相続した不動産の評価方法|路線価と実勢価格の違い

固定資産税の課税明細書に書かれた評価額と、不動産会社が出してきた査定額が、倍近く離れていることがあります。
どちらかが間違っているわけではありません。
一つの土地に、税金を計算するための価格と、実際に売れる価格が別々に付いているためです。
相続税の申告で使うのは国税庁が公表する路線価、兄弟で分け方を決めるときに机の上へ出すのは売れる値段のほうです。
相続税の申告期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月、相続登記は取得を知った日から3年と決まっているので、評価の作業は名義の確認から順に進めます。
本記事では、路線価と実勢価格の使い分け・評価に要る書類の取り寄せ先・境界や共有で作業が止まる場面を解説します。
相続不動産の評価方法は、目的ごとに使う価格が変わる
実家の土地には、出どころの違う価格が並んでいます。
同じ土地なのに数字が一致しないのは当たり前で、それぞれ決めた主体と使い道が違うからです。
まず、どの価格が何のための数字なのかを分けておきます。
| 価格の名前 | 決めているところ | 主な使い道 |
|---|---|---|
| 路線価(相続税路線価) | 国税庁 | 相続税・贈与税の申告で土地を評価する |
| 固定資産税評価額 | 市区町村 | 固定資産税、相続登記の登録免許税、建物の相続税評価 |
| 公示地価・基準地価 | 国土交通省・都道府県 | その地域の地価の水準を知る |
| 実勢価格 | 実際の売買で決まる | 遺産分割の話し合い、売るかどうかの判断 |
この4つのうち、相続の場面で読者が向き合うのは路線価と実勢価格です。
相続税の申告書に書く土地の金額は路線価から計算し、兄弟で「誰がいくらもらうか」を決めるときは売れる値段で話します。
同じ土地を2通りの金額で扱うことになりますが、それは矛盾ではありません。
登記事項証明書で名義と地番を先に押さえる
評価の前に確かめるのは、その不動産が誰の名義になっているかです。
親名義だと思っていた土地が、登記簿では祖父の名前のままだったということが起こります。
名義は登記事項証明書の甲区(所有権に関する事項)に書かれています。
法務局で取得でき、手数料と請求方法は法務局の現行料金を確認してください。
請求には地番が要ります。
地番は郵便の住所とは別の番号で、住所だけでは特定できないことがあります。
手元に毎年春ごろ届く固定資産税の課税明細書があれば、そこに地番と家屋番号が載っています。
名義が親より前の世代のままなら、そこまで遡って相続人を確定させないと分割も登記も動きません。
何のための評価かで、使う数字が決まる
「実家はいくらか」という問いは、目的を決めないと答えが出ません。
相続税の申告なら路線価方式か倍率方式で計算した評価額、相続登記の登録免許税なら固定資産税評価額、兄弟で分けるなら時価です。
売るつもりなら不動産会社の査定額を複数見ます。
ここを混ぜると話し合いが後でこじれます。
路線価で計算した額を前提に「この土地をもらう代わりに現金はいらない」と決めたあと、実際に売ってみたら金額が違った、という順番になるからです。
売る前提の話なら、最初から実勢に近い数字を出しておきます。
売る・貸す・残すの判断そのものに迷いがあるなら、相続した不動産をどうする?売る・貸す・手放すの選び方で解説しています。
路線価と実勢価格の違いは、誰が何のために決めた価格かにある
路線価は、税金を公平に計算するために国が決めた価格です。
実勢価格は、買いたい人と売りたい人が折り合った結果です。
決め方が根本的に違うので、一致しないほうが普通です。
路線価は道路に付いた単価から計算する
路線価は、道路ごとに1平方メートルあたりの価格が定められています。
土地の評価額は、その道路の路線価に面積を掛けたうえで、土地の形や道路との接し方に応じた補正をかけて求めます。
奥行きが極端に長い土地、間口が狭い土地、三角形など整った形でない土地は、そのままでは使いにくいため補正で下がります。
角地のように2本の道路に接している土地は逆に加算されます。
路線価は毎年1月1日時点の価格として国税庁が公表し、使うのは亡くなった日が属する年のものです。
年の途中で亡くなった場合も、その年の路線価で評価します。
市街地から外れて路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に国税庁が定めた倍率を掛ける倍率方式になります。
建物のほうは計算が簡単で、固定資産税評価額がそのまま相続税の評価額です。
実勢価格は買い手が付いて初めて決まる
一方の実勢価格は、成約するまで確定しません。
事前に分かるのは、周辺で実際に取引された価格の記録と、不動産会社の査定額です。
取引価格は国土交通省が公表している取引価格情報で地域ごとに調べられます。
査定額は会社によって開きが出ます。
売り方の想定も、その会社が過去に扱った実例も違うからです。
1社の数字を実勢価格だと思い込まないでください。
注意したいのは、路線価では相応の金額になるのに、買い手が見つからない土地があることです。
