相続税に強い税理士の選び方|報酬の相場と見極める視点

相続税の申告期限は、亡くなった日ではなく相続の開始を知った日の翌日から10か月です。死亡届や年金の手続きで役所と銀行を回っているうちに、この10か月のうち2か月や3か月はすでに過ぎています。
税理士の登録は税目ごとに分かれていません。
法人の決算を主に受けている事務所も、相続税の申告を主に受けている事務所も、名刺の上では同じ「税理士」です。
土地が遺産に入っているか、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使うかで、必要になる手間はまったく変わります。
本記事では、申告が必要かどうかの見分け方・見積書で確かめる項目・10か月から逆算した依頼の順番・弁護士や司法書士に渡す境目まで解説します。
相続税を扱う税理士は限られる|税目で資格が分かれていないから起きること
相続税の申告は、事業をしている法人の決算のように毎年やってくる仕事ではありません。
相続が起きた家族から単発で依頼が入る仕事です。
そのため、顧問先の法人と個人事業主を主に見ている事務所では、相続税の申告そのものを受けていない場合もあります。
受けていても、遺産に土地や非上場株式が入っている案件は扱わない方針の事務所があります。
看板や肩書きでは取扱いの中身が分からない
税理士を名乗れるのは税理士登録をした人だけですが、その登録に「相続税専門」という区分はありません。
ホームページに相続税のページがあっても、実際に受けている件数までは書かれていないことがほとんどです。
電話やメールの段階で聞けるのは、直近1年で相続税の申告を何件扱ったか、そのうち土地を含む案件がどれくらいあったか、申告書に税理士が自ら内容を確認した旨を添える書面添付を使っているかどうかです。
件数の多さだけで良し悪しは決まりませんが、答えに詰まる事務所と、すぐ数字が出てくる事務所では、案件の位置づけが違います。
差が出やすいのは土地の評価と資料の集め方
預金だけの相続なら、残高証明を集めて足せば財産の額はほぼ確定します。
土地が入ると事情が変わります。
評価の前提として、登記事項証明書と固定資産税の課税明細、公図や測量図、都市計画の内容といった資料が必要になり、どこまで確認するかは事務所の進め方に任されています。
現地を見る事務所と、書類だけで済ませる事務所では、かかる手間も報酬も同じにはなりません。
見積もりが安い理由を聞くと、この違いが出てきます。
特例は「使えば0円」ではなく「申告して初めて0円」
配偶者が取得した遺産は、法定相続分か1億6,000万円のいずれか多い額までは相続税がかかりません(相続税法19条の2)。
被相続人が住んでいた宅地は330平方メートルまで評価額を80%減額できます(租税特別措置法69条の4)。
どちらも、適用を受けるには相続税の申告が必要です。
税額が0円になるからといって申告しなければ、特例を使ったことになりません。
ここを取り違えたまま期限を過ぎると、後から取り返すのは簡単ではありません。
相談の入口で「うちは特例を使えば0円になりますか」と聞き、0円でも申告が要るという説明が返ってくるかどうかは、ひとつの手がかりになります。
申告が必要かどうかは基礎控除で決まる|3,000万円+600万円×人数の数え方
相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数です。
相続人が3人なら4,800万円、1人なら3,600万円になります。
遺産の総額がこの額を下回れば、相続税の申告そのものが要りません。
2015年1月1日より前は5,000万円+1,000万円×人数だったので、古い本やメモに残っている数字と混ざらないよう注意してください。
法定相続人の数え方と、放棄した人の扱い
配偶者は常に相続人になります。
第1順位は子で、子がいなければ第2順位の直系尊属、それもいなければ第3順位の兄弟姉妹です。
基礎控除の計算では、相続放棄をした人も人数に含めます(相続税法15条2項)。
放棄した人がいるから控除額が下がる、ということはありません。
誰が相続人になるかで控除額が数百万円単位で動くため、まず戸籍をたどって人数を確定させるのが先です。
基礎控除そのものの考え方は相続税は誰にかかるかの基準で解説しています。
税額の目安を自分で持っておく
報酬が高いのか安いのかを判断するには、相続税そのものがどれくらいの規模になるかを自分で見当をつけておくと役に立ちます。税率は次のとおりです(国税庁 タックスアンサーNo.4155/2026年9月時点)。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | なし |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超〜2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超〜3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超〜6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
この表は、各相続人が法定相続分どおりに取得したものとして税額を出し、合計してから実際の取得割合で振り分けて使います。
1人の取得額に直接あてはめる表ではありません。
