SHARE:

遺留分とは?請求できる人と最低限もらえる割合を解説

遺留分とは?請求できる人と最低限もらえる割合を解説

遺言に「全財産を長男に相続させる」と書かれていても、他の子や配偶者の取り分がゼロになるわけではありません。

兄弟姉妹以外の相続人には、遺言でも取り上げられない最低限の取り分が残っています。

これが遺留分(いりゅうぶん)で、侵害された分は金銭での支払いを求められます。

ただし、黙っていても振り込まれる性質のお金ではありません。

しかも請求できる期間は、相続の開始と侵害を知った時から1年です(民法1048条)。

四十九日と納骨で2〜3か月が過ぎ、そこで初めて遺言の内容を聞かされると、動ける時間は思ったほど残っていません。

本記事では、遺留分を請求できる人の範囲・組み合わせごとの割合・金銭で請求する仕組み・1年の時効の数え方を解説します。

遺留分とは、遺言でも減らせない最低限の取り分

人は自分の財産を誰にどう渡すか、遺言で自由に決められます。

その自由に一本だけ線が引かれていて、兄弟姉妹以外の法定相続人については、一定の割合まで取り上げられません。

その割合が遺留分です。

遺言が有効でも遺留分は残る

「全財産を長男に」という遺言が形式上きちんと作られていれば、その遺言は有効です。

無効になるわけではありません。

ただ、有効な遺言であっても、他の相続人が持っている遺留分の部分までは効力が及びません。

遺言の内容に納得できないときに、遺言そのものを争うのか、遺留分だけを請求するのかは、まったく別の話になります。

前者は筆跡や作成時の判断能力を争う裁判で、時間も費用もかかります。

後者は、遺言が有効であることを前提に、自分の取り分だけを金銭で求める手続きです。

請求しなければ遺言どおりに確定する

遺留分は、相続が始まった瞬間に自動で自分の口座へ入ってくるものではありません。

財産を受け取った人に対して「遺留分を侵害されているので、その分を支払ってください」と意思表示をしたときに初めて動き出します。

何も言わないまま1年が過ぎれば、遺言に書かれたとおりの分け方で確定します。

遺産分割協議のように相続人全員が集まって話し合う場も要りません。

自分ひとりの判断で請求でき、逆に自分が動かなければ誰も代わりに請求してくれないという仕組みです。

遺留分を請求できるのは配偶者・子・直系尊属だけ

請求できる人の範囲は法律で決まっていて、亡くなった人との関係だけで判定します。仲が良かったか、介護をしたか、葬儀を出したかは関係ありません。

立場遺留分補足
配偶者あり婚姻届を出している人だけ。内縁関係は含まれません
子あり養子・認知された子・前の配偶者との子も同じ扱いです
孫(代襲相続人)あり子が先に亡くなっている場合に、子の立場を引き継ぎます
父母・祖父母(直系尊属)あり子や孫がいない場合に相続人になります
兄弟姉妹・甥姪なし相続人になっても遺留分は認められていません

子がいる場合、父母は相続人になりません。相続人になれない人に遺留分もありませんから、孫まで含めて子の系列に相続人がいる家では、亡くなった親の親は請求できる立場にないわけです。