接している道が私道で持ち主の承諾が要る、建築基準法上の道路に2メートル以上接していないため建て替えができない、傾斜地で造成にお金がかかる——こうした土地は、税金の計算上は評価額が付いていても、売却では値引きを重ねることになります。
相続税の負担と売却代金が釣り合わない事態は、この差から起きます。
相続不動産の評価に必要な書類は、法務局・市区町村・国税庁で分かれる
書類を集める先は3か所です。
窓口が別々なので、1日でまとめて済ませるつもりだと予定が崩れます。
何がどこにあるかを先に押さえておきます。
法務局で取るもの
登記事項証明書は、名義・地番・地積(登記上の面積)・抵当権の有無を確かめるための基本の書類です。
全国どの法務局の窓口でも、全国の不動産について請求できます。
オンライン請求もできますが、申請用のシステムの利用時間は平日の日中に限られています。
あわせて公図(土地の形と隣地との位置関係が分かる図面)と、地積測量図があれば取っておきます。
地積測量図は分筆や地積更正の登記をしたときに提出されるもので、古くから代わっていない土地には備わっていないことがあります。
図面が無い土地は、登記簿の面積と実際の面積がずれている可能性があると考えてください。
市区町村で取るもの
固定資産税の課税明細書は、納税義務者へ毎年送られてきます。
手元に無い場合や、他にも不動産を持っていたかどうかを確かめたい場合は、固定資産課税台帳の写し(名寄帳)を請求します。
名寄帳には、その市区町村内でその人が持っている不動産が一覧で載るため、家族の知らない土地が出てくることがあります。
相続税の申告や登記に添えるのは、固定資産評価証明書です。
名義人本人が亡くなっている場合は、請求する人が相続人であることを示す戸籍謄本などの提出を求められます。
持ち物と手数料は市区町村ごとに違うので、出かける前に資産税の担当課で確認してください。
不動産が複数の市区町村にまたがっていれば、それぞれの役所に請求します。
国税庁で調べるもの
路線価図と評価倍率表は、国税庁の財産評価基準書で年度ごとに公開されています。
窓口に行かなくても自分で確認できる部分です。
地番から路線価図を探し、実家の前面道路に付いている数字を読み取れば、補正をかける前のおおまかな水準までは自分でつかめます。
書類を取れる人と、相続税10か月・相続登記3年の期限
登記事項証明書は誰でも請求できます。
相続人でなくても、その不動産と関係が無くても取れる書類です。
これに対して固定資産評価証明書や名寄帳は、名義人本人か相続人など、請求できる人が限られます。
兄弟のうち1人が動く場合でも、自分が相続人だと示せる戸籍を持って行けば足りることが多いものの、委任状が必要かどうかは自治体で扱いが分かれます。
時期については、法律で切られている期限と、実務上の都合を分けて考えます。動かせないのは次の3つです。
- 相続放棄・限定承認は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述する(民法915条)
- 相続税の申告・納付は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内(相続税法27条)
- 相続登記は、不動産を取得したことを知った日から3年以内。2024年4月1日より前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年3月31日(不動産登記法76条の2)
起算日はどれも「亡くなった日」ではなく、知った日です。
相続放棄を考えるなら、借金を含めた財産の全体像を3か月で把握しなければならず、不動産の評価もその中に入ります。
間に合わないときは、期間内に家庭裁判所へ伸長を申し立てられます。
相続税がかかるかどうかは、基礎控除の3,000万円+600万円×法定相続人の数を超えるかで決まります。
超えなければ申告そのものが不要ですが、小規模宅地等の特例で評価を下げて0円にする場合は申告が要ります。
判定のもとになる考え方は相続税は誰にかかる?基礎控除3,600万円が分かれ目になるで解説しています。
売るかどうかは、期限に追われて決めるものではありません。
ただし、相続した空き家を売ったときに譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例には期限があります。
1981年5月31日以前に建築された家屋であることなどの要件があり、2027年12月31日までの譲渡が対象です(租税特別措置法35条3項)。
相続人が3人以上いる場合、2024年1月1日以降の譲渡では1人あたり2,000万円に下がります。
売却も賃貸も決めきれないうちは、当面の借り手を探す選択もあります。
登録の条件は自治体ごとに違い、空き家バンクとは?登録の条件と使い方で解説しています。
相続不動産の評価方法が止まるのは、境界と名義が決まっていないとき
書類が揃っても作業が進まない場面があります。共通しているのは、紙の上の情報と現地の状態が合っていないことです。
登記簿の面積と実際の面積が違う
登記簿の地積は、測量の技術が今と違う時代に記録されたものが残っています。
実測すると増えることも減ることもあり、隣地との境界標が見つからない土地では、そもそも面積を確定できません。
