遺言書に有効期限はある?書き直しと撤回の正しいやり方

10年前の日付が入った遺言書でも、日付が古いという理由で無効になることはありません。
遺言書に有効期限を定めた規定はなく、方式が整っていれば作成から何年たっても効力を持ちます。
期限で自然に消えてくれないかわりに、内容を変えたいときは書き直すか撤回するしかありません。
ややこしいのは、遺言書が2通以上出てきた場合です。
後の日付のものが前のものを全部打ち消すわけではなく、内容がぶつかる部分だけが置き換わります。
公正証書遺言は原本が公証役場に残るため、手元の正本を破っても撤回にはなりません。
本記事では、遺言書が無効になる原因・書き直しの4工程と必要書類・公証役場と法務局での撤回手続きを解説します。
遺言書に有効期限はない|20年前の日付でも効力は変わらない
遺言書の効力に期限を定めた規定はありません。
20年前に書いたものでも、方式が整っていればそのまま使えます。
何年以内に作り直さなければ失効する、という決まりもありません。
効力を左右するのは日付の古さではなく書き方です。
自筆証書遺言は、本文の全文と日付、氏名を自分の手で書いて押印します。
パソコンで打った本文や代筆では要件を満たしません。
添付する財産目録だけは2019年1月13日から扱いが変わり、パソコン作成や通帳のコピーでよくなりました。
ただし各ページに署名押印が必要です。
本文を全文自筆で書くところは変わっていません。
日付が特定できない書き方は無効と判断されることがある
「○年○月吉日」のように日を特定しない書き方は、無効と判断された例があります。
遺言書が複数あるときに新旧を比べる手がかりは日付だけなので、年月日まで書きます。
2通の日付が同じ日で内容が矛盾していると、どちらが後に書かれたのか決められず、話し合いが止まります。
自筆証書が無効になる書き方は遺言書の書き方|自筆証書が無効になるミスで解説しています。
内容が今の財産と合わなくなっている場合
遺言書に書いた不動産を生前に売っていれば、その部分は実行できません。
遺贈(いぞう)を受ける人が遺言者より先に亡くなった場合も、その部分は効力を持ちません。
このとき遺言書そのものが無効になるのではなく、実行できない部分だけが空振りになり、残りは有効なままです。
空振りになった財産は遺言書で行き先が決まっていない財産として、相続人の話し合いに戻ります。
財産の中身が大きく変わったなら、書き直しを考える場面になるでしょう。
遺言書の書き直しは「新しく作る」だけ|4つの工程と日付の優先関係
遺言書はいつでも撤回できます。
書き直しの手続きは役所への届け出ではなく、新しい遺言書を作ることです。
内容がぶつかる部分については、後の日付の遺言が前の遺言を撤回したものとして扱われます。
前の遺言書を回収できなくても、新しいものが有効に成立していれば結論は変わりません。
| 工程 | やること | 場所 |
|---|---|---|
| 1 | 今ある遺言書の方式と保管場所を確かめる | 自宅・公証役場・法務局 |
| 2 | 変える範囲を決める(全部作り直すか、一部だけか) | — |
| 3 | 新しい遺言書を作る(日付は年月日まで書く) | 自宅または公証役場 |
| 4 | 古い遺言書の原本を処理する | 自宅で破棄・法務局で保管の撤回 |
工程1を飛ばすと、あとの工程が決まりません。
公正証書遺言なら原本は作成した公証役場にあり、手元にあるのは正本と謄本です。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を使っていれば原本は法務局にあります。
どこに原本があるかで、工程4のやり方が変わります。
前の遺言と方式を揃える必要はない
公正証書で作った遺言を自筆証書で撤回することもできます。
方式を揃えなければならない決まりはありません。
ただし、その自筆証書が押印漏れや日付不備で無効になった場合、撤回の効力も生じず、古い公正証書遺言がそのまま残ります。
公証役場で作ったものを自筆で上書きするときは、この結果を承知のうえで選ぶことになります。
