生前整理の進め方|何から手をつけるかを順番に解説

押し入れから出した紙の束に、通帳と古い保険証券、印鑑が混じっています。生前整理で最初にやるのは処分の判断ではなく、この手の書類を10種類ほど探し出して1か所へ集める作業です。
先に捨ててしまうと、いざ相続が始まったときに手続きが止まります。相続放棄は自分が相続人だと知った時から3か月以内、相続税の申告は相続の開始を知った日の翌日から10か月以内で、紙を探し直している余裕はありません。
本記事では、捨てる前に探すものの一覧・財産目録に要る書類の取り寄せ先・家財を運ぶ業者の許可の見分け方・始める時期の決め方を解説します。
生前整理の進め方は5工程|順番を変えると後戻りする
生前整理そのものに法律の期限はありません。
ただ、工程には決まった向きがあります。
捨てる判断から入ると、判断のもとになる書類が先に消えてしまうためです。
次の表の順番で進めてください。
| 順番 | やること | 後回しにすると起きること |
|---|---|---|
| 1|探す | 通帳・保険証券・権利証・遺言書・印鑑・貸金庫の鍵を1か所へ集める | 家財と一緒に処分され、相続の手続きが止まる |
| 2|書き出す | 口座・不動産・保険・借入を一覧にする | 財産の全体像が分からず、相続税がかかるかどうかも判断できない |
| 3|分ける | 残す・譲る・売る・捨てるの4つに家財を仕分ける | 本人の意思が分からないまま、家族が判断を背負う |
| 4|処分する | 自治体の回収と、許可のある業者に出す | 期限直前に無許可の回収業者へ渡すことになる |
| 5|伝える | 誰が何を引き継ぐかを書面に残す | 相続人の間で話がつかず、分割協議が長引く |
この5工程のうち、1と2は本人でも家族でも進められます。3から先は所有者本人の判断が要るので、親が元気なうちにしか片づかない部分です。
全体にかかる日数は、家財の量と通える回数で決まります。
遠方から週末だけ通うなら、1回の訪問でどこまで終わらせるかを先に決めておかないと、押し入れを開けただけで日が暮れます。
床が見えないほど物が積まれている家では、仕分けよりも運び出しの人手が先に必要です。
量から日数を見積もる考え方は部屋の広さ別にかかる日数で解説しています。
捨てる前に探すもの|処分すると相続が止まる10種類
最初の工程で探すのは、財産の手がかりになる紙と鍵です。家財として運び出されてしまうと、あとから取り返せません。
財産の手がかりになる書類と貴重品
- 通帳とキャッシュカード
- 生命保険・共済の証券
- 年金手帳や年金証書
- 不動産の権利証、登記識別情報の通知
- 遺言書
- 実印と印鑑登録証(カード)
- 貸金庫の鍵と契約書
- 株式や投資信託などの有価証券に関する書類
- 借用書、ローンの契約書
紙の通帳を作らないネット専用の口座は、家の中に手がかりが残りません。
届いた郵便物とメールの案内が唯一の入口になるので、片づけの期間は郵便物を1か月分ためて、金融機関や保険会社からの通知だけ抜き出しておいてください。
市区町村から届く固定資産税の納税通知書も、本人が忘れている土地を見つける手がかりになります。
集めたものは、書類用の箱を1つ決めて放り込むだけで十分です。
中身を整理するのは次の工程なので、ここで読み込み始めると手が止まります。
ただし、キャッシュカードと暗証番号の控えを同じ封筒に入れるのは避けてください。
供養が関わるものは、ふつうの家財と分けて置く
仏壇・位牌・遺影・人形は、家具と同じ扱いにできません。
仏壇や位牌などの祭祀(さいし)財産は、相続財産とは別に1人が引き継ぐと民法897条で決まっています。
指定が無ければ慣習によって決まり、それでもまとまらなければ家庭裁判所が定めます。
誰が引き継ぐのかを決めないまま処分すると、あとで揉める種になります。
引き継ぐ人がいない場合の扱いは、菩提寺や仏具店に相談する話です。処分の判断を業者の当日の見積もりに委ねず、別室にまとめておいてください。
生前整理で財産目録を作る|書類の取り寄せ先と窓口
集めた紙を一覧にすると、相続税の申告が要るかどうかの見当がつきます。
基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、相続人が3人なら4,800万円です。
この額を超えなければ申告そのものが不要になります。
逆に、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例で税額を0円にする場合は申告が要ります。
目録は、その判断を専門家に渡すときの材料にもなります。
不動産は登記事項証明書の甲区で名義を確かめる
実家の名義が親のままかどうかは、法務局で取る登記事項証明書の甲区(所有権に関する事項)で分かります。
祖父の名義で止まっていることも珍しくなく、その場合は先の代の相続から手続きをやり直すことになります。
手数料は請求の方法によって変わるため、法務局の現行料金を確認してください。
オンラインでも請求できます。
戸籍は本籍地、証明書は発行元がそれぞれ違う
相続人を確定させる戸籍謄本や除籍謄本は、本籍地の市区町村で取ります。
転籍を繰り返している場合は、さかのぼって複数の役所に請求することになるので、遠方なら郵送請求の日数を見込んでください。
