相続放棄の手続きはどう進める?申述の流れと必要書類

相続放棄の申述先は、被相続人が最後に住んでいた住所地の家庭裁判所です。
自分の住所地でも、実家の本籍地でもありません。
期限は「自分が相続人だと知ったときから3か月」で、亡くなった日から数えるわけではないため、順位が回ってきた兄弟姉妹は起算日が後ろにずれます。
費用は申述する1人につき収入印紙800円と、連絡用の郵便切手だけです。
本記事では、申述までの流れ・戸籍謄本をどこまで集めるか・立場ごとに変わる必要書類・期限に間に合わないときの手当てを解説します。
相続放棄の手続きは戸籍集めで日数が決まる
家庭裁判所へ出すもの自体は多くありません。
申述書1枚と、戸籍などの添付書類、収入印紙800円、それに連絡用の郵便切手です。
書類が揃っていれば申述そのものは1日で終わります。
日数を食うのは、市区町村から戸籍を取り寄せる工程です。
| 順番 | やること | どこで |
|---|---|---|
| 1 | 自分が相続人だと知った日を確定する(3か月の起算日) | — |
| 2 | 被相続人の最後の住所地を確認し、管轄の家庭裁判所を調べる | 裁判所のウェブサイト |
| 3 | 申述先の家庭裁判所に、必要な郵便切手の種類と枚数を確認する | 電話でも可 |
| 4 | 住民票除票・戸籍謄本を取り寄せる | 市区町村 |
| 5 | 申述書を書き、印紙と切手を添えて提出する | 家庭裁判所(郵送可) |
| 6 | 裁判所から届く照会書に回答する | 郵送 |
| 7 | 受理された旨の通知を受け取る | 郵送 |
子や配偶者が申述する場合、集める戸籍は2〜3通で足ります。
ところが兄弟姉妹や親(直系尊属)が申述する立場になると、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本が要ります。
転籍を繰り返している人だと本籍地が3か所4か所にまたがり、そのつど別の市区町村へ請求することになります。
ここで1か月近く消えることがあるため、3か月という期限は「思ったより短い」ものになります。
先に手を付ける順番として、書類を集め始める前に管轄の家庭裁判所へ電話して、切手の内訳を聞いておくと二度手間になりません。郵便料は裁判所ごとに異なり、公表された全国一律の額はありません。
相続放棄の申述より先に、預金と遺品に手を付けない
手続きの話の前に、止めておく行為があります。
相続財産を使ったり処分したりすると、単純承認したものとみなされて、放棄そのものができなくなります。
故人の口座から葬儀費用を引き出す、車や家財を売る、賃貸物件を解約して敷金を受け取る、といった行為が該当し得ます。
凍結前の口座からの入出金は止めておきます。
公共料金の引き落としが故人の口座に残っている場合は、自分の口座への切り替えや、事業者への連絡で対応します。
遺品も、価値のあるものを持ち出したり売ったりせず、そのまま置いておくのが無難な扱いになります。
この線引きがどこまで及ぶかは、金額や目的によって判断が分かれる論点です。
すでに使ってしまった心当たりがある場合は、申述の前に弁護士へ相談する段階になります。
放棄が認められる条件そのものは相続放棄とは?借金を引き継がない条件と3か月の期限で解説しています。
3か月の起算日は立場によってずれる
民法915条の期間は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月です。
子や配偶者は、通常は亡くなったことを知った日が起算日になります。
一方、兄弟姉妹は第3順位のため、子と親がいない、あるいは先順位の全員が放棄したと知った時点からの3か月です。
先順位の相続人が放棄したことを何か月も後に知らされるケースでは、そこが起算日になります。
債権者からの督促状で初めて相続を知った、という場合も同じ考え方です。
日付を示せる郵便物は封筒ごと残しておくと、いつ知ったかの説明に使えます。
期限の数え方と、間に合わないときの伸長の申立ては相続放棄の期限は3か月|過ぎそうなときの期間伸長の申立てで解説しています。
相続放棄の必要書類は申述人の立場で変わる
裁判所が示している添付書類は、全員に共通するものと、申述人の立場ごとに追加されるものに分かれます。共通するのは、被相続人の住民票除票または戸籍附票と、申述人自身の戸籍謄本です。
配偶者・子が申述するとき