自分の家の税額がいくらになるかの判定は税理士の仕事なので、ここで出した数字はあくまで規模感として扱ってください。
相続税の税理士報酬は総額だけでは比べられない
相続税の申告報酬について、全国の相場を示した公的な統計は確認できません。
事務所ごとに料金表の作り方が違い、遺産総額を基準にした基本報酬と、案件の内容に応じた加算報酬を組み合わせて示す形が多く見られます。
総額の数字だけを並べても、どこまで含んだ金額なのかが揃っていないため、比べたことになりません。
見積書で確かめる項目
複数の事務所から見積もりを取るなら、次の点が書面に書かれているかを見てください。
- 基本報酬の基準になる「遺産総額」に、債務や葬式費用を引く前の額を使うのか、引いた後の額を使うのか
- 土地の筆数や非上場株式が加算の対象になるか、なる場合の1件あたりの加算額
- 相続人の数による加算があるか
- 書面添付を付けるかどうか、付ける場合に報酬が変わるか
- 申告後に税務署から問い合わせや調査があった場合の立会いが報酬に含まれるか、別料金か
- 戸籍や残高証明の取り寄せを事務所に頼めるか、頼んだ場合の実費と手数料
この6つのうち、加算条件と調査対応の2つが書かれていない見積書は、後から金額が動く余地を残しています。
契約前に、加算が発生する条件を文書で示してもらってください。
口頭の説明だけで進めると、請求書の段階で認識が食い違います。
安い見積もりの理由を聞く
報酬が低い見積もりが出てきたときに確かめるのは、値引きなのか、作業範囲を絞っているのかという点です。
土地の現地確認をしない、二次相続まで見た試算はしない、税務調査の立会いは別契約という前提であれば、安い理由に説明がつきます。
その前提で構わない案件もあります。
預金と自宅だけで相続人が2人という状況なら、範囲を絞った依頼で足りることもあります。
判断の材料は、遺産に土地が何筆あるか、非上場株式や事業用の資産が入っているか、相続人の間で分け方が決まっているかどうかです。
申告期限10か月から逆算して税理士に声をかける
相続の手続きには、法律で切られた期限が並んでいます。税理士を探す作業は、この時間割の中に置いて考えてください。
| 手続き | 期限 | 起算日 |
|---|---|---|
| 死亡届 | 7日以内 | 死亡の事実を知った日 |
| 年金の受給停止 | 厚生年金10日/国民年金14日 | 死亡日 |
| 世帯主変更届 | 14日以内 | 死亡日 |
| 相続放棄・限定承認 | 3か月以内 | 自己のために相続の開始があったことを知った時 |
| 準確定申告 | 4か月以内 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続税の申告・納付 | 10か月以内 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続登記 | 3年以内 | 不動産を取得したことを知った日 |
借金の有無が分からないなら、3か月の期限が先に来る
相続放棄と限定承認は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述します(民法915条)。
起算日は亡くなった日ではありません。
故人に借入や連帯保証がありそうで判断がつかない場合は、この期間内に家庭裁判所へ伸長の申立てができます。
相続税の話より先に、この3か月の判断が必要な場面です。
なお、遺産分割の協議で自分の取り分をゼロにしただけでは放棄になりません。
債務は残ります。
税理士に渡す前に自分で集めておく資料
依頼の初回で財産の全体像を出せると、その後の作業が早く進みます。手元に用意しておくのは次のものです。
- 相続人を確定させるための戸籍謄本(故人の出生から死亡までと、相続人全員の分)
- 預金の残高証明書(死亡日時点のもの)と、直近数年の入出金明細
- 不動産の登記事項証明書(法務局で取得。名義が親のままかは甲区で確認します)と固定資産税の課税明細書
- 生命保険の保険証券と、支払通知書
- 借入金の残高が分かる書類
戸籍は本籍地の市区町村、登記事項証明書は法務局と、取り寄せ先が別々です。
相続人が遠方にいる場合は、戸籍の収集だけで数週間かかることもあります。
事務所に代行を頼めるかどうかも、見積もりの比較材料になります。
残り時間が3か月を切っているとき
期限が近い案件は、受けられる事務所が限られます。
問い合わせの1文目で「申告期限が◯月◯日で、遺産に土地が◯筆あります」と伝えてください。
受けられるかどうかの返事が早くなり、断られた場合も次を探す時間が残ります。
間に合わないおそれがある段階なら、期限までに何をどこまで終えるつもりかを、契約前に説明してもらってください。
税理士だけでは進まない場面|遺産分割と相続登記の境目
相続税の申告は、誰が何を取得するかが決まらないと税額の振り分けができません。
分け方でもめている段階に税理士だけを立てても、話は前に進みません。
ここを取り違えて何か月も費やす例があります。
相続人の間で対立しているなら弁護士の領域
税理士は税務の代理はできますが、相続人の代理として他の相続人と交渉することはできません。
連絡が取れない相続人がいる、遺言の内容に納得していない、特定の相続人が資料を出さないという状況は、弁護士に相談する段階です。
