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家族信託の手続きは何から?契約から登記までの流れ

家族信託の手続きは何から?契約から登記までの流れ

家族信託で最初に決めるのは、契約書の文面ではなく、親のどの財産を信託に入れるかです。

実家の土地建物だけにするのか、管理用の預金も一部移すのか。

ここが固まらないと、公証役場にも法務局にも進めません。

手続きそのものは、目的の確認から信託登記までおおよそ6つの工程に分かれます。

契約できるのは親に判断能力があるうちだけなので、認知症の診断が出たあとでは間に合わないこともあります。

本記事では、6工程の流れ・契約前に集める書類と取り寄せ先・公証役場と法務局でやること・信託口口座で止まる理由を解説します。

家族信託の手続きは6ステップ|最初に決めるのは信託する財産

家族信託は、親(委託者)が持っている財産の名義を子(受託者)に移し、その財産から生まれる利益は親(受益者)が受け取る、という形を契約で作る仕組みです。

名義だけを先に子へ動かしておくので、親の判断能力が落ちても実家の売却や修繕が止まりません。

工程で並べると次のようになります。

工程やることどこで
1何を防ぎたいかを決める(実家が売れなくなる、生活費の引き出しが止まる など)家族で
2信託する財産を特定し、委託者・受託者・受益者を決める家族で
3受託者にならない子にも内容を説明する家族で
4契約書の条項を固める(信託の目的、受託者の権限、終了事由、残った財産を誰が引き継ぐか)司法書士・弁護士など
5公証人の面前で契約し、公正証書にする公証役場
6不動産の名義を受託者へ移し、信託の登記を入れる/信託口口座を開く法務局・金融機関

相談の窓口に行くといきなり4から話が始まりますが、実際に止まるのは2と3です。ここが曖昧なまま契約書の案文だけ先に進めると、公証役場の予約を取り直すことになります。

