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相続放棄とは?借金を引き継がない条件と3か月の期限

相続放棄とは?借金を引き継がない条件と3か月の期限

親の家の郵便物を開けると、見覚えのないカードローンの残高通知が混じっていることがあります。

葬儀と四十九日を済ませ、役所と銀行を回り終えたあたりで見つかるのが厄介なところです。

相続放棄の期限は3か月ですが、この3か月は亡くなった日から数えるものではありません。

民法915条は「自己のために相続の開始があったことを知った時」からと定めています。

申述にかかる実費は、相続人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手だけです(裁判所「相続の放棄の申述」/2026年9月時点)。

費用よりも、手をつけてはいけない財産と、次に相続人になる親戚への連絡のほうが判断を要します。

本記事では、3か月の起算日・実費800円の内訳・放棄できなくなる行為・次順位の親戚への連絡まで解説します。

相続放棄の3か月は「亡くなった日」から数えない

相続放棄は、家庭裁判所に申述して初めて成立する手続きです。

期間は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」と定められています(民法915条)。

死亡日ではなく、自分が相続人になったと知った日が起点です。

「知った時」がいつになるか

同居していた子のように、亡くなったその日に自分が相続人だと分かる立場なら、死亡日と起算日は一致します。

一方で、先順位の相続人が全員放棄したことで自分に順番が回ってきた場合は、そのことを知った時点が起算日になります。

被相続人と長く連絡を取っていなかった兄弟姉妹や、甥・姪の立場では、死亡から半年以上たってから通知が届くこともあります。

この場合、通知を受け取った時点から3か月が動き始めます。

申述先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所

申述するのは、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

自分の住まいの近くの裁判所ではありません。

実家が遠方なら、郵送でのやり取りと戸籍の取り寄せに日数がかかるため、3か月のうち移動と郵便に消える時間を見込んでおきます。

申述人は相続人本人で、未成年者や成年被後見人の場合は法定代理人が代理します。

相続に関わる期限は放棄だけではありません。同時に動いているものを一覧にすると、放棄の判断に使える時間が見えます。

手続き期限起算日
死亡届7日以内死亡の事実を知った日
年金の受給停止厚生年金10日・国民年金14日以内死亡日
相続放棄・限定承認3か月以内自己のために相続の開始があったことを知った時
準確定申告4か月以内相続の開始を知った日の翌日
相続税の申告・納付10か月以内相続の開始を知った日の翌日
相続登記3年以内不動産を取得したことを知った日