遺言書の3つの方式は遺言書の種類は3つ|自筆・公正証書・秘密証書の選び方で解説しています。
一部だけ直すなら全文を書き直したほうが手数が少ない
自筆証書遺言の字句を訂正するには、変更した場所を指示して変更した旨を付記し、そこに署名して変更箇所に押印します。
この方式を満たさないと、訂正した部分が無効になります。
1行だけ直したつもりが、直した箇所だけ元の記載で読まれることもあります。
財産を1つ増やす、受け取る人を1人入れ替えるといった変更なら、同じ内容を書き写して1通作り直すほうが手数が少なく、日付も1つに定まります。
前の遺言を残したまま新しい遺言を作ると、抵触しない部分は前の遺言も生き続けます。
預金だけ書き換えたつもりでも、不動産の記載が前の遺言に残っていれば、2通を並べて読むことになります。
全部を白紙に戻すつもりなら、新しい遺言書に前の遺言を全部撤回する旨を書きます。
撤回の条項の書き方は遺言書の文例集|そのまま使える書き出しと結びの言い回しで解説しています。
遺言書の書き直しで用意する書類と取り寄せ先
自筆で書き直すだけなら、法律上は紙と筆記具と印鑑で足ります。
それでも財産の特定を間違えると、その部分が実行できません。
不動産を「自宅」と書くのではなく登記のとおりに書くため、下の書類を先にそろえます。
公正証書で作り直す場合は、公証役場へ提出する資料にもなります。
戸籍謄本・除籍謄本(本籍地の市区町村)
財産を渡す相手が相続人であることを示す書類です。
本籍地の市区町村で取ります。
本籍地が遠方なら郵送で請求でき、その場合は定額小為替と返信用封筒を同封します。
本籍を移していると、前の本籍地の役所でしか取れない期間が出てきます。
手数料と処理日数は市区町村ごとに違うので、窓口で確認してください。
登記事項証明書(法務局)
不動産の所在・地番・家屋番号を登記のとおりに書き写すために使います。
法務局の窓口かオンラインで請求します。
所有者の名義は甲区(所有権に関する事項)で確認できます。
親から相続した土地の登記が済んでいないと、名義が祖父のままになっていることもあります。
手数料は請求方法で変わるため、法務局の現行料金を確認してください。
固定資産税の納税通知書か固定資産評価証明書(市区町村)
公正証書遺言の手数料は、渡す財産の価額で決まります。不動産の評価額が分からないと見積もりが出ないため、毎年春に届く納税通知書を探すか、市区町村で評価証明書を取ります。
預金の残高証明書・証券会社の残高報告書(金融機関)
口座は銀行名と支店名、口座番号まで書きます。
残高証明書は金融機関の窓口で発行を頼みます。
手数料がかかり、即日で出ない金融機関もあります。
財産の総額が基礎控除を超えそうなら、この段階で数字を並べておくと相続税の見当もつきます。
基礎控除の計算は相続税は誰にかかる?基礎控除3,600万円が分かれ目になるで解説しています。
印鑑登録証明書と受け取る人の住民票(公正証書の場合)
公正証書遺言では、遺言者の印鑑登録証明書を用意し、実印を持参します。
相続人以外に遺贈するときは、その人の住民票などで住所と氏名を特定します。
証人2人が立ち会うため、証人を自分で頼む場合は氏名・住所・生年月日・職業を伝えます。
証人が見つからないときは公証役場に相談すれば紹介を受けられます。
公証役場と法務局での手続き|遺言書を書き直す時期の判断
どちらの窓口も、遺言者本人が行きます。代理人に任せることはできません。開いているのは平日の日中だけで、予約制です。
公証役場で作り直すときの手数料
公証人の手数料は、その人が受け取る財産の価額ごとに計算して合算します。
財産の総額で1回計算するのではありません。
妻に3,000万円、長男に1,000万円を渡す内容なら、それぞれの区分で計算した額を足します。
