共有名義の不動産を売ったときの確定申告|持分別の書き方

共有名義の不動産を売った年の確定申告は、共有者が一人ずつ、自分の持分の分だけを計算して別々に提出します。売買契約書が1通で、代金が代表者の口座にまとめて振り込まれていても、申告書を1枚にまとめることはできません。
持分で分けるのは売却代金だけではありません。
取得費と譲渡費用も同じ割合で按分します。
特別控除のような特例が使えるかどうかも、共有者ごとに別々に判定されます。
提出の期間は売った年の翌年2月16日から3月15日までで、その年の曜日によって前後します。
本記事では、譲渡所得の内訳書で持分を書く欄・按分する順番・共有者の一人だけが特例を使える場合の扱いまで解説します。
共有名義の不動産を売った年は、共有者それぞれが確定申告する
計算の順番は決まっています。
まず物件全体の売却代金・取得費・譲渡費用を集計して、そこから各自の持分割合で按分し、按分後の金額で一人ずつ譲渡所得を出します。
物件全体で先に所得を出してから、その金額を割るのではありません。
特例の控除額は按分後の所得に対して各自が差し引くため、途中で持分に分けておかないと計算が合わなくなります。
| 順序 | やること | 動く人 |
|---|---|---|
| 1 | 登記事項証明書で持分割合を確認する | 誰か1人が取得すれば足りる |
| 2 | 売却代金・取得費・譲渡費用を物件単位で集計する | 代表者1人がまとめると早い |
| 3 | 集計した金額を持分で按分する | 共有者全員で同じ割合を使う |
| 4 | 使える特例があるかを一人ずつ判定する | 各自(結論が人により変わる) |
| 5 | 譲渡所得の内訳書と申告書を作る | 各自 |
| 6 | 自分の住所地の税務署へ提出する | 各自 |
1から3までは共有者で共通の作業なので、資料集めと集計は誰か1人が引き受けたほうが手戻りが出ません。
4以降は各自の事情で結論が変わります。
同じ家を売っても、そこに住んでいた人と一度も住んでいない人では、使える特例が違うためです。
最初に持分割合を確定させる
按分の割合は、登記事項証明書の甲区(所有権に関する事項)に書かれた持分です。
「持分2分の1」「持分3分の1」のように記載されています。
売却の決済までに相続登記が済んでいるはずですが、そこに入っている割合が法定相続分のままで、遺産分割で話し合った分け方と違っていることがあります。
その場合、申告で使うのは登記された持分です。
代金の分け方を持分と違う割合にすると、差額が共有者間の贈与とみなされる場合があります。
分配の割合を持分と変えたいなら、申告前に税務署へ相談してください。
持分をどう決めたかの経緯は遺産分割協議書の書き方で解説しています。
なお、家全体ではなく自分の持分だけを他の共有者や第三者に売った場合も、譲渡所得の申告は同じ枠組みです。
売った持分に対応する取得費と譲渡費用で計算します。
持分売却そのものの進め方は共有名義の不動産と持分だけを売る方法で解説しています。
持分割合は登記事項証明書で確かめる|共有名義の売却で集める書類
集める書類は、収入金額を裏づけるもの・取得費を裏づけるもの・譲渡費用を裏づけるもの・持分を裏づけるものの4種類に分かれます。共有者全員が同じ物件について書くので、原本を1人が保管し、他の共有者はコピーを使う形で足ります。
持分を確認する登記事項証明書
法務局で取得します。
どの法務局でも全国の不動産の分を請求でき、オンライン請求にも対応しています。
手数料は請求方法と受け取り方で変わるため、法務局の現行の料金表で確認してください。
売却で所有権が買主に移った後でも、閉鎖前の記録として自分の持分は確認できます。
決済前に取ったものが手元にあれば、それを使って構いません。
売ったときの契約書と精算書
売買契約書の写し、売買代金の領収書または入金が分かる通帳、それに決済時の精算書をそろえます。
精算書には固定資産税の日割り精算額が載っていて、この分は売却代金に加える扱いになるため、金額を確認しておいてください。
仲介手数料の領収書、契約書に貼った収入印紙の額、売主側で負担した測量費や境界確定費用、建物を壊して引き渡した場合の解体費の領収書も、譲渡費用の根拠になります。
更地にして売ったケースでは、解体費を譲渡費用に入れられるかどうかが論点になります。
売るために取り壊したという流れが契約書や時期から読み取れるかで扱いが変わるので、領収書と契約日の前後関係を整理しておきます。
解体してから売れずに年をまたいだ場合の税負担については空き家を解体するデメリットで解説しています。
買ったときの契約書と、相続したときの資料
取得費は、売買契約書・建築請負契約書・購入時の諸費用の領収書から拾います。
相続で取得した不動産は、亡くなった人が買ったときの金額と取得の日をそのまま引き継ぎます。
親が数十年前に建てた家なら、探すのは親の名前で残っている契約書です。
仏壇の引き出しや権利証と一緒の封筒に、当時の契約書や領収書が入っていることがあります。
建物は買ったときの金額から、使った年数に応じた減価の分を差し引いた額が取得費になります。