四十九日と納骨で2か月近く過ぎることを考えると、財産の中身を調べて放棄するかどうかを決める時間は、実際には1か月ほどしか残りません。

「何もいらない」と言うことと相続放棄は別物

兄弟で話し合って「自分は何もいらない」と決め、遺産分割協議書に取り分ゼロで署名する人がいます。

これは相続放棄ではありません。

放棄したつもりでも、家庭裁判所への申述をしていなければ、法律上は相続人のままです。

遺産分割で取り分をゼロにしても債務は残る

遺産分割協議は、相続人どうしでプラスの財産の分け方を決める話し合いです。

借金や未払いの医療費といったマイナスの財産は、協議の内容にかかわらず法定相続分どおりに引き継がれます。

債権者は協議書の内容に縛られないため、「自分は何も受け取っていない」と主張しても請求は止まりません。

取り分をゼロにした相続人が、後から金融機関に返済を求められることがあるのはこの理由です。

相続放棄は家庭裁判所への申述で成立する

これに対して相続放棄は、家庭裁判所が申述を受理することで効力を持ちます。

受理されると、その人は最初から相続人ではなかった扱いになり、プラスの財産も債務も引き継ぎません。

他の相続人の同意や署名は要らず、1人で申述できます。

兄弟の誰かに反対されても、自分の分だけを放棄する判断は自分でできるということです。

借金を引き継がない仕組みと、限定承認という別の選択

相続放棄が受理されると、その相続人は相続の開始時点までさかのぼって相続人ではなかったことになります。

連帯保証人になっていない限り、故人の借金の返済を求められることはありません。

ただし、放棄した人が保証人としてハンコを押している債務は、相続とは別の契約なのでそのまま残ります。

プラスとマイナスのどちらが多いか分からないとき

判断に迷う原因は、たいてい債務の総額が分からないことにあります。

手がかりになるのは、通帳の引き落とし履歴と、故人宛の郵便物です。

毎月同じ日に同額が引き落とされていれば、ローンや分割払いの可能性があります。

督促状や契約書、借用書は捨てずに残しておきます。

遺言書が見つかった場合、自筆で書かれたものと秘密証書遺言は、封を開けずに家庭裁判所の検認を受けます(民法1004条)。

公正証書遺言と、法務局の保管制度を使った自筆証書遺言は検認が不要です。

どの種類にあたるかで扱いが変わるので、遺言書の3つの種類と選び方で解説しています。

限定承認は3か月以内に家庭裁判所へ申述する

プラスの財産の範囲内で債務を清算し、余りが出れば受け取る方法として、限定承認があります。

期限は放棄と同じく、相続の開始を知った時から3か月です。

実家だけは残したいが借金の総額が読めない、という場面で検討される手続きですが、財産の換価と清算の手順が複雑で、相続人の間の調整も必要になります。

限定承認を選ぶ可能性があるなら、3か月のうちに弁護士へ相談する段階です。

相続放棄の費用は収入印紙800円と切手だけ

裁判所に納めるのは、申述する相続人1人につき収入印紙800円です。

ほかに連絡用の郵便切手が必要になります。

郵便料は裁判所ごとに組み合わせが違うため、申述先の家庭裁判所に確認してから買いに行ってください(裁判所「相続の放棄の申述」/2026年9月時点)。

これ以外にかかるのは、添付する戸籍謄本や住民票除票の交付手数料です。

金額は市区町村ごとに定められているので、窓口またはホームページで確認します。

子が申述する場合は必要な戸籍が2〜3通で済みますが、兄弟姉妹や親が申述する場合は、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍が要るため、通数がまとまって手数料も膨らみます。

転籍を何度もしている人の戸籍を全部そろえると、請求先の市区町村が複数にまたがることも出てきます。

司法書士や弁護士に依頼すれば報酬が上乗せされますが、公的な相場調査がないため金額は書けません。

判断の目安になるのは、自分で書けるかどうかよりも、債務の総額が読めるかどうかです。

督促状の宛先が複数あり、保証債務の有無がはっきりしない状態なら、専門家に渡す場面にあたります。

実費の内訳と、依頼する場合の考え方は相続放棄の費用が数千円で済む理由で解説しています。

必要書類は、配偶者か子か兄弟姉妹かで変わる

申述書に添付する戸籍は、申述する人の立場によって変わります。

共通して要るのは、被相続人の住民票除票または戸籍附票と、申述人自身の戸籍謄本です。

そこに立場ごとの戸籍を足していきます。

申述する人共通書類に加えて必要なもの
配偶者被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
子被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
孫などの代襲者上記に加え、被代襲者(亡くなった子)の死亡の記載がある戸籍謄本
父母・祖父母被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、死亡した子の戸籍謄本、申述人より下の代の直系尊属の死亡の記載がある戸籍謄本
兄弟姉妹被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、死亡した子の戸籍謄本、直系尊属の死亡の記載がある戸籍謄本

戸籍謄本は本籍地の市区町村で取ります。

住民票除票は最後の住所地です。

「出生から死亡まですべて」というのは、結婚や転籍のたびに新しく作られた戸籍を、古いものまでさかのぼって集める作業になります。

ひとつの役所で出してもらった戸籍に前の本籍地が書かれているので、それを頼りに次の役所へ請求していきます。

郵送請求なら1往復に1〜2週間かかるため、兄弟姉妹の立場で放棄するなら、3か月のうち半分以上を書類集めに使う前提で動いてください。

申述書の書き方と提出後の流れは相続放棄の手続きの流れと必要書類で解説しています。

相続放棄ができなくなるのは、財産に手をつけたとき

3か月が残っていても、相続財産を使ったり処分したりすると、相続を承認したものとみなされて放棄できなくなります。放棄を検討している段階でいちばん危ないのは、手続きを進めようとする善意の行動です。

