実家じまいの費用は誰が払う?兄弟で揉めないための決め方

実家の草を刈りに帰るたび、庭の隅に置いた粗大ごみが増えていきます。
売るか残すかを決めたいのに、話は「で、片づけの費用は誰が出すの」で止まったままではないでしょうか。
実家じまいのお金は、片づけ・解体や修繕・登記や税金の3つに分かれ、それぞれ払う人の決め方が違います。
全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%で過去最高です(総務省 住宅・土地統計調査/2023年時点)。
放置している家がこれだけあるのは、費用を出す人が決まらないまま止まっている家も多いということです。
本記事では、費用が3つに分かれる理由・売却代金から精算する方法・立て替えたお金を記録する書き方・仏壇と墓の費用を誰が持つかまで解説します。
実家じまいのお金は「立て替え」と「負担」を分けると話が進む
兄弟の話し合いが止まるのは、誰が現金を出すかと、最終的に誰が負担するかを一緒に議論しているからです。
この2つは別物です。
片づけ業者への支払いは作業日に発生するので、誰かが先に現金を出さないと工事が始まりません。
一方で、その費用を誰の取り分から引くかは、家が売れてからでも決められます。
実務では、実家の近くに住む人か、いちばん動ける人が立て替えます。
そして売却代金が入った時点で、立て替えた分を先に返してから残りを分けます。
この順番を最初に合意しておくと、「なぜ自分だけが払うのか」という不満が出にくくなります。
逆に、立て替えの合意なしに1人が動き始めると、あとから「頼んでいない」と言われて回収できなくなることがあります。
売却するなら精算は売却代金からでよい
家を売る方針で兄弟の意見が一致しているなら、費用の負担割合は相続分どおりにするのがいちばん揉めません。
片づけ費用も解体費用も、売却代金から差し引いた残額を法定相続分で割れば、結果として全員が同じ割合で負担したことになります。
この方法を換価分割(かんかぶんかつ)といって、遺産分割協議書に「売却代金から諸費用を控除した残額を各人◯分の1」と書く形をとります。
残す・貸すなら負担する人は変わる
誰かが住み続ける、あるいは賃貸に出すという結論なら、話は逆になります。
その家を取得した人が費用を持つのが原則で、代わりに他の相続人へ現金を渡す代償分割という形になることが多いです。
この場合、片づけ費用を全員で割ると「自分は使わない家に金を出した」という形になり、後々まで引っかかります。
誰が家を取るかを決めないまま費用を分担するのは、順番が逆です。
売るか残すかを決めきれない段階で、まず何を確かめるかは実家じまいの手順で解説しています。
実家じまいの費用は3つに分かれ、それぞれ払う人が違う
「実家じまいのお金」とひとくちに言っても、性質の違う3種類が混ざっています。分けて並べると、どれが今すぐ現金が要るのか、どれが売却後に精算できるのかが見えます。
| 費用のタイプ | 中身 | 支払いのタイミング | 誰が出すか |
|---|---|---|---|
| 片づけ・処分 | 家財の運び出し、不用品の処分、ハウスクリーニング | 作業日に前後して支払う | 動ける人が立て替え、あとで精算 |
| 建物・土地 | 解体、修繕、境界の測量、庭木の伐採 | 着工前後に分割で支払う | 売却するなら売却代金から、残すなら取得する人 |
| 手続き・税金 | 相続登記、登記事項証明書などの実費、固定資産税、譲渡所得税 | 手続きのたび、または毎年 | 登記は取得する人、固定資産税は名義人 |
この3つで性質が違うのは、期限の有無です。
片づけと解体には法律上の期限がありません。
ところが相続登記は、不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する義務があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法76条の2・2024年4月1日施行)。
しかも2024年4月1日より前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年3月31日です。
「片づけが終わってから登記」と考えていると、期限だけが先に来ます。
固定資産税は、1月1日時点の登記名義人に課されます。
名義が亡くなった親のままなら、実務上は相続人の代表者へ納税通知書が届きます。
この通知書を受け取った人が毎年払い続け、他の兄弟が知らないまま数年たっている、という状態がよくあります。
金額は小さくても、年数を重ねると立て替え総額が大きくなります。
実家じまいの費用で見落としがちな「持ち出し」
業者の見積書に載る金額だけを足しても、実際に出ていくお金には届きません。抜けやすいのは、見積書に項目として存在しない支出です。
- 実家までの交通費と宿泊費(片づけは1回では終わらず、複数回通うことになります)
- 電気・水道・ガスの基本料金(作業に照明と水が要るため、片づけが済むまで止められません)
- 火災保険の継続料(空き家は契約を切り替えないと補償されない場合があります)
- 草刈りや剪定の外注費(年に数回、業者に頼めばそのたびに発生します)
