相続財産清算人の選任|申立てから完了までの手順を解説

亡くなった人に相続人が一人もいないとき、その預金も不動産も、誰かが家庭裁判所に申し立てない限り動きません。動かす役目を担うのが相続財産清算人で、申立先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
申立てそのものにかかるのは収入印紙800円分と連絡用の郵便切手、そして官報公告料5,582円です(裁判所「相続財産清算人の選任」/2026年9月時点)。
これとは別に、財産の管理費用が足りないと見込まれる場合は予納金を求められます。
本記事では、申立てから国庫帰属までの段階・集める戸籍と取り寄せ先・予納金で手続きが止まる場面を解説します。
相続財産清算人の流れは、申立て・選任・公告・清算・国庫帰属の順に進む
この手続きは、申立人が書類を揃えるところから始まり、最後は残った財産が国庫に入って終わります。
途中から関わることはできず、誰かが家庭裁判所に申し立てるまで、財産は宙に浮いたままです。
全体の並びは次のとおりです。
| 段階 | やること | 動く人 |
|---|---|---|
| 1. 準備 | 戸籍と財産の資料を集め、申立書を作る | 申立人 |
| 2. 申立て | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所へ提出する | 申立人 |
| 3. 審理・選任 | 相続人がいないかどうかを確認し、清算人を選ぶ | 家庭裁判所 |
| 4. 公告 | 清算人が選ばれたことと、相続人がいれば申し出るよう知らせる | 家庭裁判所 |
| 5. 清算 | 財産を調べて換価し、債権者や受遺者へ支払う | 相続財産清算人 |
| 6. 特別縁故者への分与 | 療養看護に努めた人などが分与を申し立てる | 特別縁故者(とくべつえんこしゃ) |
| 7. 国庫帰属 | 残った財産を国に引き継ぐ | 相続財産清算人 |
読んでおいてほしいのは、4の公告が終わるまで5より先へ進めないという点です。
公告は相続人を探すための手続きなので、期間が満了しないうちに財産を分配することはできません。
申立てを出したその月に債権を回収できる手続きではない、という前提で動いてください。
財産が国庫に入るまでの全体像は相続人がいないとどうなるかで解説しています。
最初に確かめるのは、自分が申し立てられる立場かどうか
申立てができるのは利害関係人または検察官です。
利害関係人には、被相続人にお金を貸していた債権者、遺言で特定の財産を受け取ることになっていた人(特定遺贈を受けた人)、身の回りの世話をしてきた特別縁故者などが含まれます。
何となく関係があるというだけでは足りず、申立書には自分がどういう立場なのかを示す資料を添えます。
もう一点、申立てが必要になる場面は「相続人がいない」ときだけではありません。
相続人の存在も不存在もはっきりしないとき、そして相続人全員が相続放棄をして結果的に引き受け手がいなくなったときも対象です。
放棄をした人がいる場合は、放棄が受理された日付と、順位が下の親族まで放棄が及んでいるかを先に確かめてください。
まだ放棄していない兄弟姉妹が残っていれば、その人が相続人であり、清算人の出番にはなりません。
申立てに要る戸籍は、出生から死亡までを切れ目なく揃える
家庭裁判所は、提出された戸籍だけを見て「相続人がいない」と判断します。
そのため書類の中心は財産の資料ではなく戸籍です。
ここで抜けがあると、追加提出を求められて選任が先に延びます。
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本
死亡が記載された戸籍だけでは足りません。
生まれてから亡くなるまでの記録をつなげて、子がいないこと、いたとしても既に亡くなっていることを示します。
婚姻や転籍のたびに戸籍は作り直されているため、1通で済むことはまずありません。
取り寄せ先は本籍地の市区町村役場です。
古い戸籍は手書きのものもあり、前の本籍地をたどって順に請求していきます。
本籍地が遠方なら郵送で請求できます。
申請書・本人確認書類の写し・定額小為替・返信用封筒を同封する方式が一般的で、往復の郵便と役所の処理でそれなりの日数がかかります。
手数料の額と必要書類は自治体で扱いが違うので、請求先の市区町村のホームページで確認してください。
相続人にあたる人がいないことを示す戸籍