相続税の申告は登記簿の面積で進められますが、売買では買い手が実測を求めるため、境界の確定に時間がかかります。
測量と境界の立ち会いは隣地の所有者の協力が前提で、隣が相続で名義が変わっていたり連絡先が分からなかったりすると、数か月単位で止まります。
共有名義のまま複数の世代をまたいでいる
過去の相続で「とりあえず兄弟の共有」にした土地は、その兄弟が亡くなるたびに持分が細分化していきます。
売るには共有者全員の同意が要るため、人数が増えるほど合意が難しくなります。
評価の段階では自分の持分割合を確かめ、他の共有者が誰なのかを登記事項証明書で確認してください。
放置すると次の世代でさらに動かせなくなります。
共有を続けた場合に何が起きるかは共有名義の不動産で起きるトラブルで解説しています。
建物が登記されていない、増築部分が登記に反映されていない
古い家では、建物自体が未登記だったり、後から建てた離れや増築した部分が登記に載っていなかったりします。
建物の相続税評価額は固定資産税評価額を使うため、市区町村が課税していれば評価額は分かります。
ただし登記が無い建物は相続登記の対象にできず、売買の前に表題登記から入ることになります。
固定資産税は課税されているのに登記が無いという状態は珍しくない形なので、課税明細書と登記事項証明書の両方を突き合わせてください。
自分で調べられる評価方法と、税理士・不動産鑑定士に渡す範囲
ここまでの作業のうち、自分の手で進められるのは資料集めと現状の把握です。
登記事項証明書と課税明細書を取り、路線価図で前面道路の数字を確かめ、不動産会社の査定を複数受けるところまでは、費用もほとんどかかりません。
この段階を人に任せてしまうと、出てきた数字の意味が分からないまま判断することになります。
専門家に渡すのは、金額の根拠を外に対して示す必要が出てからです。
相続税の申告書に書く評価額は、不整形地の補正や貸家建付地の扱い、小規模宅地等の特例(被相続人が住んでいた宅地は330平方メートルまで評価額を80%減額)の適用判断が絡むため、税理士の領域になります。
同居していなかった親族が特例を使うには「家なき子」と呼ばれる要件があり、ここは個別の事情で結論が変わる論点です。
遺産分割で兄弟の意見が割れ、時価そのものを争点として示す必要があるなら不動産鑑定士の評価書という選択があります。
境界の確定と測量は土地家屋調査士、相続登記の申請は司法書士が扱います。
家の中に家財が残ったままだと査定も測量も入りにくいので、片づけを外に頼む場合の見積もりの見方は実家じまいを頼む業者の選び方で解説しています。
よくある質問
相続税の申告に使う評価額は、不動産会社の査定額でもいいですか
土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額で評価するのが原則です。
査定額は売却の判断や遺産分割の話し合いに使う数字で、申告書に書く評価額とは目的が違います。
路線価による評価が実態と合わないと考える場合の扱いは判断が分かれる論点なので、税理士に相談する段階です。
路線価が付いていない土地はどう評価しますか
路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に国税庁が定めた倍率を掛ける倍率方式で評価します。
倍率は国税庁の財産評価基準書に地域ごとに載っています。
田や畑、山林は宅地とは別の区分で倍率が定められているため、課税明細書に書かれた地目も確認してください。
建物の評価額はどこで分かりますか
毎年届く固定資産税の課税明細書に、家屋の評価額が記載されています。
手元に無ければ、市区町村の資産税担当課で固定資産評価証明書を請求してください。
相続税の評価では、この固定資産税評価額をそのまま使います。
兄弟と評価額が合わないときはどうすればいいですか
それぞれが別の種類の価格を根拠にしている場合があります。
まず、話しているのが相続税の評価額なのか売れる値段なのかを揃えてください。
売る前提なら複数の不動産会社の査定を全員で共有し、幅を持った数字として扱います。
折り合わないまま進めるより、査定書という共通の資料を先に机の上へ出すほうが話が動きます。
評価はいつの時点のものを使いますか
相続税の評価は、亡くなった日の時点の価額です。
土地は亡くなった年の路線価、建物はその年度の固定資産税評価額を使います。
相続の話し合いが長引いて年をまたいでも、基準になる時点は変わりません。
まとめ
実家の価格が一つに定まらないのは、税金を計算するための数字と、買い手が付く値段が別に存在するからです。
相続税の申告は路線価方式か倍率方式で、兄弟との話し合いは査定額で、という使い分けができれば、数字の食い違いに振り回されずに済みます。
手を動かす順番は、登記事項証明書で名義と地番を確かめ、課税明細書か名寄帳で持っている不動産を洗い出し、路線価図で水準を見るところまでです。
相続税の申告は知った日の翌日から10か月、相続登記は取得を知った日から3年という期限があり、境界や共有が絡むと数か月は簡単に過ぎます。ぜひ本記事の書類の取り寄せ先と、境界・共有・未登記でつまずく3つの場面を参考に、今日取れる書類から手をつけてください。