相続人でも遺留分を失う場合

家庭裁判所に相続放棄を申述した人は、最初から相続人でなかった扱いになります。

遺留分も同時に消えます。

借金があるかもしれないので放棄したけれど、後から預金が見つかったので遺留分だけ請求したい、という順番は通りません。

相続放棄の申述期限は、自分のために相続が開始したことを知った時から3か月です(民法915条)。

財産の全体像が見えていない段階で放棄を決めると、この点でも選択肢が狭まります。

被相続人を虐待したなどの理由で生前に家庭裁判所の審判を受けて相続人から外された人(廃除(はいじょ))や、相続欠格にあたる人も、遺留分を請求できません。

ただし、その人の子は代襲相続人として相続人になり、遺留分も持ちます。

相続人が一人もいないケースの扱いは、相続人がいないとどうなるかで解説しています。

遺留分の割合は、全体の2分の1を法定相続分で分けた分

割合は2段階で決まります。

まず相続人全員で見た総枠が、遺産全体の2分の1です。

例外は、相続人が父母や祖父母だけの場合で、このときは3分の1に下がります。

次に、その総枠を法定相続分で割ったものが、一人ひとりの遺留分になります。

相続人の組み合わせ総枠一人あたりの遺留分(遺産全体に対する割合)
配偶者のみ2分の1配偶者 2分の1
配偶者と子1人2分の1配偶者 4分の1/子 4分の1
配偶者と子2人2分の1配偶者 4分の1/子 各8分の1
子2人(配偶者なし)2分の1子 各4分の1
子3人(配偶者なし)2分の1子 各6分の1
配偶者と父母2分の1配偶者 3分の1/父母 各12分の1
父母のみ3分の1父母 各6分の1
配偶者と兄弟姉妹2分の1配偶者 2分の1/兄弟姉妹 なし

配偶者と子2人の行を見てください。

子の遺留分は8分の1です。

法定相続分なら4分の1もらえる立場ですが、遺言で全財産を他の人に渡すと書かれた場合に確保できるのは、その半分にあたる8分の1までになります。

法定相続分と遺留分は別の数字だと分けて覚えておくと、遺言がある場合とない場合で話が混ざりません。

兄弟が多いほど一人あたりは小さくなります。

子が4人なら各8分の1、5人なら各10分の1です。

遺言で一人に集中させる分け方をしたとき、残りの子が個別に請求できる金額は、人数が増えるほど小さくなっていきます。

遺留分侵害額請求は、金銭で払ってもらう手続き

請求して受け取れるのはお金です。

実家の土地の8分の1を自分の名義にしてもらう、という形にはなりません。

かつては現物の返還を求める仕組みでしたが、現在は侵害された額に相当する金銭の支払いを請求する制度に改められています。

名称も遺留分侵害額請求と呼びます。

請求する相手は、財産を受け取った人

支払う義務を負うのは、遺言や生前贈与で財産を受け取った人です。

遺言で財産を受け取った人(受遺者(じゅいしゃ))と、贈与を受けた人(受贈者(じゅぞうしゃ))が相手になります。

遺言執行者や、葬儀を取り仕切った親族が相手ではありません。

受け取った人が複数いるときは、遺贈を受けた人が先に負担し、それで足りなければ贈与を受けた人が、新しい贈与から順に負担します。

相手に現金がないときは支払期限が延びることがある

受け取ったのが実家の不動産だけで手元に現金がない、という状況は起こります。

その場合、請求された側は裁判所に対して支払期限の猶予を求める申立てができます。

裁判所が相当の期限を許与すれば、その期限まで支払いを待つことになります。

相手が家を売って現金化するのか、金融機関から借りるのかは相手の事情ですから、請求した側がすぐに全額を受け取れるとは限りません。

不動産が絡むときは、名義変更の期限も同時に走ります。

相続登記は不動産を取得したことを知った日から3年以内が義務で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法76条の2)。

計算の土台は、相続開始時の財産に生前贈与を足して借金を引いた額

割合が分かっても、その割合を何に掛けるのかが決まらないと金額は出ません。

土台になるのは、亡くなった時点の財産に一定の生前贈与を加え、そこから債務を差し引いた額です。

通帳に残っていた残高だけを見て計算すると、実際の遺留分より小さい数字になります。

生前贈与が土台に加算される

相続人以外の人への贈与は、相続開始前1年間にされたものが加算されます。

相続人への贈与のうち、結婚や住宅資金、事業の開業資金のように生計の基礎になったもの(特別受益(とくべつじゅえき))は、相続開始前10年間が加算の対象です。

当事者の双方が遺留分を害することを知って贈与していた場合は、この期間より前のものも加算されます。

長男が家の建築資金を出してもらっていた、という事情がある家では、この加算があるかどうかで金額が大きく変わります。

不動産の評価は相続開始時の時価

遺留分の計算で使う不動産の価額は、相続開始時の時価です。

固定資産税の納税通知書に載っている評価額や、相続税の計算で使う路線価とは別の数字になります。

話し合いの席に出すために揃えておくと役に立つのは、次の資料です。

  • 各金融機関の残高証明書(亡くなった日時点のもの)
  • 実家の査定書。複数社から取ると幅が分かります
  • 固定資産税の納税通知書と、法務局で取る登記事項証明書
  • 生前の入出金が分かる通帳の記録。大きな出金があれば贈与の手がかりになります
  • 借入金の残高証明書や、未払いの医療費・税金の通知

