相続した株の取得価格|売却したときの税金もあわせて解説

証券会社から届いた残高報告書には、株数と評価額しか書かれていません。
親がその株をいくらで買ったのかは載っていないのが普通です。
ところが売却したときの税金は、相続した日の時価ではなく、亡くなった人が買った値段を引き継いで計算します(所得税法60条1項)。
引き継ぐべき買値が分からないと、売却代金の5%を取得価格とみなす方法しか残りません。
値上がりした株ほど、この差が税額を動かします。
上場株式の譲渡益にかかる税率は20.315%です(国税庁/2026年9月時点)。
本記事では、取得価格の引き継ぎ方・5%で計算したときの税負担・買値をたどる書類・相続税を取得価格に上乗せできる3年10か月の特例まで解説します。
相続した株の取得価格は、親が買った値段を引き継ぐ
相続や遺贈(いぞう)で財産を取得した場合、取得した日と取得費は前の持ち主のものをそのまま引き継ぎます(所得税法60条1項)。
相続した日の終値で買い直したことにはなりません。
親が30年前に買って何倍にもなった株を売れば、その値上がり分のすべてが、売った相続人の利益として課税されます。
逆のパターンもあります。
親が高値で買って塩漬けにしていた株なら、相続後に売っても利益は出ず、税金もかかりません。
どちらになるかは、相続した日の株価ではなく親の買値で決まります。
相続税の評価額は取得価格に使えない
上場株式の相続税評価額は、次の4つのうち最も低い額を使います(財産評価基本通達169)。
- 課税時期(亡くなった日)の終値
- 課税時期の属する月の毎日の終値の平均
- その前月の毎日の終値の平均
- その前々月の毎日の終値の平均
この金額は相続税を計算するための評価額です。
譲渡所得の計算では使いません。
相続税の申告書に書いた1株あたりの評価額を、そのまま譲渡所得の取得価格の欄に書き写すことはできません。
評価に使う数字と、売却益に使う数字は別の制度で決められています。
売却益にかかる税率の内訳
譲渡所得は「売却代金 −(取得価格 + 譲渡費用)」で計算します。
譲渡費用は売却時の手数料などです。
ここで出た利益に、申告分離課税で次の税率がかかります。
| 区分 | 税率 |
|---|---|
| 所得税 | 15% |
| 復興特別所得税 | 0.315% |
| 住民税 | 5% |
| 合計 | 20.315% |
特定口座(源泉徴収あり)で売れば、証券会社がこの税額を引いて精算します。
ただし引かれる額は、証券会社に登録されている取得価格をもとに計算されます。
相続で移管したときに買値を伝えていなければ、後述する5%で処理されることになります。
取得価格が分からないときは、売却代金の5%で計算する
亡くなった人がいつ何円で買ったのかをたどれない株は、売却代金の5%を取得価格として申告する方法が国税庁の取り扱いとして認められています。概算取得費と呼ばれる計算方法です。
5%で計算すると代金の95%が課税対象になる
取得価格が代金の5%なら、残る95%が利益として扱われます。
税率20.315%をかけると、税額は売却代金の19.3%前後になります。
1,000万円で売れば190万円台が税金に回る計算です。
実際には親が数百万円で買っていたとしても、その証拠が出せなければこの結果になります。
手元に残る金額が2割近く変わる一方で、調べる先は証券会社と親の書類棚に限られます。売り急ぐ前に買値をたどる価値があるのはこのためです。
親が買った時期で有利不利が入れ替わる
5%が不利になるのは、親が安く買って大きく値上がりした株です。
反対に、株価が下がって相続時には買値の半分以下になっている株なら、実際の買値のほうが取得価格として大きく、税金は出ません。
買値が分かっているなら、そちらで計算したほうが有利になります。
なお、実際の取得費が判明している場合に概算取得費を選べるかどうかは、判断が分かれる論点です。どちらで申告するか迷う場面では、税務署の事前相談か税理士に確認してください。
特定口座に移す段階で数字が固まる
相続した株を自分の証券口座へ移す手続きでは、被相続人の取得日と取得価格を申し出る欄があります。
