空き家をどうする?売る・貸す・譲るの選び方をやさしく解説

実家の鍵を開けるのは年に数回、草を刈るときだけという状態が1年続いています。
売るか貸すか決めきれないまま、固定資産税の納付書だけは毎年届きます。
全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%で過去最高です(総務省 住宅・土地統計調査/2023年時点)。
決まらない原因は値段ではありません。
名義が親のままで、兄弟の同意も取れておらず、仏壇と家財が手つかずで残っているからです。
この3つは、今日ひとりで動かせるものと、人の返事を待つものに分かれます。
分けてしまえば、順番は自然に決まります。
本記事では、空き家の名義を確かめる手順・売る貸す譲るの分かれ目・相続した空き家を売るときの3,000万円特別控除の期限まで解説します。
空き家の名義が親のままなら、売ることも貸すこともできません
売買契約書に署名できるのは、その不動産の所有者です。
親が亡くなった時点で所有権そのものは相続人へ移りますが、登記の名義を変えるまで、登記簿の上では親が所有者のままになっています。
買主も金融機関も登記簿を見て判断しますから、名義が親のままでは話が前に進みません。
貸す場合も同じで、賃貸借契約を結ぶ立場がはっきりしないまま入居者を入れると、あとで相続人どうしの争いの種になります。
今の名義は、法務局で登記事項証明書を取れば確認できます。
見るのは甲区(こうく)と呼ばれる欄で、ここに所有権の移り変わりが記録されています。
最後に記載されている名前が親のままなら、相続登記はまだ済んでいません。
住所や本人確認書類があれば相続人でなくても取得できる書類なので、まずここから始められます。
相続登記は2024年4月から義務になりました
不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請することが、2024年4月1日から義務づけられています。
正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です(不動産登記法76条の2)。
見落とされやすいのは、この義務が施行前に相続した不動産にもさかのぼって及ぶ点でしょう。
10年前、20年前に親から引き継いだまま放置している土地建物も対象で、その場合の期限は2027年3月31日です。
手続きそのものは、遺言があるか、相続人全員で遺産分割協議をするかで必要書類が変わります。
誰が取得するかが決まっていない段階でも、法定相続分どおりの登記や、相続人であることを申し出る手続きで義務を果たす道があります。
名義を整えたあとの動き方は、相続してから引き渡しまでの流れで解説しています。
「空き家」「実家じまい」「相続空き家」は指している範囲が違います
同じ話をしているつもりで話が噛み合わないとき、たいてい言葉の範囲がずれています。
空き家は、人が住んでいない建物そのものを指す言葉です。
統計上も、売却用・賃貸用・別荘・それ以外という区分で数えられています。
実家じまいは、建物だけでなく家財・仏壇・お墓まで含めて、親の暮らしの拠点を畳む一連の作業を指す言い方です。
建物を売っても仏壇の行き先が決まらなければ実家じまいは終わりませんし、逆に家財を空にしても建物が残っていれば空き家のままになります。
兄弟と話すときは、今どちらの話をしているのかをはっきりさせたほうが早く進みます。
相続空き家は、税制の文脈で使われる言葉です。
相続で取得した居住用の家屋を売ったときに、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があり、その対象になる家を指してこう呼びます。
建物の建築時期など細かい要件があるため、空き家であれば全部が該当するわけではありません。
特定空家という言葉もありますが、こちらは市区町村が指定する行政上の区分で、意味がまったく違います。
空き家をどうするか決まらないのは、順番を立てていないからです
売却の相談窓口へ行く前に、手元でできることがいくつも残っています。
決められない状態というのは、自分で決められることと、人の返事がないと決まらないことが混ざったまま頭の中に積み上がっている状態です。
分けてしまえば、今日できることは今日終わります。
ひとりで今日から動かせること
登記事項証明書を取って名義を確かめる作業は、誰の同意も要りません。