預金の入出金を止める

故人の口座から公共料金の引き落としが続いている、年金の未支給分を受け取った、葬儀費用を立て替えるつもりで預金を引き出した——こうした行為は、相続財産の処分として扱われる可能性があります。

放棄を考えているなら、金融機関に死亡を届け出て口座を凍結し、引き落としは自分の口座やクレジットカードへ切り替えておきます。

葬儀費用を故人の預金から支出した場合の扱いは判断が分かれる論点なので、すでに動かしてしまったなら、その事実を伝えて弁護士に確認してください。

形見分けと処分の線引き

遺品整理も注意が要ります。

写真や手紙を持ち帰るのとは違い、時計や貴金属、車といった換金できるものを引き取ったり売ったりすると、財産の処分にあたります。

業者に依頼して家財を一括処分するのも同じです。

放棄するかどうかを決めるまでは、家の中のものを動かさず、鍵の管理だけにとどめるのが手順です。

賃貸物件で退去を急かされている場合は、大家に事情を伝えて期限の相談をしたうえで、家庭裁判所へ先に申述する順番になります。

債務の一部を払ってしまった場合

債権者から請求書が届き、少額だから払っておこうと考えるのも危険です。

故人の債務を相続財産から弁済すれば、承認したものと受け取られます。

請求の連絡が来たら、相続放棄を検討中であることだけを伝え、支払いはしないでください。

相続放棄をしても、お墓と仏壇は引き継げる

放棄すると何もかも切り離されると思われがちですが、お墓・仏壇・位牌といった祭祀(さいし)財産は相続財産とは別枠で、1人が引き継ぎます(民法897条)。

指定がなければ慣習によって決まり、それでもまとまらなければ家庭裁判所が定めます。

相続放棄をした人が、この役目を引き受けることもできます。

借金は引き継がないが、親の墓は自分が守る、という選び方ができるということです。

相続税の計算にも、放棄した人の影響が残ります。

基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算しますが、この人数には相続放棄をした人も含めます(相続税法15条2項)。

子3人のうち1人が放棄しても、基礎控除は4,800万円のままです。

放棄によって他の相続人の控除額が減るわけではありません。

一方で、放棄した人は遺産を取得しないため、相続税の申告に名前を連ねることはありません。

誰にどこまで相続税がかかるのかは、遺産の総額と相続人の構成で決まります。

判定の入口は相続税の基礎控除と課税される人の条件で解説しています。

子が全員放棄すると、次は親、その次は兄弟姉妹へ移る

相続放棄でいちばん見落とされるのが、放棄によって相続権が次の順位へ移ることです。

配偶者は常に相続人で、第1順位は子、子がいなければ第2順位の直系尊属(父母・祖父母)、それもいなければ第3順位の兄弟姉妹という順番になります。

子が全員放棄すれば、故人の親が生きていればその親へ、亡くなっていれば故人の兄弟姉妹へ、借金ごと相続権が移ります。

兄弟姉妹も亡くなっていれば、その子である甥・姪に及びます。

問題になるのは、次順位の人が自分が相続人になったことを知らないままでいる状況です。

知らなければ3か月の起算日が動かないので放棄はできますが、債権者からの督促が突然届くことになり、そこから戸籍を集めて申述する時間に追われます。

故人と交流のない叔父や従兄弟が、ある日カードローンの請求を受け取る形です。

自分が放棄する決断をしたなら、受理された時点で次順位の親戚に伝えておくのが、揉め事を小さくする手順です。

伝える内容は、亡くなった日・放棄が受理された日・判明している債務の概要の3点で足ります。

電話で切り出しにくい相手なら書面にするほうが誤解が残りません。

相続放棄を親戚に伝える手紙の文例で解説しています。

3か月に間に合わないときの相続放棄と、何もしなかった場合

財産の調査が終わらないまま期限が近づいたときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられます(民法915条)。