土地と建物を一括で買っていて内訳が分からない場合の按分方法も、ここで決める必要があります。
契約書が見つからないときの扱いは判断が分かれる論点なので、税務署の事前相談で確認してください。
特例を使うなら市区町村の確認書が加わる
相続した空き家を売って特別控除を使う場合は、家屋がある市区町村が発行する確認書が必要になります。
発行には申請と審査の日数がかかるため、申告期間に入ってから動くと間に合いません。
必要書類と発行までの日数は市区町村ごとに違うので、窓口で確認してください。
共有者が3人いれば、確認書も3人分が要るのか1通で足りるのかを含めて聞いておきます。
譲渡所得の内訳書の書き方|按分は代金・取得費・費用の3か所に入れる
申告書に添えるのは「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】」です。
この用紙は共有を前提に作られていて、共有者の氏名と住所、それに自分の持分を書く欄があります。
共有者が他にいることをここで示さないと、物件全体の代金を1人で受け取ったように読めてしまいます。
物件と買主を書く面
売った不動産の所在地、地番、地目、面積、それに買主の氏名と住所を書きます。
面積は登記上の全体の面積を書き、自分の持分は持分欄で示します。
売買契約を結んだ日と引き渡した日は、両方を契約書と決済の記録から拾ってください。
この2つの日付が年をまたいでいると、どちらの年の申告にするかという話につながります。
代金と費用を書く面
収入金額の欄には、売買代金の総額ではなく、自分の持分に対応する金額を書きます。
取得費と譲渡費用も同じ割合で按分した金額です。
按分を入れる場所はこの3か所で、ここを持分で割らずに全体額で書くと、所得が実際の何倍にもなって出てきます。
費用の負担が持分どおりでなかった場合は、扱いを先に決めてください。
たとえば仲介手数料を代表者が全額立て替えて、後で精算していないと、書面上の負担者と按分後の金額が合わなくなります。
精算までを済ませてから、持分割合で按分した額を各自が書く形にそろえるのが素直です。
所得の計算と第三表への転記
収入金額から取得費と譲渡費用を引き、特例の控除額を差し引いた残りが課税される譲渡所得です。
譲渡所得は給与や年金と合算しない分離課税なので、確定申告書の第三表(分離課税用)に書き、そこから第一表へつなげます。
所有していた期間の長短で税率が変わるため、長期と短期のどちらの欄に入れるかを間違えないでください。
相続した不動産は亡くなった人が取得した日を引き継ぐので、自分が相続してからの年数ではありません。
確定申告の時期と提出先|共有者が別々の税務署に出してよい
申告するのは、売った年の翌年です。
期間は2月16日から3月15日までで、初日や末日が土日祝にあたる年は翌平日にずれます。
納める税金がある場合の納付期限も同じ日です。
口座振替(振替納税)を使うと引き落としは4月にずれますが、申告書の提出期限は変わりません。
「売った年」は引渡日で決まる
年末に契約して年明けに引き渡した場合、どちらの年の所得になるかで申告年が1年変わります。
原則は引き渡した日の属する年ですが、契約した日で申告することも認められています。
共有者の間で基準がばらばらだと、同じ物件について違う年に別々の申告が並ぶことになります。
年をまたぐ売却では、どちらを使うかを共有者で先にそろえ、税務署に確認してから作成してください。
提出先は各自の住所地の税務署
申告書は、物件の所在地ではなく自分が住んでいる場所を管轄する税務署に出します。
兄弟が別々の市に住んでいれば、提出先も別々です。
同じ日に一緒に行く必要はなく、郵送やe-Taxでも提出できます。
e-Taxなら譲渡所得の内訳書も画面の案内に沿って作成できるので、共有者それぞれが自宅から出す形が取りやすいでしょう。
相談しながら作りたい場合、税務署の窓口は平日しか開いていません。
確定申告の時期は相談も混み合い、会場が予約制になっていることがあります。
前年の12月から1月のうちに、必要書類を持って事前相談に行くほうが落ち着いて聞けます。
共有名義の確定申告でつまずくのは、特例の判定と取得費の2か所
按分そのものは割り算なので迷いません。止まるのはその前後です。
特別控除は共有者ごとに判定される
自分が住んでいた家を売ったときの特別控除は、その家に住んでいた共有者が各自で適用を受けられます。
持分を持っていても一度も住んでいない共有者は、この特例を使えません。
実家を兄弟で相続して、同居していた1人と離れて暮らしていた2人が一緒に売ったケースでは、使える特例が人によって違ってきます。
相続した空き家を売ったときの特別控除は、1981年5月31日以前に建築された家屋であることなどの要件を満たせば、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。
対象は2027年12月31日までの譲渡です。
ただし相続人が3人以上いる場合、2024年1月1日以降の譲渡では1人あたり2,000万円に下がります(租税特別措置法35条3項/2026年9月時点)。
兄弟3人で相続した実家なら、この引き下げに当たります。