固定資産税の納税通知書を探して、年額と評価額を書き出しておくのも同じです。
不動産会社に査定を依頼するのも、まだ売ると決めていない段階でできます。
査定額は会社によって開きが出るものなので、1社だけの数字を兄弟に示すと「その額は安すぎる」という話になりがちです。
複数から取って、幅として持っておくほうが話し合いに使えます。
もうひとつ、建物の建築年をどこかで確認しておいてください。
登記事項証明書にも記載がありますし、固定資産税の課税明細でも分かります。
この1つの数字が、あとで税金の特例が使えるかどうかを分けます。
兄弟の返事を待たないと動かないこと
誰が家を取得するか、売った代金をどう分けるか、仏壇と位牌を誰が引き受けるか。
ここは自分ひとりでは決められません。
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要で、協議書には全員の実印と印鑑証明書が要ります。
ひとりでも欠けると登記も売却も止まります。
仏壇や位牌、お墓といった祭祀(さいし)財産は、預貯金や不動産とは別の扱いです。
相続財産のように分けるものではなく、1人が引き継ぐと民法897条が定めています。
指定がなければ慣習によって決まり、それでも決まらないときは家庭裁判所が定めます。
家財のほうは、捨ててしまうと相続の手続きが止まる書類が紛れていることがあるため、通帳・保険証券・権利証・遺言書が出てくるまでは処分を急がないでください。
片づけ全体の進め方は遺品整理を何から始めるかで解説しています。
売る・貸す・譲るの分かれ目は、建物がまだ使えるかどうか
3つの選択肢は横並びではありません。
建物の状態と立地で、現実に選べる道が絞られます。
判断の入口になるのは、雨漏りやシロアリの被害がないか、水回りが使える状態か、そして駅や商業地までの距離です。
売る|建物付きで出すか、更地にするか
まとまった現金になり、固定資産税も管理の手間もその時点で終わります。
悩みどころは、建物を残したまま売るか、解体して土地として売るかでしょう。
築年数が古くても、買主が自分でリフォームしたい層なら建物付きのほうが手取りは大きくなります。
一方で、解体費用を売主が負担しても更地のほうが買い手が付きやすい地域もあります。
ここは地元の不動産会社に、その地域でどちらの取引が成立しているかを聞くのが確実です。
貸す|家賃が入る代わりに、修繕の責任が残る
持ち続けたい気持ちがあるなら、賃貸という選択があります。
ただし貸主には建物を使える状態に保つ義務があり、給湯器やエアコンが壊れれば直すのは貸主です。
入居者が付くまでの空室期間も想定しておいてください。
近くに大学や工場があるなど需要がはっきりしている土地でなければ、募集期間が長引くうちに固定資産税と管理費だけが出ていきます。
賃貸のほかにも、地域の活動拠点として使ってもらう方法や、駐車場への転用といった道があります。
用途ごとの向き不向きは使わない実家を動かす順番で解説しています。
譲る|値段が付かない土地の受け皿
市場で買い手が付きにくい立地では、隣地の所有者に声をかける、自治体の制度を使うといった方法が現実的です。
多くの市区町村が空き家バンクを設けていて、物件情報を登録して利用希望者とつなぐ仕組みになっています。
登録できる物件の条件や、成約したときの支援内容は自治体ごとに違うため、実家のある市区町村の窓口で確認してください。
制度の仕組みそのものは空き家バンクの登録条件と使い方で解説しています。
空き家のお金は、持っている間の支出と手放すときの支出に分かれます
総額を先に知ろうとすると混乱します。出ていくお金は性質の違う2つで、片方は毎年、もう片方は一度だけです。
毎年かかり続けるもの
固定資産税と都市計画税は、誰も住んでいなくても課税されます。
住宅が建っている土地には住宅用地の特例があり、小規模住宅用地(200平方メートルまで)の固定資産税評価額は6分の1に軽減されます。
この軽減があるために、更地にすると翌年から土地の税額が上がる点は先に知っておいてください。
そのほか、火災保険料、電気と水道の基本料金、庭木の剪定や草刈りの実費がかかります。
遠方に住んでいて自分で通えないなら、管理代行サービスの月額も加わります。
金額は建物の規模と依頼する頻度で変わるので、見積もりを取るときは訪問回数と作業範囲を必ず確認してください。
手放すときに一度かかるもの