遺留分の侵害があった場合の請求は、相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年で時効になります(民法1048条)。
時間の制約はここにもあります。
不動産の名義変更は司法書士、期限は3年
相続登記は2024年4月1日から義務になりました。
不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請せず、正当な理由もない場合は10万円以下の過料の対象です。
2024年4月1日より前に相続した不動産も対象で、その分の期限は2027年3月31日です。
申告と登記は別の手続きで、担当する専門家も違います。
税理士事務所が司法書士と組んでいるかどうかは、依頼時に確認しておくと窓口が一つで済みます。
どの専門家に何を渡すかの整理は相続に強い専門家の選び方で解説しています。
やっても進まない対処
相続人がそれぞれ別の税理士に見積もりを取って持ち寄る方法は、分け方の対立には効きません。
税額の前提が分割の内容で変わるため、前提の違う試算が並ぶだけで、かえって話がこじれます。
無料相談の窓口を回り続けるのも同じです。
窓口では一般的な制度の説明までが範囲で、資料を預けて評価と申告書の作成まで進む段階には入りません。
親族の紹介という理由だけで決めるのも、相続税の取扱いを確認していなければ選んだことになりません。
紹介は入口として使い、確かめる項目は同じように聞いてください。
税理士に相談する前に概算を持っていくと話が早く進みます。相続税シミュレーターで家族全体の税額の目安を出せます。
親が元気なうちに相談する場合
相続が起きる前であれば、選べる手も増えます。
判断能力が落ちる前の財産管理を考えるなら、家族信託が候補に入ります。
銀行と司法書士のどちらに頼むかで費用と役割が変わる点は家族信託の依頼先の比較で解説しています。
財産の在りかと連絡先を親自身に書いてもらう方法はエンディングノートの書き方で解説しています。
相続が始まってから資料を探す時間が、そのまま短くなります。
よくある質問
相続税の申告は自分でできますか
申告書は自分で作成して提出できます。
預金だけで相続人も少なく、特例を使わない場合は自力で進める人もいます。
判断が難しくなるのは、土地や非上場株式が入っているとき、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使うときです。
特例はいずれも適用に申告が必要で、要件の判定を誤ると後から直すのに手間がかかります。
迷う段階なら、税理士に相談する段階だと考えてください。
税理士に頼むタイミングはいつがよいですか
財産の一覧がおおよそ見えた時点です。
相続税の申告期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月で、遺産の確定と分割の話し合い、納税資金の準備をこの中に収める必要があります。
残高証明と登記事項証明書、固定資産税の課税明細がそろっていれば、初回の相談で見積もりまで進めます。
借金の有無が不明で相続放棄も検討している場合は、3か月の期限が先に来るため、そちらの相談を先に済ませてください。
税理士の報酬は誰が負担するのですか
申告を依頼した相続人が負担するのが原則で、遺産から支払う場合は相続人の間で合意しておく必要があります。
後から「自分は頼んでいない」という話になりやすい部分です。
誰がいくら負担するかを、依頼前に書面かメールで共有しておいてください。
兄弟がそれぞれ別の税理士に頼んでもよいですか
相続人ごとに別の税理士へ依頼して、別々に申告することもできます。
ただし遺産の評価額が事務所ごとに違うと、申告内容の不一致として税務署から問い合わせを受けることがあります。
分け方で対立しているために別々に頼むのであれば、まず弁護士に相談する段階です。
分け方が決まっているなら、1つの事務所にまとめたほうが費用も手間も軽くなります。
基礎控除以下なら本当に何もしなくてよいのですか
遺産の総額が3,000万円+600万円×法定相続人の数を下回れば、相続税の申告は不要です。
ただし特例を使って0円になる場合は申告が要ります。
また、不動産があれば相続登記の3年の義務は別に残り、故人に事業所得などがあれば準確定申告が4か月以内に必要です。
相続税がかからないことと、手続きが何もないことは別の話です。
銀行や葬儀社から紹介された税理士に頼んでよいですか
紹介そのものは問題ありません。
紹介先であっても、相続税の申告の取扱件数、加算報酬の条件、税務調査に立ち会う場合の費用は同じように確認してください。
紹介手数料が報酬に含まれているかどうかも、見積書の内訳で分かります。
断りたい場合は、その場で決めずに持ち帰って構いません。
まとめ
相続税に強い税理士を選ぶ作業は、口コミを眺めることではなく、遺産の中身に合った手間をかけてくれるかどうかを見積書で確かめる作業です。
土地が何筆あるか、非上場株式が入っているか、分け方が決まっているかを先に押さえれば、聞くべき項目は自然に絞られます。
申告期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月で、相続放棄を考えるなら3か月の期限が先に来ます。
分け方で対立している段階なら弁護士、不動産の名義変更なら司法書士と、渡す相手も分かれます。ぜひ本記事の見積書で確かめる6項目と期限の表を参考に、手元の資料をそろえてから複数の事務所に問い合わせてください。