預金の残高証明は各金融機関、保険の内容照会は保険会社が窓口です。
窓口ごとに必要な本人確認の書類が違うので、1か所ずつ電話で確かめるほうが早く済みます。
遺言を残すなら、検認が要るかどうかで書き方を選ぶ
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、家庭裁判所の検認が必要です。
封をしたまま持ち込むもので、家族が勝手に開けてはいけません。
一方、公正証書遺言と、法務局の自筆証書遺言書保管制度を使った自筆証書遺言は検認が不要になります。
保管制度は2020年7月10日に始まり、保管申請の手数料は1件3,900円です。
自筆証書は本文を全文自筆で書く必要がありますが、添付する財産目録は2019年1月13日からパソコン作成や通帳のコピーでよくなりました。
ただし各ページに署名押印が要ります。
目録を作った勢いで遺言まで整えるなら、この方式緩和が使えます。
家財の処分|業者の許可と、費用が変わる条件
仕分けが済んだら運び出しです。ここで足元を見られないために、見積もりの前に許可を確認してください。
許可は2種類あり、産業廃棄物の許可では家庭ごみを運べない
家庭から出た不用品を運んで処分するには、市区町村の一般廃棄物収集運搬業の許可が必要です。
買い取るなら、都道府県公安委員会の古物商許可が別に要ります。
産業廃棄物収集運搬業の許可しか持っていない業者は、家庭ごみを運べません。
「無料回収」を名乗って住宅街を回るトラックは、この一般廃棄物の許可が無いことが多く、渡した荷物が不法投棄されれば出した側にも話が来ます。
遺品整理士は一般社団法人遺品整理士認定協会の民間資格で、国家資格ではありません。持っていれば廃棄物を運べるというものではないので、許可の番号とは別の項目として見てください。
見積もりは量と階数、それに横付けできるかで変わる
費用を決めるのは主に、運び出す荷物の量と、作業する階、そしてトラックを玄関先まで寄せられるかどうかです。
エレベーターの無い3階から下ろすなら人手が増えます。
階段が狭くて家具を解体する必要があれば、その分の作業時間も乗ります。
金額の総額だけを比べても意味が薄いので、トラックの台数・作業人数・処分費が内訳に分かれた見積書を出してもらってください。
家具や家電を自分で出せる分は、自治体の粗大ごみ収集に回すと安く済みます。
申込みから収集日までの日数は自治体で違い、引っ越しの多い時期は待つこともあります。
手順は申込みから収集まで4ステップで解説しています。
その場で買い取られたときは、8日間は引き渡しを拒める
業者が自宅を訪問して買い取る訪問購入では、契約書面を受け取った日から8日間はクーリング・オフができます。
その間は物品の引き渡しを拒めるので、その日に持ち去られそうになったら断ってかまいません。
着物や古い時計をまとめて安値で持っていかれる事故は、この期間を知らないまま渡してしまうところから起きます。
生前整理を始める時期|法律の期限と、日が決まっているとき
生前整理を先延ばしにしても罰則はありません。困るのは、亡くなった後に期限が一斉に来ることです。
法律で切られている期限は、亡くなった後にまとめて来る
| 手続き | 期限と起算日 |
|---|---|
| 死亡届 | 死亡の事実を知った日から7日以内 |
| 年金の受給停止 | 厚生年金は死亡から10日以内、国民年金は14日以内 |
| 世帯主変更届 | 15歳以上が2人以上残る世帯は死亡から14日以内 |
| 相続放棄・限定承認 | 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内 |
| 準確定申告 | 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内 |
| 相続税の申告・納付 | 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内 |
| 相続登記 | 不動産を取得したことを知った日から3年以内 |
相続放棄の3か月は、亡くなった日からではありません。
自分が相続人だと知った時から数えます。
借金の有無を調べる時間が足りない場合は、期間内に家庭裁判所へ伸長を申し立てられます。
相続登記は2024年4月1日から義務になり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料です。
それ以前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年3月31日となっています。
目録が先にできていれば、この10か月の中で財産を探す作業が消えます。
解約日や入居日が決まっているときの現実解
賃貸の解約日や施設への入居日が迫っているなら、全部を仕分けようとしないでください。
順番は、書類と貴重品を探して持ち出す、供養が関わるものを分ける、残りは許可のある業者に一括で任せる、これだけです。
判断に迷うものは「未判断」と書いた箱にまとめて自宅へ持ち帰り、期限のない場所で考えます。
写真だけ撮って現物を処分する割り切りも、期限がある人には現実的な選択になります。
家を空き家のまま残すと、税の扱いが変わることがある