ここを空欄のまま進めると、証券会社の記録上は取得価格が不明な株になります。
移管の申込書を書く前に、買値の資料を探しておくほうが手間が少なくなります。
親の買値をたどる書類は、証券会社と自宅の両方にある
買値の手がかりは、証券会社に残っている記録と、親が自宅に保管していた書類の2方向から探します。まず当たるのは次の書類です。
- 特定口座年間取引報告書(取得価格が記載されている)
- 売買のたびに届いた取引報告書、定期的に届く取引残高報告書
- 証券会社が保存している顧客勘定元帳(保存期間は会社ごとに異なるため照会する)
- 亡くなった人の確定申告書の控えと、添付されていた計算明細書
- 2009年1月の株券電子化より前に持っていた紙の株券、名義書換請求書の控え、配当金計算書
証券会社への照会は、相続人であることを示す戸籍などの書類を出したうえで行います。
口座の名義変更や移管の手続きと同じ窓口で頼めるため、あわせて依頼すると往復が減ります。
手続きに必要な書類は株の相続手続きの流れと証券口座の名義変更に必要な書類で解説しています。
株式分割や併合があった株は1株あたりの金額が変わる
買ったときの取引報告書が見つかっても、その後に株式分割や併合があれば、1株あたりの取得価格は調整されます。
株数が2倍になっていれば1株あたりの買値は半分です。
合併で別の会社の株に変わっている場合も、引き継ぎ方が個別に決まります。
銘柄の履歴は証券会社か発行会社の株主名簿管理人に確認できます。
名義変更が終わるまで株は売れない
金融機関が名義人の死亡を知った時点で口座は凍結され、売買も出金も止まります。
株を売れるのは、相続人の口座へ移管してからです。
移管に必要な遺産分割協議書や相続人全員の同意書がそろわないまま株価だけが動く状況になるため、買値の調査と並行して手続きを進めることになります。
全体の流れは株式・投資信託の相続を証券会社で進める手順で解説しています。
親がまだ元気なうちに聞けるなら、証券会社名・銘柄・買った時期をメモに残してもらうだけで、この調査はほとんど不要になります。書き残す項目はエンディングノートに書くべき項目で解説しています。
相続税を払ったなら、3年10か月以内の売却で取得価格に上乗せできる
相続税を納めた人が、その相続で取得した株を一定期間内に売った場合、支払った相続税のうちその株に対応する分を取得価格に加算できます(租税特別措置法39条・相続税の取得費加算の特例)。取得価格が増えるぶん譲渡所得が減り、税額が下がります。
期限は相続税の申告期限から3年
使える期間は、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までです。
相続税の申告期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月なので(相続税法27条)、相続開始から数えると3年10か月が区切りになります。
売却の日付がこの期限を1日でも過ぎれば加算はできません。
加算できる金額は、納めた相続税の全額ではありません。
その相続人が納めた相続税のうち、売った株の相続税評価額が占める割合に応じた金額です。
複数の銘柄を順に売る場合は、売るたびに計算し直すことになります。
相続税がかからなかった人は使えない
この特例は相続税を納めた人のための仕組みです。
遺産の総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下で相続税の申告そのものが不要だった場合、加算する相続税額がないため適用されません。
自分が納税する立場かどうかは、相続税がかかる人と基礎控除の考え方で解説しています。
適用を受けるには、譲渡した年の確定申告で相続税の申告書の写しなどを添えて申告します。特定口座で源泉徴収されている場合も、確定申告をしなければ加算は反映されません。
譲渡所得税を払うのは売った人|代金の分け方で負担が変わる
譲渡所得税は、その株の名義人として売った人にかかります。