共通書類に加えて、被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本が要ります。
子が申述する場合も同じで、亡くなったことが記載された1通で足りるのが通常です。
ただし、本来の相続人である子が先に亡くなっていて孫が代わりに相続人になっている(代襲相続)ときは、その亡くなった子の死亡の記載がある戸籍謄本も追加になります。
親・祖父母が申述するとき
直系尊属が相続人になるのは、被相続人に子や孫がいない場合です。
裁判所は、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を求めています。
子がいたけれど亡くなっている場合はその子の死亡の記載がある戸籍謄本も、祖父母が申述するなら申述人より下の代の直系尊属(つまり親)の死亡の記載がある戸籍謄本も追加されます。
兄弟姉妹・甥姪が申述するとき
いちばん集める量が多い立場です。
被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、被相続人の子が亡くなっているならその子の戸籍謄本、そして直系尊属の死亡の記載がある戸籍謄本が要ります。
甥姪が代襲して相続人になっているなら、被代襲者(自分の親である兄弟姉妹)の死亡の記載がある戸籍謄本も加わります。
出生から死亡までの戸籍は、最後の本籍地で「ここにある分をすべて」と請求し、そこから前の本籍地をたどっていく形で集めます。
婚姻や転籍のたびに戸籍が変わっているため、1か所では揃いません。
遠方の市区町村には郵送請求ができ、定額小為替で手数料を送るのが一般的な方法です。
往復の日数を含めて2週間前後を見ておくと計画が立てやすくなります。
手数料は自治体の条例で定められているため、金額は請求先の市区町村で確認してください。
家庭裁判所への提出は郵送でもできる
申述人は相続人本人です。
未成年者や成年被後見人が申述する場合は、法定代理人が代理します。
同じ被相続人について複数の相続人が放棄するときは、それぞれが申述人になり、収入印紙800円も人数分が必要です。
ただし共通する戸籍謄本は1通を共用できることが多いため、同時に出すなら家庭裁判所に確認しておくと重複請求を避けられます。
提出方法は窓口持参と郵送のどちらでも構いません。
実家が遠方でも、管轄が被相続人の最後の住所地である以上、そこへ出す必要があります。
平日しか開いていない窓口へ足を運べないなら、郵送のほうが現実的です。
書留や特定記録で送れば、いつ届いたかの記録が残ります。
申述書には、相続の開始を知った日、放棄する理由、被相続人の資産と負債のおおよその内容を書く欄があります。
理由は選択式の項目にあてはめる形式で、負債の額は概算で構いません。
分からない欄を空けたまま出すと、後から補正を求められて日数が増えます。
提出後、1〜2週間ほどで家庭裁判所から照会書(回答書)が届きます。
本当に自分の意思で申述したのか、財産を処分していないかを問う内容です。
これに記入して返送し、問題がなければ相続放棄申述受理通知書が送られてきます。
債権者に放棄を示す場面では、この通知書のコピーか、別途申請する相続放棄申述受理証明書を使います。
相続放棄の手続きでつまずくのはこの4つ
止まる場所はだいたい決まっています。
- 戸籍が揃わない — 本籍地が複数県にまたがり、郵送請求の往復で日数が読めない
- 知った日を証明できない — 先順位の放棄を後から知った場合、いつ知ったかの説明が必要になる
- すでに財産に手を付けている — 葬儀費用の引き出しや家財の処分が単純承認と扱われるおそれがある
- 次の順位に連絡が行く — 自分が放棄すると、相続権は次順位の相続人に移る
4つ目は手続き上のつまずきではありませんが、影響がいちばん広い部分です。
子の全員が放棄すれば親へ、親がいなければ兄弟姉妹へ、兄弟姉妹が亡くなっていれば甥姪へと順位が移ります。
移った先の3か月は、その人が「自分が相続人になったと知ったとき」から始まります。
家庭裁判所は次順位の人へ通知してくれるわけではないため、借金があることを知らないまま督促状を受け取る親戚が出ます。
自分が放棄する見込みが立った段階で、次に相続権が回る人へ知らせておくと、その人の3か月が確保されます。
伝え方に迷うなら相続放棄を親戚に伝える手紙の文例|角が立たない書き方で解説しています。
期限が迫っていて戸籍が間に合わないときは、期間内に家庭裁判所へ伸長の申立てをします。3か月を過ぎてから相談しても、この申立てはできません。