全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%で過去最高です(総務省 住宅・土地統計調査/2023年時点)。
放置しただけで固定資産税が跳ね上がるわけではありませんが、市区町村が「特定空家」または「管理不全空家」に指定して勧告を出すと、住宅用地の特例が外れます。
売るか貸すか残すかは、家財を片づける前に家族で話しておく論点です。
買い手が見つかりにくい地域では、自治体の制度を使う道もあります。
仕組みは空き家バンクの登録の条件と使い方で解説しています。
早く始めすぎたときに起きること
逆に、まだ本人が現役で暮らしているうちに家財を減らしすぎると、生活が不便になったり、思い出の品を巡って本人の気持ちが折れたりします。
始めるのに適した年齢という基準はなく、家族が集まる機会と本人の体調から決めるものです。
踏み込みすぎたときの副作用は早く始めすぎて後悔しないためにで解説しています。
つまずきやすいところと、専門家に渡す範囲
親が片づけに反対しているとき
家財の所有者は親本人です。
同意なく処分すれば、あとから返せない揉め事になります。
反対されたら家全体の話をいったん引っ込めて、書類だけを一緒に探す形にしてください。
通帳や保険証券の在り処を家族が知っていることは、本人にとっても入院時に困らない備えになります。
兄弟が複数いるなら、価値の分からない品は処分前に写真を撮って共有しておくと、後日の「あれはどうした」を防げます。
遠方から通っているとき
役所の窓口は平日しか開いていないところが多く、通う回数そのものが制約になります。
戸籍関係は本籍地への郵送請求、登記事項証明書はオンライン請求で郵送を選べば、現地に行く用事を減らせます。
訪問1回で終わらせたいのは、現物を見ないと判断できない家財の仕分けと、業者の立ち会いです。
自分でやる範囲と、渡したほうが早い範囲
書類を集めて目録にするところまでは、家族で十分できます。
渡す先が分かれるのはその先です。
不動産の名義変更は司法書士、相続税がかかるかどうかの判定と申告は税理士、相続人の間で話がまとまらない場合は弁護士が窓口になります。
判断能力が落ちてからは本人名義の預金や不動産を動かせなくなり、家族が代われる範囲も限られるので、その段階に入ったら早めに司法書士か弁護士に相談してください。
なお、亡くなった後に始める場合は、探す作業と処分の順番が変わります。手順は遺品整理を何から始めるかで解説しています。
よくある質問
生前整理は何歳から始めるのがいいですか
年齢の基準はありません。
判断の目安になるのは、本人が自分で仕分けられる体調かどうかと、家族が集まれる機会があるかどうかの2点です。
書類を探して目録にする工程だけなら、家財に手をつけずに進められるので、先にそこだけ済ませておく形もあります。
通帳や印鑑は1か所にまとめて保管して大丈夫ですか
探す手間を減らす意味では有効です。
ただしキャッシュカードと暗証番号の控えは同じ場所に置かないでください。
貸金庫を使っている場合は、名義人が亡くなったあとに開けるための手続きが要るので、鍵と契約書の在り処だけは家族が分かるようにしておくと止まりません。
「無料で回収します」と言う業者に頼んでもいいですか
市区町村の一般廃棄物収集運搬業の許可があるかどうかを先に確かめてください。
産業廃棄物の許可では家庭ごみを運べず、買い取るには古物商許可が別に必要です。
許可を示せない業者に渡した荷物が不法投棄されると、出した側に問い合わせが来ることがあります。
生前整理をしておくと相続税は安くなりますか
片づけそのものが税額を下げるわけではありません。
効果があるのは、財産の全体像が先に分かることです。
基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数なので、目録があれば申告が要るかどうかの見当が早くつきます。
個別の税額や特例が使えるかどうかは、税理士に相談する段階です。
仏壇や位牌はどうすればいいですか
相続財産とは別に、1人が引き継ぐ祭祀財産です。
誰が引き継ぐかを決めてから動かしてください。
引き継ぐ人がいない場合の扱いは、菩提寺や仏具店が相談先になります。
家財の運び出しの日にまとめて処分してしまわないよう、別室に分けておくのが安全です。
親が認知症の診断を受けています。家の片づけはできますか
家財を運び出す作業自体はできますが、本人名義の預金の解約や不動産の売却は家族の判断では進められません。何がどこにあるかを記録して、貴重品を保全するところまでを先に済ませ、財産を動かす必要が出た時点で司法書士か弁護士に相談してください。
まとめ
生前整理は、探す・書き出す・分ける・処分する・伝えるの順で進めると後戻りしません。
最初に通帳や権利証、遺言書を1か所に集めておけば、相続放棄の3か月や相続税の10か月といった期限の中で、書類を探し直す時間が消えます。
処分を任せる業者は、金額より先に一般廃棄物収集運搬業の許可を確認してください。
解約日や入居日が決まっているなら、全部を仕分けることは諦めて、貴重品と供養が関わるものだけを先に抜き出す割り切りが現実的です。ぜひ本記事の5工程の表と、捨てる前に探す書類の一覧を手元に置いて、次に実家へ行く日の段取りを決めてください。


