相続土地国庫帰属制度とは?建物付きが対象外になる理由

年に数回、草を刈りに帰るだけの土地にも、固定資産税は毎年かかります。
相続土地国庫帰属制度は、相続で受け取った土地を国に引き取ってもらう仕組みで、2023年4月27日に始まりました。
制度が始まる前に相続した土地も対象です。
ただし、建物が建っている土地はそもそも申請できません。
費用は土地一筆(いっぴつ)あたり審査手数料14,000円、引き取りが決まったときに納める負担金は多くの土地で20万円です(法務省/2026年9月時点)。
本記事では、建物付きが対象から外れる理由・断られる土地の条件・負担金の決まり方・相続放棄や売却との使い分けを解説します。
相続土地国庫帰属制度とは、相続した土地を国に引き取ってもらう仕組み
使い道のない土地を相続したとき、これまでの選択肢は売るか、誰かに譲るか、持ち続けるかの3つしかありませんでした。
買い手が付かない土地は、持ち続ける以外に道が無かったわけです。
相続土地国庫帰属制度は、そこに「国に引き取ってもらう」という出口を1本足したものです。
申請が承認されて負担金を納めると、土地の所有権が国に移ります。
以降の固定資産税も、草刈りや境界の管理も国の側の話になります。
ただし、誰のどんな土地でも受け付けるわけではありません。
国は引き取った土地を管理し続けることになるため、管理に手間や費用がかかる土地は入口で外す設計になっています。
制度が始まる前に相続した土地も申請できる
対象は令和5年(2023年)4月27日以降に相続した土地に限りません。
何十年も前に親から受け継いだまま放置している山林や田も、相続または遺贈(いぞう)で取得したものであれば申請できます。
名義が親や祖父のままになっている土地を思い出した人は、まず登記の状態から確認することになります。
「手放す手段が増えた」だけで、優先される方法ではない
この制度は最後の手段に近い位置づけです。
売れる土地なら売ったほうが現金が残りますし、空き家バンクの登録条件と使い方で解説しているように、自治体経由で引き受け手が見つかる土地もあります。
国庫帰属は、審査手数料と負担金を払って手放す方法です。
順番としては、売却や譲渡の見込みを先に確かめてから検討する話になります。
建物がある土地が対象外になるのは、国が管理の負担を引き受けないため
法務省が示す却下事由の1番目が「建物がある土地」です。
古家であっても物置であっても、建物が残っていれば審査に進む前に申請が退けられます。
理由は制度の設計そのものにあります。
負担金は、国有地の管理に要する10年分の標準的な費用をもとに算定されています。
建物は劣化し、いずれ解体費が発生し、倒壊すれば周囲に被害が及びます。
10年分の管理費という枠に収まらない負担を、国が引き受けない前提になっているわけです。
同じ考え方は、建物以外にも及びます。
不承認事由には「管理を妨げる物が地上にある土地」と「除去が必要な地下の物がある土地」が並びます。
地上の工作物や立木、地中の埋設物も、撤去してからでないと通りません。
更地にしてから申請するかどうかは、解体費と負担金の合計で考える
実家が建ったままの土地を国庫帰属させるには、先に解体が要ります。解体費はファクトとして相場を示せる公的な統計がありませんが、金額を左右する要素ははっきりしています。
- 建物の構造と延床面積(木造か鉄骨か、平屋か2階建てか)
- 前面道路の幅と、重機やトラックが敷地に入れるか
- 1981年以前の建物に多い、アスベストの事前調査と除去の要否
- 家財がどれだけ残っているか
解体費に審査手数料14,000円と負担金を足した額が、手放すための総額です。
その総額と、更地にして売った場合の手取りを並べてみると、どちらが現実的かが見えます。
売却の線が残っているなら、実家の査定で相場を知る3つの方法で解説している方法で、先に値段を確かめておくほうが判断が速くなります。
解体の前に、税金の特例と課税の扱いを確認する
相続した家屋を売る場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。
1981年5月31日以前に建築された家屋であることなどの要件があり、2027年12月31日までの譲渡が対象です。
相続人が3人以上の場合、2024年1月1日以降の譲渡では1人あたり2,000万円に下がります(租税特別措置法35条3項)。
要件は空き家の3,000万円特別控除が使える条件で解説しています。