信託する財産は「1つずつ」特定する

信託財産は、包括的に「父の財産すべて」とは書けません。

不動産なら地番と家屋番号、金銭なら金額で特定します。

預金口座そのものを移すのではなく、口座から出した金銭を信託する形をとります。

銀行の預金には譲渡を禁じる特約が付いているためで、通帳の名義がそのまま子に変わるわけではありません。

財産が決まらないうちは、公証人の手数料も登録免許税も計算できません。

どちらも財産の価額をもとに算出するからです。

金融機関に口座開設の相談を持ち込むときも、何をいくら入れるのかを聞かれます。

実家を入れるなら、登記事項証明書の甲区を先に見る

実家を信託財産にするつもりなら、法務局で登記事項証明書を取り、甲区(所有権に関する事項)の名義を確認してください。

親の名義になっていれば、そのまま工程を進められます。

祖父母の名義のままだった場合は、先に相続登記を済ませないと信託の登記ができません。

相続登記は2024年4月1日から義務になり、不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象です。

施行前に相続した不動産も対象で、その分の期限は2027年3月31日とされています。

名義が古いまま残っていたときの進め方は、相続した土地の名義変更で起きるリスクで解説しています。

契約前に集める書類は、市区町村・法務局・金融機関の3か所に分かれる

家族信託で集める書類は、公正証書を作るためのものと、登記のためのものの二重になります。

同じ印鑑登録証明書でも、公証役場に出す分と法務局に出す分で別々に必要になることがあるので、枚数は担当の司法書士に確認してから取りに行くと二度手間になりません。

有効期限が決められている書類もあります。

戸籍謄本・住民票は本籍地と住所地の市区町村

親と受託者になる子の関係を示すために、戸籍謄本と住民票を用意します。

戸籍謄本は本籍地の市区町村、住民票は住所地の市区町村です。

本籍地が遠方なら郵送でも請求できますが、定額小為替の手配と往復の郵送で日数がかかります。

親の本籍がどこにあるか分からない場合は、住民票を「本籍地記載あり」で取ると確認できます。

実印と印鑑登録証明書

信託契約は公正証書にするため、委託者と受託者の双方が実印と印鑑登録証明書を用意します。

印鑑登録をしていなければ、住所地の市区町村で登録するところから始めてください。

登録には本人確認書類が要り、代理人が申請すると照会書の郵送を挟むぶん日数が延びます。

親が施設に入っていて外出が難しいときは、この工程を先に片づけておくと後が楽です。

登記事項証明書と固定資産評価証明書

不動産を信託財産にするなら、登記事項証明書を法務局で、固定資産評価証明書を不動産の所在地の市区町村で取得します。

評価証明書は公証人手数料と登録免許税の計算に使う書類で、価額が分からないと見積もりが出ません。

手数料と請求方法は改定されることがあるため、法務局と市区町村の現行の案内で確認してください。

マンションなら敷地権の表示、土地が複数筆に分かれている実家なら全筆分が要ります。一筆でも漏れると、その土地だけ信託から外れたままになります。

公証役場と法務局で進める家族信託の手続き|始める時期は親の判断能力で決まる

書類がそろったら、公証役場と法務局の2か所を回ります。

順番は公証役場が先です。

公正証書になった契約書を添えて登記を申請する流れになるためです。

公証役場では、公証人が親の意思を直接確かめる

公正証書にするかどうかは法律上の義務ではありません。

それでも多くの契約で公正証書が選ばれるのは、公証人が委託者本人に会って意思を確認した記録が残るからです。

あとから他の相続人に「無理やり書かせたのではないか」と言われたとき、その場に第三者の確認があったかどうかで話が変わります。

信託口口座の開設条件として公正証書を求める金融機関もあります。

当日は委託者と受託者の双方が公証役場へ出向き、公証人が契約内容を読み上げて署名押印します。

親が入院中や施設入所中で外出できない場合、公証人が出張する扱いを取れることがあります。

可否と条件は公証役場ごとに違うので、案文を持ち込む段階で相談してください。

手数料は信託財産の価額で変わります。

法務局では、所有権移転と信託の登記を同時に申請する

不動産を信託財産に入れたら、その不動産を管轄する法務局に登記を申請します。

申請するのは「信託を原因とする所有権移転登記」と「信託の登記」の2つで、まとめて1件の申請として出します。

登記が終わると甲区の所有者欄が受託者の名前になり、信託目録という別欄に信託の目的・受益者・受託者の権限が記録されます。

登記簿の見た目は子が所有者になった形ですが、税務上の持ち主は受益者である親のままです。

この移転に贈与税はかかりません。

ただし登録免許税は必要で、税率は土地と建物で異なります。

金額の確認は法務局か、依頼する司法書士にしてください。

契約できるのは、親に判断能力があるうちだけ

家族信託そのものに法定の期限はありません。

代わりに、親の意思能力という事実上の締め切りがあります。

契約は親と子の合意で成り立つものなので、親が契約の意味を理解できない状態になると結べません。

認知症の診断が出ていても、症状の程度によって公証人が意思を確認できることはあります。

そこを判断するのは医師の診断書と公証人の面談であって、家族の見立てではありません。

判断能力が失われたあとに残る選択肢は成年後見制度で、家庭裁判所が後見人を選び、実家の売却には裁判所の許可が要ります。口座凍結との関係は認知症で口座が凍結される前にできる備えで解説しています。

家族信託の手続きが止まるのは、信託口口座と抵当権のところ

契約書まで進んだのに動かなくなる場面には、だいたい決まった型があります。多いのは金融機関がらみです。

信託口口座は、契約書を固める前に銀行へ相談する

受託者には、信託財産を自分の財産と分けて管理する義務があります(分別管理義務)。

金銭を信託するなら、受託者個人の口座とは別の「信託口口座」を使うのが基本です。

この口座を扱っている金融機関は限られており、開設にあたって契約書の案文を事前に審査するところもあります。

順番を逆にすると手戻りが出ます。

公正証書を作ってから銀行へ持ち込み、条項の書き方が合わないと言われれば、公正証書を作り直すことになります。

財産に金銭を入れるなら、契約書の条項を固める段階で取引先の金融機関に相談しておいてください。

住宅ローンが残っている実家は、金融機関の承諾が要る

抵当権が付いたままの不動産を信託すると、所有者が受託者に変わります。

多くのローン契約では、担保物件の所有権を動かすときに金融機関の承諾を求める条項が入っています。

無断で登記を入れると契約違反になり、一括返済を求められることがあります。

残債があるなら、借入先に信託の予定を伝えて手順を確認するのが先です。

農地を信託財産に入れる場合も、農地法の手続きが絡んで実務上は簡単に進みません。実家に畑や田が付いているときは、その分を信託から外す判断も含めて専門家と詰めてください。

受託者にならない子に伝えていないと、あとで話がこじれる

信託契約は委託者と受託者の二者で結べます。

他の兄弟の同意は、法律上は要りません。

ただ、親が亡くなったあとに登記簿を見て「いつのまにか実家の名義が兄になっていた」と知ると、説明からやり直しになります。

信託は遺留分の問題を消すものでもありません。

工程3で説明の場を作るときは、口頭の説明だけで終わらせず、信託する財産の一覧と、親が亡くなったあとに残った財産を誰が引き継ぐかを紙にして配ると話が早く進みます。

なお、家族信託を組まないほうが話が単純に済むケースもあります。

家族信託が向かないケースで解説しています。

契約書を自分で作るか、司法書士に頼むか

信託契約書の作成に資格は要りません。

親子で作った契約書でも、公証役場で公正証書にできます。

登記の申請も本人申請が認められています。

それでも自力で完結させる人が少ないのは、契約書の条項が登記と金融機関の両方に直結しているからです。

自分で進めやすいのは、財産の洗い出しと書類の取り寄せ、家族への説明です。ここは外注しても結局は本人が動くところで、事前に片づけておくほど専門家に払う時間が短くなります。

