遺産の分け方|法定相続分どおりに分けなくてよい理由

遺産の中身が実家と預金だけだと、きょうだいで半分ずつというわけにはいきません。土地と建物は割れず、預金を全部渡しても差額が埋まらないからです。
遺産の分け方は、相続人全員が合意すれば法定相続分と違う割合で決めてかまいません。
民法が定める法定相続分は、話し合いがまとまらずに家庭裁判所へ持ち込まれたときの拠りどころであって、はじめからその通りに分けるための決まりではないのです。
ただし相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月です。
分け方が決まらなくても、この期限は延びません。
本記事では、分け方が決まるまでの5ステップ・話し合いの前に集める書類と取り寄せ先・現物や代償など4タイプの分け方・10か月から逆算した進め方を解説します。
遺産の分配方法は、遺言書があるかどうかで入口が変わる
分け方の話に入る前に、遺言書があるかどうかを確かめます。
遺言書が見つかれば原則としてその内容が優先し、相続人全員での話し合いをしなくても分け方が決まる場合があります。
先に合意をまとめたあとで遺言書が出てくると、その合意をやり直すことになりかねません。
全体の流れは次のとおりです。
| ステップ | やること | 目安の時期 |
|---|---|---|
| 1 | 遺言書があるか確かめる | 死亡から2週間〜四十九日ごろ |
| 2 | 戸籍をたどって相続人を確定する | 1〜2か月 |
| 3 | 財産と借金を洗い出す | 3か月以内(相続放棄の判断があるため) |
| 4 | 分け方を話し合い、遺産分割協議書に全員が署名押印する | 相続税の申告がある家は10か月まで |
| 5 | 預金の払戻しと不動産の名義変更 | 協議書ができ次第(登記は3年以内) |
遺言書を探す場所は3か所
心当たりがなくても、次の3か所は当たっておきます。
- 自宅の仏壇・金庫・タンスの引き出しと、銀行の貸金庫
- 法務局(自筆証書遺言書保管制度を使っている場合)
- 公証役場(公正証書遺言を作っている場合)
自宅から封をした遺言書が出てきたら、開けずに家庭裁判所へ持ち込んでください。
自筆証書遺言と秘密証書遺言は検認という手続きが要るためです(民法1004条)。
公正証書遺言と、法務局の保管制度を使った自筆証書遺言なら検認は要りません。
保管制度は2020年7月10日に始まった仕組みで、保管申請の手数料は1件3,900円です(法務省 遺言書保管所/2026年9月時点)。
本記事で触れる制度の内容と金額も、同じ時点のものになります。
遺言書が無ければ、相続人全員での話し合い(遺産分割協議)で分け方を決めます。日付の違う遺言書が複数出てきたときにどちらが生きるのかは、遺言書の書き直しと撤回のやり方で解説しています。
法定相続分どおりに分けなくてよい理由と、それでも割合を確かめる場面
遺産分割は、相続人全員が合意した内容がそのまま結論になります。
実家は同居していた長男が取り、預金は他のきょうだいで分けるという形でも、全員が署名して実印を押せばその分け方で確定します。
法定相続分に合わせる義務はありません。
そもそも遺産の大半が実家という家では、割合どおりに分けようとすると家を売る以外に方法がなくなります。
住み続ける人がいるのかどうかで答えが変わるので、割合から入らず、財産ごとに誰が取るかから決めたほうが話は前に進むでしょう。
なお、相続人が1人でも欠けた話し合いは成立しません。
連絡先が分からない人がいるなら、分け方を詰める前に戸籍で住所を追う作業が先になります。
割合が意味を持つのは4つの場面
法定相続分を無視してよいのは、あくまで全員が合意できたときの話です。次の場面では割合そのものが計算の土台になります。
- 話し合いがまとまらず、家庭裁判所の調停や審判へ進んだとき
- 配偶者の税額軽減を使うとき(法定相続分か1億6,000万円のいずれか多い額までは相続税がかかりません/相続税法19条の2)
- 遺留分(いりゅうぶん)を侵害していないか確かめるとき
- 相続税の基礎控除で法定相続人の数を数えるとき
誰が相続人になるかは、配偶者がいるか、子がいるか、子がいなければ親か兄弟姉妹かという順番で決まります。
配偶者は常に相続人になり、第1順位は子、いなければ直系尊属、それもいなければ兄弟姉妹です。
組み合わせごとの割合は相続順位と取り分の一覧表で解説しています。
特定の相続人の取り分をほとんどゼロにする分け方をするなら、遺留分にも触れておきます。
遺留分侵害額請求は、相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年で時効になります(民法1048条)。
協議書に署名した内容は合意したものとして扱われますが、署名を得られないまま押し切れば、この期間は請求される余地が残ったままです。
相続の分配方法を話し合う前に集める書類と取り寄せ先
資料が何も無い状態で集まっても、誰が何をいくら取るかは決めようがありません。
先に集めるのは、相続人を確定するための戸籍と、財産の額が分かる残高証明書です。
不動産があれば登記事項証明書も要ります。
戸籍謄本と除籍謄本は本籍地の市区町村で取る
必要なのは、亡くなった人の出生から死亡までつながった戸籍です。
結婚や転籍で本籍を動かしていれば、その数だけ請求先の市区町村が増えます。