| 目的の価額 | 手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円超〜100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超〜500万円以下 | 13,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 20,000円 |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 26,000円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 33,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 49,000円 |
| 1億円超〜3億円以下 | 49,000円に、超過額5,000万円までごとに15,000円を加算 |
| 3億円超〜10億円以下 | 109,000円に、超過額5,000万円までごとに13,000円を加算 |
| 10億円超 | 291,000円に、超過額5,000万円までごとに9,000円を加算 |
日本公証人連合会が公表する公証人手数料令別表の額です(2026年9月時点)。
1通の遺言公正証書で目的価額の合計が1億円以下のときは、この額に遺言加算が上乗せされます。
加算額は改定されることがあるため、予約のときに公証役場で確認してください。
正本と謄本の交付は1枚300円です。
入院していて出向けない場合は公証人に出張してもらえますが、遺言加算を除いた手数料が1.5倍になり、日当が1日2万円(4時間までは1万円)と旅費の実費がかかります。
財産額ごとの合計の目安は公正証書遺言の費用はいくら?財産額別の手数料早見表で解説しています。
法務局に預けた遺言書を書き直す手順
自筆証書遺言書保管制度は2020年7月10日に始まった制度で、保管申請の手数料は1件3,900円です。この制度で預けた遺言書は、家庭裁判所の検認(けんにん)が不要になります。
預けた内容を変えるときは、保管の撤回を申請して原本を返してもらい、新しい遺言書を書いて改めて保管を申請します。
ここで注意したいのは、保管の撤回は法務局に預けるのをやめる手続きであって、遺言そのものを撤回する手続きではないという点です。
返ってきた原本をそのまま持っていれば、それは自筆証書遺言として効力を保ちます。
検認が不要という扱いだけが外れ、相続開始後に家庭裁判所の検認が必要な状態に戻ります。
内容を消したいなら、返却された原本を破棄するか、撤回する旨の遺言書を新しく作ります。
書き直す時期に法律の期限はない
何年ごとに見直すという法律上の期限はありません。実務で書き直しが必要になるのは、財産か相続人が動いたときです。
- 不動産を売った、買い替えた、建て替えた
- 預金の口座を解約した、金融機関が合併して支店名が変わった
- 結婚・離婚・養子縁組で相続人の顔ぶれが変わった
- 財産を渡す予定だった人が先に亡くなった
- 遺言執行者に指定した人が高齢になった
期限がないぶん、後回しにすると書けなくなる時期が来ます。
判断能力が落ちてからでは、自筆でも公正証書でも新しい遺言を作れません。
相続が始まったあとは、本人がもう書き直せません。
手元の正本を破っても撤回にならない|止まりやすいところ
書き直しが空振りになるのは、原本の在り処を取り違えたときです。
公正証書遺言の正本・謄本を破棄しても効力は残る
自筆証書遺言は、遺言者が故意に原本を破り捨てれば、その部分を撤回したものとして扱われます。
公正証書遺言は事情が違います。
原本は公証役場に保管されていて、手元にあるのは正本と謄本です。
これを処分しても原本は残り、相続開始後は公証役場で謄本を再発行できます。
公正証書の内容を消すには、新しい遺言書を作るか、前の遺言を撤回する旨の遺言書を作ります。
相続が始まったあとは内容を動かせない
相続開始後に遺言書が出てきた場合、その内容を書き換えることはできません。
遺言書と違う分け方をするには、相続人全員と、遺贈を受ける人の合意が必要です。
1人でも遺言書のとおりを主張すれば、その分け方になります。
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、封を開けずに家庭裁判所へ持ち込んで検認を受けます。