解体するなら、費用は建物の構造・延床面積・前面道路の幅で大きく変わります。
木造か鉄骨か鉄筋コンクリートかで単価が違い、重機が入れない狭い道路の奥では手作業の割合が増えて金額が上がります。
残置物を家に残したまま依頼すると、廃棄物の処理費が別途上乗せされます。
構造ごとの目安と抑え方は空き家の取り壊し費用で解説しています。
解体や改修には自治体の補助制度が用意されていることがあります。
ただし内容も予算も申請期限も市区町村ごとに違い、着工前の申請が条件になっているものが多くあります。
契約を結んでから知っても間に合いません。
制度の探し方は空き家の補助金と申請条件で解説しています。
相続した空き家を売るなら、3,000万円特別控除の期限は2027年12月31日
売って利益が出れば譲渡所得税がかかりますが、相続した空き家については譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります(租税特別措置法35条3項/2026年9月時点)。使えるかどうかで手取りが大きく変わるため、売る時期を決める前に要件を確認しておく価値があります。
要件のうち動かせないのが建築時期で、1981年5月31日以前に建築された家屋であることが条件です。
そして対象になるのは2027年12月31日までに譲渡したものに限られます。
売ると決めてから買主が見つかり、決済までたどり着くには数か月かかりますから、期限のぎりぎりに動き出すと間に合わない可能性があります。
もう1点、相続人が3人以上いる場合は控除額が1人あたり2,000万円に下がります。
2024年1月1日以降の譲渡からの取り扱いです。
兄弟3人で共有のまま売るのか、1人が取得してから売るのかで結果が変わる場面が出てきます。
この判断は個別の事情で答えが変わるので、遺産分割の方針を固める前に税理士に相談する段階です。
相続税そのものがかかるかどうかは基礎控除で決まり、こちらは3,000万円+600万円×法定相続人の数が分かれ目になります。
計算の考え方は相続税は誰にかかるかで解説しています。
空き家に関係する期限は、起算日がそれぞれ違います
期限が複数あるうえ、数え始める日がばらばらです。カレンダーに書き込むときは、日数だけでなく何の日から数えるのかを一緒にメモしてください。
| 手続き | 期限 | 起算日 |
|---|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 3か月 | 自己のために相続の開始があったことを知った時 |
| 準確定申告 | 4か月 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続税の申告・納付 | 10か月 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 相続登記 | 3年 | 不動産を取得したことを知った日(施行前の相続は2027年3月31日まで) |
| 相続空き家の3,000万円特別控除 | 2027年12月31日までの譲渡 | 期日そのもの |
相続放棄の3か月は、亡くなった日から数えるものではありません。
借金のほうが多いことが後から分かった場合など、事情によって起算点の考え方が変わります。
調査が間に合わないときは、3か月の期間内であれば家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられます。
なお、放棄を検討している段階で預金を引き出したり家財を売ったりすると、相続を承認したものとみなされて放棄できなくなります。
相続税の申告は10か月です。
四十九日と納骨を済ませると3か月ほど経っていますから、財産の調査と遺産分割に使える時間はそこから逆算することになります。
空き家の評価額や小規模宅地等の特例を使うかどうかは、この期間内に決着させる必要があります。
空き家を放置しても、固定資産税が自動で6倍になるわけではありません
「放っておくと税金が6倍」という言い方が広まっていますが、正確ではありません。何もしなければ勝手に上がる仕組みではなく、市区町村による指定と勧告という段階を踏んで初めて、住宅用地の特例が外れます。
2023年12月に改正法が施行され、区分は2つになりました。
倒壊のおそれがある、衛生上有害である、著しく景観を損なっているといった状態にあると判断された建物が特定空家です。