古い時期のものは除籍謄本や改製原戸籍(かいせいはらこせき)という名前で出てきます。
郵送で請求する場合は、申請書・本人確認書類の写し・定額小為替・返信用封筒を送ることになり、往復で日数がかかります。
手数料と処理日数は市区町村で確認してください。
相続人側の現在の戸籍謄本も、全員分そろえます。
預金の残高証明書は金融機関ごとに頼む
金融機関に死亡を伝えると口座は凍結され、そのうえで死亡日時点の残高証明書を出してもらえます。
支店単位ではなく金融機関単位で発行されるので、どこに口座があるか分からないときは、通帳・キャッシュカード・郵便物から当たっていきます。
入出金明細も一緒に取っておくと、亡くなる前の大きな出金について説明ができ、使い込みを疑う話に発展せずに済みます。
不動産は登記事項証明書の甲区と、固定資産税の課税明細書で確かめる
登記事項証明書は法務局で取得します。
甲区(所有権に関する事項)を見れば、名義が親のままなのか、それより前の世代で止まっているのかが分かります。
手数料は改定されることがあるため、法務局の現行料金を確認してください。
あわせて固定資産税の課税明細書か、市区町村で取れる名寄帳(なよせちょう)を見ておくと、私道や山林といった見落としやすい土地を拾えます。
家の中を片づけ始める前に、次のものは先に探しておいてください。処分してしまうと手続きが止まります。
- 通帳・キャッシュカード
- 保険証券・年金手帳
- 不動産の権利証と登記識別情報
- 遺言書・印鑑・印鑑登録証
- 貸金庫の鍵と契約書
- 有価証券・借用書
実家がある家の分配方法は4タイプから選ぶ
財産の中身が見えたら、実家をどう扱うかで分け方はほぼ決まります。取り得る形は4つです。
| タイプ | 中身 | 向く場面 | つまずく点 |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 財産ごとに取得者を決める | 預金と不動産の額が近い | 金額が揃わず不公平感が残る |
| 代償分割 | 1人が実家を取り、他の相続人に現金を払う | 住み続ける人がいる | 払う側に現金が要る |
| 換価分割 | 売却して代金を分ける | 誰も住まない・管理できない | 売れるまで確定しない/譲渡所得税 |
| 共有分割 | 持分を決めて共有する | 結論を出せないとき | 売却に全員の同意が要る |
代償分割を選ぶなら、協議書に代償金の額と支払期日、支払方法まで書き込みます。
金額の根拠になるのは実家の評価ですから、不動産会社の査定書か固定資産税評価額のどちらを基準にするかを、先に全員で決めておいてください。
実家をいくらと見るかで意見が割れたときの切り出し方は、きょうだいで揉める原因と話の進め方で解説しています。
換価分割では、売った利益にかかる税金を先に見ておきます。
相続した空き家を売る場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度があります。
1981年5月31日以前に建築された家屋であることなどが条件で、対象は2027年12月31日までの譲渡です。
相続人が3人以上いると、2024年1月1日以降の譲渡では1人あたり2,000万円に下がります(租税特別措置法35条3項/2026年9月時点)。
当てはまるかどうかの判定は個別事情で変わるので、売却を決める前に税理士へ相談する段階です。
共有は、決めたように見えて先送りです。
売却も賃貸も共有者全員の同意が要り、次の相続が起きるたびに持分を持つ人が増えていきます。
住む人のいないまま置けば、市区町村から特定空家や管理不全空家に指定される可能性もあります。
放置で自動的に税額が上がるわけではありませんが、指定を受けて勧告まで進むと固定資産税の住宅用地特例が外れます。
遺産分割協議書の出し先と、相続税の申告10か月からの逆算
遺産分割協議書は、役所に届け出る書類ではありません。使うのは次の3か所です。
- 金融機関(預金の払戻しと名義変更)
- 法務局(不動産の相続登記)
- 税務署(相続税の申告)
形式に決まった型はありません。
誰がどの財産を取得するかを特定できるように書き、相続人全員が署名して実印を押し、印鑑登録証明書を添えます。
不動産は登記事項証明書のとおりに所在・地番・家屋番号で書き、預金は金融機関名・支店名・口座番号まで書いてください。
住所の表記が印鑑登録証明書と1文字でも違うと、窓口で差し戻されることがあります。
人数分を作り、各自が1通ずつ持つ形が実務では扱いやすいです。
法律で切られている期限
| 手続き | 期限 | 起算日 |
|---|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 3か月 | 自己のために相続の開始があったことを知った時(民法915条) |
| 準確定申告 | 4か月 | 相続の開始を知った日の翌日(所得税法124条・125条) |
| 相続税の申告・納付 | 10か月 | 相続の開始を知った日の翌日(相続税法27条) |
| 相続登記 | 3年 | 不動産を取得したことを知った日(2024年4月1日より前の相続は2027年3月31日まで) |
| 遺留分侵害額請求 | 1年 | 相続の開始と侵害を知った時(相続開始から10年でも時効) |
相続放棄の3か月は「亡くなった日」からではありません。
借金の有無が分からず判断できないなら、期間内に家庭裁判所へ伸長を申し立てられます。
