相続人がいないとどうなる?財産が国庫に入るまでの流れ

銀行の窓口で「相続人の方の署名をいただかないと解約できません」と言われても、その相続人が一人もいないことがあります。亡くなった人に配偶者も子もおらず、両親はすでに亡くなり、兄弟姉妹もいないという場合です。
この状態でも、預金や実家が自動的に国のものになるわけではありません。
家庭裁判所が相続財産清算人を選ぶまで、財産は亡くなった人の名義のまま止まります。
申立ての実費は収入印紙800円と官報公告料5,582円で、別に家庭裁判所が決める予納金もかかります(裁判所「相続財産清算人の選任」/2026年9月時点)。
本記事では、相続人がいないと判断されるまでの戸籍の範囲・申立てができる人と費用・国庫に入るまでの順番を解説します。
相続人がいない財産は、相続財産清算人が選ばれるまで動かせません
相続人がいない財産は、亡くなった日に国のものになるわけではありません。
預金口座は死亡が銀行に伝わった時点で凍結され、実家の登記名義も亡くなった人のまま残ります。
国庫に入るのは、借金や未払金の支払いを済ませ、財産を受け取る資格のある人がいないと確定した、いちばん最後の段階です。
その間の財産を管理して清算するのが、家庭裁判所に選ばれた相続財産清算人です。
財産の内容を調べ、必要があれば不動産を売り、債権者へ支払い、残った分を国庫へ引き継ぎます。
逆に言えば、この人が選ばれるまでは、家賃を回収したい大家も、利用料の未払分がある介護施設も、請求する相手そのものがいない状態に置かれます。
選任の申立ては、誰かに義務づけられた手続きではありません。
申し立てなかったことへの罰則もないのです。
そのため、困っている人が自分で動かない限り、財産は何年でも止まったままになります。
実家が残っていれば、その間も建物は傷み続け、庭木は伸び続けます。
ここで先に確かめておきたいのは、本当に相続人が一人もいないのかどうかです。
一人でも見つかれば、清算人の手続きは不要になり、通常の相続へ戻ります。
出発点は戸籍の確認になります。
「相続人がいない」といえるのは、兄弟姉妹まで戸籍で追ってゼロだったときです
法定相続人の範囲は民法で決まっていて、順番があります。配偶者は常に相続人になり、それ以外は次の順位で決まります。
| 立場 | 誰が相続人になるか | 注意点 |
|---|---|---|
| 常に相続人 | 配偶者 | 婚姻届を出していない相手は法定相続人になりません |
| 第1順位 | 子 | 子がいれば第2順位以下には移りません |
| 第2順位 | 直系尊属(父母・祖父母) | 子がいない場合に相続人になります |
| 第3順位 | 兄弟姉妹 | 子も直系尊属もいない場合に相続人になります |
この順位を最後までたどってゼロだったときに、はじめて相続人不存在として扱われます(民法887条〜890条)。親族づきあいが薄いから、長年連絡を取っていないから、という理由では相続人がいないことになりません。
出生から死亡までの戸籍をつなげて確認する
相続人がいるかどうかは、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍をすべて集めて判断します。
戸籍は本籍地の市区町村で取り寄せ、結婚や転籍で本籍が動いていれば、前の本籍地にも請求します。
ここで、前の配偶者との間に子がいることや、認知した子がいることが分かる場合もあります。
相続人が見つかれば、話は清算人ではなく通常の相続へ切り替わります。
その場合に課税されるかどうかの分かれ目は基礎控除で、3,000万円+600万円×法定相続人の数です。
計算の考え方は相続税の基礎控除と課税の分かれ目で解説しています。
長年連れ添っていても、婚姻届がなければ相続人にはならない
内縁のパートナーや事実婚の相手は、何十年一緒に暮らしていても法定相続人に含まれません。
同じように、亡くなった人の療養看護に努めた親族以外の人も、そのままでは財産を受け取れないのです。
こうした立場の人が財産の分与を求める道が、後述する特別縁故者としての申立てになります。
相続財産清算人の選任を申し立てられるのは、利害関係人と検察官です
家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てられる人は決まっていて、利害関係人または検察官です(裁判所「相続財産清算人の選任」/2026年9月時点)。利害関係人にあたるのは、次のような立場の人です。
- 被相続人にお金を貸していた債権者
- 遺言で特定の財産を譲り受けた人(特定遺贈を受けた人)
- 特別縁故者として財産の分与を求めたい人
「近所に住んでいて困っている」「親しくしていた友人だった」というだけでは申立人になりません。
利害関係があるかどうかは、申立書と添付資料をもとに家庭裁判所が判断します。
誰が特別縁故者にあたるかも、最終的には家庭裁判所の判断になります。
申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
本籍地でも、申立人の住所地でもありません。
住んでいた市区町村は住民票の除票で確認できます。
施設に入所していた期間が長い場合は、住民票をどこに置いていたかで管轄が変わるため、先に確認しておくと二度手間になりません。
