は弁護士に依頼する段階だと考えてください。
相手の住所が分からないとき
内容証明は相手の住所に送るものなので、住所が分からないと出せません。
相続人であれば、亡くなった人の戸籍をたどって相手の本籍地を割り出し、戸籍の附票を取ることで、その人の住民票上の住所を確認できます。
請求先が疎遠な親族や、面識のない受遺者である場合の入口になります。
相手が遺産の中身を教えないとき
遺言で全部を受け取った側が、遺産の一覧を見せてくれないことがあります。
この場合でも、預貯金は相続人が単独で照会でき、不動産は法務局で登記事項証明書を取れます。
名寄帳(なよせちょう)を市区町村で取れば、その自治体内にある不動産をまとめて確認できます。
支払いを受ける側で問題になるのが、相手に現金がないケースです。
遺産が不動産に偏っていると、金銭で払えと言われても即座には用意できません。
分割払いの取り決めや、不動産を売却して精算する方法が話し合われます。
亡くなった人の預金から当面の資金を出す仕組みについては亡くなった人の預金はいくらまで引き出せる?仮払い制度で解説しています。
遺留分の請求を自分で送るか、弁護士に頼むか
内容証明を出すところまでは、自分でできます。
文面の要素は先に挙げたとおりで、決まった資格も要りません。
1年の期限が目前で、とにかく意思表示だけ先に届けたいという場面なら、自分で書いて窓口に持ち込むのが最短です。
分かれ目は、そのあとの交渉です。次のような状況になったら、自分だけで進めるのは難しくなります。
- 不動産の評価額で主張が食い違い、金額が固まらない
- 相手が資料を出さず、遺産の全体像がつかめない
- 相手に弁護士が付いた
- 調停や訴訟に進む
費用は事務所ごとに違います。
着手金と報酬金をどう計算するか、実費や日当が別にかかるかを、契約前に書面で確認してください。
取り戻せる見込み額に対して費用が見合うかは、依頼する前に弁護士に見通しを聞く場面です。
役割の違いも押さえておいてください。
遺留分の請求と交渉は弁護士、相続税の申告は税理士、不動産の名義変更は司法書士が担当します。
一人にすべてを頼めるわけではないので、遺産の中身に応じて誰に何を渡すかを決めます。
よくある質問
電話やLINEで請求を伝えるだけでは駄目ですか
口頭やメッセージでも意思表示そのものは成立します。
ただし、あとで相手が「聞いていない」と言った場合に、1年以内に請求したことを証明できません。
内容証明郵便と配達証明を使うのは、伝えた内容と届いた日を記録に残すためです。
すでに口頭で伝えてある場合でも、改めて書面で出しておいてください。
遺産の総額が分からないまま内容証明を出しても大丈夫ですか
金額を書かずに、遺留分侵害額に相当する金銭を請求するという趣旨で出せます。
調査が終わっていない段階で数字を入れると、その額が交渉の出発点になります。
額の提示は、預金の残高証明や登記事項証明書がそろってからで構いません。
1年を過ぎてしまったら、もう何もできませんか
相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年で時効にかかります(民法1048条)。
ただし、起算点は「知った時」なので、遺言の存在を最近まで知らなかった場合など、いつを起算日と見るかで結論が変わります。
過ぎたかどうかを自分で判断せず、日付の分かる資料を持って弁護士に相談してください。
兄弟姉妹でも遺留分を請求できますか
亡くなった人の兄弟姉妹には遺留分がありません。
請求できるのは配偶者、子(代襲する孫を含みます)、それに子がいない場合の父母などの直系尊属です。
自分が請求できる立場かどうかは、法定相続人の順位から確認してください。
相続放棄をした人は遺留分を請求できますか
相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものとして扱われるため、遺留分を請求する立場ではなくなります。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述する手続きです(民法915条)。
借金を理由に放棄を考えている場合と、遺留分を請求したい場合は進む道が別なので、どちらを選ぶかは3か月の期間内に決めてください。
まとめ
遺留分侵害額請求は、金額を計算してから動く手続きではありません。
侵害している相手を特定し、1年以内に内容証明郵便と配達証明で意思表示を届けるところまでを先に済ませ、戸籍や不動産の資料集めと金額の交渉はそのあとに回します。
相手が応じなければ家庭裁判所の調停へ進みますが、調停の申立て自体に1年の縛りはかかりません。
同時に、相続税の申告期限が10か月で先に来ます。
遺留分の話し合いが終わっていなくても申告は必要で、確定後に修正する流れになります。
期限が2本並行して動いていることを前提に予定を組んでください。
ぜひ本記事の5ステップの表と、内容証明に書く項目のリストを手元に置いて、まずは相手の住所の確認と文面の作成から始めてください。