相続登記を正当な理由なく怠った場合は、10万円以下の過料の対象になります。
10か月から逆算すると、四十九日と納骨で1か月半、戸籍をそろえるのに1〜2か月かかるため、話し合いに使えるのは残りの半年ほどです。
そもそも申告が要るかどうかは、基礎控除を超えるかで決まります。
基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、相続人が3人なら4,800万円です(相続税法15条)。
相続放棄をした人も、この人数には含めて計算します。
超えるかどうかの見当をつける手順は相続税がかかる人の判定と基礎控除の考え方で解説しています。
注意したいのは、配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も、使うには申告が必要だという点です。
計算の結果が0円でも申告書を出します。
申告期限までに分け方が決まらない場合の申告方法と、あとから特例を使えるかどうかは、早い段階で税理士に確認してください。
名義と同意で止まる|自分でやる範囲と司法書士・税理士に渡す範囲
手続きが実際に止まるのは、分け方でもめたときよりも、前提が崩れたときです。多いのは名義と同意の2か所になります。
実家の名義が祖父の代で止まっている
登記事項証明書の甲区に祖父の名前が残っていたら、親の相続だけでは終わりません。
祖父の相続人全員の合意が必要になり、すでに亡くなっている人がいればその子へと権利が移っています(数次相続といいます)。
いとこの世代まで当事者が広がることもあり、集める戸籍の通数も一気に増えます。
この状態に気づいた時点で、司法書士に見積もりを取ったほうが早いです。
相続人の1人から署名がもらえない
遠方に住む相続人がいるだけなら、協議書を郵送で持ち回り、印鑑登録証明書を同封して返送してもらう形で進められます。
手が止まるのは、連絡先が分からない場合と、判断能力が落ちている相続人がいる場合です。
本人に代わって家族が署名押印しても協議は成立せず、家庭裁判所を通す手続きが要ります。
ここは弁護士か司法書士に相談する段階になります。
どこまで自分でできるか
戸籍の取り寄せ、残高証明書の請求、協議書の作成、預金の払戻しは、平日に窓口へ行ける人なら自分でこなせます。
名義人が親のままで、相続人が配偶者と子だけという単純な相続登記も、法務局の相談窓口を使えば自力で申請している人がいます。
一方、争いの兆しがあるなら弁護士、名義が古い、または持分が複雑なら司法書士、基礎控除を超えそうなら税理士へ渡します。
報酬は事務所ごとに違うので、複数から見積もりを取ってください。
窓口の選び方と対応範囲の違いは相続手続き代行の依頼先の比べ方で解説しています。
よくある質問
法定相続分と違う分け方をすると、税務署から指摘されますか
分け方そのものは相続人の合意で決まり、割合が違うこと自体が問題になるわけではありません。
相続税は、実際に取得した財産をもとに各人の負担額を計算します。
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は要件の当てはめで結果が変わるため、申告が必要な家では税理士に確認してください。
遺言書があっても、相続人全員で別の分け方に変えられますか
扱いは遺言書の中身で変わります。
遺言執行者が指定されているか、相続人以外の人に財産を渡す記載があるかで、必要な同意の範囲が違うためです。
まず全文を確認し、公正証書以外なら検認を済ませたうえで、弁護士に相談する段階になります。
1人が多く取ると、贈与税がかかりますか
遺産分割で取得した財産は、相続によって取得したものとして扱われます。
ただし代償金をどの資産から払ったかによって見方が変わる場面があり、金額が大きいときは判断が分かれます。
協議書に代償分割である旨と金額を明記したうえで、税理士に確認してください。
相続放棄したきょうだいがいると、基礎控除は減りますか
減りません。
基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算し、相続放棄をした人も人数に含めます(相続税法15条2項)。
ただし放棄をした人は財産を取得しないので、遺産分割協議には加わりません。
10か月までに分け方が決まらないと、どうなりますか
申告期限は延びません。
決まっていなくても10か月以内に申告と納付をします。
未分割のままでの申告方法と、分割後に特例を使えるかどうかは扱いが分かれるので、期限の2〜3か月前には税理士へ相談してください。
相続登記の3年の期限は、これとは別に進みます。
まとめ
遺産の分け方は、相続人全員の合意で決まります。
法定相続分は、話がまとまらなかったときの基準であり、配偶者の税額軽減や遺留分を計算するときの物差しです。
割合から入るのではなく、戸籍で確定した相続人の顔ぶれと、預金の残高証明書、それに不動産の登記事項証明書を先に机の上へ出してください。
実家があるなら、現物・代償・換価・共有のどれで扱うかを早めに決めます。
共有は決めたように見えて先送りになり、次の相続で当事者が増えていきます。
名義が祖父の代で止まっていた場合は、その時点で司法書士の仕事です。
ぜひ本記事の期限表と4タイプの比較表を参考に、相続税の申告期限である10か月から逆算して、今週どの書類を取りに行くかを決めてください。