なお、誰も申し立てない限り手続きは始まりません。
相続人がいない家の隣で落ち葉や倒壊に困っている、という状況でも、隣人は申立人になれないのが原則です。
その場合の相談先は家庭裁判所ではなく、空き家の担当窓口を置いている市区町村になります。
申立ての実費は収入印紙800円と官報公告料5,582円です
申立てそのものにかかる実費は、それほど大きな額ではありません。内訳は次のとおりです。
| 費目 | 金額 | 納めるタイミング |
|---|---|---|
| 収入印紙 | 800円 | 申立て時 |
| 連絡用の郵便切手 | 家庭裁判所ごとに異なります | 申立て時 |
| 官報公告料 | 5,582円 | 家庭裁判所の指示があってから |
| 予納金 | 家庭裁判所が事案ごとに決めます | 家庭裁判所の指示があってから |
金額は裁判所「相続財産清算人の選任」の案内によるもので、2026年9月時点の内容です。
郵便切手は申立先ごとに組み合わせと枚数が違うため、書類をそろえる前に管轄の家庭裁判所へ確認してください。
官報公告料は申立て時にまとめて払うのではなく、受理されて手続きが進む段階で指示があります。
ここまでは印紙代と切手代の世界で、負担として意識されるのは次に述べる予納金のほうです。
申立てを司法書士や弁護士に依頼すれば、その報酬も別にかかります。
費目ごとの整理は相続財産清算人の費用と予納金の内訳で解説しています。
相続財産清算人の予納金に一律の相場はありません
予納金は、選ばれた清算人が財産を管理し、報酬を受け取るための原資です。
本来これらは亡くなった人の財産から支払われます。
ところが、財産が売れるあてのない土地と古家だけで、手元の現金がほとんど無いという場合、当面の費用をまかなえません。
そのときに、申立人が相当額をあらかじめ納めるよう求められます。
金額は家庭裁判所が事案ごとに決めるもので、全国一律の額はありません。
ネット上で見かける「いくらくらい」という数字も、事案が違えば当てはまらないのです。
知りたい場合は、申立先の家庭裁判所に、想定される財産の内容を伝えたうえで確認するのが唯一の方法になります。
納めた予納金は、手続きの中で財産から費用をまかなえた場合、精算のうえ戻ってくることがあります。
ただし、財産が予想より少なければ戻らない部分も出ます。
回収したい債権の額と、納める予納金の見込みを並べて、申立てに踏み切るかどうかを判断する場面になります。
資金の当てがないときの考え方は予納金が払えないときの相続財産清算人の費用の考え方で解説しています。
相続財産清算人が選ばれてから国庫に入るまでの順番
選任されて終わりではありません。清算人は、家庭裁判所の監督のもとで次の段取りを踏みます。
| 段階 | 行われること |
|---|---|
| 選任 | 家庭裁判所が相続財産清算人を選び、選任されたことを官報で公告します |
| 相続人の捜索 | 相続人がいるなら名乗り出るよう、期間を定めて公告します |
| 債権者・受遺者への呼びかけ | 請求がある人に申し出るよう公告し、財産の内容を調べます |
| 清算 | 必要に応じて不動産などを換価し、債権者へ支払います |
| 特別縁故者への分与 | 申立てがあれば、家庭裁判所が分与するかどうかと額を判断します |
| 国庫への引継ぎ | 残った財産を国庫へ引き継ぎ、手続きが終わります |
公告を重ねるため、申立てた月に終わる手続きではない
各段階で官報に公告を出し、名乗り出る人を待つ期間を置きます。
そのため、申立てから国庫への引継ぎまでには相応の時間がかかります。
とくに財産に不動産が含まれていると、買い手が付くまで清算が進みません。
売りにくい土地ほど長引くという関係になります。
この間、申立人ができることは限られます。
清算人が決まれば、未払金の請求先はその人になります。
申立てから完了までに提出する書類と、途中で申立人が求められる対応は相続財産清算人の選任申立てから完了までの手順で解説しています。
相続人全員が3か月以内に放棄した場合も、相続人不存在として扱われます
戸籍上は相続人がいるのに、誰も相続しないという結果になることもあります。
借金のほうが多い、遠方の実家を引き取れない、といった理由で全員が相続放棄をした場合です。
第1順位の子が放棄すれば権利は第2順位へ、第2順位も放棄すれば第3順位の兄弟姉妹へと移り、最後の一人まで放棄すると相続人がいない状態になります。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述します(民法915条)。
起算日は亡くなった日ではありません。
先順位の相続人が放棄したことで自分に権利が回ってきた人の場合、その事実を知った時から数えます。
間に合わないときは、期間内であれば家庭裁判所に伸長を申し立てられます。
数え方と伸長の申立ては相続放棄の3か月の期限と期間伸長の申立てで解説しています。
気をつけたいのは、遺産分割の話し合いで「自分は何もいらない」と決めることと、相続放棄がまったく別物だという点です。
話し合いで取り分をゼロにしても、借金は法定相続分どおりに残ります。
債務を引き継ぎたくないなら、家庭裁判所への申述が要ります。
なお、相続放棄をしても、お墓や仏壇を引き継ぐ祭祀承継者にはなれます(民法897条)。
祭祀財産は相続財産とは別に扱われるためです。