解体して国に引き取ってもらう道を選ぶと、この特例を使う場面そのものが無くなります。
もう一点、住宅用地の特例は建物が建っていることを前提にした扱いです。取り壊した後の固定資産税がどう変わるかは、土地のある市区町村の資産税担当窓口で確認してください。
相続放棄や空き家バンクと相続土地国庫帰属制度は何が違うか
「いらない土地を手放したい」という目的は同じでも、失うものと期限がまるで違います。混同したまま考えると、使える時期を逃します。
| 手段 | 手放せる範囲 | 期限 | 窓口 |
|---|---|---|---|
| 相続放棄 | 預貯金も含めた相続財産すべて | 相続人だと知った時から3か月 | 家庭裁判所 |
| 相続土地国庫帰属制度 | 要らない土地だけ | 法律上の期限なし | 法務局(本局) |
| 売却・空き家バンク | 買い手・借り手が付いた物件 | 期限なし | 不動産会社・市区町村 |
相続放棄は3か月を過ぎたら選べない
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述します(民法915条)。
起算日は亡くなった日ではありません。
放棄すれば土地を引き継がずに済みますが、預貯金も自宅も含めて何も受け取れなくなります。
「土地だけ要らない」は放棄では実現できません。
一方の国庫帰属制度には期限がありません。
3か月を過ぎて相続してしまった後でも、何年か経ってからでも申請できます。
相続放棄で全部を手放すか、財産は受け取ったうえで土地だけ国に返すか。
この分かれ道は、亡くなってから3か月のあいだにしか選べません。
売れる土地なら、負担金を払う前に売却の線を確かめる
負担金は多くの土地で20万円、これに審査手数料14,000円が加わります。
同じ土地が10万円でも売れるなら、手元に残る金額は売却のほうが大きくなります。
買い手が本当にいないのかを先に確かめるのが順序です。
実家全体をどう畳むかの流れは実家じまいの全体像と進める順番で解説しています。
申請できるのは相続や遺贈で土地を取得した人だけ
この制度を使えるのは、相続または遺贈によって土地の所有権を取得した人です。
自分で買った土地や、生前贈与で受け取った土地は対象になりません。
親から相続した土地を、その後に子へ贈与していた場合、贈与を受けた側は申請人になれないことになります。
共有の土地は、共有者がそろわないと申請できない
兄弟3人の共有名義で相続した土地は、1人の判断では申請できません。
共有地は共有者全員で申請する形になります。
つまり、この制度を使うには兄弟全員に話を通し、審査手数料と負担金の負担割合まで決めておく必要があります。
誰が費用を出すかは、話し合いのなかで最ももめやすい部分です。
土地を使いたい人が誰もいないから国に返すわけで、費用だけが残ります。
あらかじめ負担金の見込み額を出して、それを人数で割った金額を示してから相談を始めると、話が具体になります。
名義が親のままなら、まず相続登記を確認する
不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をする義務があります(不動産登記法76条の2)。
2024年4月1日より前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年3月31日です。
正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。
国庫帰属を考えるかどうかにかかわらず、名義の状態は避けて通れません。
登記の状態をどう扱うかは法務局の事前相談で確認できます。
相続土地国庫帰属制度の費用は審査手数料14,000円と負担金の2段構え
費用は申請時と承認後の2回に分かれます。
申請の時点で払うのが審査手数料で、土地一筆あたり14,000円です。
申請書に収入印紙を貼って納付します(法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」/2026年9月時点)。
筆ごとの金額なので、3筆まとめて申請するなら42,000円です。
承認された後に納めるのが負担金です。国有地の種目ごとに、管理に要する10年分の標準的な費用を考慮して算定され、多くの土地は20万円になります(法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」/2026年9月時点)。