相続の順位は、第1順位が子、いなければ第2順位の父母などの直系尊属、それもいなければ第3順位の兄弟姉妹です。
第3順位まで誰もいないことを示すには、被相続人の父母の出生から死亡までの戸籍と、兄弟姉妹それぞれの戸籍が要ります。
兄弟姉妹が先に亡くなっていれば、その子(甥・姪)まで確認します。
相続人がいないことの証明は、いることの証明より枚数が増えると考えておいてください。
財産の資料と、自分の利害関係を示す資料
財産の側で用意するのは、不動産があれば法務局で取る登記事項証明書、預貯金があれば金融機関の残高証明書です。
固定資産税の納税通知書や評価証明書も財産の内容を示す資料として使えます。
これらは清算人が管理する対象を裁判所に示すためのもので、予納金の要否を判断する材料にもなります。
自分の立場を示す資料は、債権者なら金銭消費貸借契約書や請求書の控え、賃貸人なら賃貸借契約書、特定遺贈を受けた人なら遺言書です。
自筆証書遺言を持っている場合、封をしたまま家庭裁判所の検認を受けてから使います。
公正証書遺言と、法務局の保管制度を使った自筆証書遺言なら検認は要りません。
申立先は最後の住所地の家庭裁判所|相続財産清算人の費用と申し立てる時期
提出先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
申立人の住所地ではないため、遠方に住んでいた親族の件では、自分の生活圏から離れた裁判所へ出すことになります。
郵送での提出を受け付けているか、窓口の開いている時間帯はどうかは、管轄の家庭裁判所に電話で確認するのが確実です。
裁判所の窓口は平日のみの取り扱いです。
申立ての費用は次のとおりです(裁判所「相続財産清算人の選任」/2026年9月時点)。
| 費目 | 金額 | 納めるタイミング |
|---|---|---|
| 収入印紙 | 800円分 | 申立て時 |
| 連絡用の郵便切手 | 家庭裁判所ごとに異なる | 申立て時 |
| 官報公告料 | 5,582円 | 家庭裁判所の指示があってから |
| 予納金 | 家庭裁判所が事案ごとに決める | 指示があってから |
切手は組み合わせと枚数まで指定されることがあり、裁判所によって内訳が違います。申立書の用紙を取り寄せるときに、切手の内訳も一緒に聞いておくと二度手間になりません。
申立てに期限はないが、他の手続きの期限が先に来る
相続財産清算人の選任申立てには、相続放棄のような何か月以内という期限はありません。
ただし、周辺の手続きには期限があります。
相続放棄と限定承認は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述します。
起算日は亡くなった日ではありません。
この3か月を過ぎてから「やはり放棄したい」と言っても間に合わないため、自分が相続人の立場でもある場合は、清算人の話より先に放棄の期限を確かめてください。
不動産がからむ場合は相続登記の義務も関係します。
取得を知った日から3年以内に登記申請をする義務があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です。
2024年4月1日より前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年3月31日です。
相続人がいない不動産は清算人が選任されないと処分も登記も進まないので、放置すると名義が動かないまま年数だけが過ぎていきます。
相続財産清算人の手続きが止まるのは、予納金と戸籍の2か所
申立てそのものは書類を出せば済みます。実際に足踏みするのは、その前後にある2つの関門です。
予納金の額は裁判所が決めるので、事前に読めない
清算人が財産を管理し、公告を出し、換価して分配するまでには実費と報酬がかかります。
相続財産からその費用をまかなえないと見込まれるとき、家庭裁判所は申立人に相当額を予納金として納めるよう求めます。
全国一律の額はなく、財産の内容と手間の見込みから事案ごとに決まります。
インターネット上で見かける金額はあくまで他の事案のもので、自分の件に当てはめられません。
納めた予納金は、清算の過程で相続財産から費用をまかなえた分だけ戻ることがあります。
返ってくる保証があるお金ではないので、回収したい債権額と予納金の見込みを並べて、申し立てる意味があるかを考える場面になります。
金額の決まり方は相続財産清算人の費用と予納金で、負担しきれないときの考え方は予納金が払えないときの選択肢で解説しています。