財産は放棄するけれど墓は自分が見る、という組み合わせは成り立ちます。
相続財産清算人を立てないまま実家を放置したときに起きること
全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%で過去最高になっています(総務省 住宅・土地統計調査/2023年時点)。相続人がいない家や、全員が放棄した家も、この中に含まれます。
管理不全空家に指定され、勧告を受けてから特例が外れる
放置しただけで固定資産税がいきなり跳ね上がるわけではありません。
倒壊のおそれや衛生上の問題があると市区町村が判断すると特定空家に、そうなるおそれがある状態だと管理不全空家に指定されます。
そのうえで勧告を受けると、住宅用地の特例(6分の1)が外れます。
指定と勧告という段階を踏む仕組みです。
建物は人が住まなくなると傷みが早まります。
清算人が選ばれたころには雨漏りが進んでいて、売却価格が下がっていることもあります。
売れる状態のうちに動いたほうが、債権者が回収できる額も、国庫に入る額も大きくなるという関係にあります。
相続人が見つかった場合は、3年以内の相続登記が義務になる
戸籍を追った結果、相続人が見つかることもあります。
その場合、不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をする義務があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です(不動産登記法76条の2、2024年4月1日施行)。
2024年4月より前に相続した不動産も対象で、その期限は2027年3月31日です。
登記にかかる費用の内訳は相続登記の登録免許税と司法書士報酬で解説しています。引き取ったものの住む予定がない家については、売却や賃貸の相手を探す窓口として空き家バンクの登録条件と使い方もあります。
よくある質問
相続人がいない財産は、いつ国のものになりますか
亡くなった時点ではありません。
家庭裁判所が相続財産清算人を選び、公告を経て相続人がいないと確定し、債権者への支払いと特別縁故者への分与が終わったあとに、残った財産が国庫へ引き継がれます。
誰も選任を申し立てなければ、この流れは始まらないままです。
予納金は戻ってきますか
手続きの中で相続財産から費用をまかなえた場合、精算のうえ戻ることがあります。
財産が想定より少なく、清算人の報酬や管理費用に充てられた分は戻りません。
金額も戻るかどうかも事案ごとに変わるため、申立先の家庭裁判所に見込みを確認してください。
亡くなった人に貸したお金があります。誰に請求すればよいですか
相続人がいない場合、請求する相手は相続財産清算人になります。
その人がまだ選ばれていないなら、債権者は利害関係人として選任を申し立てられます。
ただし申立てには印紙代・官報公告料に加えて予納金がかかることがあるため、回収したい額と負担を比べて判断する場面です。
内縁のパートナーは財産を受け取れますか
法定相続人ではないため、そのままでは受け取れません。
相続財産清算人の選任を申し立てたうえで、特別縁故者として財産の分与を家庭裁判所に求める道があります。
認められるかどうかと、いくら分与されるかは家庭裁判所の判断です。
遺言書があれば相続財産清算人は不要ですか
遺言で財産を譲り受ける人が決まっていても、相続人がいない場合は清算人の選任が必要になることがあります。
遺贈を受けた人は利害関係人として申立てができます。
なお、自筆証書遺言と秘密証書遺言は家庭裁判所の検認が要るため、封をしたまま持ち込んでください。
公正証書遺言と、法務局の保管制度を使った自筆証書遺言は検認が不要です。
自分に相続人がいません。生前にできることはありますか
財産を渡したい相手がいるなら、遺言書を残しておくと、亡くなったあとに誰かが家庭裁判所へ申し立てる負担を減らせます。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を使えば検認が不要になり、保管申請の手数料は1件3,900円です。
財産の所在や連絡してほしい人を書き残しておく方法はエンディングノートに書いておく項目で解説しています。
戸籍はどこで取り寄せますか
本籍地の市区町村です。
出生から死亡までをつなげる必要があるため、転籍していれば前の本籍地にも請求します。
相続人がいるかどうかの判断も、申立てに添える資料も、この戸籍がそろって初めて形になります。
まとめ
相続人がいない財産は、誰かが家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てるまで止まったままです。
申立てができるのは利害関係人と検察官で、実費は収入印紙800円と官報公告料5,582円、これに家庭裁判所が決める予納金が加わることがあります。
国庫に入るのは、公告と債権者への支払い、特別縁故者への分与まで終わった最後の段階です。
自分が申立人になれるかどうかは、亡くなった人との関係と、回収したいものがあるかどうかで変わります。ぜひ本記事の費用の一覧と国庫までの順番を参考に、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所へ、必要な書類と予納金の見込みを問い合わせてください。