- 登記事項証明書や戸籍謄本の取得実費と、取り寄せの郵送料
この持ち出しが揉めごとの火種になるのは、金額が小さいうえに領収書が残りにくいからです。
ガソリン代や高速代は自腹で済ませてしまい、あとで「自分はこれだけ通ったのに」という話になります。
感情の問題に見えて、実際には記録がないだけです。
立て替えは金額と日付を1枚に書き出す
やり方は簡単で、日付・費目・金額・支払った人を1行ずつ書いたメモを作り、兄弟のグループチャットに月1回投げるだけで足ります。
領収書は写真で残してください。
この記録があると、売却代金から精算するときに「これは共通費用、これは個人の交通費」という線引きを、感情を挟まずに引けます。
逆に記録がないまま「だいたい30万円くらい使った」と言うと、必ず疑われます。
解体を安くしすぎると売却で困る
費用を下げたいときに真っ先に候補になるのが解体と処分です。
ただし削ってはいけない部分があります。
境界を確定する測量と、地中埋設物の確認です。
隣地との境界がはっきりしないまま更地にして売ろうとすると、買主側から測量を求められて結局あとで費用が出ます。
古い浄化槽や井戸、以前の建物の基礎が地中に残っていると、引き渡し後に撤去費用を請求されることもあります。
ここは見積もりの安さで選ぶ場所ではありません。
片づけから売却までにどの費目がいくらかかるかの内訳は、実家じまいの費用の内訳で解説しています。
片づけ業者に払うなら、許可の種類を先に見る
費用を抑えたい気持ちにいちばん刺さってくるのが「無料回収」の看板です。ここは金額の話ではなく、違法な処分に加担しないための話になります。
家庭から出た不用品を運んで処分するには、市区町村の一般廃棄物収集運搬業の許可が必要です。
買い取るなら、都道府県公安委員会の古物商許可が別に要ります。
産業廃棄物収集運搬業の許可では家庭ごみを運べません。
「無料回収」を名乗って軽トラックで回っている業者は、この一般廃棄物の許可を持っていないことが多く、渡した家財が不法投棄されれば依頼した側にも話が及びます。
見積もりを取る段階で、許可の種類と番号を聞いてください。
もう一つ気をつける場面が、業者が家に来て骨董品や着物を買い取る訪問購入です。
契約書面を受け取った日から8日間はクーリング・オフができ、その間は物品の引き渡しを拒めます(特定商取引法58条の14・58条の15)。
その場で品物を持って行かれると取り戻すのが難しくなるので、判断がつかないものは渡さずに8日間を使ってください。
なお遺品整理士は民間の資格で、国家資格ではありません。
持っているからといって廃棄物を運べるわけではないので、許可の有無とは別のものとして見てください。
捨てる前に必ず探すものとして、通帳・保険証券・不動産の権利証・遺言書・印鑑登録証があります。
これらを処分すると相続の手続きが止まります。
片づけの順番の考え方は遺品整理の始め方で解説しています。
仏壇と墓の費用は、家の費用と分けて考える
実家じまいで最後まで残るのが仏壇です。ここで話がこじれるのは、仏壇と墓の費用を家の片づけ費用と同じ枠で議論してしまうからです。
墓・仏壇・位牌といった祭祀(さいし)財産は、相続財産とは別に1人が引き継ぐ扱いになります(民法897条)。
指定がなければ慣習によって決まり、それでも決まらなければ家庭裁判所が定めます。
この役目を引き受けた人が、仏壇の移動先も墓の管理費も引き受けるのが原則です。
相続放棄をした人でも祭祀を継ぐことはできるので、財産の話と切り離して決められます。
ただし現実には、引き継ぐ人の住宅に仏壇が入らない、置き場所がないという理由で先に進みません。仏壇を処分するか小さくするか、墓を移すのか手放すのかで費用がまるごと変わるので、「誰が継ぐか」を決める前に、選べる道の費用を並べたほうが話が早くなります。
墓を移す場合は、現在の墓地がある市区町村が発行する改葬許可証が要ります。
申請には受け入れ先の受入証明書と、現在の墓地管理者の埋葬証明書が必要なので、受け入れ先を決めないと申請そのものができません。
許可証なしに遺骨を移すのは違法です。
受け入れ先の費用は、樹木葬が平均71.7万円、納骨堂が81.5万円、一般墓が152.0万円という調査があります(鎌倉新書 第17回お墓の消費者全国実態調査/2026年1月時点)。
永代供養を選ぶ場合、「永代」は永久ではありません。
多くの施設で三十三回忌や十七回忌までを個別に安置し、その後は他の遺骨と一緒に合祀(ごうし)されます。
個別安置の年数と、合祀後は遺骨を取り出せなくなることを、契約前に確認してください。
お寺を離れるときの離檀料には、法律上の支払義務を定めた規定がありません。
実際に請求される例はあるため、金額と根拠を書面で確認してください。
相場として断定できる公的統計はないので、他家の金額を基準に考えても意味がありません。
放置した場合に増える負担と、使える控除
「決まらないからしばらくそのまま」を選んだときに増えるのは、固定資産税と管理費用、それに税制の期限切れです。
空き家の固定資産税が放置で自動的に6倍になるという話は正確ではありません。
