空き家問題の費用は誰が払う?兄弟で揉めないための決め方

固定資産税の納税通知書が、亡くなった親の名前のまま、実家の当番になった人の家に届きます。
課税されるのは1月1日時点の所有者で、相続登記が済んでいなければ、相続人のうち代表者1人へ1通だけ送られるのが一般的です。
届いた人がそのまま払う流れになり、そこから兄弟との負担のずれが始まります。
相続登記は2024年4月1日から3年以内の義務になり、名義を親のままにしておける期間も終わりました。本記事では、空き家の固定資産税を誰が払うことになるのか、名義と納税義務のずれをどう直すか、兄弟で立て替えを精算する決め方、勧告を受けて住宅用地の特例が外れる仕組みまで解説します。
空き家の固定資産税は、1月1日時点の所有者に課される
固定資産税は、毎年1月1日の時点でその土地と建物を所有している人に対して、市区町村が課す税金です。
年の途中で親が亡くなっても、その年の分は1月1日時点の記録をもとに計算されます。
名義が親のままであれば、通知書の宛名も親の名前のままで届きます。
全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%で過去最高です(総務省 住宅・土地統計調査/2023年)。
相続登記が済んでいない実家がその中に相当数含まれています。
通知書が届く人と、費用を負担する人は同じではない
相続登記が終わっていないあいだ、その不動産は相続人全員のものとして扱われます。
納税義務も相続人に引き継がれますが、市区町村は通知書を相続人全員に送るわけではありません。
相続人の代表者を1人決めて、その人に1通だけ送るのが通常の運用です。
名義人が亡くなったことを役所が把握すると、代表者を届け出る書類や、現に所有している人を申告する書類が送られてくることがあります。
書類の名称や様式は自治体で異なるため、届いたものの指示に従ってください。
ここで押さえておきたいのは、代表者になることが「1人で負担すると決めたこと」を意味しないという点です。
あくまで請求書の宛先を1つにまとめるための手続きです。
事情を兄弟に説明しないまま3年、4年と払い続けると、後から「聞いていない」「そんなに払っていたのか」という話になります。
最初の1回目の通知書が届いた時点で、金額と払った人をきょうだい全員に共有しておくほうが後が楽になります。
未分割のあいだは、相続人全員が納める立場にある
遺産分割が終わるまでは、相続人が連帯して納める立場に置かれるのが原則です。
市区町村は代表者に請求し、代表者が払えばそれで納税は完了します。
ただし内部での負担割合は、相続人同士の取り決めで決まるものです。
立て替えた人が他の相続人へ後から請求すること自体は可能ですが、いつ・いくら払ったのかを残していないと話が進みません。
金額の話が感情の話にすり替わるのは、たいてい記録が無いときです。
回収できるかどうかの個別の判断は弁護士の領分になりますが、記録を残す作業は今日からできます。
名義が親のままだと、払う人と決める人がずれる
費用の分担より先に決めるべきなのは名義です。
名義が親のままだと、税金を払っているのは自分なのに、売る・貸す・解体するといった判断には相続人全員の同意が必要な状態が続きます。
払う人と決める人がずれたまま年数が経つのが、いちばんこじれる形です。
甲区を見れば、名義が今誰になっているか分かる
登記の名義は、法務局で登記事項証明書を取れば確認できます。
所有権に関する事項が書かれた甲区を見て、親の名前のままか、祖父母の代で止まっていないかを確かめてください。
まれに祖父の代から動いていないことがあり、その場合は相続人の人数が一気に増えます。
取得はオンラインでも窓口でも可能で、手数料は改定されることがあるため、法務局の現行の料金表を見てから請求してください。
相続登記は、不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する義務があります(不動産登記法76条の2/2024年4月1日施行)。
正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です。
注意したいのは、この義務が2024年4月1日より前に相続した不動産にも及ぶことです。
すでに何年も名義を動かしていない実家も対象で、その場合の期限は2027年3月31日です。
「今後の相続から」ではありません。
共有で登記するか1人にするかで、その後の同意の取り方が変わる
相続人全員の共有で登記すれば、固定資産税の負担割合は持分で説明しやすくなります。
その代わり、売却や解体には共有者全員の署名が必要になり、誰かが遠方に住んでいたり体調を崩したりすると手続きが止まります。
1人の単独名義にすれば動かしやすくなりますが、その人だけが税金と管理費を抱えることになります。
どちらを選ぶにしても、維持費を誰がどう出すのかを遺産分割協議書の中で決めておくのが実務的です。
売る・貸す・譲るのどれを前提に名義を決めるかは、空き家をどうするかの選び方で解説しています。
毎年出ていくお金は、庭の広さと実家までの距離で決まる
空き家にかかるお金は固定資産税だけではありません。