公正証書遺言と保管制度を使ったものは検認が不要です。
遺言書の内容に納得できない相続人が取れる手続きは、遺留分(いりゅうぶん)侵害額請求です。
期限は、相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年で時効になります。
遺言書を探すのに時間を使っている間も、ほかの期限は進みます。
相続放棄は自分が相続人だと知った時から3か月、相続税の申告と納付は相続の開始を知った日の翌日から10か月、不動産の相続登記は取得を知った日から3年です。
遺言書が見つかったのが四十九日のあとだと、財産の調査に使える期間はそのぶん短くなります。
自分でやる範囲と、専門家に渡す範囲
自筆証書遺言を書き直すところまでは、書類をそろえれば自分でできます。
法務局への保管申請も、公証役場の予約と資料集めも本人の手続きです。
外注が要るのはその先です。
- 遺留分を侵害しない配分になっているかの計算
- 事業用の資産や共有名義の不動産が含まれる場合の書き方
- 相続人の間で争いが起きそうな内容で、遺言の有効性を争われる見込みがあるとき
- 財産が基礎控除を超えていて、納税資金まで考えて配分を決めたいとき
前の3つは弁護士、最後は税理士に相談する段階です。
報酬は依頼先で幅があるため、着手前に見積もりを取ってください。
手続き全体を人に頼みたい場合の対応範囲は相続手続き代行はどこに頼む?費用と対応範囲で比べるで解説しています。
丸ごと任せると、財産の内容を自分で把握しないまま配分が決まります。
財産目録は自分で作り、判断が要る部分だけを渡すやり方もあります。
よくある質問
遺言書に有効期限はありますか
ありません。
遺言書の効力に期限を定めた規定はなく、作成から何年たっても方式が整っていれば有効です。
無効になるのは、全文自筆でない、日付が特定できない、押印がないといった方式の不備がある場合です。
古い遺言書と新しい遺言書の両方が出てきたらどちらが優先しますか
内容がぶつかる部分は、後の日付の遺言書が前のものを撤回したものとして扱われます。
ぶつからない部分は古い遺言書も有効なままです。
預金の記載だけが新しい遺言書にあり、不動産の記載が古い遺言書にしかないなら、2通を合わせて読むことになります。
公正証書遺言を自筆の遺言書で撤回できますか
できます。
前の遺言と同じ方式で作る必要はありません。
ただし、その自筆証書が方式不備で無効になると撤回の効力も生じず、公正証書遺言がそのまま残ります。
法務局に預けた遺言書を書き直すときは何をしますか
保管の撤回を申請して原本を返してもらい、新しい遺言書を作って改めて保管を申請します。
保管申請の手数料は1件3,900円です。
保管の撤回は預けるのをやめる手続きなので、返却された原本を持っているだけでは遺言の効力は消えません。
遺言書は何年ごとに見直せばよいですか
年数の決まりはありません。見直しが必要になるのは、不動産の売却や口座の解約で財産の中身が変わったとき、結婚や離婚で相続人が変わったとき、財産を渡す予定だった人が先に亡くなったときです。
相続が始まったあとで遺言書の内容を変えられますか
変えられません。
遺言書と違う分け方をするには、相続人全員と遺贈を受ける人の合意が必要です。
配分に納得できない場合の遺留分侵害額請求は、相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年で時効になります。
まとめ
遺言書に有効期限はありません。
20年前の日付でも方式が整っていれば効力を持ち、書き換えたいなら新しい遺言書を作るしかありません。
後の日付のものが前のものを全部打ち消すわけではないため、白紙に戻すつもりなら前の遺言を全部撤回する旨を書きます。
原本がどこにあるかで最後の工程が変わります。
自筆で手元にあるなら破棄、法務局に預けているなら保管の撤回、公正証書なら公証役場に原本が残るので新しい遺言書で上書きします。
ぜひ本記事の4工程の表と公証人手数料の早見表を参考に、今ある遺言書の方式と保管場所の確認から始めてください。