そこまでは至っていないものの、放置すればそうなるおそれがある建物が管理不全空家に指定されます。
いずれも指定を受けたうえで市区町村から勧告が出されると、その土地は住宅用地特例の対象から外れ、翌年度の固定資産税が上がります。
逆に言えば、窓が割れたまま、庭木が道路にはみ出したままという状態を放置しなければ、指定に至る可能性は下がります。
年に数回でも通って、草を刈り、郵便物を回収し、通気のために窓を開けているなら、それは管理されている家です。
どの段階で税額が変わるのかは固定資産税が6倍になる条件といつから上がるかで解説しています。
費用の面でも、時間が経つほど条件は悪くなります。
屋根や外壁の傷みが進めば買主が付きにくくなり、解体するにしても内部の家財が増えるわけではないのに処分費の見積もりは上がっていきます。
急いで売る必要はありませんが、名義と期限だけは先に片づけておくほうが選択肢を残せます。
よくある質問
名義が親のままの空き家でも、売る話を進められますか
買い手を探したり査定を取ったりする段階までは進められます。
ただし売買契約の締結と引き渡しには相続登記が済んでいることが前提になるため、並行して名義変更を進めてください。
登記が終わるまでに戸籍の収集で1か月以上かかることもあります。
兄弟が売却に反対しています。自分の持分だけ売れますか
共有持分だけを売ること自体は法律上できますが、買い手はほぼ専門の業者に限られ、価格も大きく下がります。
そのうえ、残った兄弟と第三者が共有する状態になり、関係はさらにこじれます。
まずは査定額・固定資産税の年額・管理にかかっている実費という3つの数字を全員に共有して、感情ではなく金額の話に戻すほうが現実的です。
更地にしてから売ったほうが高く売れますか
地域によって答えが変わります。
土地としての需要が強い場所では更地のほうが早く決まりますし、古民家を探している層が動いている地域なら建物付きのままで買い手が付きます。
解体すると翌年から土地の固定資産税の軽減が外れる点も含めて、売り出す前に地元の不動産会社に相談してください。
仏壇は処分してしまってよいのでしょうか
仏壇や位牌は相続財産とは別に、1人が引き継ぐ祭祀財産です。
誰が引き継ぐかを決めないまま処分すると、あとで親族間の問題になります。
引き継ぎ手が決まらない場合の扱いや閉眼供養の要否は寺院・宗派によって異なるため、菩提寺(ぼだいじ)があるならそちらに確認するところからになります。
「無料で回収します」という業者に家財を渡しても大丈夫ですか
家庭から出た不用品を運んで処分するには、市区町村の一般廃棄物収集運搬業の許可が要ります。
買い取る場合は都道府県公安委員会の古物商許可です。
産業廃棄物の許可だけでは家庭ごみを運べません。
無料をうたうトラックはこの許可がないことがあり、不法投棄されれば出した側が問われる場合もあります。
依頼する前に会社名と許可番号を確認して控えておいてください。
相続放棄をすれば、空き家の負担から解放されますか
相続放棄をすれば、その不動産も借金も引き継ぎません。
ただし申述は自分が相続人だと知った時から3か月以内で、預金の引き出しなど相続財産の処分にあたる行為をすると放棄できなくなります。
放棄後の建物の管理をめぐる扱いは事情によって変わるため、他に相続人がいるかどうかも含めて、期限内に司法書士か弁護士に相談する段階です。
空き家バンクに登録すれば買い手は見つかりますか
登録は物件情報を公開して利用希望者とつなぐ仕組みで、成約を約束するものではありません。
登録できる建物の条件、仲介する不動産会社が入るかどうか、改修費の支援があるかどうかは自治体ごとに異なります。
実家のある市区町村の担当窓口で、直近の成約状況もあわせて聞いてみてください。
まとめ
空き家をどうするかという問いは、売るか貸すかを先に決めようとすると止まります。
先に片づくのは名義の確認と査定、それから建物の建築年の確認で、どれも兄弟の返事を待たずに今日できることです。
人の同意が要るのは遺産分割と仏壇の引き継ぎ手で、ここは時間がかかる前提で早めに切り出してください。
期限のほうは待ってくれません。
相続登記は取得を知った日から3年、施行前の相続は2027年3月31日まで、相続空き家の3,000万円特別控除は2027年12月31日までの譲渡が対象です。
ぜひ本記事の期限の表を手元に置いて、起算日ごとに自分のカレンダーへ書き写すところから始めてください。