総額は家ごとに違うため一律の金額は出せませんが、何で増減するかは決まっています。
次の要素が多いほど、年間の出費と手間が増えます。
- 建物の延床面積と築年数(火災保険料と点検の手間に影響します)
- 庭木と雑草の量(草刈りと剪定を年に何回入れるかが変わります)
- 自宅から実家までの距離(交通費と、1回あたりに使う時間が変わります)
- 水道・電気を止めるか残すか(残せば基本料金がかかり、止めれば掃除や換気がしにくくなります)
- 雪や台風の後に点検が必要な地域かどうか
- 近隣の目が厳しい立地かどうか(草や樹木の越境で連絡が来る頻度が変わります)
水道を止めるかどうかは、判断が分かれるところです。
止めれば基本料金は消えますが、トイレの封水が切れて臭いが上がったり、掃除のたびに水を持ち込むことになります。
年に数回しか帰らないなら止め、月1回以上通うなら残すという分け方が現実的でしょう。
現金で出る費用と、時間で出る費用を分けて数える
兄弟の負担感がずれる原因は、現金だけを数えているからです。
片づけと草刈りに帰っている人は、交通費のほかに休日を1日使っています。
通っている人が「お金は出してもらっているのに労力は自分だけ」と感じ、離れている人は「送金しているのに文句を言われる」と感じます。
どちらも間違っていません。
数えているものが違うだけです。
そのため、記録は現金と時間の両方を残してください。
日付、内容、金額、かかった時間の4項目をスマートフォンのメモに残しておけば、精算の場でそのまま資料になります。
領収書は写真で撮っておけば十分です。
この記録がある家は、売却が決まったときの精算が数分で終わります。
空き家の費用を兄弟で分けるなら、精算のルールを先に決める
誰が払うかを決める方法は、大きく3タイプに分かれます。どれが正しいということはなく、実家をどうするつもりかで向き不向きが変わります。
| 決め方 | 向いているケース | 注意する点 |
|---|---|---|
| 相続人で頭割り、または法定相続分どおりに分ける | 売るか残すかを決めきれず、当面は全員で持つ場合 | 毎年の集金が続くため、誰か1人が滞ると関係が悪くなります |
| 使う人・住む人が全額を負担する | 誰かが住む、物置として使う、貸して収益を得る場合 | 負担する人の取り分を遺産分割で調整したかを書面に残してください |
| 1人が立て替え、売却代金から精算する | 売る方向で意見が一致していて、数年以内に手放す場合 | 立て替えの上限額と、売れなかったときの扱いを先に決めておきます |
3つ目を選ぶ家が多いものの、いちばんもめやすいのもここです。
「売れたら精算する」だけを口約束にしておくと、買い手がつかないまま3年経ったときに立て替えた側だけが痩せていきます。
立て替えは年間いくらまで、それを超える支出は事前に相談する、という線を引いておいてください。
専用の口座を1つ作り、そこから固定資産税と管理費を出す形にすると、通帳がそのまま記録になります。
仏壇とお墓の費用は、この計算に混ぜない
お墓・仏壇・位牌といった祭祀(さいし)財産は、相続財産とは別に1人が引き継ぐものと決まっています(民法897条)。
この役目を引き受けた人が、お墓の管理料や法要の費用も抱えることになります。
空き家の維持費と同じ袋に入れて計算すると、誰が何を負担しているのかが見えなくなります。
名義の話、維持費の話、仏壇の話は、それぞれ別の紙に書いて進めてください。
相続放棄をした人でも祭祀を引き継ぐことはできるので、「放棄したから関係ない」という整理にはなりません。
売る前提なら、期限のある控除と申告を先に確認する
売却を選ぶなら、相続した空き家を売ったときの譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります(租税特別措置法35条3項)。
1981年5月31日以前に建築された家屋であることなどの要件があり、対象は2027年12月31日までの譲渡です。
相続人が3人以上の場合、2024年1月1日以降の譲渡では1人あたり2,000万円に下がります。
要件の当てはめは個別性が高いため、売る時期を決める前に税理士に相談する段階だと考えてください。
相続税の申告と納付は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。
基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、これを下回れば申告そのものが不要になります。
ただし小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って税額を0円にする場合は申告が必要です。
自分の家が申告の要る側かどうかの見当は、相続税の基礎控除の考え方で解説しています。
空き家を放置して勧告を受けると、住宅用地の特例が外れる
「空き家は税金が6倍になる」という話が出回っていますが、放置すれば自動的に上がるわけではありません。
倒壊のおそれや衛生上有害な状態にあると市区町村が判断すると「特定空家」に、そうなるおそれがある状態だと「管理不全空家」に指定されます(空家等対策の推進に関する特別措置法/2023年12月改正施行)。