自分でやるか専門家に頼むかは、戸籍の量で分かれる
裁判所へ支払う実費は、申述する1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手だけです(裁判所「相続の放棄の申述」/2026年9月時点)。
ほかに戸籍と住民票除票の交付手数料がかかりますが、それでも自分で進めれば数千円の範囲で収まります。
司法書士や弁護士に依頼した場合の報酬には公的な相場の統計がないため、見積りで確認してください。
自分で進めやすいのは、子や配偶者として申述する場合です。
集める戸籍が少なく、期限にも余裕があるなら、書類の取り寄せと申述書の記入で完結します。
一方、専門家に渡す判断になりやすいのは次のような場面です。
- 兄弟姉妹や甥姪の立場で、被相続人の戸籍が何か所にもまたがっている
- 3か月の残りが2〜3週間しかない
- すでに預金を動かしていて、単純承認にあたるか判断がつかない
- 負債と資産のどちらが多いか分からず、限定承認と比べたい
限定承認は、相続財産の範囲で債務を支払い、余りがあれば受け取る方法です。
相続人が複数いる場合は全員で申述する必要があり、財産の清算手続きも伴うため、実務の負担は放棄より重くなります。
どちらを選ぶかを含めた判断は弁護士の領域です。
実費の内訳は相続放棄の費用はいくら?自分でやれば数千円で済む理由で解説しています。
よくある質問
相続放棄の手続きはどこの家庭裁判所へ出しますか
被相続人が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所です。
申述人が遠方に住んでいても、自分の住所地の裁判所では受け付けられません。
郵送での提出ができるため、必ず出向く必要はありません。
3か月を過ぎてしまいましたが、まだ放棄できますか
起算日は「自分が相続人だと知ったとき」なので、亡くなってから3か月以上たっていても、知った時点が後であれば期間内のことがあります。
債権者からの通知で初めて相続を知った場合などが該当し得ます。
認められるかは事情によって判断されるため、督促状の日付が分かる郵便物を持って弁護士に相談する段階です。
放棄したら、お墓や仏壇も引き継げなくなりますか
墓・仏壇・位牌といった祭祀(さいし)財産は相続財産とは別に扱われ、1人が引き継ぎます(民法897条)。
相続放棄をした人でも祭祀承継者になれます。
ただし、その後の管理費や墓じまいの費用は引き継いだ人が負うことになります。
相続人全員が放棄したら、実家の家はどうなりますか
次順位の相続人も含めて全員が放棄すると、相続人がいない状態になります。
この場合、債権者などの申立てにより家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、その人が財産を清算します。
ただし、放棄した人にも、次に管理する人が決まるまでは財産を保存する義務が残る場面があります。
空き家の状態が問題になるなら、選任の申立てを含めて弁護士に相談してください。
放棄すると相続税の基礎控除は減りますか
減りません。
基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算し、この人数には相続放棄をした人も含めます(相続税法15条2項)。
誰にどこまで相続税がかかるかは相続税は誰にかかる?基礎控除3,600万円が分かれ目になるで解説しています。
まとめ
相続放棄の手続きで日程を左右するのは、申述そのものではなく戸籍の取り寄せです。
配偶者や子なら数通で済みますが、兄弟姉妹や甥姪の立場では被相続人の出生から死亡までの戸籍が必要で、本籍地が複数にまたがれば郵送請求だけで数週間かかります。
3か月の起算日は亡くなった日ではなく自分が相続人だと知ったときであり、先順位の放棄を後から知った人はそこから数え直します。
費用は申述人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手だけで、裁判所へ支払う分は自分で進めれば数千円の範囲に収まります。
ただし、申述の前に預金を動かしたり家財を処分したりすると、単純承認とみなされて放棄できなくなる点だけは先に押さえてください。
ぜひ本記事の7ステップの流れと立場別の必要書類を参考に、管轄の家庭裁判所へ電話して切手の内訳を確かめるところから始めてください。