ここから自分の侵害額を出す段階になると、自分が受けた遺贈や特別受益を引き、承継する債務を足す調整が入ります。

計算式は法律で決まっていますが、どの贈与が対象になるか、不動産をいくらと見るかで結論が動きます。

金額を確定させる作業は弁護士に渡す領域だと考えてください。

相続税の申告が必要になるかどうかは別の判定で、基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数です。

相続税は誰にかかるのかで、この線引きを解説しています。

遺留分の請求は1年で時効になる

期限は2本立てです。

相続の開始と、自分の遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年が経つと請求できなくなります。

それとは別に、相続開始から10年が経てば、侵害を知らなかったとしても請求できません(民法1048条)。

実務で問題になるのは1年のほうです。

起算点は亡くなった日ではなく、遺言の内容を知って自分の取り分が削られていると分かった時です。

遺言書の存在を後から知らされた場合、そこから1年と考えます。

ただし、いつ知ったかは相手との間で争いになる論点でもあります。

日付が客観的に残る形で請求しておけば、後から起算点を主張し合う場面でも材料になります。

手続き期限起算日
相続放棄・限定承認3か月自分のために相続が開始したことを知った時
準確定申告4か月相続の開始を知った日の翌日
相続税の申告・納付10か月相続の開始を知った日の翌日
遺留分侵害額請求1年相続の開始と侵害を知った時
相続登記3年不動産を取得したことを知った日

1年のうちに何をどこまで済ませればよいのかは、遺留分侵害額請求の時効で解説しています。

遺留分の請求は、内容証明から調停へ進む

相手に伝えるだけなら、口頭でも法律上は意思表示として成立します。

それでも文書で出すのは、言った言わないの争いを避けるためです。

内容証明郵便を使えば、誰が誰に、いつ、どういう内容の文書を送ったかが郵便局の記録として残ります。

金額を計算し切れていない段階でも、遺留分侵害額を請求する意思を示す文書を1年以内に出しておけば、そこから金額の話ができます。

文面の作り方と送り方は、遺留分の請求方法で解説しています。

話し合いがつかなければ家庭裁判所へ

相手が支払いに応じない、あるいは金額で折り合わないときは、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。