指定を受けたうえで勧告まで進むと、土地の固定資産税を軽くしている住宅用地の特例(6分の1)が外れます。
段階を踏む仕組みなので、通知や助言・指導の段階で手を打てば止められます。
どの状態でどう進むのかは、固定資産税が上がる条件と時期で解説しています。
実際に指定へ近づく引き金になるのは、屋根材や外壁の落下、傾き、草木の越境、ごみの散乱、動物のすみつきです。
年に数回でも人が入って風を通し、草を刈り、雨漏りを直している家は、この状態になりにくいものです。
逆に、鍵を持っている人が誰も帰らなくなった家は1年で見た目が変わります。
解体や改修に対する補助金を用意している自治体はありますが、金額も条件も期限も自治体ごとに違い、年度で終わることもあります。
お住まいの市区町村と、実家がある市区町村の両方の窓口で確認してください。
どういう名目の支援があるのかと、申請の一般的な流れは空き家の補助金と申請条件で解説しています。
もう一つ、費用の話を止めてしまうのが家財です。
仏壇と家具と衣類が残ったままでは、売却の内見も解体の見積もりも進みません。
処分費用は量と搬出の手間で決まるため、帰るたびに少しずつ量を減らしておくと、最後の見積もりが軽くなります。
家庭から出た不用品を運んで処分するには市区町村の一般廃棄物収集運搬業の許可が、買い取るなら古物商許可が必要です。
「無料回収」を名乗るトラックはこの許可が無いことが多く、不法投棄されれば依頼した側にも話が及びます。
捨てる前に探すものと業者の見方は、遺品整理を始める順番で解説しています。
よくある質問
納税通知書が亡くなった親の名前で届きました。そのまま払っていいですか
払っても問題はありません。
納付そのものは誰が払っても受け付けられます。
ただし、相続人の代表者を届け出る書類や、現に所有している人を申告する書類の提出を求められることがあります。
様式と名称は自治体で異なるため、届いた案内に従ってください。
並行して、いくら払ったかを兄弟に共有しておいてください。
1人で払い続けた記録が無いと、後から精算を言い出しにくくなります。
兄弟の1人が分担分を払いません。市区町村から取り立ててもらえますか
できません。
市区町村は相続人の内部の取り決めには関与せず、代表者へ請求します。
滞納が続けば、督促の相手も代表者です。
内部の負担割合は当事者間の問題なので、立て替えた分の請求は自分たちで進めることになります。
金額が大きく、話し合いで折り合わないのであれば、弁護士に相談する段階です。
その前提として、日付と金額の記録は残しておいてください。
相続放棄をすれば、空き家の固定資産税は払わなくて済みますか
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述する手続きです(民法915条)。
起算日は亡くなった日ではありません。
放棄が認められれば相続人ではなくなるため、その不動産の所有者としての立場も外れます。
ただし、他の相続人や次順位の親族に話が移るだけで、家そのものが消えるわけではありません。
全員が放棄した場合の管理や清算の扱いは事案によって変わるため、放棄を検討する段階で弁護士に相談してください。
3か月に間に合わないときは、期間内に家庭裁判所へ伸長を申し立てられます。
建物を解体して更地にすると、固定資産税はどうなりますか
住宅用地の特例は住宅が建っている土地への軽減なので、住宅を取り壊せばこの軽減の対象から外れます。
一方で、建物にかかっていた分の固定資産税は無くなります。
差し引きでどちらが大きいかは土地の評価額によって変わるため、解体を決める前に、実家がある市区町村の資産税を扱う窓口で試算の相談をしてください。
解体費用の見積もりと合わせて考える必要があります。
固定資産税を払い続けた人が、その家をもらえることになりますか
なりません。
税金を負担したことと所有権は別の話で、誰が取得するかは遺産分割の話し合いで決まります。
ただし、立て替えた維持費を分割の中で考慮する取り決めをすることは可能です。
「自分が払ってきたのだから当然」と言い合いになるより、払った金額を一覧にして、その分をどう扱うかを協議書に書き込むほうが早く終わります。
まとめ
空き家の固定資産税を払うのは、1月1日時点の所有者です。
名義が親のままなら相続人が引き継ぎ、市区町村は代表者1人に通知書を送ります。
そのため、通知書が届いた人が費用を1人で背負うと決まったわけではありません。
先に手をつけるのは名義で、相続登記は取得を知った日から3年以内、2024年4月1日より前に相続した分は2027年3月31日が期限です。
そのうえで、維持費は現金と時間の両方を記録し、頭割りにするのか、使う人が持つのか、売却代金から精算するのかを紙に残してください。
放置して勧告まで進めば住宅用地の特例が外れますが、段階を踏む仕組みなので、今のうちに動けば止められます。
ぜひ本記事の負担の決め方3タイプの表と、毎年の費用を左右する6つの要素を参考に、次に実家へ帰る日までに「誰が払うか」を兄弟に切り出す準備を進めてください。