専門家に渡したほうがよいのは、次のような部分です。

  • 受託者の権限をどこまで書くか(売却、賃貸、建て替え、借入の可否)
  • 信託が終わる事由と、残った財産を誰が引き継ぐかの定め
  • 受益者が亡くなったあとに次の受益者を置く設計
  • 信託目録に載せる内容と、登記申請書の作成
  • 受託者に発生する帳簿の作成と、税務署への信託計算書の提出

とくに最後の2つは、契約の後もずっと続く作業です。

受託者は信託財産の収支を記録し、受益者に報告する義務を負います。

一定の収益がある信託では、受託者が税務署へ信託計算書を出します。

契約して終わりではなく、毎年やることが残る仕組みだと理解したうえで引き受けてください。

費用は、信託財産の価額と、不動産を入れるかどうかでほぼ決まります。

内訳の考え方は家族信託の初期費用と毎年かかる費用で解説しています。

依頼先を銀行の信託商品にするか司法書士や弁護士にするかでも中身が変わるので、銀行と司法書士の違いとあわせて比べてください。

よくある質問

家族信託の手続きはどれくらいの期間がかかりますか

期間を決めるのは、家族の合意にかかる時間と、金融機関の審査です。

財産の洗い出しと兄弟への説明が長引けば、そのぶん全体が延びます。

公証役場は予約制で、信託口口座を開く金融機関が契約書の案文を確認する場合は、その往復も加わります。

逆に、信託する財産が実家1件だけで受託者も決まっているなら、書類の取り寄せから登記までは比較的短く収まります。

親が認知症と診断されたあとでも契約できますか

診断名だけで一律に不可とはなりません。

判断されるのは、契約の内容を理解し、自分の意思で結べる状態かどうかです。

公証人が本人と面談して確認し、医師の診断書を求められることもあります。

理解が難しい段階まで進んでいれば契約はできず、その場合に使えるのは成年後見制度になります。

信託契約書は公正証書にしないといけませんか

法律上の義務ではなく、当事者の署名押印だけの契約書でも成立します。

ただし公正証書を条件に信託口口座を開設する金融機関があり、あとから契約の有効性を疑われたときに公証人の確認記録が残るという違いもあります。

実家を信託財産に入れて長く運用するなら、公正証書にしない理由のほうを検討することになります。

信託した実家の固定資産税は誰に請求されますか

登記上の所有者が受託者に変わるため、納税通知書は受託者あてに届きます。

実際の負担は受託者個人の財布からではなく、信託した金銭から支払う形にするのが一般的です。

信託財産に金銭をいくら入れるかを決めるときは、固定資産税の年額と、実家の修繕や火災保険の支払いを見込んでおいてください。

家族信託をすると相続税は安くなりますか

家族信託は節税の仕組みではありません。

受益者が親のままなら、税務上の財産も親のものとして扱われ、親が亡くなれば信託財産も相続税の課税対象に入ります。

基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、相続人が3人なら4,800万円です。

課税されるかどうかの考え方は基礎控除で決まる相続税の分かれ目で解説しています。

受託者になった子は、ほかの兄弟に報告する義務がありますか

法律上、受託者が報告する相手は受益者です。

受託者以外の子が受益者でなければ、その子に対する報告義務は当然には生じません。

ただし契約書で報告先を広げることはできます。

あとから不信を招きたくないなら、年1回の収支報告を兄弟にも共有すると定めておく方法があります。

まとめ

家族信託は、契約書の文面より先に、どの財産を入れるかと誰が受託者になるかで進み方が決まります。

実家を入れるなら登記事項証明書の甲区で名義を確かめ、金銭を入れるなら契約書を固める前に金融機関へ相談してください。

公証役場と法務局はその後です。

そして、契約を結べるのは親に判断能力があるうちだけです。

話を切り出すタイミングを計っているあいだに、選べる手段が成年後見だけになることもあります。

ぜひ本記事の6ステップの表と、市区町村・法務局・金融機関に分かれた書類の一覧を手元に置いて、まずは実家の登記事項証明書を取るところから動いてみてください。

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