負担金が20万円を超えるのは、種目と面積で決まる3タイプ
面積に応じて金額が上がるのは、次の土地です。それ以外の土地は、広さにかかわらず20万円が基本になります。
- 市街化区域または用途地域が指定されている地域の宅地
- 農用地区域等にある田・畑
- 森林
どの区分でも、一定の面積を下回るあいだは20万円です。
それを超えると面積に応じて加算されます。
加算の係数は区分ごとに違うので、正確な金額は法務省が公開している自動計算シートで確認してください。
隣り合う土地は、まとめて算定できる場合がある
隣接する2筆以上の土地が同じ種目であれば、一つの土地とみなして負担金を算定できる特例があります。
飛び地ではなく地続きの山林が数筆に分かれているようなケースでは、この扱いで総額が変わります。
審査手数料は筆ごとにかかる一方、負担金はまとめられる場合があるという構造です。
費用の内訳と計算の考え方は相続土地国庫帰属の費用|審査手数料14,000円と負担金で解説しています。
相続土地国庫帰属制度で断られる土地|却下事由と不承認事由
申請が通らない理由は2段階に分かれます。書類を受け付けた段階で門前払いになるのが却下事由、審査に進んだうえで承認されないのが不承認事由です。
| 区分 | 該当する土地 |
|---|---|
| 却下事由 | 建物がある土地/担保権が設定された土地/他人の利用が予定されている土地/土壌汚染がある土地/境界が確定していない土地 |
| 不承認事由 | 一定の勾配・高さの崖がある土地/管理を妨げる物が地上にある土地/除去が必要な地下の物がある土地/隣接地との争いがある土地/その他管理に過分な費用・労力がかかる土地 |
境界と担保権は、申請前に片づく可能性がある
却下事由のうち、境界が確定していない土地と担保権が設定された土地は、事前に手を打てる余地があります。
抵当権が完済後も抹消されないまま残っているケースは登記簿で分かります。
境界については、隣地の所有者と立ち会って確認する作業が要ります。
どちらも時間のかかる作業なので、申請を考えた時点で登記事項証明書を取り、甲区で所有者を、乙区で担保権の有無を見ておくと段取りが立てやすくなります。
崖や地下の埋設物は、費用をかけても通るとは限らない
不承認事由のほうは、状態を直せば必ず承認されるとは言えません。
管理に過分な費用・労力がかかると判断されれば、そこで止まります。
急斜面の山林や、井戸や浄化槽といった地下の構造物が残る宅地は、この判断にかかる可能性があります。
費用をかけて片づける前に、法務局の事前相談で土地の状況を伝えて感触を確かめるほうが、無駄な出費を避けられます。
申請から承認までの流れと、相続登記3年の期限との関係
手続きは、土地のある場所を管轄する法務局の本局へ承認申請書を出すところから始まります。
提出後は書面の審査があり、必要に応じて職員が現地を確認します。
承認の通知が届いたら負担金を納め、納付をもって所有権が国に移ります。
審査には現地調査が挟まるため、申請したその月に終わる手続きではありません。
先に来る期限から順に片づける
国庫帰属制度そのものに期限はありませんが、相続に関わる他の手続きには法律で切られた期限があります。先に来るものから処理しないと、選択肢が消えます。
| 手続き | 期限 | 起算日 |
|---|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 3か月 | 自分が相続人だと知った時 |
| 準確定申告 | 4か月 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続税の申告・納付 | 10か月 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続登記 | 3年 | 不動産を取得したことを知った日 |
相続税は基礎控除3,000万円+600万円×法定相続人の数を超えなければ申告そのものが不要です。
判定の考え方は相続税は誰にかかるかで解説しています。
土地を国に返す予定でも、相続した時点の評価額は課税対象の計算に入ります。
売却と並行して進めるという選択もある
国庫帰属の申請中でも、売却の相談を止める必要はありません。
ただし、他人の利用が予定されている土地は却下事由にあたるため、賃貸借や使用貸借の話が進んでいる土地は扱いが変わります。
買い手が現れた場合の進め方は、法務局に状況を伝えて確認してください。