遺産分割調停とは別の手続きで、申立先は相手方の住所地の家庭裁判所です。

調停が成立しなければ訴訟になります。

ここまで進むと弁護士に依頼する段階で、不動産の評価や贈与の立証が争点になります。

他の相続人の同意は要らない

遺産分割協議は相続人全員の合意がないと成立しませんが、遺留分侵害額請求は一人で完結します。

他の兄弟が請求しないと決めていても、自分だけ請求してかまいません。

逆に、自分が請求したことで他の兄弟の遺留分が自動的に確保されるわけでもありません。

それぞれが自分の判断で、自分の期限内に動く仕組みです。

なお、亡くなった人の口座は金融機関が死亡を把握した時点で入出金が止まります。

生活費の引き落としがある口座なら、そちらの段取りが先に来ます。

亡くなった人の口座の凍結と解除の流れで解説しています。

遺留分の放棄は、相続開始前なら家庭裁判所の許可が必要

請求しないまま1年が過ぎると、遺言に書かれたとおりの分け方で確定します。

手続きは何も要りません。

何もしないことが、そのまま権利を手放す結果になります。

生前の「請求しない」という約束は、それだけでは効力を持たない

親が生きているうちに遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です。

許可を得ないまま親族間で「自分は請求しない」と書面を交わしても、放棄としての効力は生じません。

事業を長男に集中させたいといった事情で生前に固めておきたい場合は、許可の申立てという正式な手順を踏むことになります。

一方、相続が始まった後であれば、許可は要りません。

請求しないと決めれば、それで足ります。

遺言を書く側が遺留分を無視すると何が起きるか

親の立場で遺言を作るとき、遺留分を無視した内容にすると、亡くなった後に金銭の請求が起きます。

財産の大半が実家の不動産で預貯金が少ない家では、受け取った側が支払いに困り、家を売る話に発展します。

誰に何を渡すかと同時に、請求された側が払える現金をどう用意するかまで考えておく必要があるわけです。

財産の一覧や誰に何を渡したいかを整理する段階では、エンディングノートの役割と書く項目で解説している整理の仕方が参考になります。

よくある質問

遺言に「遺留分は渡さない」と書いてあったら請求できませんか

請求できます。

遺留分は法律で保障された取り分なので、遺言の文章で消すことはできません。

同じように「遺留分侵害額請求をしてはならない」と付け加えられていても、請求する権利は残ります。

付言として書かれた親の気持ちには法的な拘束力がありません。

兄弟姉妹に遺留分がないのはなぜですか

遺留分は、亡くなった人の財産に生活を支えられていた近い家族を守る制度として設けられています。

兄弟姉妹は相続人の順位でも第3順位で、子や父母がいれば相続人になりません。

その関係の遠さから、遺留分は認められていません。

子のいない夫婦で、夫の兄弟が相続人になるケースでも、夫が遺言で全財産を妻に残せば、兄弟から請求されることはありません。

生前に自分がもらった学費や住宅資金は影響しますか

影響します。

生計の基礎になった贈与を受けていれば、その額は自分の遺留分から差し引かれます。

土台となる財産に加算される一方で、自分が受け取った分としても計算に入るためです。

兄弟の誰かだけが多額の援助を受けていた場合、その人の請求できる額は小さくなり、援助を受けていない人の額は大きくなります。

遺留分をもらうと相続税はどうなりますか

遺留分侵害額の支払いを受けた人は、その分を取得した財産として相続税の計算に含めます。

支払った側は、その分を差し引いて計算します。

申告期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月なので、請求の話し合いが長引くと期限に間に合わないことがあります。

その場合の申告の仕方は税理士に相談する段階です。

相続放棄をした後でも遺留分は請求できますか

できません。

相続放棄が受理されると、最初から相続人でなかった扱いになるため、遺留分も持ちません。

借金の有無がはっきりしない段階では、放棄の3か月という期限と、遺留分の1年という期限の両方を見ながら、どちらを選ぶか決めることになります。

相手が支払いを拒んだらどうなりますか

話し合いで解決しなければ、家庭裁判所の調停、次に訴訟へ進みます。

相手が現金を用意できない場合は、裁判所が支払期限を延ばす判断をすることもあります。

受け取るまでに時間がかかる前提で、生活費の見通しは別に立てておくほうが現実的です。

遺留分の請求に弁護士は必須ですか

1年以内に請求の意思を示す文書を送るところまでは、自分でもできます。

金額の計算で不動産の評価や生前贈与の有無が争点になり、相手が応じない段階に入ると、調停や訴訟の代理が要ります。

相手が弁護士を立ててきた時点で、こちらも依頼を検討する場面です。

まとめ

遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に残された最低限の取り分で、遺言でも消せません。

受け取れるのは金銭で、総枠は遺産全体の2分の1(相続人が父母や祖父母だけなら3分の1)を法定相続分で割った割合です。

ただし請求しなければ実現せず、相続の開始と侵害を知った時から1年で請求できなくなります。

最初にやることは、自分が請求できる立場かどうかの確認と、遺言の内容を知った日を記録に残すことです。

そのうえで残高証明書と実家の査定書を揃えれば、金額の話に入れます。

ぜひ本記事の割合の表と期限の一覧を参考に、1年の起算日から逆算して動き出してください。

あなたへのおすすめ