ここで大事なのは、申し立て自体を3か月の期間内にしなければならないという点です。

過ぎてから「調べていたので待ってほしい」と言っても受け付けられません。

遠方の不動産が複数ある、債務の総額が読めない、戸籍がまだ集まらない——こうした事情があるなら、期限の1か月前を目安に伸長の準備に入ります。

申立ての流れは相続放棄の期限と期間伸長の申立てで解説しています。

何もしないまま3か月が過ぎるとどうなるか

期間内に放棄も限定承認もしなければ、単純に相続を承認したものとして扱われます。

プラスの財産だけでなく債務も法定相続分どおりに引き継ぐことになり、後から借金が出てきても放棄はできません。

3か月を過ぎてから債務の存在を知った場合に、起算日をいつと見るかは争いになる論点です。

督促状が届いてから慌てる段階になったら、支払いをする前に弁護士へ相談してください。

放棄しなかった不動産には登記の義務がかかる

実家を相続することになった場合、不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります(2024年4月1日施行)。

正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です。

2024年4月より前に相続した不動産も対象で、その分の期限は2027年3月31日までとされています。

名義を親のままにして空き家を放置すると、この期限と、市区町村から特定空家または管理不全空家の指定を受けるリスクの両方を抱えることになります。

指定と勧告を受けると固定資産税の住宅用地特例が外れるため、税額の負担も変わります。

よくある質問

相続放棄には相続人全員の同意が必要ですか

不要です。

相続放棄は相続人が1人ずつ申述する手続きで、他の相続人の同意も署名も要りません。

ただし放棄によって相続権が次の順位に移るため、結果として親族の範囲に影響が及びます。

同意は要らないが、連絡はしておく場面だと考えてください。

相続放棄をすれば実家の管理からも解放されますか

放棄すれば所有者としての立場は外れますが、現に建物を占有している状態で放棄した場合の管理の扱いは、状況によって変わります。

鍵を持っている、近所から草木の苦情が来ているといった事情があるなら、放棄の申述と合わせて弁護士に確認する段階です。

空き家の処分そのものを目的に放棄を選ぶのは、順番として合っていません。

未成年の子も相続放棄できますか

できます。

未成年者や成年被後見人が申述する場合は、法定代理人が代理して手続きします。

親自身も相続人である場合の代理の扱いについては、申述先の家庭裁判所に確認してください。

3か月を過ぎてから借金が判明しました。もう放棄できませんか

3か月は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から数えるため、いつを起算日と見るかによって結論が変わります。

相続人だと知りながら財産の調査をしていなかった場合と、債務の存在を知る手がかりが一切なかった場合では扱いが違います。

判断が分かれる論点なので、債権者に支払う前に弁護士へ相談してください。

相続放棄をしても相続税の基礎控除は減りますか

減りません。

基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算し、この人数には相続放棄をした人も含めます。

相続人が3人なら、1人が放棄しても4,800万円のままです。

相続放棄の費用は全部でいくらかかりますか

裁判所に納めるのは、申述する相続人1人につき収入印紙800円と、連絡用の郵便切手です(裁判所「相続の放棄の申述」/2026年9月時点)。

これに戸籍謄本や住民票除票の交付手数料が加わります。

手数料の額は市区町村ごとに定められているので、請求先の窓口で確認してください。

故人の口座から葬儀費用を出してしまいました

相続財産を使ったことになるかどうかは、支出の内容と時期によって判断が分かれます。

すでに動かしてしまった場合は、いつ・いくら・何に使ったかを記録に残したうえで、放棄の申述前に弁護士へ事実を伝えて確認してください。

追加で預金を動かすのは止めておきます。

まとめ

相続放棄の3か月は、亡くなった日ではなく自分が相続人だと知った日から動きます。

申述にかかる実費は1人800円と切手だけで、手続きの難所は費用ではなく、戸籍を集める時間と、財産に手をつけないことの2点にあります。

遺産分割で取り分をゼロにしただけでは債務が残るという違いも、早い段階で押さえておく部分です。

放棄すれば相続権は次の順位へ移り、故人の親や兄弟姉妹、甥・姪に借金ごと引き継がれていきます。

お墓と仏壇は放棄しても引き継げますし、基礎控除の人数からも外れません。

ぜひ本記事の期限一覧と、申述する立場ごとの必要書類の表を手元に置いて、残り何日あるかを数えるところから始めてください。

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