売却が成立した場合の申告については、不動産を売ったときの確定申告の要否で解説しています。
相続土地国庫帰属制度を使わずに放置すると何が起きるか
全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%で過去最高です(総務省 住宅・土地統計調査/2023年)。放置された土地と家は増え続けていて、自治体の対応も厳しくなっています。
登記を放置すると過料、家を放置すると税の特例が外れる
相続登記を正当な理由なく3年以内にしなければ、10万円以下の過料の対象です。2024年4月1日より前の相続分についても、2027年3月31日という期限が設けられています。
建物が残っている場合は、空家等対策の推進に関する特別措置法による指定があります。
倒壊のおそれや衛生上有害な状態にあると市区町村が判断すると特定空家に、そうなるおそれがあると管理不全空家に指定されます。
勧告を受けた段階で固定資産税の住宅用地特例が外れ、税額の計算が変わります。
放置すれば自動的に税額が上がるのではなく、指定と勧告という段階を踏む点は押さえておいてください。
次の相続まで持ち越すと、同意を取る相手が増える
いま兄弟3人で決められる土地も、1人が亡くなればその配偶者と子が権利を引き継ぎます。
共有者は世代をまたぐたびに増え、全員の署名を集める作業が現実的でなくなります。
国庫帰属も売却も共有者全員の関与が前提なので、手を打てる人数が少ないうちに動くほど手続きは軽く済みます。
家財が残ったままでは、解体の見積もりも売却の内覧も進みません。
何から手をつけるかは遺品整理を始める順番で解説しています。
通帳・権利証・遺言書といった書類を先に確保してから、処分の話に移ってください。
よくある質問
建物を解体して更地にすれば、必ず引き取ってもらえますか
建物が無くなれば却下事由の一つは解消しますが、承認されるとは限りません。
崖の状態、地下の埋設物、境界の確定状況、隣接地との争いの有無など、他の事由で不承認になる可能性が残ります。
解体費を投じる前に、法務局の事前相談で土地の状況を伝えて確認してください。
山林や農地でも申請できますか
森林や農用地区域等の田・畑も対象に含まれます。
ただし負担金の算定方法が宅地と異なり、これらは面積に応じて加算される区分です。
森林は9,000平方メートル、農用地区域等の田・畑は20平方メートルが加算の分かれ目になります。
正確な金額は法務省の自動計算シートで確認できます。
住宅ローンが残っていた土地は対象になりますか
担保権が設定された土地は却下事由にあたります。
完済していても抵当権の抹消登記をしていなければ登記簿に残ったままなので、まず抹消手続きが要ります。
登記事項証明書の乙区を見れば、担保権が残っているかどうかが分かります。
相続放棄と国庫帰属制度、どちらを選ぶべきですか
負債を含めて何も引き継ぎたくない場合は相続放棄、預貯金や自宅は受け取ったうえで使い道のない土地だけを手放したい場合は国庫帰属制度です。放棄は相続人だと知った時から3か月という期限があるため、迷っている段階で先に期限の有無を確認してください。
複数の土地をまとめて申請できますか
複数筆の申請はできます。
審査手数料は土地一筆あたり14,000円なので、筆の数だけかかります。
負担金については、隣接する2筆以上が同じ種目であれば一つの土地とみなして算定できる特例があります。
地続きかどうかで総額が変わることになります。
制度が始まる前に相続した土地でも申請できますか
できます。
令和5年(2023年)4月27日の開始より前に相続や遺贈で取得した土地も対象です。
何十年も名義を放置していた土地でも、相続で取得したものであれば申請人になれます。
まとめ
相続土地国庫帰属制度は、売れない土地を抱えた人にとって現実的な出口の一つですが、建物が建っていれば入口で止まります。
更地にするかどうかは、解体費と審査手数料14,000円と負担金の合計を出し、売却した場合の手取りと並べて比べる話です。
共有名義なら、その数字を持って兄弟に相談するところから始まります。
期限があるのは放棄と登記のほうで、制度そのものには期限がありません。
焦って申請するより、登記の名義と担保権、境界の状態を先に確かめたほうが手続きは通りやすくなります。
ぜひ本記事の却下事由・不承認事由の表と、期限の一覧を手元に置いて、いま自分の土地がどの段階で止まっているのかを確かめてください。