ほかにも家屋や敷地の状態についての要件があるため、適用の可否は市区町村の確認書の発行要件と合わせて確認してください。
期限との関係は空き家特例の適用期限と3年以内ルールで解説しています。
取得費が分からない
親が建てた家の契約書が見つからない、という詰まり方が起きます。
取得費が確認できないと譲渡所得が大きく出るため、ここで結論が変わります。
自己判断で金額を置くのではなく、手元にある資料(当時の住宅ローンの記録、登記の受付年月日、建築確認の記録など)を持って税務署の事前相談で扱いを確認してください。
共有者全員が同じ物件について同じ取得費を使うので、1人が勝手に別の数字で出すと整合が取れなくなります。
申告した所得で保険料が変わる
譲渡所得は、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料の算定に使われる所得に含まれます。
売った翌年度の保険料が上がることがあり、共有者のうち会社員でない人にはこの影響が出ます。
上がり幅は自治体の算定方式と所得額で決まるため、金額はお住まいの市区町村の窓口で確認してください。
もうひとつ止まりやすいのが、共有者の1人が申告に協力しない場合です。
申告は各自の義務なので、他の共有者が代わりに出すことはできません。
売却前から意見が割れている状態が続くと、決済後の申告まで持ち越されます。
共有のまま抱えることで起きる行き詰まりは共有名義の不動産で起きるトラブルで解説しています。
自分で申告するか、税理士に頼むか
分かれ目は、特例を使うかどうかと、取得費が書類で確定するかどうかです。
売買契約書と取得時の契約書がそろっていて、特例を使わず、持分も2分の1ずつのような単純な割合なら、e-Taxの画面の案内に沿って自分で作れます。
共有者の氏名と持分を入れる欄も案内の中にあるので、3か所の按分を間違えなければ完成します。
一方、次のような条件が重なると、判断を含む作業が増えます。
- 相続した空き家の特別控除を使う(要件の判定と確認書の取得が必要)
- 取得費を裏づける書類がない、または土地と建物の内訳が分からない
- 建物を解体して売った、あるいは借地権や私道の持分が絡む
- 共有者が4人以上いる、または共有者の中に非居住者がいる
- 買換えや交換の特例、譲渡損失の扱いを検討している
この場合は、共有者全員分をまとめて税理士に依頼するほうが費用の効率が良くなります。
物件の資料集めと取得費の判定は1回で済み、そこから各自の申告書を作る流れになるためです。
報酬は事務所ごとに違い、譲渡した物件の数や特例の有無で変わるので、見積もりの段階で「共有者何人分か」を伝えて総額を確認してください。
全部を渡す必要もありません。
資料集めと持分の確認までは自分で進め、特例の適用と取得費の判定だけを相談する形も取れます。
判断が要る部分と、手を動かせば済む部分を分けておくと、依頼する範囲を絞れます。
よくある質問
持分が少ない共有者も確定申告が必要ですか
持分に応じた譲渡益が出れば、金額の大小にかかわらず申告の対象です。
特例を使って税額が0円になる場合も、適用を受けるには申告が必要です。
給与所得者の少額不要制度に当たるかどうかは条件が細かいため、自分のケースを税務署で確認してください。
共有者全員分を1枚の申告書にまとめられますか
できません。
確定申告は個人ごとの手続きで、提出先も各自の住所地の税務署です。
資料の集計までを共同で行い、申告書と譲渡所得の内訳書は人数分作ります。
売って損が出た場合も申告しますか
譲渡損失だけなら申告の義務は生じませんが、他の不動産の譲渡益と相殺する場合や、特例の適用を受ける場合は申告が要ります。損失の繰越しができるのは限られた場合だけなので、相殺や繰越しを考えているなら税理士に相談する段階です。
共有者の1人が海外に住んでいます。手続きは変わりますか
日本国内に住所がない人は非居住者として扱われ、買主が代金の一部を源泉徴収して納付する仕組みがあります。
その分は本人の確定申告で精算します。
納税管理人の届出が必要になる場合もあるため、契約前に税務署へ確認してください。
相続登記をしないまま売ることはできますか
買主へ所有権を移す登記ができないため、相続登記を先に済ませます。
不動産を取得したことを知った日から3年以内の登記が義務で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です(不動産登記法76条の2)。
2024年4月1日より前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年3月31日です。
まとめ
共有名義の不動産を売った年の確定申告は、物件全体で集計してから持分で按分し、按分後の金額で一人ずつ申告書を作ります。
按分を入れるのは、譲渡所得の内訳書の収入金額・取得費・譲渡費用の3か所です。
共有者で共通にするのは持分割合と取得費で、人によって結論が変わるのは特例の適用と保険料への影響です。
作業が止まるのは按分の計算ではなく、その手前にある取得費の資料と、特例の要件確認です。ぜひ本記事の流れの表と書類のリストを参考に、誰が何を集めるかを共有者で割り振ってから、税務署の事前相談へ進んでください。