倒壊のおそれや衛生上有害な状態にあると市区町村が判断すると「特定空家」に、そうなるおそれがあると「管理不全空家」に指定され、勧告を受けた段階で住宅用地の特例(6分の1)が外れます(空家等対策の推進に関する特別措置法・2023年12月改正施行)。
指定と勧告という段階を踏むので、草を刈りに帰っている家がすぐ対象になるわけではありません。
逆に言えば、通うのをやめて数年たつと段階が進みます。
期限が切れると戻ってこないのが、相続した空き家を売ったときの3,000万円特別控除です。
譲渡所得から最大3,000万円を控除できますが、1981年5月31日以前に建築された家屋であることなどの要件があり、対象は2027年12月31日までの譲渡に限られます(租税特別措置法35条3項)。
しかも相続人が3人以上の場合、2024年1月1日以降の譲渡では1人あたり2,000万円に下がります。
要件が細かいので、自分の家が当てはまるかは税理士に相談する段階です。
相続税そのものについては、基礎控除が3,000万円+600万円×法定相続人の数です。
相続人が3人なら4,800万円で、ここを超えなければ申告そのものが不要になります。
ただし小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って税額を0円にする場合は、申告が必要です。
申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。
基礎控除の考え方は相続税の基礎控除で解説しています。
売る相手が見つからない、値段がつかないという土地なら、自治体が運営する空き家バンクに登録する道もあります。
登録の条件は自治体ごとに違うので、空き家バンクの使い方で確認してください。
改修や解体への補助金がある自治体もありますが、内容も期限も市区町村でまったく違います。
お住まいの、あるいは実家がある市区町村の空き家対策の窓口で直接確認してください。
よくある質問
実家じまいの費用は長男が全部払うものですか
法律上、長男が負担するという決まりはありません。
売却するなら売却代金から差し引いて残りを相続分で分けるのが公平ですし、誰かが家を取得するならその人が持つのが原則です。
長男が払うという慣習が残っている家もありますが、それは合意であって義務ではないので、話し合いの出発点として持ち出すものではありません。
お金がなくて片づけ費用が出せない場合はどうすればいいですか
売却する方針が固まっているなら、売却代金から精算する前提で兄弟に立て替えを分担してもらう形が現実的です。
買主が決まってから引き渡しまでの間に片づける段取りにすれば、支払いを売却代金の入金に近づけられます。
不動産会社によっては、片づけ前の状態のまま買い取る業者を紹介する場合もあるので、査定の段階で「この状態で売れるか」を聞いてください。
兄弟の1人が費用の負担を拒んだらどうなりますか
相続財産の分け方に合意できなければ、遺産分割協議は成立しません。
家庭裁判所の調停へ進む道はありますが、時間がかかります。
その前にできるのは、査定額・固定資産税の年額・空き家のままの管理費用を紙に並べて、放置した場合の金額を全員が同じ数字で見られるようにすることです。
負担を拒む人も、拒み続けた場合の自分の取り分が減ると分かれば話が変わることがあります。
立て替えた費用は相続財産から返してもらえますか
遺産分割協議で「立て替え分を先に精算する」と合意すれば、売却代金から返す形をとれます。
合意がないまま出した分は、後から請求しても認められないことがあります。
支出する前に兄弟へ伝えておき、日付と金額と領収書を残してください。
金額が大きい場合や合意が得られない場合は、弁護士に相談する段階です。
相続放棄をすれば実家じまいの費用は払わなくて済みますか
相続放棄をすると、その不動産を相続する立場から外れます。
申述の期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内で、起算日は亡くなった日ではありません(民法915条)。
ただし放棄しても、次順位の相続人へ順番が移るだけで家が消えるわけではありません。
全員が放棄した場合は相続財産清算人の選任が必要になり、その予納金がかかります。
放棄は費用逃れの手段としては使いにくいので、借金のほうが多いかどうかで判断する制度だと考えてください。
まとめ
実家じまいのお金で兄弟が揉めるのは、誰が現金を出すかと、最終的に誰が負担するかを混ぜて話しているからです。
この2つを分けて、動ける人が立て替えて売却代金から精算するという順番を先に合意しておけば、支払いのたびに議論が振り出しに戻ることはなくなります。
仏壇と墓の費用は祭祀を継ぐ人の話なので、家の費用とは別の枠で決めてください。
そして期限があるのは片づけではなく手続きのほうです。
相続登記は取得を知った日から3年以内、2024年3月以前の相続分は2027年3月31日まで、空き家の3,000万円特別控除は2027年12月31日までの譲渡が対象です。
ぜひ本記事の3つの費用タイプの表と立て替えの記録の書き方を参考に、次に実家へ帰る前に兄弟へ最初の1行を送ってみてください。
実家じまい全体の流れは実家じまいの全体像で解説しています。