代表の1人にまとめて名義変更してから売り、代金を兄弟で分ける段取りにすると、税金と確定申告はその1人に集まります。
手取りベースで公平に分けるつもりなら、税額を差し引いてから分配額を決めることになります。
換価分割なら各自が自分の持分を申告する
相続人それぞれの口座へ持分どおりに移管して各自が売れば、譲渡所得もそれぞれの申告になります。
代表者名義で売って分ける場合でも、遺産分割協議書に換価分割であることと分ける割合を明記しておけば、実質に沿った扱いになります。
ただし書き方は相続関係によって変わるため、文面の流用は避けて司法書士か税理士に確認してください。
分割前にお金が要るときの選択肢
葬儀費用や当面の生活費が足りないときに使える仮払い制度は、預貯金だけが対象です。
1つの金融機関につき「口座ごとの預貯金額×3分の1×その相続人の法定相続分」まで、上限150万円を単独で払い戻せます(民法909条の2/法務省)。
株式はこの制度の対象外なので、遺産分割がまとまるまで現金化できません。
まとまった資金が急に必要になった場合は、家庭裁判所の仮分割の仮処分という手続きがあります。
親が生前に売っていた分は準確定申告で処理する
亡くなった年に親自身が株を売っていた場合、その譲渡所得は相続人が準確定申告で申告します。
期限は相続の開始を知った日の翌日から4か月です(所得税法124条・125条)。
相続後に相続人が売った分は、売った年の翌年の確定申告になります。
同じ株でも、売った時期で申告する人と期限が変わります。
よくある質問
相続した株をすぐ売る場合、取得価格は相続した日の株価になりますか
なりません。
相続した日の終値で買い直したことにはならず、亡くなった人の取得日と取得費を引き継ぎます。
例外はNISA口座で保有していた株式で、死亡日に課税口座へ払い出され、そのときの価額が取得価格になります。
NISAの扱いはNISAを相続するデメリットと非課税が引き継げない理由で解説しています。
親の買値より安く売って損が出たら、税金はどうなりますか
上場株式等の譲渡損失は、同じ年の他の上場株式等の譲渡益や、申告分離課税を選んだ配当・分配金と損益通算できます。
その年に使いきれなかった損失は、確定申告を続けることで翌年以後3年間繰り越せます(租税特別措置法37条の12の2)。
損失を使うにはどちらも確定申告が要ります。
証券会社に照会しても買値が分かりませんでした。5%で計算するしかありませんか
確定申告書の控え、配当金計算書、手帳の記録などから買った時期と株数の手がかりが残っていれば、合理的に算定した金額が認められることがあります。
判断は個別の資料によって変わるため、税務署の事前相談で持ち込む資料を確認してください。
5%で申告してから覆すのは手間がかかります。
相続税の申告期限の10か月までに売らないと損をしますか
10か月は相続税の申告と納付の期限で、株を売る期限ではありません。
譲渡益の税率も売る時期では変わりません。
期限を意識するのは、相続税の取得費加算を使う場合の3年10か月と、相続税の納税資金を売却代金でつくる場合だけです。
兄弟3人で相続した株を1人の名義にまとめてから売ってもいいですか
手続き上はできます。
ただし譲渡所得税はその1人にかかり、確定申告もその人が行います。
代金を3人で分けるなら、遺産分割協議書に換価分割である旨と分ける割合を書いておくことになります。
税額を誰がどう負担するかも、分割の話し合いの中で決めておく項目です。
まとめ
相続した株を売ったときの税金は、相続した日の株価ではなく親の買値で決まります。
買値をたどれなければ売却代金の5%が取得価格となり、代金の95%が課税対象になります。
税率は20.315%なので、手取りは調査の結果で2割近く動きます。
やることは2つに絞られます。
移管の申込書を書く前に特定口座年間取引報告書や取引報告書を探すこと、そして相続税を納めるなら3年10か月の期限内に売るかどうかを決めることです。
個別の税額判定や、実額と5%のどちらで申告するかの判断は税理士の領域になります。
ぜひ本記事の税率の内訳表と書類のリストを参考に、証券会社へ照会する資料をそろえてください。