古い戸籍が追えないと、申立書が出せない
転籍を何度も繰り返している人、戦前に生まれた人、本籍地が市町村合併で変わっている人の戸籍は、一本につながるまで時間がかかります。
請求してみて初めて「前の本籍地は別の県だった」と分かることも起こります。
郵送請求を重ねると、それだけで数週間から数か月が過ぎていきます。
もう一つ詰まりやすいのが、自分の利害関係をどう示すかです。
口約束で貸したお金や、長年の付き合いだけでは資料になりません。
振込の記録、契約書、請求書の控えなど、形に残っているものを先に探してください。
資料が薄いまま出すと、裁判所から補正を求められて選任が遅れます。
申立書は自分でも作れる。弁護士や司法書士に渡す境目はどこか
申立書の書式は家庭裁判所で配布されており、記入して戸籍と資料を添えれば提出できます。
書くのは被相続人の氏名・本籍・最後の住所、申立ての理由、財産の概要、そして自分が利害関係人である理由です。
財産目録は集めた残高証明書や登記事項証明書の内容を写していく形なので、資料さえ揃えば書けます。
ここまでを自分でやれば、費用は印紙代と戸籍の手数料、郵送代に収まります。
専門家に渡したほうがよいのは、戸籍を自力で追いきれなくなったときです。
相続人の不存在を示す戸籍は第3順位まで及び、甥や姪の代まで確認が要ります。
職務上請求ができる弁護士や司法書士に頼めば、この収集をまとめて任せられます。
債権者として申し立てる場合、債権額の整理や回収見込みの判断も含めて相談する価値があります。
報酬の額は事務所ごとに違うため、依頼する前に見積もりを取ってください。
予納金は裁判所へ納めるお金で、専門家への報酬とは別に用意します。
両方を合わせても回収したい額に届かないなら、申し立てないという判断もあります。
なお、自分が亡くなったあとに同じ手続きを誰かに背負わせないためには、財産の在りかを書き残しておくことが効きます。
書き方はエンディングノートに書く項目で解説しています。
よくある質問
相続人が全員相続放棄した場合も、相続財産清算人を申し立てられますか
申し立てられます。
相続人全員が放棄して引き受け手がいなくなった状態も、この手続きの対象に含まれます。
申立てには、放棄が受理されたことを示す書類を添えて、相続人が残っていないことを裁判所に示します。
順位が下の親族まで放棄が及んでいるかは、申立ての前に確認してください。
申立てにかかる費用の総額はいくらですか
収入印紙800円分、連絡用の郵便切手、官報公告料5,582円が基本です(裁判所「相続財産清算人の選任」/2026年9月時点)。
これに戸籍謄本や登記事項証明書の取得手数料と郵送代が加わります。
予納金を求められた場合は別途で、金額は家庭裁判所が事案ごとに決めます。
予納金は戻ってきますか
相続財産から清算の費用をまかなえた場合、納めた予納金が戻ることがあります。
ただし財産が乏しければ費用に充てられて戻りません。
額も返還の見込みも家庭裁判所の判断によるので、申立先の裁判所に確認してください。
申立先はどこの家庭裁判所になりますか
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
申立人の住所地ではありません。
最後の住所は住民票の除票で確認できます。
遠方の裁判所になる場合は、郵送提出を受け付けているかを先に問い合わせてください。
相続財産清算人が選ばれたら、すぐに債権を回収できますか
できません。
選任後はまず公告が出され、相続人の申し出を待つ期間があります。
その期間が終わってから、清算人が財産を調べて換価し、債権者や受遺者への支払いに進みます。
選任の審判が出た時点で入金があるわけではないという前提で、資金繰りを考えてください。
まとめ
相続財産清算人の手続きは、申立人が戸籍を揃えるところが実質的な出発点で、ここに一番時間がかかります。
申立先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所、費用は印紙800円分と切手、官報公告料5,582円、そして裁判所が定める予納金です。
選任されてからも公告の期間があるため、すぐに財産が動く手続きではありません。
自分が相続人の立場も兼ねているなら、放棄の3か月という期限のほうが先に来ます。ぜひ本記事の流れの表と費用の一覧を照らし合わせて、まずは被相続人の最後の住所地と、管轄する家庭裁判所の窓口を確認してください。


